艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file21:夏ノ足音

7月22日昼 大本営通信棟

 

「そっ、それは凄まじい証拠ではないか!」

憲兵隊長と中将に、提督は活動報告をしていた。

二人の都合がつかず、なかなか報告が出来なかったが、反応は期待以上だった。

そして転売された艦娘を保護出来るかもと聞いた二人は、椅子から飛び上がるほど驚いた。

「かっ、彼女達の記憶は残っているのか?」

「記憶調整はしないと約束してくれています。信用して良い相手です」

「それなら経緯とかも明らかにできるな」

「間違いなく逮捕理由となり、裁判上でも有意な証拠です」

「そうだな。その艦娘を証人として押さえれば確実に勝てる」

「お願いがあります」

「なんだ」

「艦娘達は、多かれ少なかれ司令官を、我々人間を恨んでいると思います」

「そう、だろうな」

「ですから、彼女達が証人の役割を終えた後、療養の時間を取って欲しいのです」

「具体的には?」

「我々が一旦研修生として引き取り、大丈夫と判断したら他の鎮守府に引き渡します」

「それは良い案だな」

「うむ、落ち着きを取り戻し、基礎訓練を積んだ艦娘なら引く手数多であろう」

「人間によって傷ついたのだから、人間として償いをせねばな」

「解った、提督。話をまとめる」

「はい」

「まず深海棲艦にされる前の転売された艦娘を君の鎮守府で保護する」

「はい」

「続いて対象鎮守府を君の攻撃隊で包囲、憲兵隊が突入、違法取引に応じた司令官を逮捕する」

「はい。我々は憲兵隊の皆様の支援に徹します」

「うむ。そして艦娘に軍事法廷での証人として出廷してもらい、その後再び君の鎮守府に返す」

「はい。」

「そして療養と基礎訓練を受けさせたのち、希望する鎮守府に引き渡す。そうだな?」

「間違いありません」

「素晴らしい。ああ、まあ、本当は転売そのものが無いのが一番だが・・・」

「腐敗撲滅の見せしめとしても充分良い形だと思う」

「そうですな中将。これなら憲兵隊の顔も立つ。提督、ありがとう」

「いえ、こちらこそ御力添えを頂ける事で大変心強く思います。感謝いたします」

 

提督は対策班編成後、ずっと考えていた。

金剛4姉妹や球磨多摩達は、軍務遂行者としては間違いなく一級だ。

しかし、こと逮捕となるとどうしても法を踏まえた行動が大切になる。

そうしないと弁護士から違法逮捕等と言われ、苦労が無駄になる恐れがあるからだ。

しかし、幾ら教育をしても弁護士は粗探しの玄人だ。付け焼き刃ではボロが出る。

その点、憲兵隊は軍隊の規律も弁護士連中の対処も心得ている。

従って、隠密行動的な攻撃を除けば憲兵隊を前面に出す方が得策だと判断したのである。

この案を長門に説明し、意見を求めると、

「良いだろう。金剛や球磨達には私から言い含めておく」

と、了承してくれたのだ。

 

「しかし、よく深海棲艦とそこまでの話を取り付けたな」

憲兵隊長の言葉に、提督が応じる。

「調査班の努力と苦労、それにカレーのおかげです」

中将がぴくんと反応する。

「カレー・・・だと?」

「鳳翔のカレーは深海棲艦にも好評なのです。そのおかげで信頼と絆が出来ました」

「食べてみたいものだな」

「お越し頂く事があれば、ぜひ、炊き立てのご飯と一緒に召し上がって頂きたいです」

中将はつばを飲み込んだ。

「ふむ。何か用事を考えてみよう」

「お待ちしております」

通信棟を出ながら憲兵隊長はしきりに驚いていたが、中将は何となく理解出来た。

攻撃する一方の敵だけだと思っていた深海棲艦と会話をし、元の艦娘に戻した男だ。

当然、最初から期待していたが、1年でここまで仕上げてくるとは。

さて、夏休みの案に大和をどう巻き込むか。五十鈴の説得はそれ以上に厄介だ。

 

「中将、御待ちしておりました。御承認の判をお願いいたします」

自室に戻った中将を待っていたのは、大和と書類だった。

やれやれと席に着き、早速中将は大和が差し出す書類に判を押し始めた。

「大和、そろそろ良い季節だなあ」

ポン

「良い季節、と仰いますと?」

ポン

「青い空、白い雲、透き通る海」

ポン

「あぁ、ソロルですね。提督達は御元気でしょうか?」

ポン

「先程、提督と通信で話をしたのだがな」

ポン

「何と仰ってましたか?あ、判はこちらの隅に」

ポン

「美味しいカレーが出来たそうだ」

ポン

「中将はお好きですものね、カレー」

ポン

「好みを覚えてくれてて嬉しいよ」

ポン

「確か、夏のお盆の直前は、上層部の方は外出が多いみたいですよ」

ポン

「五十鈴は話に乗ってくれるだろうか?」

ポン

「カレーよりはバカンスを強調した方がよろしいかと」

ポン

「日程調整と併せて頼めないかな?」

ポン

「お仕事を終わらせてくださると約束頂けるなら」

ポン

「頑張ろう」

ポン

「これで、今日の分は終わりです」

ポン

「よろしく頼むよ」

大和はトントンと書類を整えながら、

「五十鈴さんと話してみますね」

と、微笑んだ。

 

「まったく、あなたは中将に甘すぎないかしら?」

五十鈴は腰に手を当てて大和に答えていた。

「でも昨年も行くと言いながら結局行けませんでしたし」

「私達だって仕事で行ってないわよ」

「ですから、ご一緒にと思いまして」

「えっ?」

「五十鈴さんと、私と、中将で行きませんか?」

「護衛はどうするの?」

「夕雲さんとかどうでしょう?」

「あら、良いわね・・・あの子最近頑張ってるし」

「表向きは中将の護衛という事で」

「名目はソロル鎮守府の視察とでも言って、適当に見ておけば良いわね」

「鳳翔さんのお料理も美味しいそうですよ」

「美味しい料理、青い空、白い雲」

「透明な海、白い砂浜、名工の建てた宿泊所」

「・・・良いわねぇ」

「ですよねぇ」

「・・しょ、しょうがないわね。日程調整とかは任せて良いかしら?」

「ご安心を。万事大和にお任せください」

「そうね。中将だと心配だけど、貴方が居れば大丈夫ね」

中将が建物中に響き渡るくしゃみをしたのはその直後であった。

 

 




ちなみに、ソロル島という島は実在します。
こんなリゾート地でのバカンスを生涯に1回くらいやってみたいものですねえ・・・

素で間違えてた所を直しました。すいません。

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