艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file09:青葉ノ仕事

 

7月15日昼 鎮守府提督室

 

「提督っ!失礼します!」

ドアからひょっこりと青葉の顔が覗く。

提督はコンマ1秒で答えた。

「私は無実だ。時間は無い。全て文月を通せ」

「あ、ええと、提督、失礼します」

続いて衣笠が現れる。

「おお衣笠。広報班関係で相談かな?入りなさい」

「その態度の違いについて、青葉は2時間ほどインタビューを申し込みたいのですが」

「私は無実だと言ってるじゃないか」

秘書艦当番の加賀は溜息を吐いた。提督は好きで燃料を投入してるようにしか見えない。

「お二人とも、御用があるなら入ってから仰ってください」

「はい。失礼します」

「提督とは後で御話を」

「ふふふふふ。青葉、私がいつまでも同じだと思うなよ。」

「なんですと?!」

「私は「NOと言える提督」を目指すのだ!」

「・・・提督がですかぁ?」

「なんだその解りやすいジト目は。だからお話はNOです。」

「明日のエンタメ欄まだ空白なんですよね」

「知らん。一切知らん」

「タイトルは「またいつも通り?今度はNOと言える提督を目指すそうです(笑)」」

「なにその失敗確定のタイトル。私はやるぞっ!」

「提督は強く意気込んでいるがこれもいつも通り。賭けは不成立、と」

「賭けってなんだ賭けって。賭博は御法度です」

「一口羊羹賭けるだけですよ?勝てば2倍になります」

「ダメです。NOです。許しません。」

「おっ、早速NOと言いましたねっ?やる気十分ですねっ?」

「ふっふーん」

「では賭けの元締めは龍田さんなんで、その調子でお願いします」

「今日も空が青いなあ」

「さぁ提督!龍田さんは教室棟の控室です。きっぱりNOと言ってきてください!」

「青葉、何の事を言ってるのか私はさっぱり解らないよ」

「・・・提督、せめて記事を新聞に載せるまでは持ちこたえてくださいよ」

「ゲーム開始直後、棒切れも持ってない状態で魔王とエンカウントさせるなよ」

「提督、龍田さんを魔王と呼ぶ、と」

「やめてください木端微塵にされてしまいます」

加賀がついにぷちんと切れた。

「青葉さん、御用事がそれだけならご退席を」

衣笠が慌ててとりなす。

「すみませんすみません加賀さん、違うんです。」

青葉の目は既に星になっていた。

「提督!どっちの記事を載せるのが良いですか?」

衣笠が目一杯青葉の靴を踏みつける。

「いたっ!衣笠酷いです~」

「いーから黙る。」

「はぁい」

提督は息を吐いた。秘書艦が居ない時は内鍵をかけておいた方が良いかもしれない。

しかし、龍田が元締めか・・・稼いだ羊羹は転売されてるのかな。いや、深入りはすまい。

 

「それで、青葉と二人でPRビデオとパンフレットを作ったので、ご覧頂きたくて」

衣笠が用件を説明していた。

6月に広報班が結成され、初仕事として外部へのPR資料を作る事を指示されていた。

その結果が今日出来たので、提督に報告に来たのである。

「なるほど。パンフレットは配りやすいし、興味を持ってくれたらビデオを見せる訳だね」

「こういう事は奇をてらわない方が良いと思いましたので」

「そうだね。ずっと続けていく事を考えると、後の信頼形成に影響しない事も大事だ」

「はい」

「このパンフレットは手堅くまとめられているし、写真やレイアウトも適切で解りやすい」

「ありがとうございます」

「衣笠の仕事か。上手い物だな」

「あ、あの、それが、パンフレットは青葉が一人でやってくれたんです」

場が静まり返った。

 

「加賀」

「はい」

「突風、竜巻、雹に注意が必要だな」

「地震や高波も」

「甲種警戒態勢で第1艦隊に非常招集をかけよう」

「第2艦隊も補給を済ませて外洋上で待機させましょう」

「そうか、津波の可能性もあるな」

「脱出用ボートを展開しておきましょう。訓練ではないと放送して」

青葉がついに口を開いた。

「提督っ!加賀さん!あんまりじゃないですか!」

「だってこれ、凄く真面目だぞ?」

「真面目に書きましたもん!」

「ありえません」

「全否定!?」

「衣笠、まだ裁判は結審していない。証言を翻すなら今がチャンスだ」

「隕石が落ちてくるかもしれないですけど本当なんです」

「さらっと言ったけど衣笠が一番酷いですよ?」

「そうか・・・・加賀」

「はい」

「我々も新しい鎮守府で1年少々頑張ったが」

「地球が滅亡するのではどうしようもありませんね」

「もー!青葉だってエンタメ欄じゃない記事だって書けるんですよー!」

3人が口を揃えた。

「だったら普段からそうしなさい!」

「何でハモるんですか!!」

「被害者だからです!!」

「うっ・・た、たまには青葉だって間違いはあるんですよ」

「たまにしかまともな記事が出ないでしょうが!」

「と、飛ばし記事が多めかもしれませんがさすがにそこまで酷くは」

「加賀裁判長」

「提督、発言を許可します」

「先月1か月のソロル新報でのエンタメ欄真偽率を確認したいのですが」

「許可します」

「あっ、ごめんなさいごめんなさい。って、いつから取ってあるんですか!」

「創刊号から全部あるよ?きっちりファイルして」

「しっかり読んでるんじゃないですか!」

「可愛い娘の作品だからな」

「えっ・・・」

「青葉も、加賀も、衣笠も、皆私にとって可愛い娘だからね」

「可愛い娘・・・・」

「でも意味がまるで逆とか、犯罪ギリギリのコメント編集には閉口する」

「きわどい方が発行部数が伸びるんです!もっと色々喋ってください!」

「私に引きこもりになれというのか。それなら他の子にもインタビューしなさい」

「提督のインタビュー記事は沢山ボロが出るからウケが良いんです!」

「ボロっていうな!誘導してるのは青葉だろうが!」

「引っかかる方が悪いのです!」

加賀は溜息を吐いた。提督はどうして青葉が机の下で速記してる事に気付かないのだろう。

「真偽の程はともかく、パンフレットが秀逸なのは確かです」

「本当なのにー」

「ビデオの方も出来ているのかしら?」

「はっ、はい。ご覧頂いて良いですか?」

 

ビデオは15分程の内容だった。

鎮守府各所の写真に始まり、教育の目的、期待出来る効果等が説明される。

続いて妙高型4姉妹や天龍型姉妹が教室で教鞭をとり、後輩は真剣な表情で聞いている様子、

先生や生徒へのインタビュー、休憩時間のドタバタぶりまで紹介されている。

そして学習期間や費用、問合せ先等の内容が入って終わりとなる。

提督は何度も頷きながら静かに見ていたが、ビデオが終わるとこう言った。

「明るく優しい雰囲気だな。興味を持たせ、安心させる勘所が押さえてあるね」

加賀も同調した。

「これでPRされれば、ソロル鎮守府に居る事を誇りに思えますね」

「やったぁ!」

衣笠と青葉はハイタッチして喜んだ。

「これは二人で作ったのかな?」

「私が紹介内容のナレーションと音楽を、青葉が映像とインタビューとシナリオ構成をしました」

「シナリオが・・青葉・・だと・・やはり隕石が・・・」

加賀が口を開いた

「青葉さん」

「なんでしょうか?」

「あなた、ちゃんとした記事を日頃から書いていたらもっと信用されるでしょうに・・」

「青葉は信用されるより、楽しみに待ってて欲しいんです」

提督が聞き返した。

「楽しみ?」

「今は取材される側は逃げ回りますけど、読む人はワクワクしてくれてます」

「ワクワク、なあ」

「島での生活はオフの外出は認められてますが、どこからも遠いので実質閉塞的です。」

「ううむ」

「その上で毎日硬い記事を出してしまったら、皆が息を抜けなくなってしまいます」

「む・・」

「ソロル新報はまたこんな事書いてるけど、本当は何だったのかなぁって話してほしい」

「・・・。」

「皆冗談だって解ってて、先輩後輩関係なく噂話にしてくれれば楽しいじゃないですか」

「・・・。」

「この島で皆頑張ってるのだから青葉が楽しい雰囲気を作る。それが仕事だと信じてます」

「・・・そう、か」

「はい!」

提督と加賀は青葉を尊敬の目で見ていた。そんな事を思っていたのか。誤解していたよ。

しかし、衣笠は伊達に妹をやっていなかった。

「そんな事言うけどさ、青葉」

「?」

「エンタメ欄のネタ見つけた時は目が星になって記事も嬉々として書いてるよね」

「!」

「でも硬い記事書く時は1本書くのでもダルそうにして延々時間かかってるよね」

「ちょっ!」

青葉は視界の隅で提督と加賀を見た。疑い始めてます。これは挽回せねばなりません!

「あ、青葉が楽しんで書かないと記事に暗い雰囲気が出ちゃうじゃないですか!」

「じゃあ硬い記事を楽しんで書いたら良いじゃない」

「うぐ」

提督と加賀は完全にジト目になっていた。あやうく騙されるところだった。

「硬い記事でどうやって楽しい話題にするんですか?無理があり過ぎます」

「秋の総合火力演習と第3四半期以降の戦略についてならインタビューを受けても良いぞ」

「販売部数が0になってしまいます」

「私は買うぞ」

「1でも0でも一緒です。文月さんから平均20部取れば日曜版出しても良いって・・・あ」

3人がジト目で迫る。

「俺達を日曜版の為に売ったな?」

「ちっ、違っ、違いますよ?!私は読者さんの為にですね」

「汗だくだぞ青葉」

「てっ、提督はヘンタイですか!うら若き艦娘の汗をどうしようっていうんですか!」

「青葉さん、話によっては座敷牢に」

「加賀さん、誤解です!冤罪です!」

「青葉~?日曜版の話は私も初耳だよ?最近やけに部数部数言うと思ってたけど・・・」

「大体衣笠がバラすからこんな事になったんじゃないですか!折角騙せてたの・・・に」

「加賀さんや」

「はい提督」

「座敷牢の鍵を」

「すぐお持ちします」

「提督っ!」

「な、なんだ?衣笠」

青葉が妹を見る。地獄に仏!?最後は頼れる妹!

「食事も大根下ろしくらいで良いです。1~2日空腹で反省させた方が良いです」

「何その超低カロリー食!!」

「なるほど。大根1本とおろし金を入れておけば良いか」

「下ろす所からセルフサービスですか提督?!」

「手配しておきます」

「確定!?待遇改善を要求します!」

「加賀、御情けだ。醤油とお箸と皿は入れてやりなさい」

「解りました」

「改善されたけどそうじゃないです!本当に大根おろしだけなんですか!せめてご飯を!」

「提督、鍵をお持ちしました」

「早っ!いつのまに!」

「うむ。衣笠、頼む」

「きっちり放り込んできます」

「ちょっ!?衣笠!?うそ!?」

「加賀、念の為連行中の警備を。明日の今頃出してあげなさい」

「かしこまりました」

「監視付きで連行!?しかも丸1日!?」

「短くないですか提督?」

「そこでそれを言いますか衣笠?」

「では2日後に開放します」

「加賀さん、そんな殺生な」

「よろしく頼む」

「認定!?」

「ほら行くよ青葉!」

「あう!あ、青葉は、青葉は無実ですぅ~!!」

ズルズルと座敷牢に引きずられていく青葉の断末魔の叫びは教室棟まで届いたが、

「また何かやったのね、青葉は」

という足柄の言葉に、学生達からはやれやれという重い溜息が返されたという。

 

 





青葉さんが使いやすいという作者さんも居るのですが、私は苦手だったりします。
そういう意味で色々青葉さんは今後変化の大きなキャラになるかも。

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