艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file22:協力ノ輪

 

7月24日午後 岩礁の小屋

 

「提督ニ、伝エタイ事ガ、アルノダケド」

リ級は打合せの後、おもむろに話し出した。

夕張が機材を仕舞いながら応じた。

「なんでしょう?」

「艦娘取引ノ、話」

途端に摩耶達も手を止めてリ級を見る。

「明日ノ昼頃、迎エニ来テ欲シイノダ」

「行くのは多分別の班になりますけど、顔合わせしますか?」

「ソウネ。タ級ト、顔合ワセヲ、シテ欲シイ」

「じゃあちょっと提督達を呼んでくるね!」

「ゴメンナサイ。オ願イスルワ」

 

「すいません、お待たせしまして」

「イエ、最初ニ言ウベキダッタ、ゴメンナサイ」

島風についてきたのは、提督、長門、鈴谷、山城、それに金剛だった。

タ級は一目見て頷いた。強者というのは独特の雰囲気がある、と。

「長門だ。対策班を統括している」

「鈴谷です。普段は鎮守府の調査とかやってるよ!」

「山城です。支援作業を主任務にしてるわ」

「金剛デース!最後に私達がケリをつけるネー!」

「班員は他にも居ますが、今日は隊長と顔合わせ位が良いだろうと思いまして」

「ソウネ。私ハ整備隊ヲ任サレテイル、リ級ヨ」

「警護ヲ担当シテイル、タ級ダ」

お互いに挨拶を済ませると、提督が切り出した。

「明日、艦娘達を引き取りに行くと聞きましたが」

「ソウ。艦娘達ハ、今夜島ニ移送サレル」

「ならば、我々は今夜でも構わないが?」

長門が言うと、リ級が首を振った。

「補給隊ノ勧誘ヲ、先ニヤラセル。我々ハ、補給隊ガ勧誘ニ失敗シタ子ヲ、引キ取ル事ニナッテル」

「なるほど、補給隊は泳がせるという事か。解った。」

「全艦娘ガ、断ッテクレルト、良イノダケド」

「不思議な会話ね。一致団結して深海棲艦になるのを阻止するなんて」

山城が言うと、リ級は

「深海棲艦ナンテ、ナルモノジャナイワ」

と、肩をすくめた。

「補給隊ハ夜ニ説得シ、朝マデ考エサセル。ダカラ補給隊ガ帰ッタ昼頃ニ、迎エニ行ク」

「迎えに行く場所が解らないんだけど・・・」

「明日ノ朝、タ級ヲ迎エニ行カセルカラ、ツイテ来テ欲シイ」

「結構大量に居るのかな?」

「鎮守府カラ連レテ来タ子ハ二人ダケド、取引分はソレナリニ居ルカラ、最大20体位」

「おおう。結構な数ね。相部屋で足りるかしら?」

「迎賓棟の研修生部分を使えば入るだろ。」

「あ、なるほど」

「あと、今回は無いと思うが」

提督が口を開いた。

「艦娘達を私達の手に渡すまいと企む者が出てくると思う。だから護送は十分注意してほしい」

「それならアタシと熊野に乗れば良いよ。守り抜いてやるさ!」

鈴谷が言うと、金剛が口を開いた。

「私達が鈴谷達をカバーしマース!指一本触れさせマセーン!」

山城も頷いた。

「瑞雲で索敵して追跡者を遊撃する。皆に状況を伝えるわ」

タ級は気付いた。今のでブリーフィングが出来ている。

この連中は高度に意思統率が出来ている本物だ。誇示しないのが証拠だ。

提督は頷いた。

「戦闘は避けたいが、リ級、タ級も含めて安全を脅かされる場合は攻撃して良い。一任する」

「エッ?」

タ級は驚いた顔をした。てっきり自分達の安全は自身で確保する物と思っていたからだ。

「何を驚いてる?仲間なんだから当然だろう?」

「ア・・アリガトウ・・」

リ級がにやりと笑うと

「提督、タ級ハ純心ナンダカラ、弄ブノハ止メテアゲテ。」

と、言った。

「そ、そうじゃない。この前もリ級さんがそういう事言うから修羅場になったんじゃないか!」

リ級が真っ赤になって固まってるタ級の手を取ると、

「アラアラ、ジャア本気ッテ事カシラ?」

と、くすくす笑った。

リ級の機嫌が良くなるのと引き換えに提督への視線の温度が下がっていく。

「こ、今度は前とは違うぞ!長門!」

「な、なに?何だ?」

「ガツーンと私の無実を言ってやってください!」

「・・・何で私が」

「男ナラ、自分デ、決着ヲ、着ケルモノヨ」

うんうんと皆が頷く。

「ま、待て皆!リ級のトークに乗せられているぞ!帰ってくるんだ!」

「アラ、私ガ酷イ女ミタイニ言ウノ?散々弄ンデオイテ・・・ウッウッ」

「打合せしただけでしょうが。泣き真似までしないでください」

「ウフフフフ。提督ト話スト元気ガ出ルワ」

「私は肝が冷えますよ」

「コレクライデ動揺スル人ニ、タ級ハ、ヤレナイワ」

「娘に結婚申し込まれたお父さんですか」

「アラ、私ニトッテ、タ級ハ可愛イ娘ミタイナモノヨ?」

「そりゃタ級さんは可愛いですけども」

 

瞬間、空気が凍った。

 

リ級は手を額にやった。ここまで自爆癖があると、うかつに水を向けるのは危険だ。

「ト、トニカク、タ級ヤ私モ守ッテクレルノハ感謝スル」

「ええ、皆で遂行しましょう」

リ級は指の間からちらりと艦娘達を見た。

班長の長門はさすがに動揺してないようだが、他の艦娘は居残り説教をする気満々だ。

ちょっとやり過ぎたか。

「ア、アー、サッキ提督ニ言ッタノハ冗談ダカラ、オ手柔ラカニ」

金剛が冷たい笑顔を返した。

「大丈夫ネー、ちょっと大根と座敷牢のカギを取ってくるダケデース」

提督がぎょっとしたように金剛を見る

「ちょ!き、昨日まで青葉が居た所か?しかも同じ刑っぽくないか!?」

「明日の朝には出してあげマース」

「・・・とほほ」

その時、タ級がきゅっと顔を上げると、

「ワ、私モ入リマ・・ムグググ!」

ガチンと場の時が止まったのを感じて、リ級が慌ててタ級の口を塞いだ。

「アー、私達ハ、ココデ帰リマスネー」

「ムグググ!ムグ!ムググウー!」

自分より大きなタ級を恐ろしい力で引きずったまま、リ級は海に消えた。

 

「・・・テートクー」

金剛の声がいつになく低く冷たい。

提督は諦めて溜息を吐いた。

「解った。座敷牢に入るよ。醤油をください」

「チガイマース」

ぷふっと、金剛が噴き出すと、他の艦娘達も笑い出す。

「ん?な、何?」

「テートク!油断は禁物デース!私達のヘルプに感謝してクダサーイ!」

「え、え、え?」

「怒ったフリですよ、フリ」

山城が涙を流しながら笑っている。

「リ級さんに弄られて困ってたじゃん?ああすれば止めてくれるワケさ!」

鈴谷が説明してくれて、やっと納得する提督だったが、

「そ、そうだったのか!私は夜中に夕食を差し入れに行かねばと思ってた」

と、長門までが言ったので、他の艦娘は思った。

この二人、良い夫婦だわ。あと、タ級、要チェック。会長に要報告。

 

提督は気を取り直して、

「あと、明日の作戦で何か質問はないかな」

と聞いた。

長門達はちょっと考える仕草をしたものの、

「あとは何とかなると思うよ」

という鈴谷の言葉に頷いた。

「よし!それでは対策班の初仕事だ。怪我の無いようにしっかり頑張ってほしい!」

「はい!メンバーにも伝えます!」

ぞろぞろと帰っていくのを見ながら、提督はそっと長門に手招きした。

「なんだ?」

「わ、私は助かったのか?」

「じゃ、ないか?」

「本当かな?前回は島に帰ってから酷い目に遭ったんだが」

「そりゃ、タ級だけ褒めたんだから仕方なかろう」

「・・・・何で?」

長門はがくりと頭を垂れた。これではきっとまた、大なり小なり爆発があるだろう。

「え、ちょっと、長門さん?教えてよ~」

「鈍感ってことだ」

「ど、鈍感?そんな事ないだろー」

すると、既に海に入っていた艦娘達まで全員がキッと振り向くと、

「鈍感!」

と一斉に言ったのである。

提督はがっくり肩を落としながら、島に戻ったのである。

そ、そんなに鈍感か・・・・もっと褒めれば良いのかな。

 

 





もう少し提督の勘の鈍さを改善しようかと思います。
なぜなら登場中の某艦娘から
「幾らなんでも人として鈍感過ぎて心配です。ていうか何とかしないと切り落としますよ?」
という短いお手紙を貰ったからです・・・

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