白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話   作:二本角

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この3連休でめっちゃ話すすめてやるぜ~というスタイル。書き溜めできるといいな。
唐突ですが、キャラの外見について。

久路人:鬼滅の蛇柱さんっぽい。目つきは柔らかい。
雫:月姫の白レンからリボンとって成長させた感じ。
京:千年戦争アイギスのアトナテスを茶髪にした感じ
メア:艦これの矢矧な感じ

大体こんなイメージ


前日譚 高校生編4 修学旅行一日目

 葛城山。

 それが久路人たちが修学旅行で訪れる山の名前だ。すぐ近くには別の山々がひしめいており、それらに囲われる湿地帯が遊歩道として全国的に有名な観光地である。修学旅行の日程は3泊四日であり、一日目でバス移動と葛城山付近にある寺社の見学、2日目で湿地帯遊歩道を縦断し、3日目は葛城山登山とかなりのハードコースだ。「これで一体何を学べるんだよ?運動部の合宿か何かか?」と疑問を呈する者も多いが、それらは「伝統だから」との一言だけで一蹴されていた。そして、今は一日目。バスから降りて昼食を摂った後、学生の一団は門前町を訪れていた。

 

「わぁ~!!」

「賑やかなところだな・・・・」

 

 久路人と雫は人生で初めて訪れる観光地の賑わいに驚いていた。これまでは人外の襲撃を考えて生まれ育った街に籠っていたために観光など夢のまた夢であったが、実力を認められたことならびに京の様々な事前準備もあって他の一般生徒と同じように観光ができていた。実に好奇心旺盛な高校生の旅行らしく、各自気の合うメンバーとグループを作って方々を見て回っているが、無論久路人はボッチである。そんなことを口に出そうものなら「私がいるじゃん!!」と大声で否定されるだろうが。

 

「なんかすごいいい匂いがするね~」

「なんだろう?饅頭かな?」

 

 好奇心旺盛かつ手が早いのが原因で封印された雫はもちろん、普段は大人しい久路人も今日はどこか浮ついているのか、あちこちの露店を覗いている。今見ているのは白い湯気がもうもうと湧き出る店で、甘い匂いが漂っていた。雫と二人並んで見てみれば、匂いの通り饅頭だったようだ。

 

「すみませ~ん、二つ下さい!!」

「あ!私はあの桃色のやつがいい」

「白いの一個と桃色の一個で!!」

 

 雫が指差した饅頭とオーソドックスな形をした一口サイズの饅頭を買った久路人は早速雫に一個渡し、自分の分を食べる。

 

「ん~甘さ控えめ」

「でも、しつこくなくていいよ。僕はこういうの好きだな」

 

 雫も久路人の隣で饅頭を口に放り込み、味わった後にゴクリと飲み込んだ。

 空中でいきなり饅頭が浮かび上がって消えた、と思われるような光景だが、気にするものは誰もいないし、久路人も雫もそれを当然のように受け入れている。中学のころ、雫が給食室からトレイやらなにやらを勝手に取っていって、教室まで運んできても誰も気付かなかったように。

 雫は普段は他の人間には見えない。意図的に姿を見せることもできるが、本人が面倒がってやりたがらない。実際、雫のようなアルビノ美少女がいたら注目を買うのは間違いないだろう。だが、慣れている久路人からしても、人が多く出歩く表参道で饅頭のイリュージョンマジックが行われてるのに誰も注目しないと考えると不思議な気分になるようだ。

 

「それにしても、こんなに人がいるのに誰も気が付かないなんてな~」

「私は気付かれない方がいいよ。幽霊騒ぎとかなって変なのが寄ってきたら嫌だし」

「ごもっとも・・・」

 

 中学の頃を思い出し、思わず久路人は苦い顔になる。雫の行動が気にされないのは、京と久路人謹製の術具のおかげである。

 姿の見えない存在が行動しても、その影響を感じさせないようにするために、雫が人化してすぐに京は術具を作った。ただし、メアが「初めて雫様に物を渡すのが京というのは腹が立つので久路人様に作らせましょう。雫様も喜ぶでしょうし」と言ったことで久路人が京の手ほどきを受けながら組み立てた物だが。幸い久路人は元々器用で、雷起を使った場合には米粒に仏を彫れるレベルなので無事に仕上がり、今も雫の腕には銀色の腕輪が嵌っていた。久路人が初めて渡した際に「これ、家宝としてショーケースに仕舞っておくね」と言って恍惚とした表情で言い放ち、「それじゃ意味ないから着けててよ」と突っ込んだことは未だに久路人の記憶に残っている。今でも時々はぁ~っと息を吹きかけては布で磨いたりしている。ちなみに久路人同様に雫の力に耐えられる素材を用意するのが難しい関係ですでに3代目だ。そして、雫の着けている腕輪と同じデザインの腕輪が、久路人の腕にも嵌っていた。

 

「妖怪にも気づかれてないみたいだしね」

「というか、この辺り一帯に妖怪いないんじゃないかな。この辺りは私たちの街より穴が空きにくいみたいだし」

 

 久路人の腕に嵌っている腕輪は、普段身に着けている気配封じの護符の強化版だ。耐久性を度外視して効果のみを突き詰めており、5日間くらいで壊れるだろうと京には言われている。そして、事前に京が複数の術具を起点として湿地を囲うように設置した結界があることで、短期間の間だけだが、雫のように登録した妖怪以外には強力なデバフがかかっていることもあり、久路人が襲われるリスクはほぼ0だ。加えて、お守りには新しく「幻術破り」の効果が付与されたものも持たされている。元よりこの辺りの土地は異能者の一族が集まって管理する土地であるが、異能の力が弱いのか他に原因があるのか知らないが、忘却界の綻びも少なく、穴が空いたとしても小物しか出てこないらしいのだ。そこを管理者の一族がきちんと締めることでこの付近の治安は保たれているのだとか。数年前までは表向きの事業が危うく、そちらにかかりきりで結構杜撰な管理だったとのことだが、事業がここ数年で安定し、異能関係にもしっかり手を回せるようになったらしい。

 

「久路人、久路人!!せっかく何の心配もしないで観光できるんだし、喋ってるだけじゃ勿体ないよ。早く次行こ」

「ああ、うん。そうだね」

 

 少し物思いにふけっていた、久路人は雫の言葉で我に返り・・・

 

「わ!?」

「おっと!」

 

 他の観光客の一団が通りすぎてできた人の波が二人の間に入り込み、少しの間二人はお互いが見えなくなった。

 が、すぐに雫は飛び上がると、久路人のすぐ上で止まる。その顔はせっかくのいい気分を邪魔されたとばかりに不満げだ。

 

「も~なんなのあれ!!」

「まあまあ、しょうがないよ人多いし、雫は見えてないんだから」

「むぅ・・・」

 

 普通の旅行者からみれば、この人混みのなか空いているスペースがあれば通ろうとするのはしょうがないと久路人は思う。だがまあ、いちいち今みたいなことがあっても面倒だし、雫もつまらないだろう。ついでに久路人ととしても、混雑の中で浮いている雫に話しかけるのは変な目で見られそうだし、首も疲れる。「しょうがないか」と久路人は小さく溜息をつきながら歩き始めた。

 

「まったく、服のなかに氷でも突っ込んで・・・」

「それはやめてあげなよ・・・あと、ほら、雫」

「へ?」

 

 不穏なことを企む雫を宥めながら、久路人は自分を道の中央側へ、雫を路肩の方へ誘導するように歩いてから、宙に浮かぶ雫に手を差し出した。

 その手に、雫は呆けたような反応をする。

 

「何度もああいうのが来てはぐれたら困るだろ?僕もお前も土地勘ないんだし。それに、上を見ながら喋るのは変人だって思われるかもしれないし、首が疲れるんだよ」

「・・・・・」

 

 どこか言い訳がましく若干早口で言う久路人を雫はポカンと見ているだけだ。久路人としても気まずくなってくる。やはり、こういうのは自分には似合わなかっただろうか、と。

 

「あ、その、ゴメン。やっぱりなし・・・・」

「わ~!!!待った待ったタンマ!!!」

 

 久路人が手を引っ込めようとしたところで、雫は再起動した。大慌てで丁度良い高さまで降りて、久路人の手を一瞬見つめる。ためらうように、緊張したかのように一瞬止まるも、おっかなびっくり手を伸ばして、久路人の手を掴んだ。

 

「わ、私も下を見ながら話すのは話しにくいし、お店も見にくいし、その・・・・」

「えっと、うん。そうだよね・・・」

 

 しどろもどろといった感じで、二人は手を繋いだはいいものの、なんとなく気恥ずかしい。

 家族のように育った仲といえど、多感な思春期であるゆえに異性と手を繋ぐというのはかなり緊張してしまう。それに、どうしても二人は思い出してしまうのだ。手を繋ぐということそのものが、あの月夜の帰り道を想起させる。

 はて、あの時はどうやってこの気まずい雰囲気をどうにかしたのだったか。

 

「あ、また・・・」

「とりあえず、行こうか」

「う、うん」

 

 そのまま、どちらがリードするかということも決められず、二人で立ち止まっていたが、またしても観光客の集団がやってきた。どうしても動かざるを得ない状況になってしまったので、道の中央側にいた久路人から人ごみを避けるように動き出す。

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 それでも、しばらくは何を話せばいいのかお互いにわからなかった。気になるのは、そのたくましく力強さを感じさせる久路人の手の感触と、柔らかくて心地よい雫の手の触感だけだった。しかし、そこは滅多に来れない観光地。話のタネはいくらでもある。歩き続ける内に、また別の土産物屋が見えてきた。

 

「あ、木刀が置いてある。本当に観光名所には置いてあるんだ。久路人、買ってく?」

「う~ん、結構高いな。止めておくよ。刀なら自前のあるし」

「そういやそうだね。でも、久路人なら木刀で鉄とか斬れたりしない?」

「・・・・雷起使えば、できなくない、かも?」

 

 色気も何もない話だが、よく一緒に武器をぶつけ合う仲ゆえに、そんな話題でも盛り上がる。他にも竹でできた水鉄砲が置いてあったりして、そちらにも関心が移っている内に、いつの間にか二人からは緊張が取れていた。そのまま二人の会話は弾んでいき、手を繋いでいるのも自然なことのように思えてくる。

 

「あ、遠くの方にいるの、田戸君たちじゃない?」

「本当だ。木刀買ったんだ、あいつら・・・」

 

 「邪剣夜逝魔衝音(じゃけんよるいきましょうね)~」と叫びながら木刀を振り回している知り合いを発見し、少し引いたりした。田戸君は直後、ムエタイが得意そうな空手部の顧問にぶっ飛ばされていた。

 

「ん~!!この大福、桃入ってておいしい!!」

「僕のはリンゴだったよ」

「あ!!じゃあちょっとちょうだい!!」

「いいけど、そっちのも一かけら欲しいな」

 

 また露店の香りに誘われて大福を買ってみると、中身が違ったようなので、少し交換して食べた。雫は自分が食べた部分をかじってもらおうか少し悩んでいたが、久路人が口を付けたのと反対側をちぎって渡してきたのを見て、自分もそれに倣った。洗濯物の臭いをこっそり嗅ぐのは常習犯なくせに、こういった急に訪れる王道展開ではやはりヘタレである。だが、モノを食べるために一度は手を離したが、次にまた歩き始めるときには雫から自然と手が伸び、久路人も動じることなくもう一度手を繋ぐ。

 

「おじさんたちのお土産、今買っちゃおうかな・・・」

「旅館に置いておけばいいと思うから、別にいいけど、嵩張るのは止めた方がいいんじゃない?」

「う~ん。食べ物系とかかな?」

「なら、あそこに置いてある激辛せんべいとかぬか漬けでよくない?」

「まあ、普通な感じの買ってもつまんないかなぁ」

 

 さらに進んだ先の土産物屋で、京たちに買っていくお土産を物色してみる。雫はネタに走りがちで、尖った物を買いたがっていた。久路人としてもせっかくの旅行なんだしということで普段の無難なチョイスから外してみようと思ったようだ。結局京には「激辛!!人間の食う物じゃないよ煎餅」、メアには「THE職人技~100年ぬか漬けの香り」というよくわからない物を買っていくことにしたのだが、そこで久路人はあるものに目が止まった。

 

「あ、ちょっと私に似てるかも」

「おお、いい湯のみだな」

「「・・・・・・」」

 

 手を繋いでいるのとは、逆の方の指先が触れ合った。思わず顔を見合わせる。

 二人が手を伸ばしたのは、同じものだった。白い蛇が水墨画のようなタッチで描かれた湯飲みである。久路人はちょうど今家で使っている湯飲みが色々と欠けてきたので、新しいモノが欲しく、雫は蛇の絵が「なんとなく見た目が自分に似てる」と思ったのだ。

 

「「えっと・・・」」

 

 二人して何か言おうとして、ハモってしまい、次の句が継げなくなるが、既に二人の手は繋がれている。もう気まずくなることはなかった。クスリと軽く笑い合いながら、雫は久路人に聞く。

 

「これ、買うの?」

「うん。ちょうど欲しかったし。雫も欲しい?」

「あ~、私もちょっと欲しいかもって思ったんだけど・・・・」

「なら、いいよ。これは雫ので。同じの買うのもアレだし、湯飲みが欲しいだけだから。僕はあっちの少し違うやつ買うから」

「え!?それならお金は私が払うよ。さっきの饅頭とか奢ってもらっちゃったし」

「え~、これ1000円近いし、払ってくれるにしても普通に折半でいいよ。おじさんから結構もらってるし」

「それは私もだけど・・・久路人がそう言うなら」

 

 ちょうど隣に少しポーズの違う白蛇が描かれた湯飲みもあったので、久路人はそちらを選ぶことにしたようだ。二人とも修学旅行前に口座から大目に引き出しており、懐には余裕があった。再び二人で並んでレジまで歩き、包んでもらう。

 

「さすがに、ここで使うのは早すぎだよね」

「濡れた湯飲みをカバンに仕舞うのは嫌だな・・・・帰ってからにしよう」

「うん」

 

 そうして、二人は歩き出す。普段は味わえない刺激を存分に味わうために。二人一緒に。

 班行動の時間になるまで、二人は手を繋いで露店を見て回ったのであった。

 

 

-----------

 

 ざわざわと、その場所では学生たちがざわめいていた。

 まさしく観光名所と言わんばかりに整備された古めかしい石畳とその両隣にある白い砂利。砂利道のさらに向こうにはこれまた手入れの行き届いた杉の木立をバックに絵馬やらおみくじやらが結ばれた看板が立ち並ぶ。中央の石畳の道は赤い鳥居に繋がっており、鳥居の向こうには大きな神社が見えた。

 だが、学生が、特に男子たちが騒いでいるのは、そんな風光明媚な観光スポットが原因ではなかった。

 

「あ~、お前ら大人しくしろ。今日から、お前たちにこの辺りのことを教えてくれる、ガイドさんを紹介する」

「皆さんこんにちは!!これから3日間ガイドを担当する、葛原 珠乃(くずはら たまの)って言います!!よろしくお願いしますね?」

「「「「「はぁい!!!」」」」

 

 学年主任兼空手部顧問の夏吉先生がそう言うと、ガイド、葛原が笑顔で挨拶をした。威勢の良い返事が即座に帰って来る。ほとんど男子の声であったが。だが、それも無理もない。葛原は控えめに言ってもかなりの美人であった。軽くウェーブのかかった黒い長髪に、やや糸目気味のたれ目、整った顔立ち、モデルのような長身。なによりも・・・・

 

「デカ・・・・」

 

 PCのフォルダにそれ系の画像を密かに収集している久路人は、威勢の良い返事には加わらずとも思わずその感想を口に出しそうになったが・・・

 

 

 ガッ!!!

 

 

「ねぇ久路人は知ってる?前にテレビで見たんだけど、目玉って冷やすと血行がよくなるんだって」

 

 底冷えのするような声とともに、久路人の視界が塞がれた。久路人の頭蓋を圧砕させるつもりかと疑いたくなるような力で雫は久路人の両目を手で塞いでいた。その手は雫の言う通り真冬の水道から出る水のように冷え切っており、「冷やすっていうか、凍らせるつもりだよね?」と言わんばかりであった。当然、久路人の健康を促進させようとする言葉の内容とは裏腹に、その声には感情が込められていなかった。

 

「・・・あの、前が見えないんだけど」

 

 「今の雫に堂々と言い返すのはマズい!!」と本能で察した久路人は、恐る恐ると言うように雫に抗議する。

 

「ん~?前に進むときは私が合図するから大丈夫だよ?それに、久路人なら黒鉄なしでも目をつぶって1500m持久走とかも普通にできるよね?今の久路人を見てるとセクハラで訴えられないか心配だからしばらくこうしててあげるね」

「・・・・はい」

 

 久路人が収集している画像のことも完璧に把握している雫は、弾むような声でそう言った。やはり、その声は絶対零度である。気のせいか、目を塞いでいる手の温度も下がった気がする。久路人としては、いや、男として「女の胸ガン見してたよな?」と言外に言われた方は従うほかなかった。そんな様子の久路人を見て、雫は若干溜飲を下げたようだが、それでもその目は憎々し気に葛原を、正確にはその体の一部を睨んでいた。

 

「クソッ!!!なんだあのぶくぶくと肥え太った胸は!?一体何を食ったらあんな・・・というか、周りの雌どももよく見たら妾より・・・・クソッ!!!哺乳類どもが!!!」

「・・・・・」

 

 久路人には聞こえないように小声で言ったようだが、隠しきれない負のオーラのおかげで雫が言いたいことを久路人はなんとなく察した。しかし、口には出さない。間違っても、「雫は確かに控えめだけど、全然ないわけじゃないから」などというフォローになってない慰めなど口にしない。もしもそんなことを口走れば、葛城山は一足先に秋真っただ中から真冬に突入するだろう。

 そんな二人のことなど見えていないかのように、葛原はにこやかにガイドとしての務めを果たす。

 

「それじゃあ、皆さん行きましょうか。まずはこの先の葛城神社へ・・・エンッ!!?」

「お?葛原さん、大丈夫ですか?」

「い、いえ、大丈夫です!!ちょっとゴミが鼻に入っただけなので・・・あはは、じゃあ改めて、行きましょうか」

「「?」」

 

 一度生徒たちを見回すように首を回し、ちょうど久路人たちが視界に入ったところで、葛原は突然えずいた。その反応を久路人も雫も不思議に思ったが、葛原が何事もなかったように歩き出したので、すぐに気にするのを止めた。というよりもだ。

 

「え?雫、本当に目隠しして・・・?」

「久路人なら余裕だよね♪」

 

 久路人の視界を塞ぐのと、視界を塞がれたまま歩くのに気を取られてそれどころではなかったのだが。結局、久路人の目隠しが外されたのは石畳の奥の神社に着いてからだった。

 

 「意外と早く済んだな」と久路人は思ったのだった。

 

-----------

 

昔々、この場所には悪い怪物がおりました。

 

怪物は人々が争っているところを見るのが大好きで、村人を化かしては、喧嘩をさせていました。

 

捕まえて懲らしめようと思っても、動きが素早くて中々捕まりません。

 

村人たちが困り果てていると、村に二人の旅人がやってきました。

 

お侍さんとお坊さんの二人組です。

 

「お前たち、一体何があったのだ?」

 

「・・・・・」

 

なんだか怖い顔をしたお侍さんと、笠と頭巾で顔がほとんど見えないお坊さんの二人はとても怪しかったので、疑り深くなっていた村人たちはお坊さんがそう言っても何も言いませんでした。

しまいには、「出ていけ」と言って石を投げられ、二人はすぐに立ち去っていきました。

 

「困ったな。このままでは横になれない」

 

「山の中で寝床を探そう」

 

二人は山の中に入ると、そこに化物が現れました。

 

化物は笑いながら言いました。

 

「あっはははは!!!化物だと疑われて可哀そうに!!今日は凍えて眠るといい!!」

 

「なんだと」

 

「お前が悪いのだな?」

 

怒った二人は化物を倒し、岩に封じ込めました。

 

化物を倒した二人は村に言いに行きましたが、村人には信じてもらえず、もう一度追い出され、今度こそ村には戻りませんでした。

 

しかし、化物を封じ込めた岩は魔除けになったらしく、村人は平和に過ごしましたとさ

 

めでたしめでたし

 

-----------

 

「「・・・・・・・」」

 

 「ツッコミどころの多い話だな」という顔で、久路人と雫は神社の境内の隅にあった立て札を眺めていた。どうやら、この地方に伝わる伝承を記したものらしい。

 

「村人の性格クソすぎない、コレ?」

「その二人も化物を一行で倒すとかどんだけ強いの?って感じだよね。というか、どうして殺さなかったんだろ。私なら封印なんてしないで凍らせて砕くけど」

 

 作者もよくわからないような昔の伝承にそんなツッコミは野暮だろうと思いつつ、二人は看板を眺めていた。今は神社の内部を見学した後に境内のあちことを見回っている最中なのだが、久路人はこのポツンと立っていた看板が気になったのだ。そうして二人、一般人から見れば久路人一人で看板を見ている時だった。

 

「このお話、気になりますか?」

「え?」

「む!!」

 

 すぐ近くに葛原が来ていた。他の男子たちはどうしたのだろうと見回してみると、田戸君と別人のように凛々しい顔立ちの二浦君が境内の中央辺りで迫力のある殴り合いをしていて、みんな夢中になっているようだった。さすがは全国出場も経験したことがあるという空手部員。見事な演武である。どうしてそんなことになったのか?とか、二浦君の足元に転がっている折れた木刀とペンギンのぬいぐるみはその騒動に何か関係があるのか?とかは分からないが。ちなみに、雫は葛原が近づいてきた時点でもう一度目隠しをしようとしたが、さすがに不審がられるかもしれないので取りやめ、今は警戒の眼差しを向けるだけにとどまっている。

 

「えっと、そうですね。僕、こういう昔ばなしに結構興味があるので、あはは」

「まあ、高校生くらいなのに珍しい。そういう人がいてくれるのは、ガイドとして嬉しいで・・クシュン!!」

「だ、大丈夫ですか?」

「ええ、また鼻に少し・・・」

「それ以上近づくと凍らせるぞ、豚が・・・・」

 

 久路人か、はたまた看板に近づいてきたかと思えば急に鼻を押さえた葛原を見て、雫が警戒レベルを上げ、久路人も思わず心配しながら後ずさる。そんな様子を刺激から回復した葛原は、一瞬怪訝な表情で見ていたが、すぐに看板に向き直った。

 

「君は、このお話をどう思いました?」

「どう、ですか?」

「ええ。なんでもいいですよ。どんな感想を持ちましたか?」

 

 男子たちに愛想を振りまいていた朗らかな感じとは異なる、静かな雰囲気だった。なんとなく、答えなければと思わせるような不思議な迫力があった。

 

「そうですね・・・旅の二人組が強いなとか、村人の性格悪いなとか・・・」

「ふふ、そうですね。村人を困らせていた化物を一瞬で倒してしまうなんて、とても、とても強かったのでようね。それに、そんな強い二人と知らないで二回も追い出すなんて、性格が悪いというか・・・・・とんでもない馬鹿としか」

「はあ・・・」

 

 ふふ、と柔らかく笑いながらも辛辣な評価を下す葛原に、久路人も雫も意外そうな顔をする。あの最初の挨拶は演技だったとは思えないくらい心が籠っているように思えたのだが、このニヒルなのが素なのだろうか。

 

「他には、何かあります?」

「え?他にですか?・・・そうだな、化物ってどんな奴だったんだろうか、とか」

「・・・・・・」

 

 久路人がそう答えた瞬間、ザァッっと風が吹いて、落ち葉が久路人と雫の視界を遮り、葛原の表情が少しの間見えなくなった。

 

「・・・・・・」

 

 風はすぐに止み、次に見た時には、柔らかな笑みがそこにあった。

 

「ふふ、この辺りの伝承を調べてみても、この化物の正体は分らないんですよ。一説には、大熊だったとか、化物のフリをした詐欺師だったとか言われてますね」

「へぇ~」

 

 「そんなものか」と久路人は思った。こういうのは、観光客向けに色々と脚色するものだと思ったのだが。

 

「昔のことってわからないことが多いんですね」

「はい。こういうことは、色々と都合のいいように変えられたり、逆に外聞の悪いことは消されたりしてしまいますからね。この化物の正体にしたって・・・・意外とすぐ近くにいるモノがそうだったのかもしれませんよ?」

 

 初めて見た時のようなほほ笑みを浮かべながら、葛原はそう言った。

 

「「・・・・・」」

 

 どうしたわけか、久路人は、そして雫も、今の葛原に対して何も言うことができなかった。何か反応を返してはいけないような、そんな気がしたのだ。

 そして、そんな微妙な雰囲気を察したのか、あるいはそうでないのか、葛原はそこで腕時計を見る。

 

「あ、いけない。そろそろバスが出る時間ですね。君も急いで戻ってください。私も行きますから」

「あ、はい」

 

 そうして、久路人と雫はバスの方に走り去っていった。久路人は足が速いので、すぐに境内からいなくなる。

 

「・・・・・本当に」

 

 振り返ることなく走った久路人も雫も見ることはなかった。

 

「・・・・本当に、度し難い愚か者どもが」

 

 葛原が、心底下らないモノを見る目で立て札を見ていたところを。

 

 




さて、もうちょっと引き延ばします。
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