残りは今日中に投稿します。
本当はGW中に3話くらい書きたかったんだけど、できなかったよ・・・
月宮家の初代。
名を、
まだ世界に忘却界が貼られるより前の時代、彼はある時を境に不意に現れ、国中に溢れる人にあだなす妖怪を次から次へと斬り伏せていったという。
現代にいたるまで、世界中を見渡しても彼に匹敵する霊能者は学会の七賢第一位である「魔人」しかいないとされ、ある時は街どころか国を覆いつくすほどの雷雲を駆って山の如き大きさの巨人を一瞬で焼き付く尽くしたという話があり、またある時は黒い砂嵐とともに天空を駆けながら白龍と死合ったという記録もある。
もっとも有名な伝説は、突如として現れた『天喰らい』との戦いだろう。天喰らいは、いかなる力をも喰らってしまう巨躯の銀狼であり、大層な戦狂いで、霊能者も妖怪も、時には神格を持つ者や神の遣いすら屠り、貪ってきた化物だ。
久瑯は供に連れていた僧侶とこれに立ち向かい、天喰らいが喰いきれないほどの力で押し切った。
これにより、久瑯は神格持ちを喰らう化物を討伐した英雄となったのだ。
だが、久瑯は英雄でもあったが、同時にひどく恐れられた。生き残っていた霊能者たちの中には、彼に媚を売りつつも、毒や奸計を以て彼を暗殺しようと画策した者たちもいた。
それらは失敗に終わったが、無用な争いを厭った彼は、僧侶とともにいつの間にか聖地と呼ばれる山奥に消えていたという。
聖地は強固な結界に閉ざされ、しばらくの間誰も入ることはできなかった。
そして、ほとぼりが冷めたころを見計らったかのように、ある時結界が弱り、そこには久瑯の息子が住む屋敷があったという。
これが、月宮一族の起こりである。
しかし、そんな彼がいかようにして現人神とも呼ばれるほどの存在へなり果てたか?という謎は、未だにすべてが解き明かされたわけではない。
久瑯本人が生まれつきそのような力を持っていたとも、大いなる存在に力を与えられたとも言われているが、真相を知る者はいない。だが、一族の歴史をくまなく調べ上げた月宮久雷は、全てでなくとも知っていたことがある。
現人神が造られた工程。その『一端』が、現代の現世に蘇ろうとしていた。
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「これは・・・神の力っ!?」
「久路人から奪った力かっ!!」
大地が揺れる。
荒れ果てた屋敷の床をさらに痛めつけようかと言うように、揺れが強まり、辺りに地割れが起きていく。
そうして生まれた裂け目から、僕にとってなじみ深い力が火山の噴火のように溢れていた。
あふれ出た力は、瞬く間に周囲に広がっていき、僕らを丸ごと包み込むドームが出来上がる。
「クカカッ!!クカカカカカカカカカカッ!!!」
僕と雫の目の前で、枯れ木のような老人がどこから出しているのか分からないほどの大声で高笑いを上げていた。
「そうだっ!!聖地だっ!!月宮一族が月宮と呼ばれるようになった所以!!それこそが、神の恩寵を賜った月宮の地に他ならぬ!!」
「このっ!!鉄砲水!!」
「紫電!!」
敵の前でむざむざと種明かしをするのが許されるのは、フィクションの中の話だ。
僕も雫も、あふれ出る力のままに久雷に攻撃を加える。
「ハハハハッ!!!無駄じゃあっ!!」
しかし、僕らの放った術は、突然空中でかき消えた。
「なっ!?」
「消えた・・?」
唖然とする僕たちを見て、久雷は嗤う。
「ここは儂が神の力をもって築いた、月宮の地に変わる新たな聖地!!いわば、儂の『陣』のようなもの!!すべての霊力は、我が支配下にある!!」
「陣だと!?」
「陣の中は、術者にとって有利な空間になる・・・でも、それだけじゃない。固有の能力があるはず・・・雫、気を付けて!!」
陣とは、神格を持つ者の証である強力な空間系の術だ。
霊力の扱いにおける、特定の分野において神に近い領域に至った者が使える術。
神に近いということは、世界の管理者に近いと言うこと。霊力を魂を以て術へと変えるのと同様に、術者の魂に秘められた本質を以て、世界の一部を書き換えたことで生まれた空間だ。術の使用において、術者に極めて有利になるほか、術者の芯に応じた特有の効果を持つ。
以前、あの九尾と戦った時も、陣の中に取り込まれたことで僕たちはひどく不利な戦いに臨まなければならなかった。幸い、あの時の「天花乱墜」は幻術を超強化する効果であったため、幻術に耐性のある僕らにほとんど意味のないものだった。果たして、この陣は一体どんな効果を持っているのか・・・
「クククっ!!案ずるな。この結界に、直接貴様らを害するようなものは仕込んでおらん。儂が神格に至っていない以上、厳密には、ここは陣ではない。聖地の再現をしたに過ぎん。そして、それすら完璧ではない」
「聖地?」
「・・・何なのだ、さっきから貴様の言う聖地とやらは」
「フンっ!!月宮の血が流れていながら聖地も知らぬか。嘆かわしい。よかろう、冥途の土産だ、教えてやる・・・聖地とは、月宮の初代を生み出した地のことだ」
出来の悪い生徒に授業をするように、呆れた表情をしながらも、久雷は僕たちに話を始めた。
「月宮の初代、月宮久瑯は、元は単なる木こりだったという。それが何故、神の力を手に入れ、世界最強とも言える存在に至ったか?その答えこそが、神の力が降り注いだ聖地よっ!!」
「むっ!?」
「眩しっ!?」
久雷の言葉と共に、結界が輝き始めた。
ドームの頂点へと光が集まり、疑似的な太陽を形作る。
「本来ならば!!小僧の身体を乗っ取り、神の力をモノにした後に、さらなる力を得るためにやるはずだった!!だが、事ここに至っては、もはやなりふり構っていられん!!この地に溢れる神の力を集約し、神のおわす狭間の奥へとつながる門を開く!!そこから降り注ぐ力によって、この地は真なる聖地となり、儂は再び神の僕へと帰るのだ!!初代が、聖地の力を取り込んだようになぁっ!!」
「くぅっ!!術が消されるならばっ!!」
「接近戦だっ!!」
久雷が手を掲げ、上を見た瞬間、僕たちは駆けだした。
遠距離から霊力のコントロールを握られて術が消されたのならば、常時制御できる接近戦を挑む。
久雷が何らかの術を使うと言うのなら、そこに必ず隙ができる。僕らはそれを待っていた。
「迅雷っ!!」
「早瀬っ!!」
刀を握り、雷を纏って駆ける僕と、薙刀を構えて流水を渦巻かせながら並走する雫。
人外となった僕らのスピードならば、久雷が何かをやりきる前に首を落とすこともできるはず。
しかし、僕たちの刃が久雷に届く寸前に、頭上の光の塊がひときわ強く輝いた。
「わっ!?」
「チィッ!!」
その余りの光量に、僕らはたまらず足を止めて、目元を手で覆い隠した。
そして、それは久雷が術を発動させるのに、十分すぎる隙であった。
「さあ開けっ!!天の門よっ!!」
--ピシリっ!!
何かがひび割れる音と共に、力の奔流が辺りを駆け抜けていった。
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「クククッ!!クハハハハハッ!!」
笑い声がこだまする。
しかし、その声はこれまでのしわがれたものではなく、若々しい活力に満ちていた。
「戻った!!戻ったぞ!!!」
「う・・・?」
ぼやける視界を落ち着かせながら僕が目を開くと、そこには一人の若者が立っていた。
「この身体!!この漲る力!!間違いない!!儂の!!いや、俺の!!全盛期の力だっ!!クハハハハハハハッ!!!やっとだ!!やっと取り戻した!!」
その男は、少し僕に似ていた。
だが、一回りくらい年上だろうか。
その男は・・・
「月宮、久雷・・・なのか?」
「若返っただと?」
「ククククっ!!ああそうだっ!!この俺こそが、神の忠実なる下僕にして世界の守護者!!月宮久雷だ!!」
「・・・雫」
「うむ。久路人も気付いたか」
久雷は、そう言って堪えられないとばかりに笑う。
僕は記憶を無理矢理植え付けられたから知っているが、長年の野望が叶ったからだろう。僕らのことなど忘れてしまったかのように笑い転げている。
しかし、僕にはそれ以上に気になることがあった。
「さっきまであった陣みたいのが、なくなってるよね?」
「ああ。あの光ももうないしな」
「ククククっ!!それは当然だ。あの結界は、この土地を聖地とするためのもの。聖地は、この俺の力を取り戻すためのもの。役目を果たした以上、消えるのは道理だろう。そして・・・・」
不意に冷静になったかのように僕らの会話に割り込んできた久雷は、そこで僕たちを見て嗜虐的に顔を歪めた。
「用済みなのは貴様らも同じだ。本来なら今よりも遥かに強大な力を手に入れる予定だったが、貴様らは顔を見ているだけでも腹立たしい。聖地を作るための神の力を用意するためにしか役立たなかった罰だ!!すぐにでも消して・・・」
「紫電改・5機縦列!!」
「瀑布!!」
「ぬぉおおっ!!?」
得意げに何やら語っていた久雷だが、そんなものに付き合うつもりはない。
特に示し合わせたわけでもなく、僕と雫は同時に術を繰り出していた。
予想通り、術は打ち消されることなく久雷に迫り、久雷はそれを必死の形相で避ける。
「貴様らっ!!俺が話している途中で・・・」
「紫電改・5機散開!!」
「鉄砲水!!」
「ぐぅううう!!!貴様らぁ・・・!!!」
僕が牽制するように矢を拡散させるように撃ち、雫が本体を直接狙う。
これを避けるのは難しいだろう。
「調子に乗るな!!神威!!」
久雷も回避より迎撃を選んだようだ。
全身から日輪のように光を放ち、迫る術を打ち消そうとしたが・・・
「がぁあっ!?」
雫の放った激流を止めることは叶わず、そのまま吹き飛ばされた。
あっけなく、まるで紙切れのように。
「やはり、妾達の霊力が大幅に上がっているな。それだけでなく、妾の中に・・・」
「うん。さっきの術、神の力に似た力が混じってた。雫の中にも僕と同じ力が入ってるみたいだね」
「ふふふ、久路人と同じか・・・いいではないか」
久雷の放った神威は、葛城山で僕が使った時とほぼ同じ威力。
周囲一帯に神の力が混ざった雷をばら撒く術だが、その神威を雫の術は撃ち破った。
それは、雫の中に神の力のようなものが混じっているからだ。いや、混じっているというよりも溶け込んでいるというべきだろう。今の僕と雫の霊力の質は属性を除けばほとんど同質だ。なんとなくだが、雫の霊力の量も僕と同じくらいになったような気がする。
「な、何故だ!!何故貴様のような下賤な蛇まで神の力を!?いや、これは神の力ではない・・?なんなのだその力は!!」
「さあ?さっき手に入れたばかりだから僕らも知らないよ」
「久路人の言う通りだ・・・・お前、丁度いいから実験台になれ。大蛇!」
「ぬぉおおっ!!?ふざけるなぁぁあああああああ!!!!」
叫びながら、久雷はその手に砂鉄から刀を作り出し、水の大蛇と真っ向から打ち合った。
しかし、神の力を纏っているはずの刀は、大蛇の突進と拮抗していた。
「何故だっ!?何故力を取り戻した俺がここまでっ・・・・!!!ぐがあぁっ!?」
「・・・何を考えていたのかは知らんが、あのまま陣を貼っていた方がまだマシだったろうに」
「あの陣の中にあった力を全部取り込んだ・・・いや、あそこにあった力を交換した分を吸収したって感じなんだろうけど、あの霊力の量って元々全部僕の中にあった分なんだよね・・・・・今の僕なら、全力で霊力を使っても身体が耐えられるからなぁ」
再び吹き飛ばされた久雷を見ながら、僕らは呑気に彼我の戦力差を分析していた。
己の記憶を振り返り、久雷の記憶を植え付けられた僕だから分かるが、全盛期の久雷と葛城山で全力の力を使った僕は大体同じくらいの強さだ。霊力の量も同じか少し上くらいに思える。さらに、僕の持っていた力を取り込んだのか、はたまたそれを利用して門とやらを開けたからか、今の久雷の力は僕の霊力に極めて近い性質を持っている。つまり、大半の霊力が僕に由来すると言っていい。
しかし、久雷もあの時の僕も力こそ神に匹敵するが、その身体は人間のモノ。当然一度に出しきれる力には限界がある。例え霊力が同程度だったとしても、その時点で、今の人外となった僕の方が圧倒的に有利なのだ。
それならば、雫の言うようにまだ戦い方を制限される陣を残しておいた方がマシだったろう。
「貴様っ!!貴様らぁ!!一体どうやってそれほどの力をっ!!?」
そんな風に雫と話していると、ずぶ濡れになった久雷が怒鳴りつけてきた。
さっきから結構な勢いで叩きつけられているが、ダメージは大したことなさそうだ。僕よりも力の扱いが上手いというのは確かなのだろう。
しかし・・・
「どうやってって言われても・・・雫は分かる?」
「妾は久路人を眷属にしようとしただけだからな。特別に強くしようと思ったわけではない・・・そもそも、妾の方にまで変化が及んでいるのも意味の分からん話だからなぁ」
「うーん・・・雫が僕の血を取り込んでて、僕の変化にあてられたとか?」
「ふむ・・・リリス殿の話では肉体、魂、精神の繋がりが大事とのことだったが、久路人の持っていた力は特異な力だからな。つながりを介して妾の方にまで影響を及ぼしたというのはあるかもしれん。力の質も変わっているようだからな」
「ああ、そういえば今の方がなんか扱いやすいな。体が頑丈になっただけじゃなくて、霊力そのものが僕に合ったモノになったみたいな・・・」
「そのあたりはここで考えても分からんだろう。京かリリス殿に聞いてみるのがいい」
そこで、僕はふと気づいた。
「・・・そういえば、雫。さっきからリリスさんのこと殿ってつけてるけど、なんかあったの?雫がそんな風に誰かを敬ってるのはすごく珍しい感じがする」
「ん?ああ、ここに来る前に少しな・・・さっき上で話した人外化の専門家がリリス殿なんだ。メアもそうだが、背中を押してもらったのだ」
「メアさん・・・はぁ、僕も謝らなきゃ。あの時はどうかしてたよ、本当・・・というか、おじさんにも謝らないといけないし・・・本当に何やってたんだか、僕は」
「まあいいではないか。結局お互いこうして無事で、これからもずっと一緒にいられるのだから。怒られるときは妾も一緒に土下座してやるから、そうしょげるでない」
「ええ?それはさすがに悪いというか、僕が情けないと言うか・・・謝るのは僕だけでいいよ」
「む!!久路人、また悪い癖が出ているぞ。そうやって一人で抱え込むな。それに、妾だって誰にも黙って久路人を人外にしようとしていたのだ。久路人が受け入れてくれたからよかったが、京やメアには謝らねばならん。その時に庇ってくれるのと交換条件というのはどうだ?」
「そういうことなら・・・・それにしても、一人で抱え込むなか。本当にそうだよな。もっと早くに健真さんの言うように話し合ってればこんなややこしい事態には・・・・って、健真さん!!健真さんは・・」
雫と話すうちに、僕は大事なことを思い出していた。
龍の姿の時にこの屋敷への攻撃を抑えめにしたのは健真さんへの被害を少なくするためだ。
健真さんは僕と雫の恩人であり、雫がメアさんやリリスさんに背中を押されたと言うように、僕に発破をかけてくれた人だ。
あの人は今どうなって・・・
「俺を無視するなぁぁぁぁあああああああああああっ!!鳴神ぃっ!!!!!」
その時、今まで意識から外れていた久雷がこちらに手をかざし、ビルほどの太さの稲妻を撃ちだしてきた。
チカッと光ったと思えば、凄まじい高熱が肌を焼く。
そのままでは灰も残さずに消えてしまうだろうが・・・
「フンッ!!!」
「なぁっ!?」
一瞬の後、白い稲妻は僕の手に吸い込まれるように消えていった。
「うーん・・・なんかあの人が撃った術って思うと複雑な気分だ。元は僕の力って言ってもいいくらいのものなんだけど」
「妾も迷うところだな。元が久路人のものとなれば・・・しかし・・・」
鳴神は神の力が混ざった雷の術の中でも最高峰の威力を持つ。
そんな必殺技を撃たれたにも関わらず平然としている僕に、久雷は唖然とした顔をしていた。ちょっとスカッとした気分になる。
「き、貴様、今何を・・・」
「雷とか火とか風とか、同系統の術で実体のない属性なら吸収できるのは知ってるよね?ましてや、それって元々僕の力みたいなものだし、吸えるのは当然だよ」
「だからと言って、あれほどの熱を受けて・・・」
「今の久路人は人間をやめている。貴様の物差しで測るな」
すべての属性に共通するわけではないが、霊能者は自身と同じ属性を持つモノを吸収することができる。雫は水辺ならば水を吸って体力を回復できるし、僕ならばその辺のコンセントから電気を吸って霊力に変えられる。とはいえ、他の霊能者が使った術には、術者固有の霊力が紛れ込んでいるから完全には吸えないし、術に触れなければいけないので実用的かと言えばそうでもないのだが、この場合は別だ。
「それより!!聞きたいことがある!!健真さんはどうした?僕は、あの人にお礼を言わなきゃいけないんだ」
「・・・ふん。久路人以外の男に頭を下げるのは癪だが、妾もまあ、久路人のつがいとして礼の一つはしておきたいところだ。あの男はどこだ?」
「貴様ら、貴様らぁっ!!この俺をどこまでもコケにしおってぇぇぇぇえええええええええ!!!」
久雷の周囲に、黒い砂が集まり始めた。
そして、すぐさま赤く熱されていく。
「実体のある黒鉄ならば吸えまい!!紅げ・・・」
「それ、もらうよ」
「つ・・・ぐぉおおおおっ!?」
刃の形を作りかけていた黒鉄が霧散し、空中でいくつもの杭を作った。そして、杭は猛スピードで久雷を穿ち、その体を地面に打ち付ける。雫に何本も杭を刺してきやがったお返しだ。
「な、なぜ・・・」
「さっきからそればっかだな・・・お前の黒鉄の制御を僕が奪ったんだよ」
久雷の言う通り、実体のある黒鉄の攻撃は吸収できない。しかし、その対処は雷よりも簡単だ。
黒鉄を操っているのは霊力と磁力。その二つの制御を乱してやればいい。
恐らく霊力の扱いは久雷の方が上なのだろうが、量は圧倒的に僕が上。ごり押ししてかき乱した後に制御を取ってやったのだ。
「術は吸えるし、このあたりの黒鉄は全部僕がもらった。お前は磔になって動けない。もうお前には何もできない・・・さてと、それじゃあもう一回聞くよ。健真さんはどこだ?」
「ぬぐぅぅううう!!・・・くく、クハハハハハハハッ!!残念だったなぁっ!!」
しかし、久雷はそこで狂ったかのように笑い出した。
「あの男は!!あの出来損ないはっ!!この俺が殺してやったよ!!愛の力がどうだか言っていたが、結局そんなものはあの男を守りやしなかった!!ハハハハッ!!!確かに貴様らは俺よりも強いんだろうさ!!だが、どんなに強かろうと、貴様らがあの男に会うのは・・・・」
「もういい」
「黙れ」
「ぐがっ!?」
僕が浮かべた杭を腹に刺すのと同時に、雫もツララを四肢に打ち込んでいた。
「あの人はお前の一族だろう!!それを・・・お前は自分の一族を何だと思って・・・!!!」
「そんなものはどうでもいい!!!神の力だ!!それ以外に重要なモノなど存在しない!!!」
「はっ!!久路人から力を奪っておきながらそのザマでよく言う!!神の力とやらを手に入れてその程度か!!」
「この蛇がぁ・・・・っ!!!」
術を撃てば僕が無効化し、この一帯の黒鉄は僕が奪った。体は杭で磔にされており、動けない。今の久雷には僕らを罵るくらいしかできない。
そういうわけで、僕らは久雷の扱いについて話し合うことにする。
「それで?コレはどうする?手先から凍らせて砕くか?内臓に水を溜めて破裂させるか?すぐに殺してはつまらん。なるべく苦しめてから息の根を止めてやろう」
「それなんだけどさ、殺すのは今は待って欲しいんだ」
「・・・久路人。お前が優しいのは知っているが、こんなヤツに情けをかけるのは・・・」
雫は、僕が久雷を憐れんで、情けをかけようとしていると思ったのだろう。
険しい顔で僕を咎めてきた。
しかし、違う。僕は久雷を憐れんでなどいない。むしろその逆だ。
「雫。僕はコイツの記憶を植え付けられたから分かるんだ。コイツ、とんでもない数の犯罪をやらかしてる。僕としてはすぐ殺すより、やってきたことをはっきりさせてから生き地獄に突き落としてやった方がいいと思う」
コイツの記憶を見せられた僕にとって、月宮久雷は軽蔑する以外に感情を向けることすらしたくない男だ。僕の身体を乗っ取りかけ、雫を傷つけ、健真さんを殺した。それだけでも同情する価値などないが、それ以前に過去に犯した罪が多すぎる。殺人、強盗、恐喝、誘拐、強姦・・・上げればキリがない。中には異能を使った犯罪もあり、普通の法では裁けなさそうなものまで。
確かに、過去の久雷は人々を救うことに、世界を守ることに誇りを持っていた。しかし、それは強大な力を振るう快感のオマケでしかなく、実際に力を失った後には妖怪に襲われる人間を助けようともしなかった。そこで他人を助けて感謝されることにやりがいでも感じていればまだ違っていただろうに。徹頭徹尾、月宮久雷は自分の欲望を満たすことしか考えていなかったのだ。
「久雷を学会に突き出そうと思う。あそこは異能を使った犯罪も取り締まってるらしいから。噂だと、凶悪犯は死んだ後も魂を拘束して拷問するらしいよ。コイツにはピッタリだと思うね」
雫を傷つけた上に、法を犯しに犯した月宮久雷に、憐れみなど抱くはずもない。
感情に任せて私刑で殺すのは少しどうかという思いもあるが、それ以上にすぐに殺すことなどコイツには贅沢すぎる。十分に生き地獄を味わわせてから、死んだ後も罰を受けるくらいで丁度いい。
「久路人がそこまで言うか・・・そういうことならばいい。ここで殺すのはなしだ。言われてみれば、殺してしまえばそこで終わりだからな」
どうやら、雫も納得してくれたようである。
「だが、久路人よ」
「・・・何?」
しかし、雫は笑みを浮かべながら久雷に向かって一歩進み、僕の名を呼んだ。
僕も聞き返しながら、同じように一歩前に出る。
「月宮久雷は、神の力を手に入れた強力な霊能者だ。学会に引き渡すのはいいが、それまでに暴れられたら困るよなぁ?」
「・・・そうだね」
ザッザと、二人で歩く。
「き、貴様ら・・・」
久雷は、どこか怯えた表情で僕らを見上げていた。
チラリと横目で雫を見てみれば、僕に向けていた笑みは消え、氷を削って作り出した彫刻のような無表情になっていた。しかし、紅い瞳にだけはギラギラと鋭い光が宿っている。
きっと、僕も同じような顔をしているに違いない。
「雫が最初に斬られたのは足だったよね。なら、足は僕がやるよ」
「そうか?なら妾は腕だな」
「貴様ら、何を・・・・」
久雷のかすかに震える声に答えず、僕らは霊力を解放する。
宙に浮かぶのは黒い刃が二つと、血を凍らせたような紅い刃が二つ。
そこまで来れば、久雷も何をされるのか察しがついたのだろう。顔からサッと血の気が引いた。
「ま、待て・・・」
「「これは・・・」」
久雷が制止の声をかけるも、そんなもので止まれるはずもない。
「雫を・・・」
「久路人を・・・」
僕と雫は、同時に手を振り上げ・・・
「「傷つけた罰だっ!!!」」
「ぐがぁぁぁぁあああああああああっ!?」
手を降ろした瞬間、4本の手足が宙を舞った。
刃が落ちた衝撃が強すぎたのか、久雷は身体に突き刺さった杭ごと浮かび上がり、ゴロゴロと地面を転がっていく。
「ふん。久路人を血まみれにしたのにはまるで釣り合わんが、今はこのくらいで勘弁しておいてやる」
「僕もこれくらいじゃ足りないけど・・・これ以上は殺しかねないからね」
雫を痛めつけた罰としてはまだまだやり足りないが、本当に殺してしまってもそれはそれで後悔するだろう。
「しかし、少々強くしすぎたな。吹き飛んでしまった」
「うん。拾いに行かないと・・・・」
そうして、僕らがダルマとなった久雷を回収しようとした時だ。
「・・・・ククク」
久雷が吹き飛んだ先から、しわがれた笑い声が聞こえてきた。
僕と雫は怪訝な表情を作る。
「なんだ?手足を落とされて気でも狂ったか?」
「ん?待って。久雷の髪、抜け落ちてない?」
「そういえば・・・体も縮んでいる?」
見れば、久雷の外見が変化していた。
若々しかった肌は元の老人のように萎び、髪は抜け落ちて、声もしわがれている。
しかし、その声は笑っていた。
「クククッ!!クハハハハハハハッ!!やはりガキだな貴様ら!!詰めが甘い!!」
その身体から、霊力があふれ出ていた。
いや・・・
「僕から奪った霊力を、解放している?」
「何をしようとしているか知らんが・・・久路人、殺すぞ」
その怪しげな様子から、何か良からぬことを仕出かそうとしているのだろう。
雫はためらいなくツララを投げ放ち・・・
「遅いわ!!・・・再び開け!!神の門よ!!!」
しわがれた声とともに、凄まじい光が再びあふれ出た。
「この身体に残ったすべてを!!儂自身に残っていたすべてをつぎ込み!!再び門を開く!!もっと奥へ!!神の御許に届くまで!!」
久雷の声が、突如噴出した暴風に乗って響く。
その台詞から、久雷のやろうとしていることが分かった。
「あいつ、またさっきの聖地とかいうのを作る気か?」
「さっきよりも強い力を感じる・・・これで、もっと大きな力を取り込もうってこと?」
どうやら久雷は僕たちに敵わないと悟り、もっと強い力を得ようとしているようであった。
門とやらの様子も、さっきよりも眩しい光を放っている。
「さあ!!神よ!!この忠実なる下僕に、神の力を穢した愚か者どもを罰する力を!!!」
--バキンっ!!
光が強くなる。
そして、何かに砕け散る音が聞こえ・・・
--不正なアクセスを確認。発生源の排除を開始します。
「今こそ!!今こそ儂に再び、あのちか・・がっ!?」
感情の籠っていない声のすぐ後に、老人のくぐもった悲鳴が耳に飛び込んできた。
-------
「がぁっ!?」
老人のうめき声とも悲鳴ともつかぬ声が響く。
「う・・・」
「何が、起きた・・・?」
久路人と雫は、目を潰しかねないほどの光が過ぎ去ったのを感じ取って、目を開けた。
ややぼやける視界が、段々とクリアになっていき・・・・
「ぐぅ・・・あ、貴方様は・・・御使い・・・なぜ、儂は・・・」
『・・・排除対象の生存を確認。攻撃を続行』
「ぐはぁっ!?」
二人の視界に、十字槍で胸を貫かれた老人と、その槍を持ったナニカが飛び込んできた。
「え?」
「・・・どういうことだ」
突然の事態の変化に、二人はしばらく茫然と、そのナニカを見ていることしかできなかった。
先ほどまで自分たちに追い詰められていた久雷が、もう一度聖地とやらを作ろうとして術を使ったのだろうということまでは分かるが、それと今の光景が繋がらない。
『・・・・・』
ナニカはそんな二人の様子など気にした様子もなく、洗濯物が引っかかった竿を持ち上げるように、老人を貫いたままの槍を天に掲げる。そして、槍が眩い輝きを放ち始め・・・
「お、お待ちを・・・儂は、これまで、貴方様方に、神に、忠誠を誓ってまいりました・・・」
『・・・・』
久雷の口から出た、『神』という言葉に、ナニカは反応した。
機械のように正確な動きで槍を掲げていたが、不意に動きを止めて、槍に刺さる老人を見つめる。
そんな反応をするナニカに希望を見出したのか、久雷は死に瀕しているにもかかわらず饒舌に語り始めた。
「儂は!!儂は戦って参りました!!尊き神より力を賜り、その力を以てこの世の平穏を保つべく尽力してきました!!ある日を境に力は失われてしまいましたが、この世界にはまだまだ歪みを招く不届きものがはびこっております!!儂は、そんな連中を滅するために再び・・・」
『無価値。否、有害』
「力、を・・・?」
しかし、そんな久雷の懸命な説得を遮るように、ナニカは無機質な声を出した。
『我が主が貴方に媒体を提供した理由は、現世の均衡を整える以外に存在しません。媒体を没収した理由は、その役目が果たされたため。その裁量を超えた行動は、有害ですらある。私がこの場に派遣された理由は、狭間への過干渉を侵した貴方を排除するためです』
「な・・・!?そんな、儂が!!儂がこの世の害だと!?ふざけるなっ!!儂が今までどれだけ神のために・・・・っ!!」
『我が主は、貴方にそれ以上の行動を一切求められていない』
「な、そんな、そんな馬鹿なことが・・・・」
なおも何かを言いつのろうとした久雷であったが、今度はナニカも動きを止めることはなかった。
槍を握る力を強め、そこに流れ込む力を増していく。
「や、やめ・・・」
『主の命により、ここに罰を下す・・・
「がぁあっ!?あ・・・あ・・・」
込められた力が限界になったかのように、槍が白く輝いた。
それとともに、地上から天空に向かって光の奔流が昇っていった。
『・・・・排除完了』
光が収まった時、ナニカが握る槍には、先ほどまで刺さっていた老人は影も形も残っていなかった。
「・・・・・」
「・・・・・」
久雷が消えたことに、久路人と雫は少しの間理解が追い付かなかった。
いや、理解が追い付いていないのは、今の状況すべてである。
目の前にいるナニカが敵なのか味方なのか、それさえも分からず・・・
『・・・・現世の霊力に、大きな乱れを確認』
ポツリと、ナニカが呟いた。
言葉と共に、ナニカはゆっくりと振り向き・・・
『特異点ならびにその近似値を確認』
「「・・・っ!!?」」
『特異点の排除は、命じられていない。判断を保留』
茫然としていた二人は次の瞬間、臨戦態勢をとった。
ナニカの意識は自分たちに向いたとわかるや否や、本能が警告を上げたのだ。
--強い!!
全身が訴えかけていた。
あのナニカは強いと。
戦えば、さらなる進化を遂げた今の自分たちでも危ういと。
二人は、ナニカを観察する。
「久路人・・・」
「うん。あれは・・・」
『・・・・・・』
ナニカは、感情の籠っていない蒼い瞳で、久路人と雫を見つめていた。しかし、その眼はどこか虚ろだ。
その顔は男性とも女性とも断定できない中性的なつくりをしており、その短髪は眩い金色。肌は病的なまでに白い。
顔を除く全身を銀色に輝く鎧に包まれていて、なにより特徴的なのは・・・
「・・・天使?」
『・・・・・』
その白く大きな二枚の翼をはためかせながら、ナニカは久路人と目を合わせた。
そして、一瞬目を瞑る。
『データベース検索・・・該当あり。特異点、月宮久瑯の近似値。個体名、月宮久路人・・・エラー発生。既知データとの乖離を多数確認。修正の必要ありと判断』
「僕を知っているのかっ!?」
不意に自分の名前を当てられたことで、久路人は警戒を強めた。
雫もまた、久路人を守るように薙刀を構える。
しかし、ナニカは久路人の言葉には応えず、その隣にいる蛇の少女に目を向けた。
『再度データベース検索・・・媒体の正規取得者に該当なし。月宮久路人との強力なパスを確認。月宮久路人の近似値と判断。月宮久路人に生じた変異も含め、データベース更新・・・・個体名、水無月雫。データベース上の近似値は、月宮久路人および
「・・・妾のことまで知っておるか。何者だ貴様」
雫のことまで知っている様子に、二人の警戒はさらに強まった。
武器を構え、相手の一挙一動に注目する。
そんな二人の様子を見て、ナニカもまた動きを変えた。
焦点の合っていなかった瞳が、今ははっきりと二人を見ており・・・
『月宮久路人ならびに水無月雫』
ナニカはそのまま口を開いた。
『貴方たちに伺いたいことがあります』
「・・・なんですか?」
「久路人・・・」
ひとまず、久路人はナニカと敵対することなく、対話を選んだ。雫は、そんな久路人に心配するような目線を向けるが、久路人は「大丈夫」とでも言うように頷き返した。
元より争いを避けるものなら避けたがる性格であるし、ナニカの強さが未知数ということもある。
そして、そんな二人を見ながら・・・
『貴方方に、世界を乱す意思はありますか?』
ナニカはそう言った。
「世界を、乱す?それって、どういう・・・」
『言葉通りの意味です』
質問が抽象的で、イマイチ意味が分からなかった。
久路人が聞き返すと、ナニカは淀みなく答えてみせる。
『具体的に言うのならば、その大いなる力を以て忘却界を破壊し、狭間に大穴を空けること。先ほどの月宮久雷が行った術と等しい結果をもたらすことです』
「そんな!!それなら、僕に、僕たちにそんなつもりはありません!!むしろ、そんなことをしようとしているのがいるのなら、止めに行きますよ!!」
「妾もだな。妾は、久路人と静かに暮らせるのならそれでいい。だが、妾達を害そうとする者がいるのならば抵抗するし、お前の言うようなことをする輩がいれば殺す。久路人との平穏の邪魔だからな」
『・・・・・』
久路人たちの答えを聞いて、ナニカはしばし目を瞑って沈黙する。
ややあって、目を開いた。その瞳は、どこか遠い場所を見つめているようなものに戻っていた。
『特異点並びにその近似値に、我が主への叛意なし。脅威度をレベル2と判断・・・処分の必要性なし・・・・了解しました』
ナニカは、まるで自分の上司に報告するように、平坦な声でそう言った。
そのまましばらくの間、ボソボソとこの場にいない誰かと話すように独り言を呟いていたが、急に口を閉じたかと思えば、その視線を再び二人にあわせる。
『月宮久路人ならびに水無月雫』
「は、はい」
「・・・なんだ」
『我が主よりお言葉を賜りました』
「「・・・!!!」」
目の前のとてつもないプレッシャーを感じる存在より上位の存在が、自分たちに何かを伝える。
ナニカとその主の関係性はよくわからないが、重要なことであろうというのは想像がついた。
『先ほどの意思を守るつもりがあるならば、今の姿のまま、もう一度人化の術を使用せよ、とのことです。半妖体でも、貴方方の力は強すぎる。今も、この周辺の忘却界は崩壊を続けている』
「えっ!?」
「何だと?」
その言葉に、久路人と雫は慌てたようにあたりを見回す。
「人外になったのに体が妙に軽いと思ったら・・・忘却界が壊れてたのか!!」
「むぅ・・・まるで気がつかなかった」
「いや、それより!!もう一度人化の術を使えばいいんですね?なら・・・」
「あ、待て久路人!!妾も・・・」
「「人化の術!!」」
『・・・・・』
挙動不審になりながらも人化の術を使う二人を、ナニカは無表情で見つめていた。
しかし、その視線は無表情でありながら、どこか呆れているようにも見えた。
「おお!!角が消えた!!尻尾も!!」
「ふぅ・・・あ~、あ~・・えっと、『私』は・・・よし!!私に戻ってる」
「あ!!でもこれだけじゃダメだよ雫!!霊力を抑えないと!!・・・えっと、こうかな?」
「わっ!!そうだった・・・えっと・・・おいそこの!!これでいいか?」
『・・・はい。このレベルまで霊力が抑制されていれば、充分です。忘却界の崩壊が停止しました』
黒い砂嵐と白い霧が一瞬だけ現れたと思えば、そこには角も尻尾も生えていない、人間と同じ姿の二人がいた。二人はすぐさまに霊力を抑え込むと、ナニカに確認を取る。
二人とも霊力を抑え込む経験に乏しい。特に久路人は体質上、肉体に霊力を押しとどめることは大変危険だったために初の試みであったが、どうやら成功したようだ。
それを見て満足したのか、ナニカは踵を返して、空中に手をかざした。
すると、何もなかったはずの空間に、光り輝く扉が現れる。
『狭間の深奥にゲートを開通。これより帰還します・・・』
「あ!!待ってください!!」
光り輝く扉に入ろうとする寸前に、久路人はナニカを呼び止めた。
目の前の得体のしれない存在を呼び止めることに、ためらいがなかったかと言えば噓になる。しかし、久路人としては、聞かずにはいられないことがあったのだ。
『・・・・・』
振り返りこそしなかったが、ナニカも足が止まっている。
「あの!!あなたのお名前は?あなたは、あなたの主はどういった存在なのでしょうか?」
『・・・・・私は』
向こうは自分たちのことを知っていたが、こちらは何も知らない。久路人にとってそれは、ひどく不気味なことに思えたのだ。
その問いに、背を向けたまま、ナニカは答える。
『私は、貴方方が『神』と呼ぶ御方によって創造され、お仕えする役目を負った『神兵』が一。個体名、『
ナニカ、改め執行者は、扉の中に進みながらそう言った。
『どうか、貴方方が我が主とよき隣人であらんことを』
そうして、執行者は扉の奥へと消えていき、扉もまた、宙に溶けるように霧散していったのだった。