艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file18:リ級ノ知恵

6月16日昼 某海域の無人島

 

「ダメダ。今ハ、オ休ミノ最中ダ」

タ級はチ級を睨みつけた。

幹部級であろうがなんであろうが、整備隊幹部であるリ級の唯一の楽しみを邪魔する者は許さない。

チ級は溜息を吐いた。整備隊はこのタ級を筆頭とする重武装した親衛隊が幹部を厳重に守っている。

戦艦隊の精鋭ですら倒せる親衛隊を怒らせたらチ級の火力なんかで勝てるわけがない。

「ワ、解ッタ。1ツ教エテ欲シイ」

「ナンダ」

「我々ガ艦娘ヲ呼ビ込ム時、厭戦的ナ艦娘ダケ世話ニナル事ヲ、申シ訳ナイト思ッテル」

「・・・。」

「シカシ、整備隊ハ、受ケ入レル割ニ、総数ガ余リ増エナイダロウ?」

「・・・。」

「ドウヤッテ、調整シテルノカ、教エテ、クレナイカ?」

タ級は疑いの目を向けた。

提督との小屋も含めて成仏させる手法は幾つかあり、相談に応じて使い分けている。

そのルートを、手法を、補給隊のチ級なんかに教えたいとは思わない。

しかし、艦娘を深海棲艦にしたくないというリ級の願いを叶えるには、使えそうな気がした。

一旦相談しようとタ級は結論付けた。

「私ハ知ラナイガ、後デ聞イテ、答エヲ用意スル。1週間マテ」

「頼ム」

大人しくチ級は引き下がった。怒らせたら海の藻屑にされかねない。

 

 

6月16日夕方 某海域の無人島

 

「ホウ、ソンナ事ヲ、言ッテキマシタカ」

いつもより少しだけ早く迎えに来たタ級から話を聞いたリ級は、浜で思いをめぐらせた。

現在、提督と「彼女」の調査の進め方について、毎週水曜の午後に打ち合わせをしている。

次回は明日で、いよいよ1回目の調査団受け入れという予定になっていた。

答えを1週間後と言ったタ級の判断は的確だった。

しかし、様子を見に来られて艦娘受入という微妙な瞬間をチ級に見られたら面倒だ。

それに、補給隊は元々艦娘の時点から接触し、深海棲艦にする。

上手く利用すれば深海棲艦になる前に艦娘達を保護出来る。

元の鎮守府は期待出来ないが、あの提督なら信用しても良いだろう。

2つ目の工作として、提督に相談してみるか。

「タ級」

「ハイ」

「明日、小屋デ、コウイウ提案ヲ、シテミヨウト思ウガ、ドウダロウ」

「ドンナ事デショウ」

「厭戦的ナ艦娘ヲ、引キ取ッテ欲シイ、ト」

「エ?深海棲艦デハ、ナク?」

「ソウ。艦娘ノママ」

タ級は少し考え、ピンと来た表情をしたが、

「デモ、チ級ニ、ドウ言ウカ、難シイデスネ」

と、答えた。

「ソウネ。イザトナレバ、借リヲ返シテ欲シイト言イマショウ」

「チョット砲ヲ向ケテモ良イデスカネ?」

「撃ツナ。粉ニナッテシマウ」

「我慢シマス」

「ソレト、明日ノ調査隊受ケ入レハ、残念ダガ中止ダナ」

「チ級ニ見ラレルト面倒デスカラネ」

「ソウダ」

タ級は顔をしかめた。折角話が進んでるのに、チ級が余計な事をしたせいで。

「・・・ヤッパリ、1発ダケ」

「ダメ」

「ハイ」

 

 

6月17日午後 岩礁の小屋

 

「・・・はい?」

提督は準備万端で目が星になってる夕張と島風、それにお目付け役の蒼龍と飛龍を連れて来た。

しかし、今日は先に相談したい事が出来たとリ級から言われたのである。

「鎮守府カラ我々ニ転売サレル艦娘ガ居ルノハ、知ッテルワネ」

「ええ」

「ソノ一部ダケダケド、深海棲艦ニ姿ヲ変エル前ニ、確保デキソウナノダ」

「なるほど」

「タダ、元ノ鎮守府ハ、アテニナラナイ」

「そうですね」

「ダカラ、ソチラデ引キ取ッテモラエナイカ?」

提督はニッと笑った。

「艦娘の頃の記憶を持ったまま、引き渡してもらえますか?」

「無論、何モシナイ」

「歓迎します。」

「ソレト、1ツ報告ガアル」

「なんでしょう?」

「ササヤカナガラ、補給隊ノ邪魔ヲ始メテイル」

「どういう事でしょう?」

「タ級」

「ハイ」

そういうと、タ級は静かに変化した。

提督はうっかり見とれてしまった。

北欧系の異邦人を思わせる、長身で銀髪碧眼の美人になったからだ。

夕張は何気ないフリをしながら、しっかり写真に収めた。

鼻の下伸ばしちゃって。青葉にチクってやる。

「はー、美人ですねー」

提督がダダ漏れの感想を口にすると、タ級は顔を真っ赤にした。

「なっ、なな、何を言ってる。からかわないでくれ」

「いやぁ、冗談ではないよ・・・痛あっ!」

提督が飛び上がった。蒼龍が提督の足を目一杯つねったからだ。

「へー、提督は銀髪碧眼がお好きなんだー(棒)」

「そ、蒼龍さん?」

「あとでお話しましょうねー(棒)」

「目が凄く怖いんですけど」

「何人か同席の上で、しっかり、お話、しましょうねー(棒)」

「嫌な予感しかしないんですが」

「死の予感てやつですねー(棒)」

「やめてくださいカンベンしてください」

「深海棲艦側の提督になっちゃえば良いんじゃないですかー?(棒)」

リ級がくすっと笑う。

「ソウネ、提督ナラ、タ級ト仲良ク仕事シテクレソウネ」

タ級は変化した姿のまま真っ赤になって反論する。

「ちょっ!や、止めてください!何言ってるんですか!」

蒼龍は完全にジト目で提督を見る。

「良かったですね、死後の就職先が見つかって」

「もう死刑確定なの?!」

「はい」

「肯定!?」

リ級がパンパンと手を打つ。

「トリアエズ、ソノ話ハ別途シテ頂クトシテ」

「したくないです」

「タ級ニ頼ンダノハ、詐欺ダ」

「はい?」

「補給隊ガ、声ヲカケソウナ鎮守府ニ、先回リシテ、声ヲカケタ」

「ほう」

「乗ッテキタ鎮守府カラ、艦娘ダケ先ニ貰イ、後ハ無視シテル」

「うわー、本当の詐欺だー」

タ級がニヤッと笑った。

「騙されるのが悪いのよ」

「そりゃ、こんな美人ならコロっと騙されるんだろうなあ」

「・・・蒼龍」

「なーに?」

「提督は好きで燃料を投下してるのか?」

「しらなーい」

「なんと言うか、君達、殺気が溢れすぎてるぞ」

蒼龍達は声を揃えた。

「原因に言われたくないわー(棒)」

タ級は泣きそうになりながら提督を見た。

「て、提督」

「何かなタ級さん」

「わ、私も謝ったほうが良いかな」

「私は既に、世界で君しか味方が居ない気がしてる」

タ級と提督は手を取り合って震えていたが、リ級は涼しい顔で、

「タ級ハ、打合セガ終ワッタラ、一緒ニ帰リマショウネー」

と言い、

「マァ、ソウイウ訳デ、補給隊ガ、詐欺師ト間違ワレルヨウニ、仕向ケテル」

と、続けた。

「なるほど。先に騙されてれば鎮守府も警戒するという事か」

タ級が続ける。

「上手い話なんか無いって事よ」

飛龍がふと気づいたように疑問を呈した。

「あの、その騙して取ってきた艦娘達はどうしてるんですか?」

リ級が頷いて答えた。

「ソコヲ相談シタイ。今ハ我々ガ、タ級ヲ通ジテ食料ヲ渡シ、無人島デ待機サセテイル」

「そうでしたか」

「デモ、我々ガ引キ取ッテハ意味ガ無イ」

「そうですね」

「ダカラ、コチラモ、頼メナイカ?」

「良いですよ。お任せください」

飛龍が問いただす。

「提督、そんなに受け入れて大丈夫なのか?」

「まぁ、多分大丈夫だ。ただ、面倒な交渉は発生する」

「事務方と?」

「いや、憲兵隊だ」

飛龍は首を傾げた。憲兵?

リ級は話をまとめた。

「ジャア、匿ッテル艦娘ト、転売艦娘ノ一部ヲ、引キ渡スワネ」

「解った」

「ソノ準備ガアルカラ、悪イケド、今日ノ調査ハ中止、ネ」

「えー」

「こら夕張、残念そうな声を出さないの」

「だってー」

タ級が呟いた。

「本当に邪魔よね、補給隊の奴」

「ん?どういうことだい?」

「要スルニ、補給隊トノ交渉中ニ、調査スル姿ヲ見セタクナイノダ」

「なるほど」

「ソシテ、タ級ハ、妙ニ私ノ体調ヲ心配シテルンダ」

「あ、そういえば」

「なんだいタ級さん」

「最近、リ級さん、元気が出てきましたよね」

「そうなの?」

「ヨク解ラナイガ・・・」

リ級は悪戯っぽく微笑むと

「提督ニ恋シテルカラ、毎日ガ楽シイノカモ」

と、言った。

急激に復活する殺気に提督は目を瞑った。

神よ、私は明日の日の出を拝めるでしょうか。

 




作者「タ級さんはロシア系の美人をイメージしてます」
タ級「・・・。」
作者「イメージしてます!」
タ級「繰り返さなくて良いから!」

タイトルの誤りを直しました。
見直しても見直しても誤りが残ってるなあ・・・しょんぼり。

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