私、雪ノ下陽乃の世間様からの評価は「容姿端麗」「才色兼備」など褒めたたえる言葉で埋め尽くされることは想像に難くない。
なぜなら、私はあの雪ノ下建設の長女であり、県議会議員の娘である私に失敗は許されないのだ。
母から教育という名の地獄をその身にうけ、それでもと頑張ってきた私に残ったのは、自分の心を隠すための仮面と私の言うことに従う友達という名の奴隷だけ。
それなのに、彼女は全てを持っていた。
私の欲しかったもの、全部。
なのに、あの子は私の背中を追い続ける。
私と違って鎖につながれていないあの子はそれでも、私と同じ道を歩むのだ。
私が欲しいものを持って...
あの子が望めばすぐにでも飛びたてるのに、あの子は私と同じ籠の中から飛び立とうとしないのだ。
妬ましい、何度そう思ったことだろうか、進路が決められた高校生?いや、友達と思うように遊べなくなった中学生の頃だろうか...
もしかしたら、小学生、それともあの子が生まれた時かもしれない。
ずっと昔から私はあの子を妬んでいる。
だけど、私はあの子が嫌いなわけじゃない。
むしろ好きだ。私のたった一人の妹なのだから、嫌いなわけがない。
嫌いになれるわけがない。
妹の知り合いの彼も千葉の兄妹は仲がいいのがデフォだって言ってたしね。
だから、私は妹が妬ましくても大好きなのだ。
今までも彼女のためを思って行動してきた。
彼女のためなら何でも我慢できるつもりだった。
だけど、私にも彼女に譲れないものができてしまった。
譲れない人ができてしまった。
それが...
「だーかーらー雪乃ちゃん私に比企谷君を譲ってね♪」
「だめよ!!!絶対にダメ!!姉さんに比企谷君を渡すわけにはいかないわ。そもそも姉さんと比企谷君では釣り合わないのではないのかしら」
どんな状況だよ?と思ったそこのお前、それはお前らよりも俺が一番思ってるわ。
マジでどんな状況だよこれ?わけがわからないよ。
なんの変哲もない一軒家、両親が共働きで、かわいい妹の四人暮らし。
そんな一軒家には似つかわない二人の美女だけでも奇跡的な光景だというのに、それに加えてその美女二人が自宅の応接間でいがみ合うなんて光景を誰が想像できるだろうか。
しかも、それが自分の同級生とその姉であるなんて明日は槍が降ってくるんじゃないか心配になる。
そして、その同級生と姉の間に挟まれている俺はというと何度か彼女達の仲裁をしようと試みたものの、物の数分で姉妹からのダブルパンチという名の言葉のナイフを体中に滅多刺しされ、ダウン。
今は何とかこの場が落ち着くのを祈ることしかできない。
頼みの綱のかわいいかわいい我が妹の小町はニコニコ顔で反対側にすわって、一向に助ける気配がない。
そして、最後の登場人物が彼女達の母親である。
突然娘たちを連れて家に来たときは、家の娘に近づくな的な事とか、銚子の海に沈めに来ました的な事かと思ってインターフォンを覗いたときには冷汗が止まらず、居留守を使うことを決意していたところ、小町があっさり玄関を開けてしまい大魔王様御一行を我が家の平凡なリビングに通すことになってしまったわけだ。
そしてどういうわけか、彼女達の母親はソファに座り閉口一番にこう言ったのだ。
「比企谷八幡君今日は、あなたにお話しがあってお邪魔させていただきました。単刀直入ですが、家の娘と婚約してほしいのです。」
何を言われるのかびくびくしていた俺だが、母親が放った言葉は俺が思っていたものと真反対だったため、違った意味で鳥肌が立ってしまった。
「ということで、よろしくね比企谷君」
「駄目よ、姉さん!!」
「え~でも比企谷君は嫌じゃないんじゃない?こんなに綺麗なお姉さんと婚約できるなら比企谷君も嬉しいよね?」
「比企谷君!!!」
なんて、会話がきてから、永遠とループしているのだ。
雪ノ下さんが煽って、雪ノ下がそれに反撃、さらに雪ノ下さんが煽り返し、雪ノ下が反撃し返すループが完成してしまっていた。
彼女たちの母親は最初の一言以降だんまりを決め込んでいるし、止めようにも彼女達の圧の前には俺はただの腐った死体と同義。
仕方なしに、意を決し彼女たちの母親に事の経緯を聞くことを決意する。
俺に力を貸してくれマイラブリーエンジェル小町!!
……いや、ダメだ俺の反対側にいる小町は大魔王の手に落ちているのを忘れていた。
やはり、俺には戸塚しかいなかった。
頼む戸塚無力な俺に力を貸してくれ!!
心なしか川の向こうで戸塚が手を振っているような気がする。
……それ、死亡フラグでは?
いやいや、そんなわけない。ただ話をしただけで死ぬことになんてならないよね?
いや、ほんとマジで大丈夫だよな。
「あ、あの~雪ノ下のお母さん、状況の説明をおねがいしたいんですが...」
俺が初めて雪ノ下のお母さんに話しかけると、はて?何のことでしょうかみたいに小首を傾げ、それがまた雪ノ下の仕草と似ていることから、いくら雪ノ下がお母さんを苦手に思っていてもやはり似ている部分はあるんだなって思ってしまう。
ほんと、それがこの状況じゃなければもう少し嬉しかったのだが。
「先ほども申し上げた通り、うちの娘と婚約をして頂きたいのです。陽乃さんと雪乃さんのどちらでも私は構いません。比企谷さんのお好きな方と婚約していただいて結構です。」
「で、でもいきなり婚約なんておかしいですよ、それに好きでもない相手となんて雪ノ下さんも雪ノ下も嫌でしょうし、何よりなんで俺なんですかね、俺なんかより優秀な人間なんて掃いて捨てるほどいるでしょう」
「ふむ、そうですね。たしかにあなたより優秀な人間は探せばいくらでもいます。わかりやすく言えば、学力や運動神経などはうちの弁護士の息子さんの隼人くんの方が高いと聞いておりますし、そこは同意しましょう。」
「ですよね、ならやっぱり娘さん達には俺なんかよりも…」
二人共美人で頭もいい。
スタイル抜群で運動神経もいい、雪ノ下に関しては体力が無いのが欠点だが、雪ノ下さんに関しては本当に完全無欠を体現したような人物だ。
本人によれば幼い頃から親のパーティーなどにも参加しており、社会の渡り方も熟知していて、人の扱い方も相手の心理も朝飯前とでも言うように、掻き回してくる。
そんな二人に対して、小学生から今まで友達すらいたことのないただのボッチ(戸塚を除く)だ。
二人にはこれから二人に相応しい人物が現れるはずで、それは俺なんかでは及びもしない。
だから、俺はどちらの相手にはふさわしくはない。
「…ですが私は会社のトップであると同時に、この娘たちの親でもあります。確かに会社のためを思えば愚策と思われるかもしれません。ですが、親としてはこの娘たちが幸せになってくれることの方が大事だと思ったのです。
そして、それを気づかせてくれたのはあなたですよ比企谷さん」
「俺が?」
「はい、上の娘はいつからか親である私達にも仮面を被るようになり、本心を話さなくなりました。確かに陽乃には幼い頃から会社の為にと頑張らせて来ましたが、それがそもそも間違いだったのではないかと思ったのです。本当は友達と遊びたかったのではないか、パーティーなんて参加したくなかったのかもしれない、私達が親じゃない方が良かったのかもしれません。進路も私達が決めたものに強制させてしまった。」
「それは…」
雪ノ下の母の突然の吐露に俺はなんて返していいのかわからなかった。
正しいのか悪いのか、親にもなったこともないただのガキである俺が、雪ノ下のお母さんが悩みに悩んで考えぬいて決めた教育方針に口出しなんてできるはずもなかったのだ。
ただ、俺が雪ノ下にあったあの日、彼女は美術品のように華麗でそして綺麗だった。
けれど、話をしてみればその考えは俺と同様に捻じ曲がっていた、いやそれは正確には正しい表現ではないな、彼女は彼女の理想は突き抜けていた。
常人には理解できない理想を高らかに掲げていた彼女はどうしようもなく壊れていたのだと思う。
そして、雪ノ下と由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行くことになった時にあった雪ノ下さん。
初めてあった時の対応、男の理想を体現したかのような接し方。
理想は理想で現実ではない。
だからこそどうしようもなく偽物なのだ。
作られた仮面
その正体は彼女が幼い頃からパーティーに参加してそこで得た歪な仮面。
自分の本心をひた隠し、相手の理想、相手が欲しい反応をするためだけのもの。
それに加えての彼女の元からのポテンシャルの高さは幼い頃からの教育によるものだろう。
もちろん本人の素質によるものもあるのだろうが。
だからこそ、雪ノ下さんもまた優秀すぎる故、歪んでいた。
性根が捻じ曲がっている俺に言われるのは彼女たちも不本意ではあるだろうが、確かに彼女たちは普通ではなかった。
それが幸せかどうかは俺には知るよしはないが
そんな俺の心を読んだかのように語り出す雪ノ下の母
「貴方の思った通りですよ比企谷さん。雪乃の一人暮らしから始まり、今まででの雪乃の変わりよう、そして陽乃の変容。そのどれもが貴方に関わってから起きたものです。だからこそ、私は考え直したのです。今更彼女たちには遅いのかもしれないのですが、親としては彼女たちの幸せを応援したいと思ったのです。」
「そうですか、それはいいことだ思いますが、今回の件とどう関係するのか俺にはわからないのですが?」
子を思う親。
それは当たり前のようであって実際には難しい物なのかもしれない。
長年すれ違いを続けてきた母と娘たち、それに雪ノ下の母親への苦手意識はちょっとやそっとでは改善されるようには思えなかった。
だからこそ、今回の婚約なんて件も何をどうしたらこうなるのか俺には理解ができなかった。
娘の幸せを考える。
素晴らしいことだと思う、長年すれ違い続けた溝を頑張って埋めて欲しいとは個人的には思う。
だが、そこで娘の幸せを考えて俺との婚約を考えたってなったら、溝は埋まるどころか、マリアナ海溝並みに広がるんじゃないかと不安に思うんだが。
それに先ほどからよっぽど俺と婚約するのが嫌なのかずっと雪ノ下さんと揉めてるし、雪ノ下さんは雪ノ下さんで雪ノ下をからかうために肯定的ではあるが、絶対雪ノ下をからかう為に違いない。
「はい今回の婚約がなぜそこに行き着いたのかと言いますと、女性の幸せと言えば結婚でしょう、ですが陽乃もいい歳で彼氏もいないと、ですから気になる人はいないのかと尋ねたところ比企谷さんのお名前が上がりましたので、今回のことを計画させていただきました。」
あんたのせいかぁぁぁぁぁぁ!!!!
ガバッと人を挟んで雪ノ下をからかっている今回の原因に視線を向ける。
此方の視線に気づくなり、舌を出してごまかすふりをしてくる。
やはりおかしいと思ったんだ、俺なんかあいつらの相手など務まるわけもないのに。
だがそこで、雪ノ下さんが俺の名前を出したことでこうなってしまったということか。
「ええですので、私も貴方のことを勝手ながら調べさせていただきました。プロムの件も勿論のこと貴方の行動してきた事を分かる範囲でですが。その結果私の方でも娘を預けるに相応しいと思いましたので今回の件を実行することになりました。実行するにあたって貴方の両親と妹の小町さんには貴方のことを教えて頂き本当に感謝しています。両親の方からも今回の件は嬉しそうに同意していただけたので、後は貴方の同意だけなのですが、どこからか雪乃も今回の件を聞いて反対だと言うことなので、この際比企谷さんに選んでもらおうかと思いまして、今回お邪魔させて頂きました。」
まさかの外堀を全て埋められていた件について
いやいや雪ノ下の母親の隣で我関せずと座っている裏切り者が、結果的に今回の現状を作り上げたと言っても過言でもない。
しかも両親まで俺を売りやがって、唯一反対してくれた雪ノ下も今や雪ノ下さんに軽くあしらわれて相手にすらなっていない。
「俺の人生詰んだ…」
「はぁやれやれうちの愚兄はぁ、こんなに美人さんと婚約できるのに、なーにが人生詰んだなの?普通に考えてこんなこと有り得ないから、特にお兄ちゃんの場合三回人生やり直しても有り得ない確率が今起きてるのにそれを喜ばないなんて、さすが愚兄だよお兄ちゃん」
「小町ちゃん小町ちゃんさっきまで我関せずって感じだったのに、口を開けば兄への罵倒が酷すぎじゃない?お兄ちゃん傷ついて引きこもっちゃうよ?」
「いや、それじゃあいつもと変わらないでしょ、あっ、でもそんなダメダメなお兄ちゃんでも小町は応援してるよ♪」
「全然高くないんだよなぁ、この現状を作り出してる時点でプラスどころかマイナスなんだよなぁ」
「分かりました。比企谷さんが陽乃との婚約が嫌だと言うのなら諦めましょう」
「お母さん!?」
「ふぅ、そうねそうした方が比企谷君のためだと思うわ」
さっきまで喧嘩していたのも嘘のように今度は雪ノ下の母へと二人で詰め寄る。
それにしてもこんなに外堀埋められているのに諦めてくれるなんて雪ノ下の母と雪ノ下って似てないんだな。
雪ノ下なら絶対に逃がしてくれなそうだようなこういうの
「わかってくれたなら、それでいいです。無駄な時間を使わせてしまって申し訳ないです。」
「比企谷君まで!?」
「わかりましたそれでは陽乃との婚約は諦めます。では、代わりに雪乃と婚約するのはどうでしょうか?」
「へ?」
「母さん!?」
「お母さんそれはちょっと話しと違くない?」
「おお、それはいいですね。小町はどっちがお義姉ちゃんになってくれても嬉しいのでばっちこいですよ」
前言撤回全然わかってないこの人。
それに雪ノ下さんがダメなら雪ノ下と婚約ってこの人本当に娘のこと思っているんだろうか?
普通に考えてこんな腐った目の男と婚約なんて雪ノ下も嫌だろうし、それに普段から俺に対しての罵倒も多いしな。
「ええとそれもできれば断りたいのですが、雪ノ下にも雪ノ下さんにも俺なんかでは到底釣り合いが取れないですし、それに雪ノ下は俺のことを好きじゃないですよ」
「比企谷君それは…」
「そうだよ雪乃ちゃんはいつも比企谷君に罵倒ばかりしてるから比企谷君と婚約するのはいやなんじゃないかな。私は比企谷君となら婚約してもいいけどね」
「姉さんまで…」
「雪ノ下さんのことは置いといて、とりあえず雪ノ下は俺と婚約するのは嫌だと思うのでそれはやめてあげてください。」
「わかりました。どうやら私の勘違いだったようですね。それでは陽乃さんと婚約していただけますか?それに私も貴方のことを気に入ってしまったので、将来は雪ノ下建設に来て欲しいとも思っています。」
「俺は別に構わないですけど、雪ノ下さんはいやだと思いますよ」
ここが最終ラインだ、ここで雪ノ下さんが嫌だと言ってくれれば、今回のことは無かった事になるかもしれない。
そんな淡い期待を持って渡した言葉のパスなのだが、あの人ならわかってもらえるだろうと思っていた。
そしてその実俺と目があった雪ノ下さんはこちらに微笑んでくれて、わかっていると言っているように俺は勝手に勘違いしていた。
そうこの人が人を弄ぶのが大好きな魔王だって事に
「う〜んそうだね〜さっきから言ってると思うんだけど私は比企谷君となら結婚してもいいよ。だって面白いし、今まであった中で一番のお気に入りだもん」
「ちょちょっと雪ノ下さんどういうつもりですか?」
「うん?だってどこの馬の骨とわからない人と結婚するよりは自分のお気に入りで一番面白い比企谷君と結婚する方が万倍面白いじゃない?」
くそ嵌められた雪ノ下さん絶対にこの状況を楽しんでるだろう。
雪ノ下さんは本当に俺なんか婚約するつもりなのだろうか?
「それで比企谷さん陽乃はこう言っていますがどうしますか?」
「………わかりました。婚約ではなく付き合い始める所からならお受けします」
「……………よ」
「ん?どうした雪ノ下?」
「………やよ」
「聞こえないよ雪乃ちゃん?」
「絶対に嫌よ!!!比企谷君は私と結婚するんだから!!!」
「へ?」
それは俺と雪ノ下さんどちらから出た声なのかわからなかった。
もしくは二人とも同じ声を発していたのかもしれない。
あの高嶺の花である雪ノ下が発した言葉を俺はいまだ受け入れられていない。
雪ノ下さんと付き合いそうになってる時点ですでに俺のキャパシティはいっぱいいっぱいなのに、それに加えてあの雪ノ下からの告白なんて、これは夢なのではないのだろうかなんて疑うほどこの状況を信じられずにいた。
むしろ、俺はこの状況が夢であって欲しいとすら思っている。
二人に告白されるなんて状況なんて、何度俺の人生をやり直しても起きることのない確率を二人同時に引き抜くなんて、ついているけどついていない。
なぜなら、それは片方が選ばれないことを意味しているからである。
俺は選ばれない辛さを知っているがゆえに、彼女たちの告白をどうするべきなのかわからなくなっていた。
雪ノ下さんだけなら、まだ俺に愛想が尽きれば捨てられるだけだと思っていた。
まあ、それでも捨てられるのは辛いけど・・・
でも、雪ノ下はどうだ?冗談で誰かに好きだと伝えるような奴だとはこれまで過ごしてきた俺自身が一番身に染みて理解している。
雪ノ下は虚言を吐かない、彼女は昔その言葉を口にした。
その言葉の通り彼女は虚言を吐かないようにしていることは俺も見てきた。
だからこそ、このような場面で吐く彼女の言葉が虚言ではないことが俺には理解できてしまった。
そして、その言葉が虚言ではないからこそ、俺は身動きを取ることができなくなってしまった。
いつも選ばれない俺には、誰かを選ぶことなんてできないから。
そんな中一早く言葉を発したのは雪ノ下さんだった。
「へ~雪乃ちゃんこのタイミングでそんなこと言うんだ。それはちょっと卑怯なんじゃないかなって私は思うんだけど」
「・・・・わかっているわ。姉さんがここまでお膳だてまでしているってことは、比企谷君のことを本気でほしくなったということ。だから、ずるいとわかっていても私はこの話に介入させてもらうわ。」
だって私も比企谷君を誰かに渡すつもりなんてこれっぽちもないもの。
と雪ノ下さんに向かってあの雪ノ下が豪語した。
姉を苦手としているあの雪ノ下が、威風堂々と言い放ったのだ。
それはつまり戦線布告だ。
比企谷君をどちらも譲らないという硬い意思による奪い合い。
一人を賭けて奪い合いが勃発しようとしていたその時、大魔王が動いた。
「・・・・お二人の言い分はわかりました。どちらも比企谷さんを渡すつもりはないと?」
「ええ」
「そうだね」
大魔王の問いかけに即答する二人。
二人の目はどちらも譲らないという強い意思が込められている。
その二人の目をみて大魔王は何か思案しているようだ。
先ほどの発言から彼女たちの強い意思を聞いたことで何かしらこの状況を収束させる案を考えているらしい。
俺としては白紙になってくれることが一番嬉しいのだが、そんなに簡単な事にはならないだろう。
俺は、雪ノ下さんの気持ちを聞いて、雪ノ下の気持ちも聞いてしまった。
そして、今まで選ばれ続けなかった俺は選ばれない辛さを身をもって知っている。
だから、たとえこの件が白紙になったとしても、今まで通りの関係でいられなくなるのは間違いないだろう。
「ここは比企谷さんの意見も聞いてみましょう。貴方は陽乃と雪乃どちらが好きですか?」
「俺は・・・・・」
俺への質問。
どちらかを選び、どちらかを捨てなければならない。
二者択一の質問、選ばれた方は歓喜し、選ばれない方は地獄をみる。
それならば、俺の答えは決まっている。
なぜなら俺は・・・・
「俺は・・」
「「比企谷君」」
そうして俺がだした答えは・・・・
「どちらも選べません。だって俺にはどちらも勿体ないくらいの人たちです。それに俺は知っているから選ばれない辛さを、だから申し訳ないですけど俺には選ぶことなんてできません。」
「・・・お兄ちゃん」
「ふむ」
俺の答えはこれしかなかった。
確かにどちらを選んでも俺にはもったいない人で、きっとどちらを選んでも俺は幸せに暮らせるだろうなんて考えは安易に行うことができた。
でも、だからこそ俺は選ばれなかった方の人生も考えてしまった。
辛く苦しく光のない世界、そんな思いを彼女達に味わってほしくなかった。
だから、俺は選ばないという最低な選択しかできなかった。
しばらくの沈黙から雪ノ下のお母さんが口を開く。
出てくるのは失望の言葉か、それとも落胆の声か、掛けられる言葉は甘んじて受け入れるつもりであった。
だが、飛んできたのはただの質問だった。
「雪乃と陽乃のことは嫌いですか?」
「・・・いえ、そんなことは無いです。」
「では、雪乃と陽乃にお聞きします。比企谷さんのことを誰よりも愛していますか?」
「「はい!!」」
三人に質問を投げかけた後また考えにふける。
しばらくすると、手をポンっと叩いて席を立ちあがる。
「なるほど、ならこうするしかありませんね。」
「「「???」」」
いきなりのことでこの場にいる人は全員どういうことかわかっていなかった。
「比企谷さんがどちらかを選べないのはどちらも大切だからで間違いないですよね」
「・・はい、そうです。」
「そして、貴方達は比企谷さんを誰にも譲らないほど愛していると?」
「ええ、姉さんにだって負けるつもりはないわ」
「私だって雪乃ちゃんに渡すつもりはないからね」
「ならばこうしましょう。比企谷さんは二人と付き合ってもらいます。」
「へ?」
突然のとんでも回答に俺の頭はショートしそうになっていた。
二人と付き合う?確かにそうすればどちらも悲しませなくてもよくなるけど
「それは現実的じゃないんじゃないですかね?」
「ですが、貴方が選ばないならこうするほかありません。それに、雪乃と陽乃はどうですか、この案に反対ですか?」
「・・・」
雪ノ下達もあまりの提案に黙り込んでしまっている。
ここはやはり俺が間違っているということを伝えて上げなければならない。
「ほ、ほら雪ノ下だって「ちょっと待って!!」」
突如雪ノ下からの言葉で発現を遮られる。
確かに俺がいうよりも本人たちが言った方が母親も納得するだろう。
よし、ここは雪ノ下に任せて「それはどっちが本妻になるのかしら」いれば・・・
えと、どう言うこと?雪ノ下お前反対なんじゃ「そうだね、確かにそのあたりをはなしてくれないと素直に了承できないかな」雪ノ下さんまでそっちにつくのか
「あらあら、それでは二人とも比企谷さんと付き合うことに賛成でいいのね」
「「当り前じゃない姉さん(雪乃ちゃん)だもの」」
「おいおい、それは・・・」
「あら、なら貴方が私を選んでくれるのかしら比企谷君」
「そうだよ、お姉さんを選んでくれるなら私も反対してあげるけど?」
「そ、それは・・・」
「なら、二人で付き合ったほうがいいじゃない、どちらも幸せになれるんだからね」
二人が初めから賛成派だったなんてやられた。
だけど、それは本人たちが許しても世間からは到底許される事では無いのだ。
「比企谷さん、貴方はどうしますか?」
しばらく考えた後、俺の決断を雪ノ下の母親に告げる。
「俺は正直反対です。そんなことしたら世間にばれた時、大目玉喰らう羽目になるんですよ。それに俺だけならまだしも彼女たちにもその矛先が向くことになる。」
彼女達の母親なら納得してくれると思っていた。
雪ノ下建設なんて大企業の社長夫人なんだから、スキャンダルが仕事にどういう影響を及ぼすかなんて想像に難くないだろう。
「確かにそうですね、ですがそれは客観的な事実をのべているにすぎません。私が聞きたいのは貴方がどう思っているかという感情論が聞きたいのです。」
だが、その解答に彼女達の母親は納得してくれないようだ。
そうして突き付けてきたのは、感情での回答だった。
感情で考えろと言われてみても、彼女達と付き合うのは普通の男なら喜んで付き合うし、俺もその例外ではない。
だがそれは、こんなに綺麗で美しい彼女達に自分が見合っていればの話だ。
彼女達と違い俺は、クラスの端っこいるだけのただのボッチ。
俺の人生を何百周して、会えるか会えないかレベルの素敵な人達だ。
感情論で言えば心臓が飛び出るほどうれしい。
けど、彼女たちの幸せを願うなら・・・
「俺は・・「娘たちの気持ちや未来ではなく、貴方がどう思っているかを聞いているというのはわかっておりますよね」っつ!!」
・・・・わかっている。
分からないふりをしていただけだ。
のらりくらりと躱し続けていれば諦めてくれると考えていた俺が甘かったようだ。
躱すどころか逃げ道を完全に塞がれてしまった。
加えて二人からの鋭い視線が突き刺さる。
「・・・・です」
「なんですか答えはもっとはっきりとおしゃってください」
「俺も娘さん達が・・・です」
「聞こえません、男の子ならもっと声を張って思いを伝えなさい」
「俺も娘さん達が好きです。二人とも俺には勿体ないくらい綺麗で可愛くて、困った時の表情も姉妹で似てないと自分たちで思い込んでるけど、めちゃくちゃ似ていることが多い所も、負けず嫌いなところも、俺の人生を何週繰り返しても出会えるかわからないほどの素敵な人です!!」
「ふむ、なかなかに熱い告白をありがとうございます。・・・・なら、甲斐性を持ちなさい!!貴方の事が好きだという娘達に釣り合うような男になりなさい!!それが私からの条件です、わかりましたね?」
「は、はい。わかりました!!」
今までとは違う雪ノ下さんのお母さんの圧力に対して、返事を返してしまった。
「・・・よろしい、ならこれから精進なさい。よかったわね陽乃、雪乃。これから貴方達の夫となる男です。貴方達で支えて上げなさい。」
「おっけー任しといて」
「・・・は、はいわかりました。」
雪ノ下さんは軽く返事を返し、雪ノ下はこちらを恥ずかしそうに向きながら返事を返していた。
これってもしかして、高校生にして俺の人生のレールが決まってしまったのではないだろうか。
まあでも、それはそれで良いのかも知れない。だって・・・
「「よろしくね旦那様(貴方)♡」」
こんなに素敵な婚約者ができたのだから