では、第三十話をどうぞ。
「銀華、今日の放課後部室に来てくれ」
ササンとナリヤ、それにメルトがリアスの修業に行ってしまってから二日後位。私は平穏凡々な生活をだらだらと過ごしていると、朝礼を終えた雨天さん、もとい、天さんが珍しく廊下で話しかけてきた。
話しかけられたといってますが、別に学校で一回も話しかけられないってわけではないですよ?
普段一緒に暮しているので話すことは家で話してしまいますから、学校で話す事はないんですよ。ちなみに、一緒に住んでいるのは私に澪、それに天さんです。
「分かりました。放課後ですね」
「ああ、それと……」
スッと音もなく私の横に移動してきた天さんは私に四つ折りに折った紙を手渡すと、そのまま歩いて行ってしまった。
「何でしょうか」
渡された紙を開き見てみると、そこには……
『戦闘になる可能性がある。準備万端でくるように』
とだけ書いてあった。
「戦闘……一体何をするのでしょうか?」
「どうしたの?」
「ああ、澪」
廊下で立ちながら渡された紙を読んでいると、私の肩越しから澪が話しかけてきた。どうやら、アーシアちゃんがいないため、暇なんでしょう。お友達がいないのかな?
「ふ~ん、何があるのかしらね。ねえ、銀華。これ、私も行っていいかしらね?」
「いいんじゃない? 別に天さんは私一人で来いとは言ってなかったですしね」
「じゃあ、放課後一緒に行きましょう。今日、アーシアちゃんがいないから暇なのよ」
「いいですよ」
さて、何があるんでしょうか。面白いことであればいいんですけど。
「使い魔ですか?」
「そうだ」
放課後、部室に来た私は天さんの言葉に首を傾げてしまった。
使い魔ってアレですよね? リアスが持っているコウモリのあの子とか小猫ちゃんが飼っている白猫みたいな、いわば相棒みたいな存在の子ですよね。
「でも、なんで今日なの? 使い魔なんていつでも大丈夫じゃない?」
「そうだな。使い魔はいつでも大丈夫だ」
「では、何故今日なのですか?」
「丁度いいからだ。ササンはいない、リアスもいない。やる事がないのだから、暇な今の内に使い魔を捕まえておいた方がいいだろう」
ふむ、それもそうですね。やる事ないですし。使い魔を捕まえれれば、なんか色々と楽しめそうですし。
「そうですね、お願いします、天さん」
「よし、では行くぞ」
天さんが円を描くように指を振ると、私達の足元にササンの家の魔法陣が展開され光に包まれる。
さてさて、どんな使い魔が仲間になるんでしょうか。楽しみです。
「ここだ」
光が止み、辺りを見渡してみればそこは森の中。人間界のどこかにでも飛んで来たのかと思ったが、空が紫色なので人間界ではない。冥界のどこかなんでしょう。
「天さん、どこら辺に使い魔がいるのでしょうか?」
何かいる気配は感じない。結構広範囲で気配を探ってみましたが、どこにも生物らしき気配を感じない。
天さんは何やら小声で呟くと、森の奥の方を睨んだ。
「……向こう側だ」
「向こう側ですか?」
天さんの睨んだ方向に気配を巡らしてみても何も感じない。向こう側には何もいないと思うんですけど。……まあ、天さんが言うのであれば、何かしらいるのでしょう。
ゆっくりと歩き出した天さんの後を追うように、私と澪は歩き出す。
「ねえ、銀華。あっちの方向、私の感覚では何もいないのだけれど」
歩いていると、隣で歩いていた澪が耳元で聞いてくる。
「私もですよ。一応念密に気配を巡らしてみましたが、何も感じませんでした」
私の持つ霊的な瞳
普通の人なら気を隠すなんて事は出来ません。仙術、或いは気を操る事に特筆しているのであれば別ですが。
つまり、言ってしまえば、天さんが指さした方向には気を操ることに長け、尚且つ物理的にも隠れる事が得意な種族がいると言う事です。
強敵ですよ。見ることが出来ないまま気を纏わせた何かで攻撃してくる。簡単に言えば、見えないまま相手を常に一撃必殺の威力で攻撃できるってことです。
「……っと」
澪と話しながら数分程歩いていると、先行して歩いていた天さんが横に腕を伸ばして止まるように指示する。
どうやら、この先に私の使い魔候補がいると言う事ですね。
ジッと止まって天さんの視線の方向を見る。視線の先は暗闇があるだけ。
「来るぞ、銀華前に」
天さん言葉に対して身構えながら前に出ると同時に、視線の先にある暗闇が徐々に集まっていく。
「あれは……」
暗闇が集まりきると、人の形へと変わった。見知った人の形。そう、私自身という見知った人物に。
私と同じ銀色の髪、服装、そして身長。どれもが同じ。ただ、瞳の色だけは違うけども。
「天さん、彼女の能力、種族を教えてください」
「アレは使い魔の中でも最高ランクの種族であるドッペルゲンガー。能力は相手となる人物の全てをコピーする能力。仲間にする条件としてアイツを打倒しなければならない。ついでに言うが、能力故にアイツを使い魔にしたのは片手の指程しかいない……この意味がわかるだろ」
成程。つまり、彼女を仲間にするには、私自信を打倒しなければならないわけですか。そうですかそうですか。全く……不可能だというのに。
「天さん、彼女なら、私にピッタリだという訳ですね」
「ああそうだ。アイツならば、相棒として申し分ないだろう」
「了解です。では、行ってきます」
彼女をボコそうと歩き出すと、急に腕を掴まれた。掴まれた腕を見た後、掴んでいる人物を見る。
「澪、どうしましたか?」
「貴方、天の言った意味が分かる? あの子は貴方自身を全てコピーしているのよ。勝てるわけがないじゃない」
そんな事、言われずとも承知ですよ。勝てるわけがない。
「そうですね、勝てるはずがない」
「分かっているのなら……」
澪の言葉が終わるのを待たずに、私は澪の掴んでいる腕を音もなく外す。流れるように腕を離された澪は驚いた表情を浮かべるが、私は気にせず彼女に向かって歩き出す。
「だから、勝てるはずがないのですよ。彼女が私にね」
ゆっくり歩き、彼女から数歩離れた場所に立つ。
「私は……誰?」
誰とはどういう意味でしょうか? 彼女はドッペルゲンガー……って、そう言う事ですか。
ドッペルゲンガー。文献ではドッペルゲンガーは己という者を持たない。どこにでもいて、どこにもいない。確定した存在ではないのだ。
だから、彼女は自分が誰なのか分からない。……ならば、彼女に確固たる己という者を与えてあげましょうか。
「その答えは私が教えてあげます。来なさい、ドッペルゲンガー。確固たる己を貴方に教えてあげる」
瞬間、世界が変わる。私は霊的な瞳
左の拳が顔面に向かって飛んでくる。そこいらの中級悪魔ならば即死級の拳を私は真正面から右手で受け止め、彼女の腹に向かって全力の前蹴りを叩きこむ。
彼女も私同様受け止めようと右手で私の足を受け止める。だが、私の蹴りの勢いは止まらず彼女を後ろにふっとばす。
「カハッ!?」
背後にあった木にぶつかり、口から血反吐を吐いた彼女を私は真っ直ぐ見つめる。
訳が分からないといった表情をしていますね。ま、それはそうでしょう。基本性能が同じ相手に圧倒されているのだから。
「ほら、私と同じ性能ならまだまだ来れるでしょう」
睨みつけながら挑発すると、彼女は何も言わずに今度もまた真っ直ぐと突っ込でくると再び私の顔面に向かって拳を振るってきた。
さっきと同じく私は彼女の拳を受け止めようとする。が、彼女は私の手に触れる前にしゃがむと、私の両足を横に回転しながら払ってくる。
「流石」
両足を払われた私は空中に浮いてしまう。そこに、空中で身動きが取れない私に、彼女は回転したままの勢いを殺さずにバク転し、オーバーヘッドキックのような技を私の頭に向かって放ってくる。
「ですが、私には程遠い」
オーバーヘッドキックを後頭部にワザと受けた私は、食らった勢いのまま今度は彼女のがら空きの後頭部に踵を叩きこむ。
思いっきり彼女の後頭部へと入り、彼女は前へ倒れこむ。しかし、私は大人しく倒れさせてあげるほど優しくはない。
倒れこむ彼女の首を後ろから掴み持ち上げ、肩の上で足と首を持ちアルゼンチンバックブリーカーを力だけで決める。技術なんてもんはない。
「ッ! ッ!」
ガッツリと決まり、彼女の背骨がミシミシとなる。流石に痛いのかジタバタと暴れるが、外してあげない。
「ほーら、背骨が折れますよ」
ゆさゆさと上下に揺さぶってやる。おお、痛い。昔、天さんに訓練と称してプロレス技を体に叩き込まれましたが、いや~あの時やられたこの技は痛かったですね。
しばらくの間ゆさゆと動かしていたら、諦めたのか彼女はタップして参ったをしてきた。これは、勝ちに入るのでしょうか。まあ、完全に折ると可愛そうなので離してあげましょうか。
ゆっくりとうつ伏せに寝かせるように降ろしてあげると、彼女は涙目で腰を摩りながら私を見てきた。
「私は……誰?」
首を小さく傾けて涙目で聞いてくる彼女に多少ムラっとした私は正常なはず。自分自身とはいえ、私、可愛すぎでしょう。
「一つ教えて、貴方は私に着いてきますか?」
「……貴方が私に答えをくれるのなら」
「ならば、教えてあげましょう。貴方は鏡華
「鏡……華……」
手を差し出すと、彼女……鏡華は私の手をゆっくりと握り返した。
「そう、貴方は鏡華。私の妹と言う唯一無二の存在である五月雨鏡華ですよ」
握り返された手をゆっくりと引いておんぶし、彼女の腰に気を流して直してあげる。
「鏡華。妹……鏡華……よろしく、主」
「主じゃないですよ」
新しく出来た可愛い妹を背負いながら、私は言う。
「私の事はお姉ちゃんって呼びなさい」
「……うん、わかった。お姉ちゃん」
ああ、可愛い! 私、お姉ちゃんっていうのに一度憧れてたんですよね。澪? あれは妹ってよりも年上の友達ですからノーカンです。
「では、帰りましょう、鏡華。貴方の新しいお家に」
「うん、お姉ちゃん」
「ねえ、天。どうして彼女は勝てたのかしら?」
銀華と彼女……鏡華ちゃんだったかしら? の戦いを見終えた私は、隣に立っている天に話しかける。
銀華、そして天は最初から勝てると決め込んでいた。同じ性能と言う普通なら引き分けにしかならないはずである相手にたいしてだ。
「……澪、魂という物を知っているな」
「ええ、勿論。これでも昔は天使だったのよ。知らないはずないでしょう」
魂とは簡単に言えば体という物には入っていて、脳とはまた別の精神と言った物であり、体を操っている超高密度のエネルギーだ。
天は、私の回答を聞くと目を瞑る。
「魂とは超高密度のエネルギー。一つの体に一つが限界だ。神器
「それがどうしたの? 彼女の中に誰か別の魂が入っているとでもいうの? それのおかげで彼女は勝てたと?」
ドッペルゲンガーは本人の全てしかコピー出来ない。もし、本人以外の魂があるならば、その分銀華にアドバンテージがある。
私の言葉を聞くと、天は頷く。
「そう言う事だ。銀華の体の中には魂が入っている。だから、俺と銀華は最初から勝利を確信していたんだ」
「成程ね。……それで、銀華の中には一体何の魂が入っているのかしら?」
「人間の魂が大よそ、五百二十七万六千七百九十二人分入っている」
「は?」
今なんて言った? 万? 万ですって?
「ふざけないで頂戴」
「ふざけてなどいない」
天の顔は嘘を言ってはいない。
「そんな……馬鹿な……」
ありえない。ありえてはならない。
魂は超高密度のエネルギー。確かに魂の数を多く集まれば強くなれる。だが、それはあくまで理論上であり、理想である。
考えてみてほしい。自分の中に、常に別の誰かがいて、何かを話しているという状況を。しかも、二十四時間ずっと毎日だ。
楽しいかもしれない。でも、寝る時も遊んでいる時も話している時も、何時も自分の中で誰かが喋っていたら? それが万を超えた数ならば? 精神なんてもんはたやすく壊れてしまう。
「最初は俺も心配はした。だが、銀華はさも当然のように他の魂を食った。そして、驚いた事に、食われた魂は何一つ文句なく銀華に従っているらしい」
「……」
言葉を失ってしまった。従えるなんて、そんな事十七や十八の少女に出来る事ではない。とんでもないカリスマがあれば別だが……
天から視線を外し、銀華の方を見る。そこには、ニコニコと笑いながら、新しく出来た双子の妹を背負って歩いているいつもの銀華がいた。
……貴方は一体何者なの……銀華。
今回は双子の妹事鏡華ちゃんが誕生しました。やったね銀華ちゃん!
この妹の鏡華ちゃんも次話から徐々にパワーインフレを起こしていきます。レーティングゲームには参加しませんがね。
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