艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file42:蟻ノ一穴

 

9月8日昼 某海域

 

「マ、参ッタ・・・ドウスレバ良インダ」

補給隊幹部であるチ級は頭を抱えていた。

リ級との約束に従い、チ級は連れてきた後、深海棲艦に変える前に勧誘をするようにした。

その結果、今度は誰一人勧誘に応じなくなってしまったのである。

「最近ハ、勧誘ガ鎮守府デ、文字通リ門前払イニナル場合ガ増エタヨウデス。困リマシタ」

ホ級は頷きながら困ったという顔をしていたが、内心はチ級に謝っていた。

何を隠そう、ホ級は勧誘を阻止している張本人なのである。

移転希望の艦娘向けに勧誘の注意を試したところ、100%期待通りの効果をあげた。

そこで、最近では輸送船内で虎沼からチ級の勧誘とその後の鎮守府からの迎えについて説明してもらっている。

一応、深海棲艦になりたければ止めませんとも言うが、希望する訳がないので追い打ちも同然である。

更に先月は虎沼が門前払いを受けるケースが急増し、取引総数も大幅に減っていた。

ゆえに1ヶ月を通して只の一人も勧誘に応じないという事態になってしまったのである。

「来週ニハ、幹部会ガアル」

「ハイ」

「深海棲艦ニ出来ソウナ艦娘ニ絞ッタ勧誘ハ出来ナイモノカ?」

「ト、言イマスト?」

「例エバ艦娘使イノ荒イ鎮守府ヲ重点的ニ当タルトカ」

「ソンナ内情マデ言ッテクレナイデスヨ」

「ソレモソウカ・・・」

「ソロソロ、潮時カモ知レマセンヨ?」

「・・・・。」

「連レテ来テモ文句言ワレマスシ」

「イヤ、モウ一度、何トカ挽回シタイ」

「・・・。」

「ホ級モ、営業活動ニ、参加シテクレナイカ?」

「人間カラノ報告ヲ聞ク限リ、私ガ行ッテモ適ワナイ気ガシマス・・・」

「使エル艦娘ヲ一人デモ連レテ来レバ、補給隊ヲ維持出来ルハズナンダ」

「・・・考エテミマス」

ホ級はそう言ってチ級と別れた後、しばらく考えに耽っていた。

やがて、意を決したようにある海域に向かって行った。

 

 

9月8日夕方 某海域の無人島

「アレ?オ前ハ、補給隊ノ、ホ級カ?」

タ級は海の涼しさに嬉々として膨大な書類と格闘していたが、珍客に手を止めた。

「ア、アノ、ココニ来レバ、相談ニ応ジテクレルト、聞イタノデ」

「ドンナ事ダ?」

「深海棲艦ヲ辞メテ、人間ニ、ナリタイノデス」

「!?」

「ドウスレバ、良イノデショウ?」

タ級は思わぬ申し出にびっくりした。

てっきり補給隊の運営についての相談かと思ったのである。

しかし、ホ級の目は真剣そのものだ。

教えてあげたいが、その方法は私も知りたい。いやいやいや。

タ級は少し間を取ってから、話し出した。

「教エテヤリタイノダガ、直接、人間ニナル方法ハ、解ラナインダ」

「・・・・・。」

「トリアエズ、ボスト相談スルト良イ」

「良インデスカ?」

「コウイウ相談ハ、ボスシカ対応出来ナイ。今カラ迎エニ行クガ、一緒ニ来ルカ?」

「オ願イシマス」

リ級は何か知ってるだろうか。もし知ってたら一緒に聞いておこう。

 

「時間ピッタリデスネ」

タ級が島に迎えに行くと、リ級は珍しく起きていた。

「最近、ホント調子良サソウデスネ。嬉シイデス」

「タ級ト提督ノ恋路ガ気ニナッテ気ニナッテ」

「ソレナラ・・・元気ジャナクテ、良イデス」

「マァマァ。アラ?ソノ子ハ?」

タ級の後ろからひょこっと出てきたホ級にリ級が気付いた。

「相談ヲ、シタイソウデス」

リ級が微笑んだ。

「良イワヨ。オ話シマショウ」

「全部、オ話シテモ良イデスカ?」

「秘密ハ守ル。心配シナクテ良イワ」

リ級の言葉に、ホ級は安堵の溜息を吐いた。誰かに全部打ち明けてしまいたかったからだ。

 

「ナルホド」

リ級はホ級から、補給隊の現状、ホ級がしていた事、そして人間に戻りたい事をすっかり聞いた。

ホ級が補給隊の要であることはリ級も知っていたが、積極的に取り組んでいるのだと思っていた。

これほど悩んでいたのなら、これ以上の妨害工作は要らない。

むしろ、補給隊そのものを無くす方向で動こう。自分の希望する未来と合致するし。

だとしたら、取引の為にはこの子の願いを何とかする必要がある。

しかし、嘘を言っても意味が無い。

リ級は熟考の後、口を開いた。

「我々ガ、知ッテル方法ハ、成仏スル方法ダケナノ」

「成仏・・」

「結果的ニ転生出来レバ辞メラレルケド、ソコハ我々デハ」

「ドウニモナラナイ話デスヨネ」

「タダ、手ハマダ他ニアルノ」

「ドンナ手ナンデスカ?」

「色々確カメナイトイケナイ事ガアルワ。13日マデ待テル?」

「ハイ。モチロン」

「解ッタ。ジャア13日ノ今頃ニ、マタ来テネ」

「ハイ。オ願イシマス」

 

帰っていくホ級を見送りながら、リ級はタ級に言った。

「ソロソロ、鎮守府巡リモ、終ワリニ、シマショウカ」

タ級の目が輝いた。

「本当デスカ!」

「何故ソンナニ嬉シソウナノ?司令官ニ、苛メラレタノ?」

「ウルサイ蝉モ、暑サモ、ウンザリナンデス」

「人間ニナッタラ、ソコデ生キルノダケド、ネ」

タ級は愕然とした。そういえばそうだ!

リ級はそんなタ級を見て、くすくすと笑いながら付け足した。

「デモ、提督ハ、ソコニ居ルノヨネ」

「ミャッ!?」

タ級はカクカクとリ級を見た。汗をどっとかきながら、

「ナ、ナナナナナナ何ノ事ダカ私ニハサッパリ」

と答えると、リ級はぷふっと吹き出して、

「ヤッパリ、タ級ハ可愛イワ。頑張ッテネ」

と、タ級の頭を撫でながら笑った。

タ級は顔から火が出そうだった。

最近、リ級が元気なのは良いが、妙に弄られる。

まさか提督ファンクラブ会員になった事もバレてるんじゃないわよね?ね?

 

 

9月9日午後 岩礁の小屋

 

「ジャア、今週ハコンナ感ジデ」

タ級は夕張達と打合せを終えた。

毎週水曜日の午後、「彼女」の調査と、艦娘売買情報の交換会をしていたのである。

「彼女」こと装置の調査については、数回の現象を見て、夕張が2回ほど機械を作ったが効果は無かった。

何が彼女を活発化させたり、沈静化させるのか。謎は深まって行くばかりだった。

ただ、タ級曰く、

「リ級ガ、元気ニナッテキタカラ、時間カカッテモ良イ」

という言葉に救われていた。

「今日、提督ト相談ハ可能カナ?」

タ級が摩耶に聞く。

「ちょっと様子見てくるよ、待ってな」

「ゴメンネ」

「良いって事。あ、夕張から目を離すなよ」

「了解。寝ナイヨウニ見張ッテオク」

「さすが、良く解ってる!」

そう言って摩耶とタ級はウインクを交わしたが、夕張は

「ちょっとぉ、少しくらい寝ても良いじゃんよぅ」

と、不満げだった。

 

「はいはいお待たせ。どうしたの?」

「呼ンデシマッテ、スマナイ」

「書類から逃げられてむしろ感謝してるよ」

「アァ、コッチデモ多イノカ?」

「てことは、そっちも?」

「毎日捌クノガ大変ダ」

「解ってくれるって嬉しいねえ。あれ?リ級は?」

「昼ニ、島デ寝ルノガ唯一ノ楽シミダカラ、奪ッタラ可哀想」

「それで代わって捌いてるのか。タ級は良い娘だね。」

「ソ、ソレホドデモナイ」

「きっと良い奥さんになるよ」

「!」

ボン、と瞬間湯沸かし器のように真っ赤になるタ級を見て、摩耶は思った。

提督の超鈍感は罪作りだよな・・・まぁ、もう諦めてるけど。

 


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