「ぜぇ、ぜぇ、ま、まだ着かないのか」
俺は今、山へと来ている。ピクニックに来ているのかって? いやいや、ピクニックだったらどれだけいいか。
ライザー対ササン先輩戦が終わった次の日、俺達オカルト研究部はライザー打倒のため学校を休み、部長が人間界で所有する山へと修行に来ているんだ。
ああ、それにしても荷物が重い。いや、俺の分の荷物は少ないんだけど、アーシアの着替えとか鍋とか包丁とか入ってるから重い。まあ、アーシアに荷物は大した苦ではないんだけど、やっぱり鍋とかが重すぎる。
「もう少しよイッセー。頑張りなさい」
「頑張れ~イッセー君~」
「イ、イッセーさん! 頑張ってください」
俺より先に行った部長とササン先輩とアーシアが声を掛けてくれる。……ササン先輩、なんでいるんだろう? 学校でなくていいの?
「大丈夫、イッセー君?」
「ぜぇ、ぜぇ、お前、俺よりデカイ荷物持ってるのに、よく汗一つかかないな」
「慣れてるからね」
くそう! 木場の爽やかイケメンスマイルが眩しい!
「……お先しますね」
「んな……」
俺と木場が話している横を、小猫ちゃんがスタスタと歩いて行ってしまった。俺達より倍近い荷物を持った小猫ちゃんがだ。
おみそれしました、小猫様。
「はぁ、ようやく着いた」
あれから歩くこと十分ほど。俺達オカルト研究部は山奥にあるコテージへと辿り着いていた。
「それじゃあ、皆、各自部屋で着替えたらまた外に集合ね」
休む暇も無く修行か。少し休憩した所だけど……いやいや! ライザーに勝つためだ! 泣き言は言ってられない!
木場と移動して二階の部屋へと移動し、すぐさまジャージに着替えようとする。
だが、着替えを初めて上半身裸になった所でどこからか変な視線を感じた。どこから……。
「……」
「……」
一体何時から居たのだろうか。窓の外を見てみると、そこにはニコニコ顔で俺達の着替えを逆さ吊りで覗いているナリヤが――――――
「やっほーイッセー君!」
「お、おう……って! なに覗いてんだナリヤ!」
思わず大声を出しながら窓を開けてしまった。内開きだから良かったけど、これもし外開きだったら確実にぶち当たってたぞ!
逆さ吊りのナリヤは両手を組んで水色の長髪をゆらゆらと揺らしながら目を瞑る。
「んー強いて言うなら、目の保養?」
「いや、疑問形で聞かれても知らねえよ! ってか目の保養って何!?」
腕組みしていたナリヤは頭を掻きながらニコニコと笑い始める。
「ほら、アレだよ。イッセー君が女子の更衣室を覗くような感じだよ」
なんだよそれ! と言いたかったけど、何となくわかってしまった! くそ! 分かってしまう自分が憎い!
「ああ、それにしても木場君いい体してるね! いい目の保養だよ!」
「ありがとう、ナリヤさん。でも、その、これから下の方も着替えるから覗かないでくれると嬉しいな」
「え~いいじゃない! 見せてよ!」
この娘何言っちゃってんの! 見せるわけないじゃない! この変態! ……って、俺が言える事じゃねえ!
「全く、何やってんすか」
どうやっても覗こうとしてくるナリヤに苦労していると、どこからか声が聞こえてくる。それと同時に、ナリヤの後頭部に魔力の塊がぶち当たる!?
「ギャブッ!」
「え! ちょ!」
え、ええ! 大丈夫なの!? 気絶して真っ逆さまに落ちていったよ! ここ二階だから、結構な高さがあるよ!
急いで窓から下を覗きナリヤの安否を確認する。
「よっと。あはは、ごめんっす、イッセー君。ナリヤは私が何とかしとくんで、ゆっくり着替えてくださいっす」
窓の下を覗くと、そこには気絶したナリヤを抱えたメルトの姿が。
メ、メルトまでいる。なんで二人がいるんだ!? 学校行かなくていいの?
「イッセー! 早く着替えて降りてきなさーい!」
部長の声! まずい、俺全然着替えてない! あ、木場の奴! もう着替えてやがる!
色々と疑問は残ったが、取り敢えずナリヤとメルトは気にせず、窓を閉めて急いでジャージへと着替えた。
「じゃあ、皆。始めましょうか」
「「「「はい」」」」
コテージの前へと集まった俺達に部長は言う。
「今回の修行には、上の意向からササンの眷属から三人まで修行の協力を貰うことを許可されたわ。ササン、今日から九日間よろしくね」
「ええ、いいわよ。ただ、私達が手伝うのは、あくまで貴方達からの進言があって伸ばしたい所を言ってくれた場合のみよ。こちらは言われない限り手伝わないから。そこの所よろしくね」
自分からお願いしないといけないのか……俺に足りない物。俺が伸ばさなければならい所。よし! この修行で格上の存在であるササン先輩達に俺の伸ばさなければならない所……って言っても、体力から筋力まで全部なんだけど。徹底的に育ててもらおう!
「よろしくっす!」
「よろしくねー!」
メルト、ナリヤがそれぞれ挨拶してくる。
「それじゃあ、まずは各自イッセーを一時間交代で鍛えるわよ。順番は祐斗、小猫、朱乃、私。そして、ササンかナリヤ、もしくはメルトの誰か。この順番でいくわよ!」
最初は木場が相手か……よし! 気合入れて頑張るか!
「驚いたわよ、リアス。まさか、私達の力を借りるなんて」
リアスの眷属がそれぞれのトレーニングに向かったのを確認した私は、リアスを横目で見ながら声を掛ける。
リアスの事だから、てっきり私に頼らず自分達で何とかすると思っていた。
私の言葉にリアスは腕組みし目を瞑ると、多少むくれながら言ってくる。
「……しょうがないじゃない。本当は貴方の力を借りるつもりは無かったけど、私一人じゃあこの短期間で育てるのにも限界があるのよ」
「ふ~ん……ま、私は頑張れって言っただけで、修行を手伝わないとは言ってないからね。お願いされたなら、ちゃんと修行をつけてあげるわよ」
「なんだか上から目線でムカつく!」
おおカワイイ。上目遣いの涙目、更に頬膨らませを同時に繰り出してきた。こんな表情をイッセー君に見せればイチコロだろうに。
「実際上だからね。……ただ、私は慢心はしてないわよ。やるならば徹底的に。それが、五月雨天馬の修行方針よ」
本当、あの修行の時は殺されかけた。徹底的にぼこぼこされた。……ああ、ヤバ。寒気が。
「サ、ササン。大丈夫? 震えてるわよ?」
「気にしないで頂戴。過去のトラウマを思い出しただけよ」
「トラウマ……天の修行?」
「ええ。詳細は聞かない方がいいわよ。貴方泣くわよ」
「そ、そこまで……」
もうね。私とメルトは号泣したわよ。ナリヤは笑っていたけど、あんなの泣くしかないわよ。
ああ、巨大な化物が! 龍が! ドラゴンが私を襲ってくる! 逃げれば天にぶん殴られる!
「本当に大丈夫?」
「……ええ、大丈夫よ。だから、行ってくるわ」
フラフラと歩いて小猫ちゃんの下へと向かう。最初に呼ばれたのが小猫ちゃんだからね。どうやら、自分の力を更に高めたいとの事。
「死なない程度に手加減出来るかしら……」
「おりゃあ!」
俺は木場との修行に入っていた。木場が教えてくれるのは剣術。剣術なんてものは全然知らないから、取り敢えず力いっぱい木刀を振り回して木場に当てようとするが、全然当たらない!
「ダメだよイッセー君。そんな大振りじゃあ当たらないよ」
「うおっ!」
木場に真っ直ぐと木刀振り下ろすが、木場は僅かに体を横にズラすだけで躱し、勢い余った俺に足を引っ掛けて転ばしてくる。
「真っ直ぐに突っ込んでくるのもいいけど、相手だけじゃなく、もう少し視野を広げて剣や相手の周囲を見ないと」
足を引っ掛けられてゴロゴロと転がった俺は、仰向けになりながら木場の言葉を聞く。
簡単に言ってくれるが、周りを注意しながら戦うなんてすぐに出来るもんじゃない。どれだけ意識しても、相手だけを見てしまう。
その点、木場は凄い。俺の動きをしっかりと見ながら最小限の動きで木刀を躱していく。……圧倒的だ。俺と木場の間には圧倒的な差がある。
「さて、まだ続ける……っと、時間だね」
ジリジリと時計が鳴り響く。これは、部長が渡してくれた時計だ。一時間キッカリでなるように調整されている。
「いっててて」
「手を貸すよ」
「サンキュ」
腰を摩りつつ、木場の手を借りながら立ち上がる。
確か、次は小猫ちゃんだったよな。小猫ちゃんからは打撃の訓練を受ける手はずになっている。
「次は小猫ちゃんだったね?」
「ああ、一時間後ここに来てくれるはずなんだけど……」
それぞれのトレーニングに向かう時、小猫ちゃんにそう言われたんだが、一向に小猫ちゃんが来ない。
「来ないね」
「時間忘れているのかな……」
木刀を肩に乗せて木場と顔を合わせる。
おい、木場。なんで俺と目が合った瞬間に微笑む。なんだ、その熱い視線は。寒気がしてきた……。
「おっまたせー!」
木場とたわいない話をする事五分後。一向に小猫ちゃんが来ないため、こちらから小猫ちゃんの下へと向かおうとしたら、ニコニコスマイルのナリヤが現れた。
「ナリヤ? なんでここに?」
「小猫ちゃんがねーササンとの修行でボロボロになっちゃって修行できなくなっちゃんだ」
ボロボロって……ササン先輩、あの小猫様に何したんですか……。
「だから、先に私と修行に入るよ、イッセー君!」
「そうなんだ。じゃあ、イッセー君。僕は行くね」
「おう! ありがとうな、木場!」
去っていく木場を見送ってからナリヤを見る。
俺よりちょっと低い身長。小柄な体躯。普通なら男より力が強くない少女であるナリヤ。だが、実質の力は俺の何倍も強いナリヤ。
「それじゃあ、イッセー君。何したい?」
「何したいって……」
技術も高めてたいし、筋力も高めてたい。何より、戦いに慣れておきたい。どうしよう、やりたいことが多すぎる。
「……取り敢えず、小猫ちゃんとやる予定だった打撃戦の訓練で」
「オッケー了解。ちなみにイッセー君って打撃戦の経験は?」
打撃戦の経験か……子供の頃の喧嘩と、この前レイナーレをぶん殴った時くらいか。他には悪友二人とのどつきあいくらい。
「この前堕天使を一発ぶん殴ったくらい。後は、悪友とどつきあったくらい」
「ふむふむ、成程ねー……じゃあ、まずは軽く来なよ。どれくらいか見てあげる」
「来なよって……」
「殴ってこいってこと。別に蹴りでもいいけど。イッセー君が思う打撃戦を私に放ってみて。勿論、私は避けたり、軽く反撃したりするから気をつけてね」
笑顔で言ってくるナリヤ。その笑顔が妙に怖く感じたのは、気のせいだろうか。
……しかし打撃か。俺が思うに、拳や蹴りなんかが打撃だと思う。
拳を握り、真っ直ぐとナリヤを見る。ナリヤは手を後ろで組んで、ニコニコと笑顔を浮かべたまま俺を見ている。
「ふっ!」
息を吐きだし、思いっきりナリヤに向かって飛び出し拳を振るう。自分で拳を打ち出して驚いたが、人間の時には出せなかったスピードが出てる!
拳は真っ直ぐとナリヤの顔面に向かって進んでいく。
「う~ん、ダメだねー。速さとかはまあまあだけど、重さが足りないよ」
するっと横に体をずらして躱したナリヤはそう言いながら、目を瞑る。
勢い余って木場に足を引っ掛けられた時みたいに転びそうになるが、なんとか踏ん張り、ナリヤに再び拳を打ち出す。
ナリヤの死角から打った拳。しかも、ナリヤは目を瞑っている。これなら当たるはずだ!
「それとまだバランスも悪いかな~」
「んな!?」
躱された。俺を見ないで、見えていない状態でナリヤはその場でクルリと回って躱した。
もう片方の手で再びナリヤに向かって殴りかかるが、ナリヤは目を瞑ったまま再び躱す。
「ほらほら。もっと、がむしゃらに打ってきていいよ」
ナリヤに言われると同時に、俺はありったけの力でナリヤに殴りかかる。
打っては避けられ、打っては避けられ。時に蹴りを放つがそれすらも避けられる。そんなこんなを数十回続けた所で、俺は膝を着いてしまった。
「ッア、はぁ、はぁ」
「う~ん、初心者にしては体力はまあまああるね。でも、レーティングゲームに出るんじゃあ、全然足らない。最低でも今の三倍の速度で動いて、息切れ起こさないくらいにしないと」
無茶言わないでくれ。今のでも精一杯だったってのに、これ以上早く動こうとしたら死んでしまう。
「まあ、いっか。そこら辺は今から鍛えてあげるから」
「へッ?」
地面に両手をつけて休んでいると、ナリヤが笑顔で近寄ってきた。
「イッセー君が伸ばさないといけないのは全部。体力から筋力に至るまで全部伸ばさないとね。う~ん……取り敢えず、私とスパーリング三十分ね。ダウンしたら、強制的に起こしてボコすから。ボコされたくないなら、逃げるか反撃してきなよ~!」
スパーリングって何ですか? ……いや、それよりももっと恐ろしいことがある! え!? 俺ダウンしてもボコされるの!? しかも、息絶え絶えの今の状況で!?
「三秒だけあげるよ。息を整えて、歯食いしばってね」
目が、ナリヤの目が本気だ! これは、マジで言った事を実行するつもりだ!?
急いで立ち上がり、ナリヤを見ながら距離を取る。息は整ってないけど、今はそれどころじゃない!
「い~ち、サン! ハイおしまい!」
「二は!?」
「さあ?」
ツッコンでいる間に、ナリヤが追いかけてきた! やばいやばい! 結構離れてたのに、一瞬で詰められた!
「安心してね。痛いのは一瞬だけだから!」
「絶対嘘!」
「ちなみに、私の神をも捕縛する砕けぬ鎖
「逆に安心できない! 気絶させてください!」
その日、俺は地獄を見た。小柄な少女が笑いながら俺を殴ってくるっていう地獄を。気絶も許されず、逃げることもできないっていう地獄を。
感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。