白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話   作:二本角

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このお話は色々危ないのでハーメルン版のみ連載。
時期的には3章終了後の、久路人と雫が結ばれ、久路人が人間やめた後なのでネタバレ塗れと言えばネタバレまみれです。

3章の季節を夏にしたのは、この話が書きたかったからです。
お気に入り、評価が激減するの覚悟で書きました。
念のため書いておきますが、私は久路人×雫以外書くつもりはないのでそこはご安心を。

一応、こういうのはよほどリクエストがない限り今回限りにしよっかなと思ってます。


昏睡レイ〇!? 野獣と化した白蛇

「ふぅ・・・」

 

 明け方、月宮家の離れにある久路人の自室で、雫は目を覚ました。

 

「ん~!!外はもう明るいけど、まだ5時か~。もうちょっと寝てよっかな・・・」

「ZZZ・・・」

「ふふふっ!!下半身にあんな凶悪なドラゴン飼ってるくせに、寝顔はかわいいなぁ・・・」

 

 部屋の主である久路人はその鍛え抜かれた上半身を晒しながらも未だに夢の中にいた。雫の言う凶悪なドラゴンは、布団の中に包まれているために見えない。昨晩雫の渓谷で激闘を繰り広げて消耗したからか、布団の外から見てもその輪郭は分からなかった。

 

「・・・ふふ、人外になっても朝弱いのは変わらないんだね。えいっ、ツンツン」

「む~・・・?」

 

 雫が頬を指でつつくも、起きる気配はない。

 今の久路人は雫と同じ妖怪のような存在であるが、人間であった時からの習慣というのはそう簡単に変わるものではないらしい。

 

「さてと、でも、目が覚めちゃったしな~・・・あ、そうだ!!」

 

 しばらく久路人の頬を突いて遊ぶ雫であったが、眠気もそれで消えてしまったようだ。

 『さて、それではこの時間をどうしよう?』と考え込むも、何やら妙案を思いついたらしい。

 

「よいしょっと」

 

 枕元に置いてあった指輪を左手の薬指に嵌め、何も身に着けていなかった裸身に白い着物を纏ってから雫は久路人のベッドから降り、部屋の隅に置いてある段ボール箱を漁り始めた。

 箱には『雫・同人コレクション』と書かれており、雫が久路人の部屋に持ち込んだ漫画が詰め込まれているようだ。

 

「せっかくだし、新しいネタ仕入れとこっと・・・」

 

 箱から取り出した厚みの薄い漫画を取り出しては放り出し、取り出しては横に置きながら、雫はお気に入りの漫画を探している。

 何をしているかと言えば・・・

 

「う~ん・・・昨日は『稲荷寿司を運んでたバイトがつまみ食いしたのがバレたせいで客に強請られる』ってシチュだったし、今日は・・・」

 

 ここのところ、若い身体を持つ二人は夜にそれはもう色々と仲を深めているのだが、最近は新しい刺激を求めてすでに存在している創作物のシチュエーションを再現するのが二人の間で流行っているのだ。

 今やっているのは、そのネタ探しである。

 ちなみに、昨日の夜の配役は久路人がバイト役で、雫が客の役だった。

 特に西日本に住んでいたことはなかったはずなのだが、『雫の関西弁の演技が本当に迫真だった」と後に久路人は語る。

 

「あ!!これにしよっと!!明日は講義も一コマしかなかったし、前にメアからもらったアレもある。イけるね・・・ふふっ!!」

 

 そうしてお目当てのシチュエーションを見つけたのか、雫は紅い瞳を輝かせて妖しい笑みを浮かべ・・

 

「う~ん・・・」

 

 そんなこともつゆ知らず、久路人は遅刻寸前まで眠りこけるのだった。

 

 

------

 

 

 ジーワジーワと、蝉の声が響く昼下がり。

 月宮家のすぐ近くの下り坂を、久路人と雫は歩いていた。

 久路人の手には買い物袋が下げられており、どこかからの買い物帰りなのだろう。

 もう片方の手は、しっかりと雫の手と繋がれている。

 

「ん~いい時には結構行くよね」

「え?あ、そうだね?」

(え?何の話?雫、何を言ってんだ?)

 

 取り留めのない会話をしながら歩く二人であるが、その距離は近い。

 うだるようなクッソ熱い気温だというのに、そんなことよりも二人でくっついている方が大事だと言わんばかりであった。

 まあ、共に人外である二人にとっては日光どころか火炎放射器の直火焼きでも大したダメージにならないことを考えれば、夏の日差しくらいはなんとでもないのだろう。

 そうして歩く二人であったが、行く手にこれまでの人生を過ごしてきた月宮家が見えてきた。

 

「ここ、ここ!!」

「はぇ~、すっごい大きいよね。改めて見ると」

 

 なぜか今日はテンション高めの雫が久路人の手を引いて月宮家の門を指差した。

 釣られて久路人も見てみれば、一般住宅よりもかなり大き目な月宮家の全体が目に入る。

 田舎であり郊外であることもあって地価は安い部類だろうが、こんな屋敷を建てられる京の財力はどれほどのものなのだろうと、久路人は少し疑問に思った。

 しかし、そんな疑問も未だに手を引いて先を歩く雫の妙な雰囲気の方が気にかかり、すぐに脳裏から消え去る。

 二人は門をくぐって、目の前にある玄関をスルーし、裏庭の方に向かう。

 今二人が住む離れは、裏庭と屋敷の中間にあるのだ。

 

「入って、どうぞ!!」

「え?あ、うん」

「悔い改めて!!」

(今、『悔い改めて』って聞こえたけど、『いいよ、上がって』だよね?)

 

 自宅に帰ったというのに、なぜか客を招いた時のような態度で久路人を家に上げる雫に疑問符を浮かべながらも、『どうせまた何か変な漫画でも読んだのだろう』と、久路人は恋人の作る流れに乗ることにした。

 最近の二人の流行りは、夏と冬の祭典や通販、ホームページからのダウンロードで取引される書物の再現だ。今回の雫の奇行も、そういうプレイの一環なのだろうと久路人は結論付けたのである。

 そう思ってる間にも雫はグイグイと久路人を居間の方へと引きずって、二人は大きなソファに腰掛けた。

 なお、二人は今日大学の講義の帰りに生活雑貨を買いに行って、久路人は適当なTシャツを購入して着替えたのだが、その背にレシートが貼りついていたことには二人とも気が付かなかった。

 

「ふぅ~・・・今日は暑いし、疲れちゃったな」

「ねー。今日練習キツかったねー」

(何の練習やってる設定なんだ?・・・暑いし、雫だし、水泳とかかな。話合わせとこ)

「ふぁい」

「まあ、大会近いからね、しょうがないね」

「そうだよね」

「今日タイムはどう?伸びた?伸びない?緊張すると力でないからね」

「そうなんだよね・・・」

「ベスト出せるようにね」

「うん」

 

 途中、雫がまた意味不明な発言を始めたが、そこは10年以上の付き合いのある久路人。

 咄嗟に話を合わせることに成功していた。

 その機転がもっと早くから発揮されていれば、久路人が人外になるのはもっと早かっただろう。

 そうして久路人にとって意味不明な会話をしばらく続けたところで、雫は身を乗り出した。

 

「まずうちさぁ・・・屋上、あんだけど、焼いてかない?」

「え゛っ!?・・・あ、あぁ~いいっすねぇ~」

(なんで急に屋上!?展開が無理やり過ぎない?)

「ウン」

 

 まずどの辺が「まずうちさぁ・・・」なのか分からないが、せっかく雫が楽しそうなので久路人はやはり流れに身を任せることにするのだった。

 

 

------

 

 

「おじさんとか、メアさん見てないよね・・・」

「大丈夫でしょ。まあ、多少はね?」

 

 月宮家の離れには、屋上がある。

 その屋上にて、二人は雫が水で造ったウォーターベッドに寝そべっていた。

 しかし、その恰好は普段とはかなり異なっている。

 

「そうだよね・・・もしおじさんが今の雫を見てたら、目玉をえぐり取らなきゃいけなくなるし・・・」

「あ、そういう意味・・・やっぱり久路人ってかなり重いよね。そこがすごくいいんだけど」

「だって、今の雫、すごく可愛いから。普段から可愛いけど、今は本当にヤバいから」

「そ、そうなんだ、あ、ありがと」

「本当にマジでヤバいから。雫なら白だろうと思ったのに、黒とか・・・本当にありがとう」

「そ、そんなに頭下げられると逆に恥ずかしんだけど!!」

 

 黒いボクサーパンツのような水着を身に着けた久路人が話しかける雫も、水着だ。

 色は久路人と同じように黒で、タイプはセパレート水着。

 白い肌と黒い水着のコントラストがよく映えており、露出のバランスの良さが、雫の残念な胸部をほどよく目立たなくしていた。

 久路人としては最近は毎晩のように、その水着の下にある部分も含めて雫のすべてを目にしているが、今のように中途半端に隠されると逆に滾るモノがあり、水着を褒める口調にも尋常ならざる熱が籠っている。

 その真剣さにあてられたのか、雫もそれまでの意味不明な発言は鳴りを潜め、素が出てしまっていた。

 

「それはともかく、コホンッ!!・・・暑いね~」

「え?ああ・・・暑いね」

 

 そんな褒め殺しのような状況に耐えられなかったのか、雫は咳ばらいをすると、再び棒読みぎみの口調に戻った。

 どうやら演技を再開するようだ。

 

「オイル塗ろっか」

「ああ・・・」

 

 久路人も演技に乗るモードに入ったのを察したのか、雫は近くに置いてあった鞄をゴソゴソと漁って、サンオイルを取り出した。

 『僕たちの肌って紫外線で焼けるのかな?』と疑問に思いつつも、久路人は仰向けになる。

 

「じゃ、じゃあ、塗るね」

「え、うん」

 

 いざ久路人にオイルを塗る場面になって緊張したのか、さっき始めたばかりだと言うのにまた元の口調に戻りながら、雫は手にオイルをつけて久路人の身体に触れ・・・

 

「っ!?」

「わっ!?い、痛かった?」

 

 ひんやりとした雫の手とオイルの感触に、久路人は思わずビクリと震えた。

 そんな久路人に追従するように、雫もビクッとのけぞる。

 

「い、いや、こういうのはあんまり経験なかったから、驚いただけ・・・そういえば、高校の修学旅行でも雫に背中流してもらったっけ」

「あ~!!覚えてるよ!!あの時も久路人、ビクッってしてたよね」

「そりゃあそうだよ。好きな女子にああやって触ってもらって緊張しない男はいないよ」

「っ!!・・・もうっ!!また不意打ちして」

 

 もはや演技をすることを忘れたのか、それともそれほどまでに強烈な事態だからか、二人は素で話し続けていた。

 話しながらも少しづつ慣れてきたのか、雫の手は段々と動きがなめらかになり、久路人のたくましい身体に手を這わしていく。

 そして、雫は気が付いた。

 

(久路人のココ、硬くなってる・・・)

 

 久路人の身体のある一部分が、確かな硬度を持っていることに。

 それは、眠れる龍の目覚めであった。

 

(久路人、た、溜まってるのかな・・・チャージ速いなぁ)

 

 緊張感に耐えられなくなったのか、雫の口が勝手に開く。

 少しでも、己の望む流れに近づけたかったのだ。

 

(このままじゃ、すぐにこの場所で・・・いや、それでもいいっちゃいいんだけど)

 

「ど、どのくらいやってないの!?」

(何分かりきったこと聞いてんの、私のバカ!!)

「え!?・・・は、半日くらいかな」

 

 もっとも、それは失敗に終わったが。

 久路人も、『え?何聞いてんの!?』とあっけに取られたような表情をしている。

 

「あ、そ、そうだったよね、ごめん・・・」

「い、いや、別に・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 期せずして、二人とも無言になった。

 しかし、触れ合ってる二人には、お互いの心臓の鼓動が早鐘のようになっていることに気付いていた。

 

「はぁっ、はぁっ・・・」

「・・・っ!!」

 

 雫にとっても、久路人の裸は最近になってよく目にするものだ。

 しかし、ここまで丹念に触れる機会というものは、早々なかった。

 そして、中学の頃から久路人の服を合法的に脱がすことをモチベーションとして訓練に励んでいた雫の目の前に、手の下に、久路人の鍛えられた身体がある。

 己に欲情していることを示す、確かな証がすぐそばにあるのだ。

 

「ふぅ・・・はぁっ、はぁっ!!」

「・・・・・」

 

 雫の息は荒くなり、視線は久路人の下半身に住まう龍に向けられる。

 それはまさしく、龍だろうが何だろうがむしゃぶりついてやろうとする野獣の眼光であった。

 

(こ、このままじゃマズい!!まだやりたいことがあるのに・・・なら!!)

「く、久路人!!もう大体塗り終わったからさ、今度は久路人に塗ってもらっていいかな!?」

「え゛っ!?マジで・・・?い、一応聞いておくけど、まさか外で」

「そ、それは流石になしで!!」

「だ、だよね・・・」

 

 色々と辛抱たまらなくなりそうだった雫は、ここで選手交代をすることに。

 交代を持ち掛けられた久路人は、『まさかこの青空の下でヤる気かっ!?』と戦慄したが、流石にそれはないらしく、ホッとしたような少し勿体ないような気分になりながら雫からオイルを受け取り・・・

 

「じゃあ、や、やるよ・・・?」

「う、うんっ!!」

 

 その手が、雫の白い肌に触れた瞬間。

 

「ひゃうぅぅぅううううううっ!?」

「うおぉぉおおおおおっ!?」

 

 半ば出来上がった状態の雫にとって、久路人にオイルを塗られると言うのは想像以上の刺激だったらしい。

 その可憐ながらも甲高い声に驚いた久路人は、修学旅行の時のように猛スピードでバックステップを刻んで後方に下がった。

 

「だ、大丈夫・・・?」

「ご、ごめん・・・大丈夫じゃないや。うん、私はいいや。これ以上やったら気持ちよくなりすぎちゃう。ヤバイヤバイ・・・」

「そ、そっか・・・」

 

 手にオイルを垂らしたまま、久路人はまたも安心したような、ホッとしたような気分になり・・・

 

「私、喉乾いたから、飲み物持ってくるね・・・」

「う、うん・・・あの、大丈夫?僕が行こうか?」

「大丈夫・・・」

 

 フラフラと少々頼りない足取りで下に戻っていく雫を、何とも言えない様子で見送るのだった。

 

 

------

 

 

「ふぅ~・・・落ち着け私、クールダウン、クールダウン・・・」

 

 離れの台所で、雫は静かに深呼吸をしていた。

 先ほどまでの熾烈な攻防で火照った身体と思考を冷やすべく、何度も何度も呼吸を行う。

 

「ふぅ~・・・よし、落ち着いた」

 

 やがて、満足いく状態になったのか、雫は深呼吸をやめた。

 同時に、飲み物を持っていくためのグラスの準備を始める。

 

「ふぅ・・・焦っちゃダメ、私。私がやりたいなって思ったのは、この先なんだから」

 

 そして、冷蔵庫にあったアイスティーをグラスに注いでから、雫は白い薬包紙に包まれた何かを取り出した。

 

「今こそ!!この離れに移る時にもらったコレを使う時!!」

 

 

--サーッ!!

 

 

「ふふふっ!!」

 

 淀んだ瞳で、雫は久路人に渡す予定のグラスに、白い粉を注ぎ込んだ。

 

「メアからもらった薬、何でもすごい強力な睡眠薬らしいけど・・・」

 

 グラスをお盆に乗せながら、雫はこの離れに移る時のことを思い出していた。

 あの時は初デートの後に京たちのせいで久路人とギクシャクしてしまったのだが、そんな時にメアに『せめてものお詫びの品です』と、今注いだ薬をもらったのだ。

 今朝になって今のシチュエーションを再現しようとしたのも、この薬あってのことだ。

 

「せっかくもらったんだし、有効活用しないと勿体ないよね」

 

 『いざとなれば、これで雫様の方から』と渡された時、『まあ、コイツには無理だろうな』という眼をしていたので腹が立ったから切り捨ててやろうとして避けられたことを思い出しながらも、雫は再び屋上に戻るのだった。

 

 

------

 

 

「お待たせ!!アイスティーしかなかったけど、いいかな?」

「うん」

(冷蔵庫の中、緑茶とか他にもなんかあったと思うけど、まあいいか)

 

 棒読みの台詞を吐きながらグラスを差し出してきた雫のノリに、落ち着きを取り戻していた久路人は卒なく合わせる。

 久路人もまた、雫がいなくなった後に必死で深呼吸をしていたのである。

 

「いただきまーす」

「ドゾー」

 

 そのまま、雫から受け取ったグラスの中身を一気に煽る。

 夏日ゆえに、久路人も喉が渇いていたのだ。

 

 

--ニヤリ

 

 

 雫の顔にしたり顔のような不気味な笑顔が浮かぶが、ちょうどグラスを傾けていた久路人はそれに気が付かなかった。

 

「?どうかした?」

「別に~?それより、せっかく屋上にいるんだし、日光浴しよ、日光浴」

「うん」

 

 それからしばらく、他愛のないことを話しながら二人は肌を焼き・・・

 

「それにしても・・・焼けたかな?これもうわかんないなぁ・・・久路人はどう?」

「うーん・・・僕たちの肌って、紫外線にも耐性ありそうだしな」

「すごく白く・・・なってないね。元とあんまり変わってないや」

(水着をめくってる久路人、すごくセクシーでエロいけど)

 

 焼こうとしたが、あまり焼けていなかったようだ。

 しかし、時間は大分経っており、空が少し曇り始めていた。

 

「曇ってきたね・・・そろそろ中に入ろっか」

「そうだね」

「・・・・・」

「雫?」

 

 促されてよどみなくスクッと立ち上がった久路人に、雫は訝し気な目を向けていた。

 

「ねえ久路人、立ち眩みとか大丈夫?」

「別に何ともないけど・・・?」

「そ、そっか・・・・・あれ~?」

(あれ?久路人、確かに睡眠薬入りのアイスティー飲んだよね?だったらなんで・・・・・)

「あ!!」

「?雫?どうしたの?」

 

 そこで、雫は致命的なミスに気が付いた。

 今度は久路人が訝し気な顔をしているが、それに反応する様子もない。

 それほどまでに、それは致命的な大ポカだったのだ。

 

(私のバカ!!今の久路人に毒が効くわけないじゃん!!私に効かないんなら久路人にも効果ないの当たり前じゃん!!)

 

 いかに強力な睡眠薬とはいえ、メアが渡してきたのは久路人がまだ人間の時。

 すなわち、メアとしては人間の久路人に使う想定だったはずだ。

 しかし、今の久路人は雫と全く同質の存在。

 水を操る雫は体内の異物の感知に優れ、同時に耐性を持っていた。

 その耐性は久路人の変化と共鳴して雫もまたそれまでより高次の存在となったことで、さらに強化されており、今の雫は毒物の影響を完全に受けない。

 そして、雫がそうならば、久路人も同じレベルの耐性を獲得しているのだ。

 なお、それと同様に今の雫も久路人と同じ精神系・幻術系の術に対する完全耐性を有している。

 

(ど、どうしよう!!このままじゃ私の完璧な昏睡レイ〇計画が・・・!!)

 

 つい先ほどまで性的興奮のあまりドロップアウトして青〇に至りそうだったことを記憶の彼方に押しやりながら、雫はその頭脳を高速で回転させる。

 そんな雫に、久路人は声をかけ・・・

 

「雫?本当に大丈・・・」

「はぁっ!!」

「おぶっ!?」

 

 白流市どころか日本でも最も霊的に安全と言っていい、月宮家の屋敷の中。

 その中で恋人と二人きりで過ごすという、無警戒になっても責められるはずもない状況にいた久路人の無防備な鳩尾に、雫の拳が突き刺さった。

 

(こうなったら・・・!!)

「し、雫・・・何を゛っ!?」

「落ちろ!!」

「・・・っ!?」

 

 不意打ちを喰らいながらも、そこは流石に人外。

 未だ意識のある久路人であったが、雫はその背後に回り込み、チョークスリーパーを仕掛けだした。

 

(薬が効かないって言うのなら・・・)

「落ちろぉっ!!」

(物理で落とすまで!!)

 

 睡眠薬で眠らせられないというのならば、物理的に気絶させる。

 それが、事ここに至って雫の出した結論であり・・・

 

(く、苦しい!!雫、本当に何を考えて・・・でも)

 

 技を仕掛けられる久路人は、酸欠で息が苦しくなりながらも、あることに気が付いていた。

 

(これ、雫の胸が思いっきり押し付けられて・・・あんまり大きくないけど水着だから、形が変わるのが分かって・・・・・これは、これで)

 

 背中に押し付けられる微かな、しかし確かな感触に満更でもない気分になった久路人は抵抗する気力を削ぎ落されたのだ。恐らく本気で暴れれば拘束から抜け出すことはできただろうが・・・

 

「落ちろ!!・・・落ちたな」

「う、ううん・・・」

「縛らなきゃ・・・」

 

 そうして、久路人の意識は闇に落ちていった。

 どこか満足げな笑みをその顔に浮かべながら。

 

 

------

 

「んっ・・・ん」

「・・・う、ううん?」

 

 ピチャピチャと、かすかな水音が暗い室内に響く。

 その音と、身体を這う生暖かくざらついた感触で、久路人は目を覚ました。

 

「んっ!!んぅ・・・」

「雫っ!?何してんのっ!?さすがにマズくない!?」

「んっ!!いいでしょ、別に。だから・・・」

 

 今の久路人は手錠で腕を縛られ、ベッドの上で雫に圧し掛かられていた。

 雫の赤い舌が薄暗い中わずかな灯りでテラテラと輝きながら、久路人の身体の上で動く。

 そんな久路人に嗜虐心を含んだ視線を向けつつ、抵抗するであろう久路人を抑えつけるための策をなそうとして・・・

 

「まあ、確かにいいけどさ」

「暴れないで・・・え、いいんだ」

「うん」

 

 しかし、久路人としては少し驚いただけで別に今の状況は問題ないらしい。

 だが、流石に状況が意味不明すぎて対応できないのか、演技に付き合う気もないようだった。

 久路人の身体に舌を這わせていた雫は、手に何やら白い布を持っていたが、しばらくその布を見やった後、ポイっとどこかに放り捨てた。

 そして、久路人に向き直って、おずおずと問いかける。

 

「えっと、そのさ、気持ちよかった?」

「え?さっきのやつのこと?・・・そりゃ、気持ちよかったけど」

「そ、そうなんだ・・・え~・・・なんか私の思い描いた流れとこれじゃ・・・じゃ、じゃあさっ!!久路人!!私・・・」

「うん」

 

 『そういや、この離れって地下室あったなぁ』と普段使っていなかった地下室を物珍し気に見回す久路人に、雫はどこか焦った様子でまくし立てる。

 

「く、久路人のことが好きだったんだよ!!」

「知ってるけど?」

「・・・・・」

 

 半ば無理矢理気絶させられた上に手錠で自由を奪われ、上に圧し掛かられながら体中舐めまわされていたというのに、至って平常運転な久路人に、雫はしばし茫然としていたが・・・

 

「はぁ・・・そっか、そうだよね。私だって久路人と同じ状況になっても余裕でウェルカムだし、こうなるよね・・・はぁ」

 

 ひとしきり独り言のようにボソッと呟いてから、久路人に乗ったままで肩を降ろし、ため息を吐いた。

 そんな雫に久路人は、柔らかくほほ笑みながら声をかける。

 

「あのさ、雫」

「うん」

 

 客観的に見て色々とぶっ飛んだ状況であるが、それでも久路人はこれまでの状況から、『雫が何かのシチュエーションを再現したかったのだろう』ということは分かっている。

 だから・・・

 

「多分、またなんかの漫画のシチュエーションをやりたかったんだろうけどさ、あんまり複雑だったり長いんなら打ち合わせしよっか。大抵のヤツなら嫌とは言わないからさ」

「・・・うん」

「サプライズ的にやりたかったんだろうけど、そういうのって多分難しいしね」

「・・・うん、今度からそうするよ。ごめんね、気絶させちゃって」

「いや、いいよ。あれは一応、僕も役得だったから」

「?そうなの?」

 

 すべてを察した上で慰められ、雫は反省をするのだった。

 

「じゃあ、その手錠溶かすね」

「あ、うん。よろしく」

 

 そうして、久路人の手にかけられていた手錠が溶かされていく。

 その手錠は、雫の術で造ったものだったのだ。

 久路人が気絶している間に時間をかけて構築した氷だったため、かなりの強度を持っていた手錠は久路人の手でも解除するのは難しかっただろう。

 つまりだ・・・

 

「ところで雫」

「うん?」

「こんなことをしようとしてたってことはさ、その気はあるんだよね?」

「え?」

 

 雫が龍の封印を解いてしまったということを意味する。

 そして何気ない口調で問いかけてきた久路人に、雫は一切の警戒をしていなかった。

 

「はぁっ!!」

「えぇぇぇえええええっ!?」

 

 自由を取り戻した久路人によって雫は投げ飛ばされ、雫の下にいた久路人はとっさにその場を移動。

 すぐさまベッドに落ちてきた雫の上に馬乗りになる。

 

「え?え?・・・・あ」

 

 そして、雫は気が付いた。

 馬乗りになった久路人の下半身で、龍が目覚めの咆哮を上げていることを。

 

「これってさ、結構仕方ないと思うんだ。彼女に屋上であんな風に焦らされた後に、地下室で拘束されて体中ペロペロされたら、興奮しなきゃ逆に失礼なんじゃないかな?ああ、別に怒ってるわけじゃないよ?怒ってなんかないさ」

「く、久路人・・・」

 

 にこやかな久路人であったが、その眼に先ほどまで雫を慰めていた時の優しさはない。

 彼も彼で、この意味不明なノリに振り回され、気絶させられ、何より興奮させられてお預けされていたことに思うところがあるようで・・・

 

「それじゃあ、今までの仕返しをたっぷりとさせてもらおうじゃないか」

 

 そんな久路人に雫は・・・

 

「お、お手柔らかにお願いします・・・」

 

 なんだかんだ言って『これはこれでアリ!!』と思い、流れに乗ることにしたのだった。

 なお、この後に何度も絶頂を迎えそうになって『イキスギィ!!』と叫んだり、胸にかけて欲しかったのに顔にかけられて『ファッ!?』と言ったりしたかどうかは定かではない。

 

「ん!!」

「ぷはっ!!」

 

 ただ、その最後に幸せなキスをしたのは、確かな事実である。

 

 

------

 

「なるほど、こんな話だったんだね」

「うん。メアが貸してくれた本の中にあったんだ」

 

 その日の夜。

 久路人の部屋のベッドに二人で腰掛けながら、久路人の膝の上に乗せた薄い本を二人で眺めていた。

 その内容は、『水泳部の後輩(男)を先輩(美少女)が家に誘って睡眠薬入りのアイスティーを飲ませて昏睡レイ〇するも最後は純愛風に幸せなキスをして終わる』という中々にカオスな展開であった。

 

「それにしてもこのタイトル、え~と、『昏睡レイ〇!!野獣と化した先輩』って、脳裏にこびりつくフレーズだなぁ」

「一度聴いたら中々忘れられないよね・・・」

「実際に再現されそうになった身としては二重の意味で忘れられないよ・・・って、あれ?」

「どうしたの?」

 

 パラパラと薄い本をめくっていた久路人だが、最後のページに少し気になる記述を見つけたのだ。

 

「なんかこの本って、元ネタがあるんだってさ」

「え!?これの元ネタって・・・AVか何か?」

「そうみたい・・・せっかくだし、ちょっと調べてみよっと」

「女の裸が映りそうだったらスマホの画面壊してでも止めるからね」

「それは少し嫌だな・・・じゃあ雫が見て・・・いや、これホ〇ビデオみたいだ」

「あ、そうなの?ならいいや」

 

 そうして久路人はスマホを取り出して、薄い本に書いてあった元ネタを調べる。

 どうやら元ネタは男性向けではあるようだが、かなり特殊な界隈向けのようだ。

 久路人は駿〇屋に11万4514円で在庫ありらしいビデオの画像をクリックし・・・

 

「え?」

「は?」

 

 久路人と雫は、同時に固まった。

 そこに映っていたのは・・・

 

「え、なにこれは・・・」

「うわぁ・・・これは、田戸君と近野君?」

 

 久路人の中学、高校の同級生だった田戸君と近野君の姿だったのだから。

 さらに・・・

 

「ねぇ久路人。こっちの関連商品のヤツって・・・」

「これは二浦君で、ああ、こっちは林村君だね。間違いない。なんだこれは……たまげたなあ」

 

 別のビデオには、田戸君に加えて同じく同級生だった二浦君と林村君の姿も。

 

「ええ、どうしよう、これ」

「とりあえずさ・・・」

 

 昔の同級生が特殊な道に進んでいたことを知り、愕然とする久路人だったが、そんな久路人に雫は言った。

 

「もうこの本を再現するのはやめよっか」

「・・・そうだね」

 

 こうして、その薄い本はメアの元に返され、厳重に封印されることになったのだった。

 なお、『他にもこういうのがあったらどうしよう』と二人で調べた結果、過去の知り合いの多くが同じ道に進んでいたと知り、ショックを受けるのはまた別の話である。

 




あ~!!めっちゃスッキリした!!
来週は書けたらまた短編を書こうと思ってます。
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