艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file48:広報ノ提案

 

9月29日夕刻 第5151鎮守府港

 

「広報班の方ですね、お話は伺ってます。さぁどうぞどうぞ」

鎮守府の岸壁で待っていた吹雪は、青葉と衣笠の姿を見つけると一礼して迎えた。

司令官が大本営に教育クエストの説明を聞きたいと希望した所、広報班が説明に行くとの連絡があった。

ピンクの髪の艦娘だから遠くからでもすぐ解りますという説明には驚いたが、確かにその通りだ。

 

「やぁやぁ、ようこそ!いらっしゃい!」

「本日はお時間を割いて頂き恐縮です」

「いやいや、こんな遠い所へ大変だったね・・って、そうか、海か!」

「はい!まっすぐ来られますので大丈夫です!」

「まぁお茶でも飲んでくれ!おっ、吹雪、気が利くなっ!」

「冷茶嬉しいです!ありがとうございます!」

青葉は素早く室内を見渡した。

この鎮守府は情報によると、1度放棄された状態になり、新しい司令官と秘書艦から再出発したそうだ。

だから建物は古いが艦娘の数は少なく、司令官もまだ若い感じがする。

司令官が視線に気づいて口を開いた。

「いやぁ、まだ着任して間もないから艦娘も少くて万事右往左往してる有様だ。すまん!」

「随分早い段階から教育に興味がおありなんですね」

「今は正面の海をウロウロしたり、建造で四苦八苦してるが、早く艦娘達を安心させてやりたくてな!」

「安心、ですか?」

「やり方が解らないというのは不安じゃないか。戦い方、開発の仕方、何事にも手順がある!」

「はい」

「Lvが必要な物はおいおい頑張るにしても、手順を知らないのと知ってるのじゃ大違いだ!」

「なるほど」

「大本営に熟練艦娘の派遣は無いのかって聞いたが、無いと聞いてガッカリしてたんだよ」

衣笠は顎に手をやった。我々が元の鎮守府に居た時は熟練妖精の派遣はしていたが、艦娘はした事が無い。

「ただ、代わりに教育制度がクエストにあると聞いたんで、そりゃぜひお願いしたいと、こういう事だ!」

「なるほど。ではまず、説明の動画をご覧頂けますか?」

「おうよ!吹雪吹雪、おいで!」

「は、はい。失礼します」

 

説明を見終わった吹雪は目を輝かせていた。

「いいなぁいいなぁ、こういう教育受けてみたいです~」

「だろ?だろ?費用面も随分お手頃じゃないか」

「でも・・・」

「どうした?」

「教育を受ける間、相当長期間、鎮守府を留守にする事になりますよね」

「そりゃ最長半年だからなぁ」

「今の所、私と那珂さんの2人しか居ないですから、一人ずつになってしまいます」

「んー、でもどうせなら一緒に行きたいだろ?」

「それはそうですけど、その間誰も居なくなっちゃいますから、司令官の警護が」

「人間なら10人や20人どうってことはねぇんだがなあ・・・」

考え込んでしまう二人に、衣笠が話しかけた。

「例えば、教育の間、代わりに熟練艦娘を派遣する制度があれば利用したいですか?」

「教育の間っていうか、むしろずっと居て欲しいけどな!」

「はい。少しでも経験のある艦娘さんなら何かと助けて頂けそうですし」

「始めは集合教育で教育を受けて、その後ここで先輩艦娘さんと研鑽というのがベストだな!」

青葉達は顔を見合わせた。それは、異動希望者の理想ではないだろうか?

「えっと、今日は教育のご説明だけですが、教育明けの艦娘をこちらに異動する事も出来るかもしれません」

「本当かい?!」

「具体的なプランになってるわけではないのですが、ご要望があるなら持ち帰って検討します」

「そりゃ助かるよ!教育をしっかり受けてるなら即戦力だ!大歓迎だよ!」

「色々教えて欲しいです!」

「では、日を改めて検討した結果をお持ちします。ちょっと時間かかるかもしれませんが、必ずお答えします」

「待ってる。よろしく頼む!!」

 

 

9月30日朝 鎮守府提督室

 

「なるほど、教育の最中と、後か」

「始めたばかりの司令官や秘書艦では用意されてる機能すら知らない事が多いと思います」

「開発のやり方とかも、教えられた直後なら覚えてるでしょうが、やはり経験者が傍にいると違いますからね」

「睦月と工廠長みたいなものか」

「あれはちょっと特殊です」

 

へぷしっ!

睦月はくしゃみをした。

風邪かなあ。今日は少なめだけど、三式ソナー5台位で切り上げようっと。

ええと、材料は入れたから、ここに立って、左肩をちょっとあげて、首を傾げて、片足で立って・・・ぽちっと!

キュイーン!

あれぇ、九三式だ。傾げ方が足りなかったのかな。

まぁ良いです、次、張り切ってまいりましょー!

 

「それなら最初は1年とかで帰る派遣契約で、艦娘の希望で異動を選べるようにしたらどうかな?」

「そうですね。それならここに籍を置きながら転々と教えて回るって働き方も取れますし」

「万一酷い扱いをする鎮守府だったら契約を打ち切って脱出する事も出来るだろう」

「そうですね。虐待の実例もありますしね・・・」

「ブラ鎮は以前よりは減ったとは聞いてるけど、情報が少ない中で送り出すのは心配だからな」

「ブラチン?」

「全部カタカナで言うと別の意味になるから止めなさい」

「あー、たんたんたぬきの」

「年頃の娘がそれ以上喋るイケナイ。ブラックな運用をする鎮守府って事だ」

「解ってますよぅ冗談ですよぅ」

「お父さんをからかわないの」

「最近、よく鼻の下が伸びるお父さん、ね」

「何の事かな衣笠さん」

「この前のタ級さんが変化した時の提督、鼻の下伸びすぎでちょっと引きました。」

「どうしてその映像を持ってるのかな?」

「夕張ちゃんから仕入れましたので」

「提督のプライバシーって・・・」

「諦めてください!エンタメ欄の為に!」

「青葉しか得をしないじゃないか!」

「そんな事ないですよ、夕張ちゃんも結構稼いでますよ?」

「被害者全部私じゃないか!」

「隙が多いからですよ。もっとドキドキする危ないネタも作ってください!」

「そんな事したら命に関わりそうだよ。どれだけ情報源があるのさ?」

「そんな事をペラペラ喋ったら記者失格です。でも、簡単に24時間監視も可能ですよ?」

提督は思った。島の面積に対してパパラッチ密度が高すぎる。

そうでなくてもいきなりコブラツイストされるし、何でだろうと長門に相談したらジロリと一瞥され、

「自分で考えろっ・・・バカ」

って言われたし。

「それは置いといて、教育後の艦娘派遣・異動オプションは具体化したいね」

「手続き上は課題があるのでしょうか?」

「じゃ、ちょっと文月さん呼んできますね!」

「頼むよ」

 

「保護して、教育を受けた後の艦娘さんの異動、ですか?」

「そうなんだよ。艦娘の異動自体、制度化されてるのかな?」

「ありますよ。司令官が辞職される時とかに使います。通常はLV1に戻してから異動します」

「そうだろうな」

「あと、大本営からは保護艦娘の場合だけ、LVそのままで異動して良いという許可が出てます」

「それは良かった。でも、何故だ?」

「LV1にすると、艦娘になった後の記憶も消えてしまうんです」

「ほう・・・」

「で、ずっと後になって、裁判で証人として出廷してほしい時にそれじゃ困るからと」

「なるほど。ただ、あまりに辛い記憶を消せるならLV1になるのも良いかもしれないね」

「この件とは別に、教育を受けるか、記憶をクリアするか聞いても良いかもしれませんね」

「そうだね、来た直後だと自棄になってるかもしれないから、時間が経ってからかね」

「幸い、今の所は立ち直れない程に傷ついてる子は居ないですけど」

「いずれは遭遇するかもな。妙高達に伝えておこう」

「はい」

「で、今回の場合、手続きは決まってるのですが、大本営とやり取りがあるので一週間はかかります」

「まぁそんなものだろう」

「あとは、どなたを派遣するかという事です」

「それは教育班に聞いた方が良いだろうが、今日はちょっと今忙しそうなんだよな」

「いつ頃なら良さそうですか?」

「明日の月次報告の時で良いかな。依頼元の鎮守府は待ってくれそうかい?」

「1日2日なら大丈夫だと思います」

「よし、じゃあ引き続き進めていこう!提案ありがとう、衣笠、青葉!」

「はいっ!」

「文月、すまないがそういう指示が飛ぶ可能性がある。だから」

「準備しておきますね」

「よろしく頼むよ」

 

 


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