短編集   作:ミネラルいろはす

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今回は八静の帰省短編になります。
先生の家の捏造設定があるのでご了承ください。


独神なんて言わせない1

燦々と強い日差しが降り注ぐ、夏のとある日。

巷では、日本の歴代最高気温が更新されたとかなんとか言っていたが、ここ最近は本当に暑くて参ってしまっていた。

夏休みが始まって半ば、今頃生徒達は昼夜問わず遊びにいっているのだろうが、私は一人職員室で後期の授業で使う教材の作成や、夏休み明け一発目に行う予定の抜き打ちテストなんかを作っている。

 

連日の暑さからグラウンドから聞こえる野球部と思われる生徒達の声も日に日にしぼんでいき、今では蝉の鳴き声の方が職員室に鳴り響いている。

 

そんな私も疲労困憊である。暑さのせいというのもあるのだが、それよりも数日後に控えた帰省の事で頭がいっぱいなのだ。

 

夏休みに入ってすぐ、母親から連絡を貰った。

母親から連絡が来るのはよくある事なので、大して気にするような事ではなかったのだが、ここからが問題だ。

その時、日頃の疲れやストレスを晴らすために飲み屋を梯子に梯子しまくった後の電話で、内容が誰それが結婚したのだの、彼氏はいないかだの。

結婚、男、彼氏の事ばかりを聴いてきてうんざりしたのだ。

同級生のあの子は良いと子の息子と結婚しただの、そんなの私だってできるものならしている。

いつもなら、うまく流して終わってたのだが、ストレスや疲れ更にはベロンベロンに酔っていたこともあり、ありもしない彼氏の話をしてしまい。

更には次の帰省の時には連れて帰るなんて約束もしてしまったのだ。

その時の記憶はほとんど残っておらず、次の日に母から送られてきたメールを見て、二日酔いとは違う意味で顔を青くしたのだった。

 

「はぁ、本当にどうしたものかな、あぁ〜どっかに良い人落ちてないもんかなぁ」

 

「え、やば。マジでその思考回路やばいですよ平塚先生」

 

「なんだ、比企谷か」

 

私の独り言を拾ったのは捻くれている生意気な生徒比企谷だった。

奉仕部という部活に(私が強制的に)参加している生徒で、雪ノ下と由比ヶ浜とともに今日も部活に励んでいる筈なのだが、はて?何故ここにいるのだろうか?

とりあえず、私は先ほどの独り言を紛らわすために質問をすることにした。

 

「比企谷部活はどうした、まだ昼前だぞ?」

 

「さっきの発言無かったことにしてさらりと会話し始めてるよこの人‥ひっ」

 

「比企谷、ラストブリットが欲しいみたいだな?」

 

「い、いえ滅相もありません。き、今日は雪ノ下と由比ヶ浜が午後から用事があるみたいなので、早めに終わりにして俺が鍵を返しにきたんです」

 

軽く指を鳴らしてみれば、あっさりと話してくれた。

初めからそうすれば良いものを、でもそれが彼の良いところでもあるのだが。

 

「そうか、それで何の用事もない君が鍵を返しにきたというわけか」

 

「いや、まあ間違ってはいないんですけど、なんか平塚先生に言われるのムカつきますね」

 

そういう先生だってお暇なんでしょって軽く嫌味をぶつけてくる彼にはやはりラストブリットをお見舞いするべきだろうか。

まあ、だが私もこの暑い中動いて汗かくのも嫌なので心の中にとどめておくとするか。

 

「まあいい鍵は預かっておく、君もこの夏休みを家でダラダラ過ごすだけでなく、たまには外に出るんだぞ」

 

そんな私の言葉にげんなりとした様子の彼。

 

「いやいや、先生考えてみてください。ここ連日の猛暑で熱中症になった人が大勢いるんですよ。そんな中わざわざ熱中症になりに、外に出るなんて馬鹿のすることですよ。」

 

どうだと言わんばかりの彼に少し訂正を加えてあげよう。

 

「比企谷知っているか?熱中症の患者はな、室内で起きた人の方が多いんだそうだ。だから君も室内ばかりではなく外出もしないとな?それとも、君には一緒に遊ぶ友達がそもそもいないないのか」

 

そう少しいじわるぽっく彼に聞いてみた。

すると彼は食い気味に言い返してきた。

 

「何言ってるんですか、俺には戸塚とか戸塚に、それから戸塚もいるんですから、毎日戸塚フィーバーですよ、何それ天国なんだが、天国はそこにあったんですね先生」

 

「はいはい、わかったわかった。君のことだから心配いらんとは思うが、事件や事故に巻き込まれないようにな」

 

話が長くならそうだったので、軽く流して帰らそうとしたその時彼の言葉に私の体が震え上がった。

 

「そんなに言うなら平塚先生も彼氏とかと夏休みの予定が入っているんですよね?平塚先生?」

 

そう、真っ赤な炎へと。

だが、私は教師だ。

あくまで、冷静に対応しなければならない。

そうあくまで冷静に、冷静に‥

 

「なぁ、比企谷、私からの暑中見舞いがよほど欲しいようだな?一回とは言わず、何回でも送ってやろうか?」

 

「す、すいませんでしたぁ!!」

 

見事な土下座だ。

あまりにも早い土下座私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

まぁ、暑い日に真っ赤にハートを燃え上がらせるわけにはいかず、それに数日後のことも考えると更に沈んでいく一方だ。

 

ああ本当にどっか暇している人いないかな、なんて考えてみるがお盆シーズンに予定が空いてる人なんて、よっぽどの人じゃなければ埋まっているし。

そもそもよくわからない人を母に紹介するのも気が重い。

 

本当この時期に暇していて、私のことを少なからずわかっている男なんてどこにもいるわけ…

 

ふと、目の前で土下座している男を見る。

 

「なぁ比企谷、君はお盆休みの間は暇かね?」

 

私が声をかけると下げていた頭を上げこちらを向く。

 

「ええ、まあ特に用事はないですけどそれがどうかしたんですか?」

 

ふむ、お盆休みの間も暇で、ある程度私の趣味を理解している男。

現状こいつ以外に良さそうな人は見つからないか‥。

 

「比企谷、君は旅行についてどう思う?」

 

多分この時の私は少しにやついていただろう。

なぜなら、目下問題であった帰省についての目処がたったのだから。

母は田舎から出てこないし、一度彼を合わせて後から別れたなんて伝えればそれ以上追求されなくて済む。

これが私の完璧なプランだ。

 

「旅行すか、まぁいいもんだと思いますよ、場所によっては。まぁ俺は家の方が‥」

 

「うん?どうした比企谷?旅行大好きだよなぁ?」

 

「ええ、まぁはい、大好きなのでその手をしまってください!!」

 

「うん、よしよし。そんな可愛い生徒の為に私も一肌脱ごうじゃないか。それじゃお盆休みの初日から三日間空けておいてくれ。初日の朝に迎えに行くからな」

 

「え?な、何言ってるんですか?俺は家で‥」

 

「家で、何かね?ああ、私の暑中見舞いを楽しみに家で待っているって事でいいのかね?」

 

「いえ!!お、俺もどっか旅行に行きたいなぁって思ってたんですよ。そ、それじゃあ準備がありますんで俺今日は帰ります」

 

なんて言って比企谷は職員室を後にした。

まだどこに行くかも、私の目的も告げてないのだが、まぁ後でメールで連絡すればいいか。

 

よし、これで肩の荷が降りたところで私ももう一踏ん張り頑張りますか、ほらまだ私若手だから、若手だから‥‥‥はぁ。

 

 

「結婚したい‥」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「で、先生これはどういうことですか?まぁ場所はこの際いいとして、この彼氏の役ってどういうことですか、俺そんな話聞いてませんよ!!」

 

比企谷を家まで迎えに行ったら朝からメールの文章に猛抗議ときたか、まぁ確かに伝えてなかったのは確かだが、それは彼が話を聞かずに帰ったからだし、だがそちらの方が私にとっても都合が良かったのは確かだ。

 

「まぁそう怒るな。なぁにたった三日の間、私の彼氏のふりをしてくれればいいだけさ。それに話を聞かずに帰ったのは君の方だぞ、私の話を最後まで聞かずに了承するからこうなるんだ。まぁこれもいい人生経験だと思いなさい。」

 

そう言って文句を言いつづける彼を助手席まで連れて行き車に乗せる。

後ろには彼の荷物をしまう。

荷物には割と荷物が詰められているようでパンパンに膨らんでいた。

文句を言ってる割にはしっかりと準備はしてきたみたいだな、感心感心。

 

車に戻ると抵抗するのを諦めたのか、しっかりベルトをしっかり締めて座っていた。

だが、顔には不満ですと書いてあるくらいむすっとしていた。

 

「そんな怒るな、帰ってきたらラーメンの二杯でも三杯でも奢ってやるから」

 

「‥‥はぁ、わかりました。今回は俺が話を聞かずに了承したのも悪かったですし、それでいいです。まぁやり口は最低ですけど」

 

ははは何も聞こえない。

まぁこれで彼氏役の男も快く?賛成してくれて、報酬まで用意した。

これで今年の帰省は幾ばくか楽な気持ちで帰れそうだ。

いつもは帰省すると彼氏やら、結婚やら、お見合いなんかを根掘り葉掘り聞かれて、毎年帰省するのがしんどくなっていたが今年は問題ない。

なんたって、私にも彼氏(仮)がいるかな

がはははは勝ったな。

 

「いや、この人どんだけテンション高いんですかねぇ」

 

そんな独り言はアニソンをガンガンに掛けて歌う私の耳には入ってこなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

数時間のドライブの後目的地に着いた私たちは荷台から荷物を降ろしていたのだが、何やら彼の顔色が少し悪いように見えたので一応確認しておくとするか。

 

「比企谷どうしたのかね、顔色が悪いが車酔いでもしたのか?」

 

「ち、違いますよ、先生の家を見てちょっと‥」

 

私の家?ああそうかそれも話してなかったな。

彼が見ている先には昔ながらの立派な家が建っている。

さながら昔の貴族のような家だと我ながら思う。

まぁ、田舎で土地があまり余っているというのもあるのだが、確かに都会の人間にとってここまででかい家を見るのは初めてかもしれないな。

都会の家に池とかあんまり見たことないしなぁ。

 

「こ、これ大丈夫なんですか?バレたら切腹とかないですよね?」

 

「君は私の家をなんだと思っているのかね。そんなことあるわけないだろう。」

 

「いやぁ、でも普段の平塚先生を見てるとちょっと‥」

 

「何言ってるんだ、あれは君だけの私からの愛情だぞ」

 

「そんな愛情いらないんだよなぁ」

 

緊張が解けたせいか、顔色もよくなった。

と言っても、この暑い日差しの中長時間いれば熱中症になってしまう。

ここは速やかに家に入るのが妥当か。

 

「いいから、さっさと運べ。暑くて熱中症になったらたまらんからな」

 

「はいはい、わかってますよ、運びますよ」

 

そう言って、私と彼は自分の荷物と私からのお土産を手に一年ぶりに我が家に帰省した。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「で、静そちらの方が」

 

「はい、今お付き合いをしている比企谷さんです。」

 

「ひ、比企谷八幡でしゅ」

 

帰ってすぐ和服姿の母からの出迎えがありそのまま居間へと彼と二人通された。

入った瞬間からか、はたまた私の母を見た時からか隣の比企谷はガチガチに固まってしまい。

名前を言うだけでも噛んでしまうくらいだ。

いや、自己紹介のときも噛んでいたからいつものことか。

 

だが、母から聞かれるであろう話題や職業、趣味なんかはあらかじめメールで送ってあるため、彼が詰まっても私がフォローすれば違和感は残らない筈だ。

 

だから、私や彼は母が何を言うのか身構えていたんだ。

年収か、職業か、年齢か、経歴か。

いつもお見合いやら、友達の結婚報告で聞かされることを事細かにピックアップして、母に聞かれても大丈夫に仕上げてきた。

どんな質問が来ても大丈夫な筈だった。

けれど私たちの思惑と外れ母は、いきなり丁寧に指を三つ折りにし、頭を下げた。

和服を着ているせいかその綺麗な姿勢に私は驚いていた。

どうやら彼も同じらしく、戸惑いの表情がうかがえた。

何で頭を下げたのかそれだけがわからなかった。

電話越しの母はもっと色んな質問を投げかけると思っていたから、だから次の言葉が信じられなかった。

 

「どうか、うちの静をよろしくお願いしいたします。男勝りでがさつな一面もありますが悪い子ではありません。どうかよろしくお願いします。」

 

綺麗に頭を下げるは私が生まれてきてから一度も見たことが無かった。

私も比企谷も突然の行動で頭が真っ白になってしまい。

なんて返事をすればいいのかわからなくなってしまったのだ。

だが、そんな中動いたのは比企谷だった。

 

「あの‥ですね、平塚いえ、静さんはとても優しい人です。普段は男勝りな一面やヘビースモーカーだったりと色々ありますけど、それでも僕にはもったいないぐらい素敵な女性です。だから顔をあげてくださいお母さん。」

 

自分の頬が熱を帯びているのがわかる。

母の行動に頭が真っ白になっていた私に更に別方向からの追撃が来るとは思っておらず、こちらは思考が追いついていない。

それに先ほどまでガチガチに緊張していた男の言葉とは思えないほどにつらつらと喋っており、まさかここまでの演技ができるなんて思っていなかったので、面をくらってしまった。

だが、しかし嘘だとわかっていてもこうして、母親の前で褒められると少々くるものがあるな。

 

「‥そうですか、よかったです。それでは後は若いお二人で、ごゆっくりなさってください。夕ご飯の支度ができる頃にまた呼びにまいります。」

 

私が見たこともないような笑顔を残し、スタスタと私たちの前から去っていた母を見て私は何を思っただろうか。

一時とはいえ、煩わしいと思っていた彼氏やお見合いの話をされなくてよかったと思ったか?彼氏について根掘り葉掘り聞かれず安堵したか?

いや、私の胸に残ったのはただのしこりだけだった。

こんなことなら、やはり私一人で帰省すべきだった。

あんな母親は見たことがなかった。

いつも元気で鬱陶しいあの人があんなに凛とした佇まいをして、娘の彼氏に頭を下げてお願いするなんて想像できただろうか。

いや、できるはずはないが、私は十分に母に愛されていることは知っていた。

私の無自覚の行動のせいで、母を傷つけてしまうかもしれない。

そんな後悔だけが胸に残っていた。

 

「先生、やっぱり本当のことを話した方がいいと思うんですけど‥」

 

「ーーああわかっている、君もよくあの状況であんな上手くペラペラ喋れたな、少し感心したぞ」

 

比企谷の言いたいことは十分にわかっている。

だけど、今だけは彼氏でいてほしいと思っている。

生徒と先生の関係ではなく、彼氏と彼女の関係でいたい。

 

「いや、さっきのはあれは普段から思ってることなので、あながち嘘じゃないすよ」

 

と、真顔で返してくる目の前の男。

 

「はぁ!?きききみは何てことを言うんだ、この状況で冗談はやめてくれ心臓に悪い」

 

不意な一言に私の心臓が高鳴るのが感じた。

本当に安い女だと自分でも思う、たかだか十代の軽いジョークでときめきを感じるなんて。

甘い口説き文句なんて婚活や合コンで何度も聞いてきたつもりだったが、なんでこうくるものがあるのだろうか?

私の婚期が迫っているからか、それとも‥

 

「ま、まあいい。君には大分負担をかけてしまうかもしれないが、安心してほしい。旅行が終わったら私の方から母に伝えておく。」

 

私の返答に若干萎え切らない表情ではあるものの納得はしてくれたようだ。

私の為にここまで思ってくれる生徒がいるなら、私の教師人生も中々捨てたものではないな。

 

それでも私の長くない教師人生の中で私の心に強く残っているのは君だけだ比企谷。

陽乃は手を焼かされたという意味では一番だが、比企谷には放っておけない魅力というものがあるのだろうか。

本当に手間のかかる優しい生徒だよ君は。




何話か続く形になると思います。
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