ハイスクールD×D 天馬の神器を持つ者   作:gbliht

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第二十三話 お礼

ササンのレーティングゲームが終わった後、私は急いでお兄様の下へと向かった。

 

ありえない。あの光景はありえない。今までササンの戦っている所を見たことはないが、アレは絶対にありえないと言い切れる。

 

私を含めた眷属は多少なりともはぐれ悪魔と戦ったりして戦いの経験を積んでいる。しかし、ササンはその経験を積んでいない……はず。

 

基本的にササンではなく私の方へ大王から依頼が来るから、ササンがはぐれ悪魔と戦うことはない。ならば、誰かに鍛えられた……天に鍛えられた? それでも、あの強さは……考えても仕方がない。

 

お兄様のいるドアの前に立ちノックする。

 

「入りさない」

 

「失礼します……!?」

 

ドアを開けて中に入ると、そこには優雅に紅茶を飲んでいるササンがいた。

 

「あら、どうしたのリアス。そんなに慌てて」

 

「ササン、どうして貴方がここに……」

 

「リアス、その前に勝者へ贈る言葉があるだろう?」

 

お兄様が柔和な笑みを浮かべながら言ってくる。

 

ササンが居ることに驚いていたせいで、忘れていた。そうだ。ササンはさっきまで戦っていて、勝ったんだ。私が倒さなければいけない男、ライザーに。

 

「ん。おめでとう、ササン」

 

「ありがとう、リアス。それで、私がここにいる理由だけども、貴方がここに来ると予想してたからよ」

 

「じゃあ、私がここに来た理由もわかるかしら?」

 

少し試すような物言いをする。

 

何でもかんでも私の事はお見通しで、幼い頃から私を見透かしているようなササンに、ちょっとムカっとしてしまった。なんだか、負けたような気がするのよね。

 

ササンはゆっくりと紅茶を飲むと、笑みを浮かべた。

 

「ええ、分かるわよ。貴方は、私が何故アレだけの力を持っているのか、気になったのでしょう?」

 

「ッ!? 何故、分かったの?」

 

「さて、何故分かったのでしょうね?」

 

私の言葉はサラリと流し、ササンは再び紅茶を飲む。

 

「リアス、ササンの件に関しては、私から説明させてもらうよ」

 

「お兄様?」

 

ササンが話すのかと思い待っていたら、急にお兄様が話に入ってこられた。

 

「ササンはね。実は一年間、ある者とある事によって驚異的なスピードでここまで成長したんだ」

 

「ある者とある事?」

 

者については心当たりがある。五月雨天馬。一年前かどうか分からないが、確実に彼は関与しているはず。しかし、事の方については一切分からない。

 

ゆっくりとお兄様は頷くと、ササンを見た。

 

「そう。者の方はリアスとも親しいあの天だよ。そして、事の方なんだが……話してもよいかね?」

 

「構わないわ」

 

「そうか。……ササンは一年間の間に、リアスに内緒で上級のはぐれ悪魔を捕獲し、更に数々の上位使い魔と戦い続けたんだ」

 

「なっ……」

 

思わず言葉を失ってしまったのも仕方ないと思う。上級のはぐれ悪魔と上位使い魔と戦い続けたと聞けば誰でも言葉を失うと思うから。

 

上級のはぐれ悪魔は、私達主より強い事になる。主を殺してはぐれとなるのだから、上級のはぐれ悪魔は私達でも手に負えない位強くなければならない。なのに、ササンは私達よりも強いはずの上級のはぐれ悪魔を捕獲したとの事。これは、並大抵の力では無理。

 

そして、上位の使い魔との戦い。上位であればヒュドラ等の主自身を殺せる力を持った使い魔達だ。これとも戦い続けたのだから、アレだけ力があっても不思議ではないわ。

 

お兄様から視線を外し、ササンを見る。そこには、未だに紅茶を飲んでいるササンがいる。

 

「……最初はね、死ぬような思いをしたわ。でも、その死ぬような思いをしたおかげで、私――――――いえ、私達は強くなったわ」

 

淡々とササンは言うと、紅茶のカップを置いて立ち上がり、私の方を向いた。

 

「だから、頑張りなさい。例えライザーに負けたとしても得るものはある。それは何かは私には分からないけど、貴方達にとってきっと重要なものよ。だから、頑張りなさい、リアス」

 

ぽんっと肩に手を置いたササンは、お兄様に一礼すると、ドアまで歩いていく。

 

ライザーに負ける? そうね、負けるかもしれないわ。あれだけの戦いを見せられたもの。負けるかもしれないと思うわ。でもね、私は負けない。例え負けても、心では負けないわ。

 

「それでは、失礼しますね」

 

 

 

レーティングゲームが終わり、私はレーティングゲームでリタイアした者達が来る救護室に来てシャワーを浴びていた。

 

「久方ぶりに歯ごたえのある戦いを味わえると思ったのだが、想像以上にあっさりと終わってえしまったな」

 

『そうでございますね。そもそも、貴方とまともに戦える者はそうそういないと思うのですが?』

 

一人しかいないシャワー室で呟くと、クリストフが答えてくれる。

 

確かに、私とまともに戦えるのは神や仏、アイツ等や魔王四人に各陣営のトップに君臨する者達くらいか。他にも、銀華は戦ったらかなり苦戦するだろうが、娘と闘おうとは思わん。

 

「そうだが、相手はフェニックスだったんだ。少し期待してもいいだろう」

 

『そうでございますね。しかし、フェニックスも落ちましたな。私が現役だった頃はあの程度で倒されはしなかったのですが……』

 

「時代のせいだろう。こんな戦の無い時代だ。力が衰えていたとしても仕方がない」

 

シャワー室から出て、タオルで体を拭いていく。

 

ふと、設置されている鏡を見てみると、これまでに負った傷が見える。

 

体のいたる所にある銃痕。肩から腹まで斜めに切られた切傷。体中にある火傷の痕。幾百もの戦場を巡って出来た傷たちだ。

 

「消えぬものだな」

 

『私の力を使えば完全に傷痕を消せますが、如何なさいますか?』

 

「……いや、このままでいい」

 

これは、私が今まで巡ってきた戦場の歴史だ。その歴史を消すとなれば、これまでの私の人生は無駄になってしまう。

 

『そうでございますか』

 

肩にタオルを掛けてズボンを履き、着脱室にある自販機に向かう。

 

ここの自販機。参加者に対しての配慮なのか、全て無料だ。しかし、どれも聞いた事ないメーカーの飲み物。

 

「相変わらず、変わっている」

 

適当にボタンを押し、備え付けの長椅子に座り、買った飲み物を一口。

 

……不味い。二度と口にはしたくないくらい不味い。だが、さっきの戦闘で無くなった体力が回復している気がする。

 

「良薬口に苦しか……」

 

不味さに耐えて一気に飲み干し、ゴミ箱に投げ捨てる。真っ直ぐ飛び、ゴミ箱に入るかと思ったが、そのまま真っ直ぐに進み壁に突き刺さってしまう。

 

戦いの後のせいか、力加減が戻っていないな。クリストフ、調整しといてくれ。

 

『了解しました』

 

さて、シャワーも浴びた事だしそろそろここを出るか。……いや、その前に一つやることがあったか。

 

ある予定を思いだし、着替えようとした途端、ドアがノックされる。

 

「入って構わないぞ」

 

「失礼しますわ……て、あらあら」

 

「て、天馬さん、その傷」

 

「……酷い傷」

 

「どうしたのですか、その傷」

 

入ってきたのはイッセーとリアスを除いたリアスの眷属達。皆、私の傷を見ると、目を丸くして驚いている。アーシアにいたっては口元を両手で押さえて失神しそうになっている。

 

子供達にとって、いささか刺激が強すぎたか。

 

「何でもない、昔の傷だ。それで、どうした」

 

シャツを着てからスーツの上を羽織り皆の方に体を向ける。すると、私が体を向けると同時に、皆が一列綺麗に横に並んで頭を下げてきた。

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

「急にどうした」

 

アーシアはともかく、他の三人から礼を言われる覚えはないのだが?

 

昔行った教会で、私は一度アーシアと出会っている。まだ幼く、七か六歳程の頃だろうか? 自身の力の正体を知らずに、神に仕えていたアーシアに私は会っている。

 

その時、アーシアの可愛さのせいかアーシアを穢そうとしたのだ。しかも、教会の内部で。

 

丁度私がその場を見ていたから穢されることはなかったが、いなかったらどうなっていたことか。その後、アーシアを穢そうとした奴は教会を追放させられ、アーシアは貞操を守りきれた。

 

朱乃がいつもの微笑んでる表情を一変させると、真面目な表情になる。

 

「私達は皆、天馬さんに助けてもらった者達なのです」

 

「助けてもらった? 私が助けたのか?」

 

「はい。天馬さんは昔、日本の神社を救った記憶はございませんか?」

 

神社……確か、十数年前に神社を襲おうとしていた人間を殺して、母と娘を助けた記憶はあるな。という事は、この子はバラキエルの娘だったのか。

 

「まさか、その時の子か?」

 

「そうですわ。あの時、天馬様が助けてくださらなければ、私達は今この時を生きていられませんでしたわ。今は母と父と仲良く暮らしています」

 

「そうか、それは良かった。……バラキエルは元気か?」

 

「っ!? 父の事をご存知なのですか?」

 

「ああ、旧知の仲だ。聞いたぞ。『ウチの娘がヤケになって悪魔に転生してしまった!! どうしよう!!』って。酒を飲んでる時は惚気話を聞かされ続けたし。娘がおもら……」

 

「て、天馬さん! そ、それ以上は言ってはいけませんわ!」

 

「……しをして悩んでいると相談を受けたりもした」

 

「天馬さん!」

 

本当に、あの時は大変だった。

 

ササンの眷属になる前、私はちょくちょく堕天使の幹部と親睦を深めていた。親睦を深めると言っても、ほんの数名だ。

 

その数名の中にいたのが、バラキエル。筋肉隆々で武人そのものだが、どうしてか酒を飲むと娘の話ばかり聞かせてくるんだ。

 

しかも、私が神社を助けた者だと知った時は感謝された上で、夫婦の惚気話と娘の話を永遠と聞かされ続けた。

 

「小猫、君はどうして私に礼を言う?」

 

「……私は、天さんに命を救われました」

 

小猫がそう言うと同時に、頭の上に白い猫耳が生える。この猫耳、どこかで見た気が……ああ、思い出した。この猫耳は――――――

 

「小猫、君はあの時の子猫だな?」

 

「……はい」

 

これまた十数年前。朱乃がいた神社を救った後の話なのだが、雨が降る中、私は二匹の猫を拾った。

 

一匹は全身黒の子猫。そして、もう一匹は全身真っ白の子猫。後に二匹はサーゼクスに預け、二人はサーゼクスから悪魔にひき取られる事になる。

 

聞いた話によると、その後黒猫の方が主である悪魔を殺し、はぐれ悪魔になった。理由は不明との事だが……私はもう既に姉から聞いている。主殺しの理由を。

 

そして、残された小猫は他の悪魔から殺せと言われたが、サーゼクスは周りの反対を押し切って小猫を引き取ったらしい。

 

何度もサーゼクスは私に頭を下げたよ。すまない、と。私のせいで小猫が一人になってしまった、と。だが、サーゼクス一人のせいではない。助けた私が無責任だったせいでもあるんだ。あそこで私が姉妹共に養っていたら、こんな風にはならなかったかもしれない。

 

「……姉さまは、今、この場にはいません……理由は……」

 

徐々に小猫の声は細く弱々しいものになっていく。悲しいのだろう。辛いのだろう。たった一人の家族に裏切られ、一人ぼっちになってしまったのだから。

 

だが、今は違う。グレモリー家という家族がいる。裏切られ、一人ぼっちになったせいで塞がれてしまった小猫の心を開いた、グレモリー家が。

 

「知っている。黒歌から直接聞いた」

 

「ッ! 姉さまは! 姉さまは今どこにいるのですか! 教えてください!」

 

驚愕に目を見開いた小猫は私の服を掴むと、見上げながら激しく問うてくる。

 

普段をあまり知らない私だが、このような小猫を見るのは初めてだ。朱乃もアーシアも木場も同じ気持ちなのか、僅かに驚いている。

 

「駄目だ。今は黒歌にもやる事がある故、話せん」

 

「何故話せないのですか! 私達の主を殺して! 私を放ってどこかに行ってしまった姉さまにどんなやる事があるというのですか! 私よりも……たいせつ、だと、いうん、です、か……」

 

徐々に大きな瞳に涙を浮かべる小猫。何故黒歌が主を殺したのか、話してやりたいのは山々だが、私から話す事は出来ない。

 

黒歌が自分の主を殺した理由。それは、小猫が関係している。黒歌と小猫の種族は猫又。しかも、仙術という希有な能力持ちだった。その力に目をつけた黒歌の主は、小猫を戦わせないのを条件に黒歌を働かせ、戦わせ続けた。

 

小猫を守るため、黒歌は戦い続けていった……が、黒歌が戦いを終えて帰ると、小猫が主に襲われていたらしい。いわば、アーシアと同じ状況だ。

 

黒歌は止めたが、主はそれでもやめない。そして、黒歌は……主を殺し、はぐれ悪魔の汚名を被った。

 

小猫を守るために自ら悪の道に落ちたのだ。そして、小猫をこっちの道に引き込みたくないがために、小猫の目の前から姿を消した。

 

この事を私から小猫に話しても良いのだが、それで小猫が納得するかと言われれば、しないだろう。

 

居場所を教えることは別にいい気がするのだが、既に黒歌に止められている。

 

私の服にしがみついて鳴き始める小猫に、羽織っていた上着を羽織らせて視線を合わせる。

 

「小猫、話を聞け」

 

「て、ん、さん……」

 

「黒歌の事については私からは話せない。だがな、これだけは教えられる。黒歌は――――――小猫、お前の事を一番にいつも考えているぞ」

 

「え……」

 

「理由は話せないが、小猫を置いていったのは小猫のため。小猫に会わないのも小猫のためだ」

 

「そんな、姉さま……」

 

小猫は俯くと、絞り出すような声音で言う。

 

「どうして姉さまは私に会いに来てくれないのですか」

 

「それは、教えられない。黒歌にも事情があるのだ。分かってやってくれ。黒歌も辛いんだ」

 

納得できないだろう。だが、それでも今は納得してもらわねばならない。黒歌のためにも、小猫のためにも。

 

小猫はギュッと私にしがみつくと、小さな声で呟く。

 

「わかり……ました」

 

「ありがとう」

 

しがみついてくる小猫の頭を優しく撫でやる。

 

「木場、お前は何故私に礼を言うのだ?」

 

小猫の頭を撫でつつ木場の方に視線を向けると、木場は少し困ったような表情をしながら頬を掻く。

 

「小猫ちゃんの後にいうのはなんだか気が引けるけど……天馬さん、僕は聖剣計画の生き残りです」

 

聖剣計画の生き残り……だと? そうか。銀華意外にも生き残りがいたのか。

 

「それで……って、天馬さん!?」

 

驚きの表情で固まる木場。

 

私の目を見て固まっている。なんだ? 私の目に何か……成程、そういう事か。

 

どうやら、聖剣計画の生き残りが銀華以外にもいた事に感極まり、私は涙を流してしっまたらしい。涙を流したのは幾年ぶりだろうか。

 

「……天さん、泣いています」

 

「……そうだな。みっともないかもしれないが、今は泣かせてくれ」

 

「みっともなくないですわ、天馬さん」

 

良かった。銀華しか助けられなかったと思っていたが、もう一人生きていてくれてよかった。

 

「ああ、私は二人助けられていたのだな……」

 




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