白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話   作:二本角

12 / 75
 おかしい、ちょっとした日常を書こうとしているのに、どうして前編だけで7千字越えてんだ・・・?

 後編はまた後日に投稿します。

 お気に入り、評価、感想をくれた方々、誠にありがとうございます。
 人間は欲深いモノ。ああ、もっと、もっと、評価と感想が欲しい!!

 というわけで、続き頑張ります。


白蛇と彼の一日(中学生編・昼の部)

 月宮家は、「学会」の幹部である月宮京が材料や構造の基礎部分から始まり、それらに付与される術式に付近の霊脈調整までを一から作り上げた一大術具である。

 月宮家のある街は世界的に見ても現世と常世をつなぐ穴が空きやすい土地であり、そこの管理者として京が派遣されることになったのだが、彼本人が護衛とともに「学会」本部のあるロンドンまで赴くことも多いため、管理者がおらずとも周辺の平和を「ある程度まで」維持するための大結界を展開する要でもある。

 この屋敷には結界が常時展開されているが、その動力源には周辺の霊脈に満ちる自然の霊力だ。

 霊脈とは大地の中を流れる霊力の奔流であるが、そのほとんどは人間では掘り進めないような地下にあり、地表に現れることはない。

 だが、月宮家のある街はその数少ない例外であり、霊脈が地上に接している土地なのだ。

 そして、月宮家はその多くは空に浮かぶ星々や天候にまつわる異能を有し、京も道具に術を刻む付与術とともに星々の巡りによって生じるエネルギーを利用する占星術を得意とする。

 京によって作られた屋敷は星の動きの影響を受けており、妖怪が活発になる夜にこそ最も結界が強固になり、家の中にある罠も最も激しくなるのは夜間である。

 逆に言うと朝や昼は結界も多少脆くなるのだが、昼は大抵の妖怪の力が衰えるため、結果的に常時強力な防御力を発揮しており、侵入者が現れようものなら即座に火を噴くことだろう。

 

 数年に渡って、屋敷に住み着き、さらには最近になって霊力の扱いがさらに器用になった蛇にはそのわずかな綻びを見抜かれてしまっていたが。

 

「ふっふっふ・・・・侵入成功~」

「うーん・・・」

 

 時刻は朝4時過ぎ。

 初夏を通り過ぎたこの時期にはもう大分明るいのだが、ベッドに眠る少年が起きる様子はない。

 それを見て、少年の部屋に侵入した不審者、もとい雫は思わずというように含み笑いを漏らした。

 

「いや~、誰が考えたのか知らないけど、人化の術様様だね。蛇の姿じゃよく分からなかった細い「隙間」が今ならはっきり見える」

 

 ここしばらく、雫はずっと機会をうかがっていたのだ。

 雫は蛇であったころから、屋敷の一室を与えられていたが、罠の関係で出ることは叶わなかった。

 しかし、人化に成功してからは、それまで数年観察して違和感を覚えた場所をよく調べると、罠と罠の間にごくわずかな「継ぎ目」があることに気づいたのだ。

 そうして雫はここ数週間、その隙間の解析を行い、今日にいたって部屋を脱走し、目的地まで侵入に成功したというわけである。

 断っておくが、京が仕掛けた罠は並大抵のものではない。

 数年をかけてヒントを得たとしても、それを出し抜くにはさらにその十倍は長い年月と根気がいたことだろう。

 だが、雫は精密性に長ける人間の姿を手に入れたとはいえ、わずか数週間でやってのけたのだ。

 そこまで雫を駆り立てたモノとは・・・・

 

「朝起こしに来る幼馴染、朝のせ、せ、生理現象を見て混乱、そこから始まるラッキースケベ・・・くぅ~~~、朝起きたら隣で添い寝してたっていうシチュも捨てがたい!! ああ、どっちの夢を選べばいいの私!!」

 

 煩悩であった。

 その夢はまるでエロゲをやりこんだ男の願望である。

 

「せっかく人間の姿になったってのに、いつまでも別の部屋で寝るなんて生殺し、我慢できないよ・・・・」

「ん~~・・・・」

 

 頬をうっすら染めながら、愛おし気に寝ている久路人の頬に触れる。

 寝起きが悪いのか、目覚める様子はない。

 

「あ、でもまだちょっと久路人が起きるには早いし、起こすのはまた次にしようかな。な、なら、添い寝の方を・・・・・」

 

 どうやら自分の中でどちらのシチュエーションを選ぶのか決まったようだ。

 

「フーッ、フーッ!!」

 

 なにやら危ない呼吸を繰り返し、紅い瞳を輝かせながら意を決して久路人の布団をめくりあげ・・・・

 

「イン・トゥ・ザ・フトンズ!!」

 

 

 いざ、その中に滑り込む!!

 

 

 ・・・・・・

 

 

「って、やっぱ無理~!!!」

 

 ・・・・込もうとして、寸前で羞恥心が上回ったようだ。

 部屋に不法侵入している時点で恥など捨てているようなモノという自覚はないらしい。

 

「ダメ!!添い寝なんかしたら心臓が破裂する!!」

 

 やはり、妙なところでヘタレであった。

 布団を極めて丁寧な動きで元に戻し、久路人のベッドに背を向けると、勝手知ったるなんとやらというように部屋の押し入れをゴソゴソと漁り始める。

 

「くっ、私のレベルがまだ足りないみたいだね・・・・でも、諦めない!!いつかその聖域を侵してやるんだから!!」

「zzzzz~・・・・」

 

 妙に気迫のあるキメ顔で寝ている久路人に宣言すると、押し入れから取り出した布団をいそいそとベッドの傍らに敷いて横になる。

 

「zzzz~」

 

 実は結構無理して早起きしていた雫はすぐ眠りにつくのだった。

 

-----------

 

「くぅ・・ふぁぁああ~」

 

 ピピピ・・・と朝の目覚ましのアラームが鳴って、久路人は目を覚ました。

 

「もう明るいな・・・・まだ時間は6時半なのに」

 

 季節が巡るのは早いと久路人は思った。

 

「もう6月に入ったのに、いい天気だな。もうすぐ梅雨なのに」

 

 今は6月。

 もう梅雨入りしそうであるが、今日は快晴だ。

 久路人としても雨だと登下校が面倒なので少し嫌なのだが、梅雨は嫌いではなかったりする。

 

「雫と会った時期だから・・・かな?」

 

 久路人にとって、雫は家族であり大切な親友だ。

 そんな雫と出会った時期だからだろうか、梅雨に入るとどこか感慨深くなる。

 

「っと、こんなこと考えてる場合じゃない。雫を部屋から出してあげないと」

 

 普段雫は結界の貼っていない別室で眠っているが、その部屋から出して罠を避けて居間まで連れて行くのは久路人の毎朝の仕事だ。

 ちなみに、久路人は波風立てないようにするために空気を読む努力をしており、数年前から当然のマナーとして部屋をノックしてから開けている。雫が人間の姿になってからは反応がきちんと帰って来るようになったので久路人としてもやりやすくて助かっている。間違えて着替え中に開けちゃいましたなんてベタな失敗はしない。

 きちんと返事が返ってくるまで何度もノックや声掛けをする久路人に、雫はなぜか残念そうな顔をしていたが。

 

 ともかく、そんな風に考えながらベッドから足を踏み出した時だ。

 

「ぐえっ!!?」

「えっ!? 何!?」

 

 つぶれた蛙のような声と、柔らかい何かを踏んだような感触に、驚き床に目を向けると・・・・・

 

「雫、何してんの・・・?」

「えっと、その、お、おはよう?」

 

 気まずそうな顔をした雫と目が合ったのだった。

 

 

 

 

 久路人と雫の、とある朝の風景より

 

 

-----------

 

「え~、教科書の110ページを開いて・・・・今日は地学の続きをやります」

 

 久路人の通う中学校。

 今日は理科の時間であった。

 

「・・・・・」

 

 久路人は教師の指示の通り、教科書と資料集を開き、鉱物の写真の載ったページを見るが・・・・

 

「あ、この石私見たことある」

 

 すぐ隣の席からずいっと身を乗り出して、セーラー服の少女が写真を指差した。

 

「昔、暇つぶしで山の中をうろついてる時に変な色の石があるって思ったんだよね~懐かしいな」

 

「・・・・・」

 

 久路人の席はクラスの人数の関係で、教室の一番後ろにある。

 しかも、後ろの入口はなるべく広い方がいいという意見があり、窓際だ。

 隣の少女はそれをいいことに、誰もいないスペースに水を固めて見えない机と椅子を作ると、久路人の机にぴったりとくっつけて隣に陣取っていた。

 

「後ね、川の中にも丸くてきれいな石がたくさんあったんだ。昔はどういう理屈かなんて考えもしなかったけど、水で角が削られて丸くなるんだね」

 

「・・・・・」

 

 久路人は努めて何でもないように前を見て、教師の板書をノートに取っていた。

 しかし、隣の少女はそれが気に入らなかったようだ。

 

「久路人~!! 無視はよくないよ~!!傷つくんだよ~!!」

(・・・・話は聞いてるけど、今は授業中だから返事はできないよ!!)

 

 久路人にしな垂れかかろうとして、寸前でヘタレたように止めて教科書の上に指で「の」の字を書く少女に、久路人はノートの片隅に書いたメモで答えた。

 

「・・・・あ、ごめん」

(話ならまた後で聞くし、教科書もみていいから、ちょっと静かにしてて)

「うん、わかったよ・・・・でも、これだと前の逆だね。私がしゃべって、久路人が字で答えるなんて」

 

 久路人に言われて静かになったセーラー服の少女、雫が少し面白そうに笑った。

 久路人は少し雫の方を見やると(確かに)と走り書きする。

 

 そうだ。ほんのついひと月前ぐらいまで、自分と雫は言葉で話すことはできなかった。

 だから、自分が言葉を口にして、雫が文字で答えていたのだが・・・・

 

(なんというか、不思議な気分だ)

「ふふ、私もだよ」

 

 雫が人の姿になった後も、久路人はこれまで通りと変わることなく雫と接してきた。

 今ではもう、雫と言葉で話せないことに違和感と不便さを覚えるくらいだが・・・・

 

(っていうか、今日は夏服なんだ)

「うん、最近暑いしね」

 

 雫の服はデフォルトでは白い着物に青の帯であるが、これは雫の鱗が変化したもので、抜け殻のようなものらしい。霧のように自在に形を変えることができるようで、雫はその日の気分で結構服装を変えていたりする。まあ、雫が見せようと思わない限り普通の人間には姿が見えないので、学校では久路人にしか見せていないが。

 ちなみに、抜け殻と言っても蛇の大妖怪の鱗であり、それにふさわしい硬さと、術への高い耐性を持っているので服というよりは鎧と言った方がいいかもしれない。

 

「で、どうかな?・・・・似合ってる?」

(そりゃ、まあ、似合ってるよ)

 

 今日の雫は白地に赤いリボンという、雫そのままの色をしたような服装だった。

 セーラー服のデザインそのものは周りにいる女子と同じものなのだが、初めて見た時には緊張のあまり正面から見ることができなかったという情けない思い出は雫には話せない。

 

「ふふ、よかった!!」

「・・・・・・」

 

 なんとなく気恥ずかしくて、久路人は笑顔の雫から目をそらした。

 そうだ、授業に集中しなくては・・・・

 

「じゃあ、月宮。この空欄に入るのは何だ?」

「は、はいっ!? え、え~とっ」

「久路人久路人、さっきの話の内容だよ」

 

 そこで間が悪いことに教師が久路人を指し、咄嗟のことで混乱していると、雫が教科書の一文を指差した。

 

「あ、え~と、風化に重要な要素の一つは、「流水」です」

「よろしい」

 

 ふぅ、と胸をなでおろしつつ席に着くと、雫がニヤリと笑っていた。

 

「えへへ、一つ貸しだね?」

(お前が邪魔してなきゃちゃんと答えられたってば!!)

 

 何でもない日常の風景であったが、久路人と雫に退屈などする暇はなかった。

 

 

-----------

 

「おーすっ、月宮メシ食おうぜー」

「あれ、なんかここ湿っぽくね?」

「き、気のせいじゃないかな?」

 

 昼休憩。

 給食の時間である。

 久路人と雫が配膳から給食を受け取ると、声をかけてくる男子たちがいたので、久路人は机を寄せながらも誤魔化した。

 久路人が目配せをすると、渋々といった風に雫はそれまで座っていた机を消す。

 ちなみに、このクラスはなぜか給食の量が一人分多く、食器がいつのまにか一つ多く戻されていることに誰も気付いてない。

 

「お~、今日はラーメンか」

「ソフト麺だけどな~」

「この辺にぃ、美味いラーメンの給食、あるらしいっすよ」

「あ~、いいっすねぇ~」

 

 久路人の近くに来た男子は4人。

 上から、池目(いけめ)半侍(はんじ)田戸(たど)近野(こんの)という。

 池目君と半侍君はクラスでもイケメンであり、池目君とは先日の窓奈(まどな)の件からそこそこ話すようになったのだ。

 そこから池目君の友達である半侍君とも知り合うようになった。

 そうこうしているうちに二人が所属する水泳部で、肌が浅黒い田戸君とどこかトカゲを連想させる近野君とも一緒に昼を食べるようになった。

 クラスで平穏に過ごすには、誰とも関わらないよりも明るい人とそこそこ仲良くしておく方が何かとやりやすいということを久路人は良く知っていた。

 まあ、この4人は性格も良く、久路人としても話しやすいのだが。

 

(ただ、雫は田戸君のことをなんかすごい警戒してるんだよね・・・・)

「久路人、あの黒いのには近づいちゃダメ!!!」

 

 今も一番端に陣取った僕の隣に机を作り直して、トレーを抱えながら紅い瞳を細めている。

 

 この前近野君と一緒に田戸君の家に誘われ、彼の大きな家を訪れたのだが、雫があまりにもピリピリしているので出されたアイスティーも飲まずに帰ってしまったのだ。

 結局近野君だけ残してしまったが、あの日以降妙に田戸君と仲がいいように見えるけど、何かあったのだろうか?

 

「なあなあ、月宮も水泳部入んねー? お前も結構運動神経いいしさ」

「そうだよ」

「入りませんか?入りましょうよ」

「あ~、ごめん、家、門限厳しくてさ。部活やるくらいなら勉強しろって」

 

 久路人が少しぼーっとしていると、いつの間にか自分に話題が振られていた。

 

「月宮の家、厳しいよなー」

「確か、友達でも家に呼んじゃダメなんだっけ?」

「そうなんだよね~。しかも勉強頑張らなきゃいけなくてさ」

「月宮結構頭いいもんな~ でも、親が厳しいのは嫌だよなぁ」

 

 表向き、久路人はどこにでもいる普通の学生を装っている。

 だが、一般人に作用する仕掛けはないが、万が一に備えて久路人はなるべく家に他の人間を呼ばないようにしていた。

 「親が厳しい」、「家が遠い」といった理由で、久路人はのらりくらりと回避している。

 

「そういや、月宮は、あの後大丈夫か?」

 

 そこで、半侍君が小声で何事かを聞いてきた。

 

「あの後って?」

「いや、ほら、窓奈のことでさ。あいつ、池目の前はオレにもベタベタ来てなんか気持ち悪かったし・・・」

「うげ、マジか。粉かけまくりかよ」

「へぇ~、そうだったんだ。でも大丈夫だよ」

 

 あの雫が人化した日のことがよほど恐ろしかったのか、あるいは京あたりに「ナニカ」されたのか、久路人に絡んでくることはなかった。

 結局あの件を異能の力なしで収めようとしたのだが、雫が個人的には嬉しいが強引極まる方法で追い払ってしまったため、どうなるかは不安だったのだが・・・

 

『まあ、これはしょうがねぇな。中学生でこんなんとか将来やばそうだな、オイ』

『私としては、殺さずに済ませた雫様の忍耐を褒めるべきかと』

 

 雫と手をつないで帰った後、事情を説明するとともにボイスレコーダーの内容を聞かせたのだが、京とメアの反応はこんなものだった。

 元々穴の開きやすいこの地域では、多少力を使っても大した影響はない。だが、大ごとになっても困るので、これからはヤバそうなのがいたら連絡しろとは言われたが。

 

「窓奈は顔はいいんだけどな~」

「性格ブスってやつだよな~。性格良けりゃ結構タイプなんだが。なあ、そうだ。お前らは好きなタイプのやつっているか?」

 

 ふと、思いついたように池目君がそんなことを言い出した。

 

「俺はB組の広井(ひろい)かな」

「オレはC組の愛土(あいど)だな~。田戸は?」

「そうですねぇ~、やっぱり僕は王道を行く~、近野ですね」

「先輩・・・・」

 

 何やら近野君が感極まったような声を上げているが、二人は同級生である。

 一体二人の間に何があったのだろうか。

 

「ハハハ、お前らは相変わらずネタ上手いな~・・・月宮は?」

「え?僕?」

 

 なんというキラーパス。

 僕にその話が振られた瞬間、隣でガタッっと何かが震える音がした。

 

「・・・・・・・」

 

 久路人はものすごい圧力と冷気を感じていた。

 気のせいか、紅い光がギラギラと輝いている気がする。

 

(雫!!抑えて抑えて!!)

「・・・・・・・」

「あれ、なんか寒くね?」

「誰かクーラーつけたのか?」

 

 池目君たちが突然下がった気温に不思議そうな声を上げていた。

 これは、早く答えた方がいいと久路人は判断する。

 

「・・・・・・」

 

 隣の少女が何か期待するような眼をしているが・・・・・

 

「う、うーん、僕は特にいないかな」

 

 久路人の脳裏にその白髪紅眼の少女の顔がチラリと浮かんだが、そんなことを口に出したら痛い二次元オタクのレッテルを貼られてしまうだろう。

 故に、久路人の回答は無難だった。

 

「っ!!っ!!っ!!」

(ちょっと、雫、止めろって!!)

 

 もっとも、隣に座る少女にはいたくお気に召さなかったようだが。

 久路人がそう言った瞬間、一気に不貞腐れたような表情になると、給食のサラダを久路人の皿に移し始めた。

 

「まあ、月宮らしいな~」

「お前は、なんかそう答えるって気がしたわ」

「あ、それよりさぁ~」

 

 幸い、雫が冷気を抑えたのか気温はすぐに戻り、話題は次に移っていった。

 

「クソっ!!!あの女が日和ってなければ!!! 「謎の転校生」ってポジションで介入出来たのに!!!」

(おじさんありがとう、雫を抑えてくれて)

 

 雫としては、一応建前上は「久路人を庇うのには人間の姿の方が都合がよい」ということだった。

 しかし、ちょっかいをかける人間がいなくなったのと、「お前、周りに見られてる状態で妖怪とどうやって戦うつもりだよ?それに、生徒として潜り込んだら別行動も結構あるだろうが」という京の正論であえなく撃沈し、結局は今まで通り他の人間に見えないように久路人にくっついて護衛を続けることになったのだ。

 

(なんだかんだ言って、僕も護衛されるような異能側の人間なんだよね。まあ、僕としては今の方がいいし)

 

 雫が他の人間に見えるようになったとしても、その手綱を握るのが久路人であるのは確定だ。

 一体どれほどの気苦労があることか。

 

(それに・・・・いや、気のせいだな)

 

 

 雫を他の人間に見られたくない

 

 

 そんな思考を久路人は一蹴するのだった。

 そして、意識を目の前に戻す。

 

(そう、僕は異能者だ)

「でさ~、この前のテストの結果がさ・・・」

「あ~、難しかったよなぁ」

「問題の出し方がいやらしかったよね」

 

 どこにでもあるような、日常の会話。

 久路人としても中々に心地よい気安さがある。

 嫌ではない。むしろ好ましいだろう。

 

 だが・・・・

 

「久路人、分かってると思うけど・・・・」

 

 久路人の目に映る感情に気づいたのか、雫が声をかけるが、「わかっている」というように久路人が小さく頷いたので、それ以上言うのは止める。

 

(あまり、深くかかわるのは止めておいた方がいいんだろうな)

 

 きっと、この先彼らを月宮家に招くことはないだろう。

 自分の身の上も、両親がいないことも、養父がいることも話すことはないはずだ。

 だが、それでいいのだ。

 

(その方が、きっとお互いにとって「安全」だから)

「・・・・・・」

 

 雫が久路人の袖をいたわるように掴む。

 

 それからも、他愛ない会話は続き、昼休みは過ぎていった。

 

-----------

 

 

 昼休みと午後の授業が終われば、もう夕方がやって来る。

 夕方が過ぎれば、夜が来る。

「異能の力を持つ者たち」の夜が。




作者に「オラァ!!もっと早く書けやぁ!!」と催促したい方!!
評価ポイントか感想、もしくはその両方をぜひともお願いします!!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。