艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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・・・。
もう見に来る人も居ないかもしれません。
話が書けなくなったって書きましたし、完結扱いにしましたからね。
でもね。
何気なく見た評価10ランキングで5位にまで上がってるし。
山のように感想頂いてるし。
あれですよ。
「フラグなら用意してやったよHAHAHA」
的なパワーを感じましたよ。

もう設定集を一生懸命見返しましたよ。何か書き忘れてないかって。
そしたら1つだけあったんですよ。
だから書きましたよ。

それでも、この1話しか書けなかったです。
だからまた明日からのお楽しみとは言えません。
あれですよ。
ターミネーター2で溶鉱炉に落ちてくシュワちゃんがやった
「b」
みたいなもんですよ。

私の書いた話をランキング5位まで押し上げてくれてありがとう。
その感謝をこめて。
書き残していた最後の1ピースです。
受け取ってください。




アンコール:彼女達のその後

その日、北方海域の深部。

 

「大鳳ぉ~!陸奥ぅぅぅぅぅ!蒼龍ぅぅ!飛龍ぅぅぅぅ!返事をしろぉぉぉぉ!」

遠くに見える海面のさらに先から、自分を呼ぶ声がする。

ずっと、何度も、何度も聞こえる。

きっと長門だなと蒼龍は思った。

そういえばさっき、日向も呼んでたっけ・・

でもさ長門、私はもう体が動かないし、呼んでも返事できないよ。

・・ねぇ、長門。

まだ生きてるなら早く帰んなよ。

この海は寒いよ。

 

私達はもう沈んでるんだから、さ・・・

 

次第に薄れゆく意識の中、蒼龍はふっと笑った。

あの戦況じゃ、沈んでもしょうがないよねぇ・・

そう。先刻の戦闘は圧倒的な差だった。

敵が何隻居たのかさえ数えられない程だった。

岩山を過ぎた時点で敵の大軍勢に気付いた長門は即時撤退を命じた。

でも、連中は真っ先に大鳳へ襲い掛かり、避けようのない程の魚雷を浴びせた。

そして大鳳をとっさに庇おうとして操船に迷った陸奥もろとも轟沈させた。

反撃しようとした私達にも16インチ砲弾が信じられない密度で飛んできた。

弾が集まり過ぎて黒い雲が飛んできたのかと思った。

最後に海の上で見えたのはどこまでも高い炎と煙の壁だった。

戦いにすらならなかった。

あんな攻撃チートすぎる。

長門や日向が生き残った方がむしろ信じられない。

一体どうやって回避したんだろう。

そもそも1度に6隻までしか来ないんじゃなかったっけ?

大本営の提供情報と違い過ぎるじゃない。

そうよそう。そうだわ。

大本営に・・文句・・言って・・・

 

 

「ウ・・」

顔にかかる波しぶきに気付き、蒼龍はゆっくりと目を開けた。

頭を動かすと視界がぐわりとふらついて気持ち悪い。

そっと片目を開ける。

見えてきたのは大きな陸地の海岸で、遠くに道路はあるが車が来る気配はない。

足元には海が広がっている。

波打ち際に横たわってるんだなと解った蒼龍は、そっと身を起こした。

・・頭がガンガン痛む。

再び目を瞑り、ゆっくりと記憶を呼び覚ます。

ハタと気付いた蒼龍は首を傾げた。

・・あれ?

私、確か轟沈したんじゃなかったっけ?

海底から上を見た記憶があるよ?

海に沈んで意識失ったのに陸に打ち上げられて目覚めるなんて凄くない?

提督の言ってたダメコンてこれなの!?

長門は真面目だから探してるだろうなぁ。早く合流してあげないと。

しかし、作動するならもうちょっと早く動いて欲しいわね。

どうせ最上が変な改造したんでしょ。死んだかと思ったじゃないって一言言ってやらないと。

ふんと鼻息を鳴らし、何気なく反対側を向いた蒼龍は息が止まった。

手が届く程の至近距離に、ヲ級が倒れていたのである。

「!?」

蒼龍は一瞬で考えた。

 

やっ、ヤバい。

艦載機はあの時飛行甲板もろとも全て破壊された。

丸ごと海水に沈んだんだから副砲だって動く筈が無い。

つまり丸腰。清々しい程何も持ってない。

あぁ、こんな事なら多摩に素手で戦う武術講座を受けとけば良かった!

そっと・・そっと逃げよう。うん。

時間稼いで最大戦速で逃げれば、あるいは・・

蒼龍がそろりと立ち上がろうとした時、ヲ級がぱちりと目を開けた。

硬直する蒼龍。

 

あ。

終わった。終わりましたよ私。

折角ダメコンで復活したのにまた瞬殺ですかそうですか。

 

だが、蒼龍の予想に反し、そのヲ級は

「キャアアアア!撃タナイデ!・・アレ?」

驚いて顔を庇ったかと思ったら、眉をひそめ、不思議そうに顎に手を当てて考えだしたのである。

その仕草に見覚えがあった蒼龍は、指差そうとした自分の手を二度見した。

白い。

何この白さ。驚きの白さじゃないですか。

いやこの際それは良いや。目の前に居るヲ級って、もしかして・・

「ヒ、飛龍チャン?」

その声にぎょっとしたヲ級がこちらを向くと

「ソ、蒼龍チャンナノ?」

「エ?見テ解ルデショ」

「ヲ級見テ蒼龍ト思ウ人居ナイト思ウヨ?」

「エッ?」

「エッ?」

「ヲ級ハ貴方デショ」

「エッ?」

「エッ?」

二人はペタペタと自分の体をひとしきり触った後、

 

「シ、シ、深海棲艦ニナッチャッター!?」

 

と互いを指差しながら叫んだのである。

 

二人はほうほうと言いながら互いの艤装を触ったり観察していたが、やがて飛龍が言った。

「ネェネェ、ソコニ本ガ挟マッテルヨ?」

「ヘ?」

蒼龍は頭部艤装の内側に挟まっていた冊子を取り出した。

表紙には

 

 空母ヲ級艤装(flagshipクラス向け) 取扱説明書

 

と書かれていた。

「親切!」

「確カニ説明書ナキャ解ンナイヨネ」

「ジャア飛龍ノ方モ入ッテルンジャナイ?」

「エエトネ・・ア!アッタヨ!」

「ジャー、トリアエズ読モッカ・・」

だが、飛龍はきょろきょろと周囲を見回すと言った。

「コンナ砂浜デ読ンデテ大丈夫カナ?」

「ア、ソッカ。見ツカッタラヤバイカモネ」

「ジャア・・アノ森デ読モウカ」

「ソウダネ」

 

浜に程近い所にあった森は、人の手の入った林というよりは原生林という感じだった。

二人は奥まで分け入り、やがて巨木と柔らかい草の茂る地面を見つけた。

黙って頷いた二人は草に座り、太い幹にもたれつつマニュアルを紐解いたのである。

 

数時間後。

 

「・・アーモウ、メンドクサーイ」

蒼龍はバフンとマニュアルを閉じ、投げ出した足をパタパタと動かした。

飛龍はジト目で蒼龍を見ながら言った。

「何言ッテルノヨ。自分ノ艤装デショウ?」

「ダッテー」

「ダッテジャナイ」

「ウー」

飛龍は溜息を吐いた。昔からこの子は興味が無いと投げ出す癖がある。

丁度良いから、さっき出てたやつ、やってみるか。

「・・蒼龍チャーン」

「ナーニー?」

「見テテクレルー?」

 

ダルそうにしつつもこっちを向いた蒼龍の前で、飛龍は艤装のシステムを動かした。

艤装が発した強い光が収まると、蒼龍は目を輝かせた。

「オオオオオー!?」

「じゃーん」

そこには在りし日の飛龍の姿があった。

ただし兵装は無く、服装はごくごく今風であり、傍目には一般人の女の子に見える。

しかし、蒼龍にも飛龍にも、兵装が無いなどという事はどうでも良かった。

「元ニ戻ッタネー!」

「艤装の機能の1つで、flagshipクラスなら服も自由に変えられるんだって。早く蒼龍も戻りなよー」

「ドウヤンノドウヤンノ!ネェネェ何ページ!?」

飛龍はニヤリと笑って頷いた。

よし、興味が続いてるうちに全部読ませてしまおう。やれば出来る子だし!

 

数日後。

 

「んー、どうしよっかー」

「どうしようねー」

 

夕暮れの防波堤に腰かけ、海にちゃぷちゃぷと裸足をつける二人の姿があった。

マニュアルによれば、こうする事で海水から自分に必要なエネルギーは補給出来るらしい。

実際お腹は空かないからやり方は合っているのだろう。

一方、傷ついた場合は別途修理が必要なのは艦娘の頃と一緒だった。

そして兵装や艦載機を動かす為の燃料、弾薬、ボーキサイトは調達しなければならないとあった。

しかし最後の点については二人は問題としなかった。

問題なのは、

 

「ヒマだよねー」

 

そう。

二人は直前の袋叩きともいえる戦いの記憶があった。

また、提督の下で自らの行動を自ら決めるよう言われ続けていたので、散々話し合った挙句、

 

 「戦いから足を洗おう」

 

という結論に達していた。

ゆえに兵装はどうでも良く、そして猛烈に暇なのである。

こうしてエネルギーチャージすればお腹は空かない。

服装も好きに変えられる。

しかし人の世で生きていく為には何をするにも必要な物がある。

細かくはお金であり、働いたり家を借りるといった大きな事をするには人との繋がりである。

要はどこの誰とも解らない人には誰も手を貸してくれないのである。

二人はこの数日間、浜に近い町を歩き回り、その現実に直面していた。

お金が無いと何一つ出来ないが、お金を得るには働かねばならず、その為には保証人が要る。

働くのは構わないが、勿論二人は保証人になってくれる人なんて知らない。

このままでは八方塞がりだ。

 

「・・提督に連絡出来ないかなー」

 

蒼龍はそう言ったが、飛龍は首を振った。

「忘れたの?うちら轟沈して、深海棲艦になっちゃったんだよ」

「あー・・戦う意思は無いとはいっても、深海棲艦には違いないもんね・・」

「それこそ攻撃される身だよ」

「提督に敵意なんてこれっぽっちも無いんだけどね」

「むしろ大本営に文句言いたいよね」

「電ちゃんなら武器を捨てて白旗振ってったら撃たないんじゃないかな?」

「でもね蒼龍ちゃん」

「うん」

「提督の鎮守府へどうやって行くのよ」

「あ」

 

そう。

二人にとって大変困った事に、何度考えても鎮守府がどこにあったかが思い出せなかった。

提督の顔や、やって来た事は少なくとも二人のどちらかは覚えていた。

だが、鎮守府の位置や番号など、手がかりになる情報を二人ともさっぱり覚えていなかったのである。

「あーあ、提督に会いたいね~」

「そうだけど、まずは現状をどうにかしないとね」

「だね」

その時。

 

「あんた達」

 

ギクッとしつつ振り返ると、そこにはおばちゃんが1人立っていた。

「は、はい」

「若いモンがぶらぶらしてるんじゃないよ。学校行ってるのかい?」

「あ、あの・・」

何て答えたら良いんだろう。

戸惑っている二人におばちゃんはニッと笑うと

「冗談さね。あんた達、深海棲艦だろ?」

「ひっ!」

「あっ、あのっ、わ、私達は危害を加えるつもりは全然なくて」

パタパタと手を振る二人に対し、

「そんなに怖がらなくて良いさね。お仲間同士仲良くやろうじゃないさ」

そういうと、一瞬だけ深海棲艦の姿に変わり、再びおばちゃんの姿に戻ったのである。

目を見開き、ぽかんとする二人におばちゃんは言った。

「なんだい?」

「あ、あの、私達以外にもいらっしゃるんでしょうか?」

「うーん」

おばちゃんは周囲をチラと見まわすと、

「まぁ夜になるし、うちに来ると良いさね」

そういうとスタスタと歩き出したのである。

 

「おじゃましまーす」

 

浜辺から少し内側にある小さな一軒家。

それが案内された家だった。

家の感じと言い、中の様子と言い、年季が入っている。

とても数年でこうなるとは思えない。

「アタシしか住んでないから気にしないでいいさね」

「ありがとうございます」

「今、お茶を淹れるからね」

 

「・・そうかい。まだ3日目かい。初々しいねぇ」

事情を聞いたおばちゃんはそういうとニコニコ笑った。

「えっと、お名前伺って良いですか?」

「坂之上嘉代子だよ。もっとも、自分で適当に付けた名前だけどね」

「その由来は?」

「ほれ、アタシはカ級だろ?だから嘉代子。で、最初に住んだ家が坂の上にあったのさ」

「坂の上に居るカ級さんだから、って事ですか」

「そういうことさね。で、あんた達はこれからどうするんだい?海で艦娘相手にドンパチやるのかい?」

蒼龍も飛龍もパタパタと手を振って声を揃えた。

「もう戦争はこりごりですよ~」

おばちゃんはカラカラと笑い、

「あんた達仲良いねぇ。それに、もう戦いたくはないんだね?」

「はい。でも・・」

「でも?」

「働きたいんですけど、どこも保証人が居ないとダメだって言われちゃって」

「バイトなら何とかなるんじゃないのかい?」

「応募用紙もらったんですけど住所書かないとダメだって・・でも、お家を借りるには保証人とお金が要りますし・・」

「一応やってみたんだね。うんうん、感心感心」

おばちゃんは腕組みをして頷いた後、

「ならここに住みな。保証人立てろって言うならアタシがなってやるさね」

「えっ!本当ですか!」

「ただし、ちゃんとお金を稼ぐ努力をして、稼げるようになったら自分達で家を借りるんだよ。それが条件さね」

「あ、はい。それはもちろんです」

「ここのお家賃はお幾らでしょうか?」

「今言ったって払えないだろ?1ヶ月以内に仕事が見つかる保証も無いさね」

「そ、そうですよね・・」

「そんなにがっかりしなさんな。ゆっくり探して行けば良いし、御足なんて要らないよ」

「はい・・」

「ま、全ては明日からさね。んじゃあ風呂の支度でもするかねぇ」

立ち上がろうとするおばちゃんを二人は押し留めた。

「私達がお風呂用意してきます!」

「ん、風呂はその右の扉さね。もう洗ってあるから湯を入れれば良いさね」

「はい!」

おばちゃんは風呂場に入って行く二人を見て頷いた。

礼儀正しく率先して動ける子は、大概人の世でも上手くやっていけるもんさね。

あの子達は鎮守府で良い教育を受けてきたね。

 

一口に深海棲艦と言っても、非常に多様な個性がある。

攻撃的な子、大人しい子、明るい子、全く意欲が無い子、過去に怯える子。

そして、鎮守府に帰りたいと泣く子。

おばちゃんは腕を組んだ。

「あの子達は鎮守府への恨み言は言って無かったし、ホームシックになるかもしれないね・・」

 

翌朝。

 

「・・あんた達は人前に出るのは照れる方かい?」

3人で波止場に向かい、「足湯」のようにエネルギーチャージした帰りに、おばちゃんは二人に訊ねた。

「えっと・・」

言い淀む飛龍に対し、

「大丈夫ですよ?」

と、あっさり返す蒼龍。

おばちゃんはニッと笑いながら答えた。

「駅前のスーパーでバイト募集してるみたいなんさね。品出しとレジ打ち。やってみたらどうだい?」

蒼龍はうんうんと頷いたが、飛龍は眉をひそめながら

「レジとか触った事無いでしょ?ちゃんと出来るかなぁ・・」

「必要な事は知らないと言えば教えてくれるさね。やる気があれば良いんだよ」

「そうですか?採用してくれるかなあ・・」

おばちゃんはニッと笑った。

「アタシが一緒に行けば他よりは雇ってくれる可能性は高いさね。どうする?」

飛龍は頷きながら返した。

「・・うん。贅沢言ってられる立場じゃないし!行きます!」

「じゃ、行こうかね」

 

「おや、坂之上さん。どうしました?」

スーパーに着くと、おばちゃんは慣れた足取りで事務所へと真っ直ぐ歩いていった。

そして部屋の奥に居た女性に手を振ったのである。

「あの人が店長だよ。急ですまないけど、ちょっとお話出来るかい?」

「ええ、あちらにどうぞ」

 

事務所の隅の応接セットに通された3人は、出されたお茶をずずっと啜った。

「それで、どうしました?」

店長が促すと、おばちゃんはあっさり言った。

「この子達は来たばかりのヲ級ちゃんなんだけど、バイトにどうさね?」

ぶふっ!?

蒼龍は飲みかけた茶を吹き出した後、むせ返りながら慌てて周囲を見回した。

飛龍は同じく鼻に逆流した茶で涙目になりながら、それでもおばちゃんの口を手で塞いだ。

「ちょ!なっ、何言ってるんですか!?げほげほげほっ!」

そう、言いながら。

だが、店長は平然と

「良いですよ」

と返したので、二人は店長を凝視した。

「ええっ!?」

「あっ、あのっ、良いんですか!?」

店長はニッと笑いながら答えた。

「お仲間同士、仲良くやりましょう」

二人はかくんと顎が下がった。

 

「うちの従業員は全員、深海棲艦なのよ」

「はー」

店長の言葉に素直に驚く蒼龍に対し、飛龍は

「それならそうと仰ってくださいよぅ、坂之上さぁん」

と言いながらおばちゃんを揺さぶった。

おばちゃんは

「これが初めて紹介する楽しみだからね、やめらんないさね」

そう返し、カッカッカと笑ったのである。

店長は苦笑しながら

「ただ、どこもかしこもうちと同じという訳ではないので、外では言っちゃダメですよ」

と言った。

「もう少し、その辺りを教えて頂いても良いですか?」

飛龍は店長にそう言って促したのである。

 

「しばらく生活してるとね、私達には何となく、あの子は深海棲艦だなあとかが解ってくるの」

店長はお茶を啜りながら話し始めた。

「一方で人間の方は見分けが付かないみたいだけど、深海棲艦への敵意は物凄いの」

「・・」

「ここは漁港が近いという事もあって、近い人が深海棲艦の攻撃で亡くなったって人も多い」

「・・」

「なにより、漁業が出来なくなったのは深海棲艦がうようよ居るから危険って事だしね」

「・・」

「だから直接攻撃されたかどうかじゃなく、深海棲艦は一律敵。そう見られる」

「・・」

「あとね、深海棲艦と解った場合、変な連中が連れ去って行くの」

「変な連中?」

「フルスモークを張った真っ黒なワンボックスカー数台でやって来るんだけど・・」

「・・」

「連れてかれた子は誰も帰ってこなかった」

「・・」

「それに、深海棲艦らしいという噂が立っただけでも警察に呼ばれるわ」

「・・」

「実際に行って、切り抜けてきた子達の話では、明らかに警察と違う雰囲気の人が居たそうよ」

「・・」

「だから外では深海棲艦だなんて言っちゃいけないし、疑われるような行動をしてもいけない」

「・・」

「逆を言えば、それさえ守って大人しく生きていく分にはバレないって事よ」

蒼龍と飛龍は互いを見て頷いた。

やはり最初に思った、深海棲艦としての姿を見られるのはマズいという勘は当たっていたのだ。

そして次第にしゅーんとする二人を見て、おばちゃんは言った。

「そんなにしょげなさんな。あたしゃもう40年も普通に暮らしてるんだからね」

「40年!?」

「店長だってそろそろ20年だろ?」

「19年5ヶ月です!」

「大して変わらないじゃないさ。要は長く暮らしてる子達も沢山居るってことさね」

「そう、なんですか・・」

飛龍はまだショックが抜けて無いようだったが、蒼龍はそっと手を挙げた。

「あの」

「なんだい?」

「その、えっと、私達は年を取るんでしょうか?」

「なんでだい?」

「艦娘の時は何年経っても外見は変わりませんでしたけど、お二人は、その」

「あぁ、老けてるってことかい?」

「すっ、すみません!でもでも、あの」

「これはそうしてるだけさね。ほら」

そういうとおばちゃんはすっと光ると、若い女性になったあと、続けて小さな子供に変わった。

「やろうと思えば幾らでも化けれるんでちゅ!」

そしてすいっと元の姿に戻ると、

「ただね、人間は年を取るのが普通だろう?」

「え、ええ」

「だからうちらだけ年を取らないと変に見られるんさね」

「あ、深海棲艦っていう疑いを・・」

「御名答。だから年を取ったように化けたり、数年で住所を変える子も居る。やり方は色々あるさね」

「考えないといけないですね・・」

「まぁあんた達は大学生とも成人とも見えるから、数年は気にしなくていいさね」

ようやく飛龍が顔を上げた。

「でも、忘れないようにします。色々ありがとうございました」

おばちゃんが返した。

「ん。そこを踏まえると後の説明がやりやすいね」

店長は頷きながら継いだ。

「その為に、地上組という互助会があるんですよ」

「地上組?」

蒼龍と飛龍は耳慣れない単語に声を揃えた。

 

「さっきも言った通り、深海棲艦が戦わずに人の世で生きるのは色々気を付けなきゃならん事があるんさね」

「はい」

「それを個人で気にかけて行くのは大変だし、他の人はどうしたのか気になる事もある」

「そうですね」

「だから地上組という組織に属し、組織からアドバイスを受けたり相談するんさね」

「なるほどぉ」

「属するには会費が要るけど、心細くないと思えるだけでも損は無いと思うよ」

店長が口を挟んだ。

「実際、深海棲艦の疑いをかけられた時も連絡してくれますし、逃走の手助けもしてくれますよ」

「逆を言えば連絡が来なきゃ疑われてないんだから、のんびり暮らせばいいんさね」

蒼龍は頷き、飛龍は眉をひそめながら聞いた。

「でも、あの、バイト代でお支払い出来る会費なんですか?」

おばちゃんが頷いた。

「個人加入でも1人1ヶ月2000コインだし・・」

「うちで働くならまとめて天引きで払っておいてあげますよ。団体割引もあります」

おばちゃんはニッと笑った。

「あたしもこの店から払って貰ってるんさね。1500コインで済むからね」

飛龍は苦笑する店長を見ながら思った。結構、坂之上さん、しっかりしてるわ。

こうして、二人はバイトを始め、地上組の一員になったのである。

 

それから3年が過ぎた。

 

途中、二人はバイトで貯めたお金を元に、おばちゃんの家を出た。

とはいってもすぐ近くのアパートに引っ越したので、おばちゃんは

「どうせならちょっと遠くにすれば景色も変わるだろうに」

といいつつも、どことなく嬉しそうだった。

飛龍は仕事ぶりを買われ、地上組の地域部長として忙しい毎日を送っている。

一方で蒼龍はバイトからパートに変わったが、相変わらずスーパーで働いている。

優しくて明るいので客からも評判が良かった、というのもある。

だが、蒼龍は飛龍の忙しさを間近で見ていた。

そしてその仕事にやりがいを感じているのだという事も、長年の付き合いで解っていた。

だから自分が飛龍の分も身の回りの世話をしてあげようと決めたのである。

 

「えっとえっと、書類は持ったし、携帯持ったし、い、行ってきます!」

「ほ~ら、お弁当忘れてるよ~」

「ああっ!ごめん!あ、ええとね、今日は21時まで会議だから夕食要らない!」

「最近ずっと遅いよね~、大丈夫なの~?」

「元老院にリポート上げなきゃいけないのよ。今週末には終わるよ」

「んじゃ来週末にお花見行こっか」

「あ!そっか!もう桜の時期か!行く行く!あたしランチ奢る!」

「あはは。楽しみにしてるよ~」

「普段ご飯作って貰ったりしてるからね!じゃ行ってきます!」

「はいよ~」

パタパタと走って行く飛龍の後ろ姿を見送った後、蒼龍は玄関でうーんと伸びをした。

その時ふと、良く晴れた空に目を細めた。

艦娘としての私達は轟沈してしまったし、深海棲艦になった時はショックだった。

だが、たまたま飛龍が居てくれたおかげで、おばちゃん達との出会いがあって、今がある。

もう二度と戦うのは御免だし、バレるかもという怖さはあるけれど、割と幸せに暮らしてる。

色々あったけれど、これで良かったのかもね。

 

「じゃ、洗濯してからお仕事行きますかね~っと」

 

蒼龍はにこっと笑うと、部屋に戻っていったのである。

 

 




というわけで、おしまい、です。

そうなんです。
最初に着任していた蒼龍と飛龍は北方事件の時に大鳳と陸奥と共に沈みました。
大鳳も陸奥も最終的には再び提督の元へ帰りましたが、蒼龍と飛龍は帰りませんでした。
彼女達がどうなったのかという事、そしてストーリー後半に出てきた地上組の生活ってのはどんなもんだろうという事。
この辺もこんな感じで設定は考えていたんです。
話を書けるかなと思って。

お気付きの方も居るかもしれません。
そう。
戦いを捨てた深海棲艦の日常生活。
これが第5章のもう1つの候補だった「奇抜過ぎる方のストーリー」でした。

 鎮守府成分0%
 艦娘が敵
 深海棲艦同士のハートフルな物語

・・心優しい読者さんがゲーム出来なくなるだろバカヤロウ。
これがボツにした理由でした。
本来はここから艦娘からの逃亡劇や反対勢力との関わりとかが入る筈だった訳ですが、そういう理由でばっさり止めました。
ここまでなら心のダメージも無いでしょう。

だから、今。
完結と言ってから2日以上たった、
もう誰も読みに来ていないであろう金曜日の夜に。
そっと放流して逃げます。
気づいた人だけが読んでくだされば良いのです。
これでフラグ回収。
枕を高くして眠れます。




・・・・。



ええと。
何か嫌な視線を感じますから言っておきますよ。

もう、もうさすがにネタは残ってませんからね?
元が世界設定も解説もほっとんど無いブラウザゲーですからね?
15話くらい書こうかな~って気軽に始めただけの小市民ですからね?
囲まれたって無い物は無いですからね?

・・残ってませんよ?
881研のオカルトな毎日とか事故調査委員会の日常とか嫌でしょ?
私オカルト苦手だし。血生臭いの大嫌いだし。
事故調査委員会の尋問の日々とか誰得過ぎるでしょ?ね?

冗談抜きの話、毎回、新しい章を始める時は
「書き始めるなら絶対に終わらせる」
そう覚悟して筆を取ってきました。
だから安易に始める事はしないんです。
シナリオも設定もラストも全部出し尽くしましたから。
今回の話も本当にかき集めた残り火みたいなものなんです。


でも、ありがとうございました。
終わってから評価10がこんなに増えるとは思いませんでした。
感想をあんなに頂けるとは思ってませんでした。
ツイートで名残を惜しんでくれた人も居ましたし、お疲れ様と声をかけてくれた人も居ました。
嬉しかったです。
嬉しいと言えば、この話にお二人も推薦をつけてくれたんですね。
勿体無い。ありがたい。

本当に本当に、ありがとう。


・・・でも、もうネタは無いですからね?
ビッグウェーブ再びとかキマシタワーとかやっぱりとか言ってる人!

 無 い で す か ら ね ?


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