艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file47:教授ノ教示

8月10日夕方 工廠

 

「ふむ、今日はペンギン大行進だの」

「ご、ごめんなさい・・足の踏み場も無いです・・」

あれから当番の日を除いてほとんど毎日、睦月は来ていた。

少しずつ1日に開発出来る回数も増えていたが、今日は本当に運が無かった。

1日頑張ったが、7.7mm機銃とペンギンしか出なかったのである。

「ペンギンはそのうち勝手に海に帰っていくから、ほっとけば良い」

「で、でも、資材を沢山使ってしまいました・・」

「この鎮守府は知っての通り授業で沢山の艦娘を受け入れておるから、資材は豊富に供給されておる」

「・・・・。」

「それに、今月は夏休みで溜まる一方じゃ。野晒しもいかんしの」

「い、良いんでしょうか・・」

「使った分を合計しても、同じ期間に補給された量の方がまだ多いわい」

「そうですか。良かった・・・」

「ところで昨日、睦月も見たじゃろうが」

「?」

「今日は花火大会じゃ」

「あ!昨日、物凄い爆発音を立ててたあれですか!」

「そうじゃ。昨日は花火の練習の為にこちらの練習を中止してもらったが、あれの本番が今日なのじゃよ」

「え、えーと」

「?」

「花火って、なんですか?」

「見た事ないか。そうか・・まぁ、実物を見るのが一番じゃろう。夕食後にまたおいで」

「はい!」

 

「足元に気を付けての」

「はっ、はい!」

睦月は工廠長に手を引かれ、艦娘達でごったがえす見物会場に連れてこられた。

そして妖精達と砂浜にシートを敷くと、皆で腰を下ろした。

「やれやれ、場所があって良かったわい。そろそろ時間じゃ、あの辺りを見ておると良い」

「星を、見てれば良いんですか?」

「大きな音がするから覚悟しておくんじゃぞ」

「はい!」

睦月が口をへの字に結び、ぎっと空を睨んでるのを見て、工廠長はくすっと笑った。

まぁ、備えるのは良い事だ。

「では最初ですよ最初!記念すべき初の打ち上げは涼風さんと五月雨さん!」

青葉のアナウンスが遠くで聞こえた後、

 

シュッ・・・ヒュルルル・・・

 

遠くの空に一筋の光が見えたかと思うと、

 

ドーン!

 

「う、うわあああああぁぁ」

工廠長が睦月を見た。目を見開き、キラキラと輝いていた。

「あれが、花火というものじゃよ」

「大きい音ですけど、凄く、凄く綺麗です!」

 

ドーン!ドドーン!

 

睦月は身を乗り出し、目を見開いたまま、次々上がる花火をじっと見つめていた。

何て綺麗なんだろう。この世にはこんなに綺麗な物があるんだ。

途中休憩になった後も、睦月は花火が上がっていた方を見たままぼうっとしていた。

艦娘達の喧騒の中、工廠長は睦月に語りかけた。

「あの花火の光も火薬で出来ておる」

「砲弾とかを撃つ、あの火薬ですか?」

「色付けの為に混ぜ物がされておる。だから花火用の火薬は砲撃には使えんよ」

「そうですか・・・」

「ペンギンはともかく、開発に成功した物は必ず需要がある。」

「・・・。」

「しかし、その時必要かどうかによって評価は大きく異なる。」

「!」

「だから、その時がっかりされても落ち込まん事だ。いつか役に立つ事もあろうからの」

「いつか、役立つ・・」

「そうじゃ。今夜、皆を楽しませた花火の火薬のようにの」

「そっか・・・そうですね・・」

その時、妖精達が工廠長の服の裾を引っ張った。

工廠長が見ると、焼きそばと綿飴を沢山持ってきていた。

「お前達・・食べきれるのか?まぁ、2つ頂こう。ありがとうよ」

苦笑しながら2つずつ受け取り、1つを睦月に渡す。

「焼きそばと綿飴は花火見物に必要な物じゃからの、頂くとしよう」

睦月はにっこり笑って、

「はい!」

と言いながら、割箸を開いた。

 

 

8月31日朝 工廠

 

「あら?」

新学期に備えて工廠の装備在庫を確認しに来た足柄は、倉庫の前で腕組みをする工廠長を見つけた。

「どうかされたんですか?」

「おう足柄か。いや、なに、ご覧の有様でな」

足柄がひょいっと中を覗き、ぎょっとなった。

ソナー置き場がパンク寸前だ。三式も九三式も山積みである。

隣の爆雷置き場も凄い事になっている。いつからこんなに三式や九四式がバーゲンセール状態になったんだ?

あ、あの店のサマーバーゲン今週末だ。いやそうじゃない。

「えと、こんなにソナーとか爆雷ありましたっけ?」

「少なくとも夏休み前には無かったのぅ」

「増える物でしたっけ?」

「違う。睦月がコツを覚えてバシバシ当てるようになったんじゃ」

「結構大変なレシピじゃなかったでしたっけ?」

「普通は低確率の物じゃよ。だが睦月はティンと来たらしい。」

「でも、これじゃ全艦娘に持たせても余りますよ・・」

「ちなみにここまでじゃないが、輸送用ドラム缶も15.5cm副砲も山積みじゃ」

「ドラム缶も副砲もレア物じゃないですか・・・」

「以下同文、じゃよ。提督からは好きなだけ作らせてやれと言われとるが、置き場所がの」

「ちょっと、これは相談した方が・・」

「やはり、そうかの」

 

「うわ!ソナーも爆雷も凄い数だな!良くやった睦月!偉い!」

「えへへ~!睦月頑張りました!」

「これで潜水艦は全く怖くないな!」

「ドラム缶も副砲も一杯出しました!」

「おお!遠征がより効率的になって助かる!副砲も需要はあるぞ!やるじゃないか睦月!」

「えへへへへ~」

ぐわしぐわしと睦月の頭を撫でまわす提督の肩を、足柄がつんつんと突いた。

「提督提督、倉庫が溢れそうなんです。煽ってどうするんですか」

「これだけ作れるのはこの鎮守府で睦月しか居ないし、重要な装備を沢山作ってくれたんだから褒めるのは当然!」

「で、ですが・・」

提督はひとしきり睦月をナデナデすると、しゃがみこんで睦月と目線を合わせた。

「睦月、1日に何回くらいなら、開発を楽にこなせる?」

「ええと、10回くらいは大丈夫。それ以上すると失敗が多くなってくるの」

「失敗するとペンギンが出てくるのかな?」

「ペンギンもあるし、見た事が無い物も出てくるよ」

提督は工廠長を見た。工廠長は肩をすくめて

「恐らくは陸軍装備だと思うが、戦車や装甲車、ロケット砲以外にも未知の物が出て来とるよ」

ふむと、提督は顎を撫でながら考え、工廠長に言った。

「どこか、そういう物を置いておける場所はあるかな?会議室の前とか」

足柄が言った。

「木の桟橋は進水訓練用に使うので、あまり占有して欲しくは無いわよ」

工廠長は考えながら、

「むしろ第2~4クレーンは使っておらんから、その周りは空いとるよ」

「どれくらい置いておけるかな?」

「睦月がこの半月で開発した量を考えれば、1~2ケ月分くらいかの」

「なるほど。睦月」

「なぁに?」

「この装備で、余った分を他の鎮守府の困ってる人達に分けても良いかな?」

「もちろんです!」

「そうか。睦月は良い子だな~」

「えへへへへ~」

提督は足柄に、

「悪いんだけど、文月を呼んできてくれないか?」

と言った。

 

「すごぉい!これ全部睦月ちゃんが作ったのですか~?」

「はい!頑張っちゃいました!」

「ソナーも爆雷も難しい品なのに、こんなに出せるなんて素晴らしいのです~」

「えへへ~照れちゃいます~」

事務棟で足柄から事情を聞いた文月は、一瞬考え、即座に不知火と敷波に声をかけた。

そして文月が睦月を褒めまくっている間、不知火達は鎮守府に必要な量を算出し、余剰分を割り出した。

「じゃあ、陸軍さんや他の鎮守府との取引はうちらに任せてもらいますよ!」

提督はびくっとなって、

「し、敷波さん?なんだか目がランランと輝いてますよ?」

「これは久しぶりの大商いです!腕が鳴りまくりです!大台行けるかな~!」

睦月がおずおずと尋ねた。

「御役に、立てたのかなあ?」

「もちろんです!睦月ちゃんにも分配しますよ!」

「分配?」

「売却して、開発にかかった資材を買う分を差し引いた残りが利益になります」

「う、うん」

「利益の一部は協力してくれた人に差し上げてるんです!」

提督が文月を見た。

「え、売ってるの?あげてるんじゃなかったっけ?そんな制度初めて聞いたんだけど・・・」

文月はきょとんとした顔で返した。

「前からありますよ?」

「あ、あれ、そうか。うん?」

「赤城さん、隼鷹さん、千歳さん、高雄さん、榛名さんが常連さんで、たまに那智さんや夕張さんも協力してくれます」

「あ、あいつら・・それで食費や酒代、機器代を捻出してたのか・・妙に羽振りが良いと思ったら・・」

「皆さんレートの高い品を一所懸命開発してくれるので新装備もすぐ揃いますし、鎮守府の予算も潤いました」

「良い事づくめの気もするが、なんか忘れてる気が・・・する・・・」

「陸軍の皆さんにもとても好評なんですよ」

「おおそうか、移転の時に世話になったんだっけ。」

「ただ、今までは駆逐艦の所が誰も居なくて困ってたのですが、睦月ちゃんが協力してくれれば大助かりです!」

睦月が目を輝かせた。

「ほんと?私、力になれるの?役に立てるの?」

「ふーむ。まぁ睦月も喜んでるし、誰も困らないし、良いか」

「睦月ちゃん、よろしくお願いしますね!」

「えへへへ、頑張ります~」

「無理はするなよ睦月。体を壊しては元も子もないからな」

「はい!」

遠目でその光景を見た後、不知火は桟橋から工廠を囲む山肌を振り返った。

山肌の上の方に、通信棟にあるような大きなアンテナが不自然に突き出していた。

提督が引っかかった事は恐らく、装備売買禁止という規定を思い出されたのでしょう。

でも、ご安心ください。

この鎮守府に会議室という名の電子取引所を作った時、憲兵隊、大本営、陸軍を招いて実務者級会談を行いました。

そして、陸海軍相互協力協定の一環として、装備売買を公式制度化したのです。

元々禁止と言いながら大本営自体が改造品を売ってましたし、我々は伊19の協力でその取引現場を撮影しました。

証拠写真と合わせ、大本営と憲兵隊に利益の上納を提示したところ、協定締結は大変スムーズに進みました。

手続きにはいつも通り時間がかかりましたが、昨年9月に公布され、今年4月から施行済みです。

売買レートは我々事務方がシステムメンテナンスと称して自由に「調整」出来ますから、黒字しかありえません。

やるなら胴元。規則は決める側。合法化してから公に。

さすが文月事務次官。龍田教授の一番弟子だけあります。

私も龍田会の会員として精進せねばなりません。

 




龍田会。
全容は出しません。出せません。
勿論、私は作者ですから全容を知ってます。
でもねえ、補給隊なんて可愛いものですよホント。え?例えばどんな事かって?
そりゃ秘密ですよ。命が惜しいですもの。
え?ちょっとだけ?バレない?
しょうがないなあ。誰にもナイsy

「さて、新しい作者さんはどこかしら~」

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