艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file32:島ノ謎(中編)

 

8月20日夕方 島の裏側

 

「あ!居た!居たのです!」

電の声に響と島風が向き直ると、島の裏側の小さな浜で暁と雷を見つけた。

「よし、行こう!」

3人は進路を変えて近づいて行った。

「あ!響!あなた木登り出来る?」

近づいて来た響達に暁は聞いた。

「は?」

「紙飛行機が木の上にあったのよ」

雷が指す方角を見ると、少し高い枝の所に紙飛行機が引っかかっている。

「も、もう1度折り紙で折るのです」

辺りを見回しながら電がいう。よほどお化けが怖いらしい。しかし、

「一番飛んだ飛行機ほしい!取ってきてあげる!」

というが早いか、島風がするすると木に登り始めた。

「凄いな島風、木登りも出来るのか」

響が登っていく島風を見ていたが、ふと、

「それにしても、連絡の1つ位してくれたって良いじゃないか」

と、雷と暁に言った。

「ついつい探すのに夢中になっちゃって」

「ごめんごめん、でも、探し過ぎて疲れたわ~」

そう言いながら暁が手近な岩にもたれた。すると

 

ズ、ズズズッ!

 

「きゃあ!」

「な、なに!?」

岩は暁を支えるどころか、そのまま暁のもたれた分だけ横にずれてしまったのである。

「あ、暁、岩を動かす程重くなったのかい?」

「ちょ!レッ、レディに向かって失礼な事言わないで!」

「だってこの岩が・・・あれ、軽い」

響が岩を持ち上げてみると、中はがらんどうだった。

「模造・・岩?」

「そうね」

「何でこんなところに・・・あ」

ふと響が下を見ると、ぽっかりと小さな穴が開いている。覗き込む響と暁。

「奥まで続いてる感じ・・・ね」

「あ、見て!」

響が指差す方向には小さなトロッコやスコップ、ランプなどが見えた。

「誰か使ってるのかな?」

「こんなところに設備があるなんて聞いた事ないわよ?」

その時、

「飛行機取れたよ!そろそろお風呂の時間だよ!あれ?響ちゃん?暁ちゃん?」

という、島風の声が聞こえた。

「これは、日を改めた方が良いね」

「明日もう1度来ましょう!」

響と暁は顔を見合わせて頷き、そっと模造岩を元に戻して立ち去った。

 

 

8月21日昼 島の裏側

 

「足元大丈夫?」

「ええ、しっかりしてるし、水も無いわよ」

行くのを怖がった電を留守番として、暁・雷・響の3人は再び島の裏に来ていた。

模造岩を動かし、雷が最初に穴へ入っていく。

続いて暁、響と入って行った。

 

まず3人はすぐ見えたトロッコ等を調べた。

てっきり古い物かと思ったが、錆も少なくそれほど埃も被っていなかったので、新しいものと解った。

ランプもちゃんと点き、照らしてみると奥に続いている為、ランプの明かりを頼りに進んでいった。

足元は砂であり、やや足が取られる感じがした。

ふと見ると、沢山の足跡らしきものが見える。

「お化けに足は無いよね」

響がそういうと、雷や暁はぷっと吹き出した。

「そうよね、足があったら変よね」

「先に行きましょ」

数十メートル程進むと行き止まりになったが、上から光が届いている。

見上げれば縦穴があり、上から光がさしていた。

また、太いロープが垂れ下がっているのも見えた。

暁がぐいぐい引っ張るが、しっかり固定されているようだ。

「い、行くわよ!」

「1人ずつね!」

「気を付けて」

暁が登っていき、程なく良いわよと言う声がした。

「こ、これは狭いね」

最後に響が登り終えると、雷と暁が待っていた。

3人が立つのがやっとという狭いスペース。

目の前には巨大なレンガの壁があり、後ろは岩の壁。周囲はどこにも道がない。

ただ、聞こえてくる音や真上の感じから、工廠が近いと思われた。

響はランプを消して考えた。

ロープまで張ってこんな所に何の用だったのだろう?

「あ!」

声を上げた雷を見ると、もう1本のロープを持っていた。

岩壁の壁の上の方から垂れ下がっており、岩場に人が登ったような跡が見える。

しかし、先程の縦穴と違って

「結構高いね」

「身長の3~4倍はあるわね」

「あ、あたしは・・ちょっとムリ」

「私が行ってくるよ」

「き、気を付けるのよ、落ちてきたら受け止めてあげるからね!」

励ます雷に手を振って、響はゆっくりとロープと足場を頼りに登って行った。

かなり足場は荒い。岩の凹凸を利用して無理矢理作った感じだ。

ふうふう言いながら登りきると、響は満足の表情を見せた。

多分、想像は当たってる。

 

「ボーキサイトが減った日?」

工廠長は響達に聞かれて台帳を開いたものの、3人をじっと見ると、

「お前達、なんでそんなに泥だらけなんだ?」

「今は気にしないで!」

「まぁ、帰ったらちゃんと洗濯しろよ・・・ええと、この日、だな」

「8月14日の前は7月29日なんだね?」

「他は解らんが、その2つは間違いないと思うぞ」

「充分だよ、ありがとう」

首を傾げる工廠長を後に、響達は部屋に戻っていった。

 

「ピッタリなのです!」

部屋で着替えた後、電も入れて4人で調べた所、どちらも共通している特徴があった。

しかし、雷がきっぱりと答えた。

「その日というより、班当番を赤城さんがサボった事は1度も無いわよ?」

響は頭を抱えた。

何か見逃している事があるが、赤城は限りなく怪しい。

 

 

8月22日夜 島の裏側

 

「よ、夜の海って結構暗いわね」

暁は傍らの響に語りかけたが、

「しーっ」

と、注意されてしまい、しょぼんとしてしまった。

夕張の話から夕食時間直後が怪しいと睨んだ響は、暁と一緒に模造岩が見える所で監視していた。

恐らく今日、赤城が来るはずだ。

 

響が注目したのは、班当番の予定表だった。

7月29日、8月14日、いずれも赤城達の班が夕食後、食堂の掃除当番をする日だったのである。

それは8日おきに来るので、次は今夜だった。

食堂の方は赤城と同じ班である雷に任せ、4姉妹専用のチャンネルにインカムをセットしてきた。

電は万一響達が深海棲艦に襲われた時に助けを求められるよう、部屋でインカムを聞きながら待機している。

実際はお化けが怖いといって涙目になったので可哀想になって部屋に残したのであるが。

 

ちゃぷん。

 

「あ、ほんとに誰か来たわ」

「しーっ!」

 

人影は周囲をうかがうと、模造岩をそっとどかし、穴に入って行った。

響はインカムに話しかけた。

 

「え?赤城さん?居るわよ」

赤城に見えないよう振り向きながら、雷はインカムに答えた。

「ちゃんと箒持って、そ・・・・」

瞬間、雷が凍りついた。

この世で最も見たくない、黒光りする物体が2つ、こちらに不敵な視線を投げていたからだ。

 

「いやあああああああ!ゴッ、ゴッ、ゴーーーーー」

響と暁はインカムを取り落しそうになった。

耳をつんざくばかりの雷の悲鳴に交じって、艦娘達の悲鳴が聞こえる。

おそらく奴だ。可哀想に。

響は溜息を吐いた。雷はゴキが猛烈に苦手だ。

部屋では見た事が無いのに、来るかもしれないと押し入れの奥にホウ酸団子を山積みにしてる位だ。

 

「いやぁぁぁ来ないでぇぇぇ!」

ぶびーーんという不気味な羽音をたてながら、艦娘の一人に向かって飛んでいく。

赤城はそんな大混乱の中、黙々と床を箒で掃いている。

その時、ゴキが赤城をターゲットとして捉えた。

 





深夜の台所でゴキに出会うと気迫負けします。
やつらは何であんなに圧倒的存在感があるのでしょう?

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