バトル中に告白ってよくある気がするんだけど、いざ書いてみるとバトルパートと告白パートをきっちりかき分けるのが難しかった・・・
最近投稿するたびにお気に入りが減っているのですが、やはりウジウジしたパートが長すぎたと作者として反省するばかりです。
「いやあ!!実に素晴らしい夜だった!!!」
白琉市とその隣町の境目。
一人の痩せぎすの男が、大げさな身振りで、突然影の中から現れた。
そのすぐ後に、人間のパーツを無理矢理組み合わせたような、二つの生首を据え付けられた狐も続く。
先ほどまで月宮健真の身体の中に忍ばせた亡霊を介して事態に干渉した男の名は、ゼペット・ヴェルズ。
獣は、かつて久路人たちを苦しめた九尾とその夫の成れの果てであった。
「素晴らしい!!本当に素晴らしい!!愛の強さが、種の壁を超越させた瞬間!!あれを見ることができただけでもこれ以上ない悦びが溢れてくるというのに!!ましてやそれが龍の血の持ち主とは!!ボクは!!なんて幸運な男なんだろう!!!」
おぼろ月の下、男は髑髏がいくつも付いた悪趣味なステッキを振り回しながら叫ぶ。
そのままクルクルと回転しながら一晩中踊り狂っていそうな様子であったが・・・
--ドォン!!!
やや離れた場所に、白い光の柱が落ちたのを見て、ピタリと動きを止めた。
そして、わざとらしい仕草で耳に手を当てる。
「おやおやおやぁっ!!?これは、かの『神兵』かなぁ!!月宮久雷は「残念ながら消えてしまったようだねぇ!!!この様子じゃあ、魂も壊れてしまったかなぁ!?ここまで事態を進めてくれたお礼をしたかったんだけどなぁ!!!」
「・・・・・」
彼方から感じる厳かな霊力を感じ取ったのか、不浄の身と化した狐は忌々しそうに体を震わせる。
やがて、その神々しい気配も遠ざかっていった。
「どうやら還ったようだねぇ!!いやあ!!ボクは本当に幸運だ!!もしもあの場にとどまっていたら、摂理に反するボクは目を付けられていただろうしねぇ!!!ひっっじょぉぉぉぉおおおおおおおに!!!ボクは丁度いいタイミングで抜け出せたみたいだぁっ!!!お土産を持って帰れて、すぐに出発できるこの場所にねぇ!!!」
「・・・・・」
そこで、ヴェルズは影の中から何かを取り出した。
その大きな影は地面の上に転がるも、起き上がる反応は見せない。
「霧間八雲・・・キミの感情は素晴らしかった!!!横恋慕を応援するつもりはないけど!!キミのその怨念じみたモノを宿す心はぁ!!!むざむざ死なせるには勿体ない!!!キミのその想いは!!!キミが生きているからこそ際限なく燃え続けるものだからねぇ!!!」
「・・・・・」
地面に投げ出されたのは、霧間の当主の娘である、霧間八雲であった。
雫に激高し、切りかかろうとしたところを久雷の術で吹き飛ばされていた。
そのままであれば、その後の久路人たちの戦いに巻き込まれて死んでいた可能性もあったが、彼女は命を捨てずに済んだようだ。
それを幸運ととるか不幸ととるかは分からないけれども。
「うんうん!!色々とこんがり焼けているけど、ギリギリ命は助かるねぇ!!!ボクの家に送っておこうかな!!!取りに行きたいものもあるしねぇ!!!!」
「・・・・・」
霧間八雲の負った傷の具合を確かめ、すぐに死ぬことはないと判断したのだろう。ヴェルズは影の中にもう一度八雲を叩きこむと、その代わりに別のモノを引っ張り出そうとしていた。
「さてさて!!!今回は久路人クンの突発的な行動で準備する時間があまりなかったからねぇ!!!こんな機会はめったに巡ってこないことだし!!!早く行かないとなぁ!!!」
影の中に腕を突っ込みながら、ヴェルズはなおも下僕を探す。
本来、久路人が龍となるのは、もう少し先のこと。ヴェルズの監視下でのこととなる予定だった。
入念にその周囲を高位のアンデッドで囲って待ち構え、龍を手に入れる。そのはずであったが、久路人の暴走によってヴェルズは計画を前倒しにせざるを得なかった。
そのせいで、ヴェルズは戦闘用に使役するアンデッドの調整が未だに済んでいなかったのである。
「さてさて!!一体どの子を連れて行こうか!!!選り取り見取りで迷ってしまう・・・」
そうして、久路人の回収に使えるアンデッドを見繕っていた瞬間だった。
「
「ぐぁぁああああああああああっ!!?」
森の奥から割烹着を着た女が、燃え盛る剣を手にヴェルズに斬りかかった。
かろうじて身体を捻り、真っ二つにされることは避けたようだが、炎と眩い光を放つ刃にその身を大きく切り裂かれる。普段のわざとらしい演技とは違う、本物の悲鳴がヴェルズの口から上がった。
「ぐ、おおおおお!!!!キミ、はぁ!!!ナイト、メアだとぉぉお!!!?」
「その名前でワタシを呼ぶな。今のワタシは、月宮メアだ」
ゴロゴロと転がるように距離を取ったヴェルズが驚きながら名前を口にすると、即座に否定が返ってきた。
割烹着の女、メアが再び剣を構えると、ヴェルズは狼狽したように喚き散らす。
「馬鹿なぁ!!!ここには九尾の幻術をかけておいてはずぅ!!!場所が分かるわけ・・・!!!」
「やっぱり幻術使ってやがったな。警戒しておいて正解だったぜ」
「何ぃ!!!」
ガサリと音を立てて、メアの後ろからツナギを着た長髪の男が現れる。
その手には、狐の尾を加工したような襟巻が握られていた。
「幻術対策の術具だ。素材はそこにいる狐モドキの大本・・・幻術は効かねーよ。後、いい加減演技すんのは止めろ。どうせテメェは分霊だろうがよ」
九尾の素材を加工できる術具師など、日本には一人しかいない。
月宮京は、険しい目でヴェルズを睨んでいた。
「・・・なぁんだ、バレてたのか。この身体も、見た目はそっくりに加工したんだけどなぁ」
京の視線に耐えかねた、というわけでもないだろうが、ヴェルズは元のわざとらしい口調に戻る。
「とはいっても、痛みがないわけじゃないんだよ?メア君のその剣は、神の力が込められてる上にアンデッドに特効があるみたいだしねぇ・・・本体にまで痛みが届いたよ。イタタタタ・・・・」
「んなこたあ、どうでもいい。テメェ、何を企んでやがる。久路人の馬鹿が結界に引っかかったのが分かって急いで来て見りゃ、こんな場所に幻術かけて居座りやがって。おまけに、さっき感じたのは、神兵の気配だ。忘却界も壊れてるし、何をやらかしやがった」
「オイオイオイ!!!濡れ衣さぁ!!少なくとも今回は、ボクはキミたちにお礼を言われてもいいぐらいの活躍をしたんだがねぇ!!!」
「知るか。どうせテメェの打算ありきだろ。昨日の吸血鬼の襲撃も、犯人はテメェしかいないんだからよ」
ヴェルズの雰囲気は、まるで親しい友人に会ったかのように朗らかだが、京とメアは敵意に満ちている。
そして、その感情が膨れ上がるのと同時に、白い霊力が場に満ちつつあった。
ヴェルズはそれを見て、またしても本当に驚いたような顔をする。
狐はこれから何が起きるのかを察したのか、凄まじい跳躍力で上空へ跳びあがり、白い霊力に包まれる前に逃げおおせていた。
「おや、これは・・・」
「幻術を使ってたのはテメェだけじゃねぇ。この襟巻は、使う方でも高性能なんでな。しっかり準備はさせてもらったぜ」
「本体にまでダメージがいくのは確認できました。倒しきれずとも、今後しばらく動けないようにはさせていただきます」
世界が歪む。
いつの間にか、京の背中からは機械仕掛けの翼が生えていた。
その翼は光とともに巨大化し、それに反比例するように、京の身体が細かな部品となって翼に組み込まれていく。
そして・・・
「「理を統べ、禁忌を暴き、万物の法を以て、ここに新たな摂理を組み上げよ!!!開け、
光が収まると、そこには機械仕掛けの天使がいた。
燃え盛る剣を持ち、巨大な翼を生やしたメアは、歯車に一面を覆われたドームの中で、唯一円形のひのき舞台に立っていた。その剣の切っ先は、同じように舞台の上に立つヴェルズに向けられている。
それを見たヴェルズは、珍しく毒気を抜かれたような口調で呟いた。
「オイオイ、これは・・・・」
身体が動かない。
この世界は、絶対の支配者が作り出した仕掛けに支配されているのだ。
この舞台に上がった者は皆、脚本家の描く通りに動き、機械の部品のようにその役目を果たすことしかできない。
それでは、ヴェルズに与えられた役目とは何か?
その答えは、機械仕掛けの天使だけが知っている。
「随分長い休暇になりそうだなぁ」
そして、目の前の天使が剣を構えたと思えば、視界から消えていた。
次の瞬間、ヴェルズの腰に一筋の光が走り、そこから上がずり落ちる。
舞台の上に堕ちる前に、それらはすべて灰へと還っていった。
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夏の夜。
湿気を含んだ生ぬるい風が吹いていた。
「・・・ふぅ」
執行者がいなくなった後、周囲に満ちていた威圧感が消え、僕は思わずその場に座り込んで息を吐いた。
辺りは、屋敷が完全になくなり、むき出しの地面であったが、そんなことも気にならない。
なんだか気が抜けてしまったのだ。
(いろいろあったからなぁ・・・)
僕の勘違いで、雫の言葉を誤解して家出。
隣町まで急行し、霧間家とお見合い。
その最中に健真さんと話して誤解を解くきっかけをつかみ。
そのすぐあとに月宮久雷に体を乗っ取られそうになり、そこを雫に助けられた。
結局久雷と戦うことになるも、弱っていた僕と雫は追い詰められ、今度は健真さんに守られた。
そうして、覚悟を決めて、終わる前にすべて話そうと思ったら誤解が解けて告白。
人外になって、若返った久雷を倒したと思ったら執行者なる存在に久雷が殺されて・・・
そして今に至るというわけだ。
(今日一日にあった出来事だとは思えないよなぁ・・・昨日だって吸血鬼に襲われたばっかだったのに)
改めて、とんでもない人生を送っているものだと感心すらしてしまう。
いや、もう人間じゃないから人生でなく妖生というべきか?人外とはいえ、僕は妖怪なのだろうか?
「ねえ雫、僕って・・・雫?」
「・・・・・」
自分が一体どんな存在にカテゴライズされるのか気になり、隣を見てみると、雫は何やらブツブツと呟きながら自分の胸元をさすっていた。
「私、もうちょっとあったよね?絶対もう少しあったはず・・・きっと、人化の術が完全じゃないんだ・・よし、もう一回」
「・・・・・」
(雫が胸の大きい女の人に当たりがキツイのは知ってたけど・・・)
なんというか、いたたまれない。
「人化の術!!」
そして、そのまま雫が白い霧に包まれるのを見ていた。
雫は期待するような表情で着物を少し緩めて中を覗き込んだが、すぐにその顔は絶望に染まっていた。
そして、崩れ落ちるように僕の隣に座り込む。
その様子があまりに憐れだったので、声をかけることにした。
「し、雫、元気だしなよ・・・ほら、僕はあんまり気にしないから」
「・・・本当に?久路人、巨乳好きだよね?」
「え゛?」
つい、変な声が出た。
(ば、バレていたのかっ!?なんでっ・・・・いや、それより!!)
僕は、沈んでいる雫を慰めることを優先する。
断じて、話題を逸らしたいわけではない。
「た、確かに好きだけど!!でも、今は雫のが一番好きだよ!!」
「・・・・・」
それは、嘘偽りのない僕の本音だ。
例えどんな好みの乳だろうと、好きな女の子のソレに敵うはずもない。
雫のために人間やめた僕だ。己の性癖に抗うことなど難しくもなんとも・・・
「じゃあ、巨乳の私と貧乳の私だったらどっちが好き?」
なんとも答えづらいカウンターが返ってきた。
「・・・りょ『言っとくけど、両方はナシね』」・・・ずるくない?」
破れかぶれに反撃を試みるが、相手は無慈悲に逃げ道を塞いでくる。
中途半端な慰めは、時として他人を傷つけるだけに終わる。
それをよく実感できた僕に、雫はジト目を向けていたが、やがて「はぁ・・」とため息を吐いた。
「ふん。別にいいもん。これから久路人に大きくしてもらうから」
「いや、その、流石にそれ以上成長は・・・・え?僕が大きくするの?」
「当たり前でしょ?だって久路人は、私の恋人で、つがいになるんだから」
「それと何の関係が・・・?」
雫の言うことの意味が分からなかったが・・・・
「・・・・・ちょっ!?それはさすがにまだ早いって!!」
少し考えたらその意味が分かった。
さすがにまだ学生の身分でそれは、と思い、慌てて雫を見ると、ニヤニヤと楽しそうに笑っている。
「あれ~?久路人、何を想像しちゃったのかな~?私はただ久路人に揉んでもらったら大きくなるかなって思っただけなんだけどな~?」
「・・・・・」
フイ、と僕は雫から目を逸らした。
顔が熱い。
なんだか乗せられたような気分であったが、悪い気はしなかった。むしろ・・・
「ふふふっ!!」
「あはははっ!!」
どちらからということもなく、僕らは笑い出した。
可笑しかったのだ。さっきまであんなに緊迫していた状況が、雫と話すだけで何気ない日常の空気に戻ったことが。
なにより・・・
「なんか、すごい自然に恋人とかつがいって言ってたよね・・・僕たち、本当にそういう風になったんだなぁ」
「うん。本当にそうだよ・・・ずっと、私はこういう関係になりたかったんだからね?」
ごく当たり前のように、僕たちの仲が、これまでよりのずっとずっと深いものに変わったことが、嬉しくてたまらないのだ。
ほんの数年。されど数年。
僕もまた、ずっと雫とこうなることを望んでいたのだから。
「ずっと・・・か。僕もそうだよ。本当の意味で、僕も雫と恋人になりたいって思ってた」
「・・・?本当の意味?」
雫は、わずかに首を傾げた。
そうか、そう言えば雫の方が、僕をこっそり人外にしようとしているのを、後ろめたく思ってたっていうのは知っていたが、僕がためらっていた理由は少ししか話していなかった。
「うん。僕がここに来た理由なんだけどね、僕は、雫が僕の血に洗脳されてるものだと思ってたから、雫から距離を取らなきゃって決めたからなんだ。雫が僕に優しいのも、僕の血のせいなんじゃないかって、ずっと悩んでた」
「え?何それ?なんでそうなってたの?」
雫は訳が分からないといった顔をしている。
自分で話していて、僕も随分アレなことを言ってるなと思った。これまでの僕は本当に視野が狭かったのだろう。
「葛城山で離れ離れになって、九尾に襲われた時があったでしょ?その時に言われたんだ。雫は、お前の血に酔っているだけなんじゃないかって」
それは、これまでずっと僕を縛っていた呪いだ。
僕の話を聞いた雫は・・・
「あのクソ狐!!同情して損した・・・!!あいつのせいでこんなややこしいことに・・・もしあいつが襲ってこなかったら、もっと早く久路人とくっつけたかもしれないのに・・・もっと丁寧に踏みつぶしてやるんだった」
ボソッと怨嗟に満ちた声を漏らしてから、不機嫌そうに僕を見た。
じっとりした視線が、僕を射抜く。
「・・・久路人、それ信じてたの?」
「うっ!!その、うん。僕の血って、自分でもよくわかんなかったし・・・」
「ふーん・・・私の猛アピールが、全部操られた結果だったって思ってたんだ」
「猛アピール?・・・うわっ!?」
雫は紅い瞳を細めて、僕の靴の上に自分の足を乗せた。
そのまま、軽くフミフミと動かす。
「まあ、私もずっと嫌われるかもって思って、自分のやってること言わなかったからお互い様だけどさぁ・・・あのね、久路人」
眉をひそめていた雫であったが、やがてボソリと何事かを口にすると、足をどけた。
そして、静かにその胸の内を声に出す。
「私は、久路人と二人で一緒にいられるなら、それでいいの。だからこれまでは、二人でいるための理由がたくさん欲しかった。契約とか約束とか、日課とか・・・色んな繋がりがあったけど、それがあるから久路人の傍にいられるんだって思ってた」
「そんなこと・・・!!」
僕が思わず否定しようとすると、雫は僕の目の前に手をかざして、僕を遮った。
「そう。そんなことないんだって、私はやっとわかったんだよ。久路人も、人間やめてくれるくらい私のことを好きでいてくれるから、何もなくても隣にいられるんだって。それは、私だって同じ」
そこで、雫は僕と目を合わせて言った。
「私は、今みたいにずっと一緒にいられるなら、それ以上のものなんて要らない。久路人の血だって、飲まなくて平気・・・そう思ってなきゃ、自分の血を混ぜたりなんかしないよ」
「雫・・・」
改めて、雫は言葉にしてくれた。
僕を縛っていた呪いを、粉々に砕く言葉を。
「大体!!私が久路人のことを好きになったのは、ずっと前のことなんだからね?血の影響があったとしても、そんなのが出る前だから関係ないよ」
そして、雫はやや不機嫌そうな表情のままそう言って見せた。
「ずっと・・・それって、いつぐらい?初めて会った頃は、違うよね?」
「うーん・・・はっきり自分でもわかったのは久路人が中学生に上がって少しした頃だったけど、多分、それよりもずっと前だと思う。あの約束をした時には、久路人とずっと一緒にいたいって思ってたから。久路人は?」
「う・・・言わなきゃダメ?」
「ダメ!!」
そして、話は『いつからお互いが好きだったのか?』ということに移る。
その話をされると、僕としては少し後ろめたいのだが・・・
「・・・僕が雫を異性として好きになったのは、初めて雫が人化の術を使った時だよ。あの頃は素直に認められなかったけど、思い出してみたら、あの時以外にないと思う」
「へぇ~そうなんだ!!なら、私とあまり変わらないじゃない。私が人化の術ができるようになったのも、久路人が好きだってわかったからなんだから・・・なんで話しにくそうにしてたの?」
「え?そりゃあ・・・それまでそういう目で見てなかったのに、美少女になった途端に惚れるとか、軽くない?」
それは、僕がずっと気にしていたことの一つでもある。
友達とか家族として接していた相手が、急に可愛くなったから異性として見るって、こう、なんかだらしないような。
「はぁ~・・・久路人って本当にそういうところお堅いっていうか真面目だよね。私としては、そう思ってくれないと人化の術を覚えた意味がなくなるから、むしろウェルカムなんだけど」
「え?そうなの?」
意外だ。
女の子ってそういうナンパなのは嫌いなもんだと思ってた。
「そりゃ、久路人相手だもん。久路人と恋人になりたいから人化の術を使って、その通りになってくれたんだから、悪く思うはずないよ。っていうか、逆に蛇の時から異性として好きでしたって言われたらそっちの方が困るよ。異常性癖じゃん。もちろんそれでも久路人なら受け入れられるけど」
「まあ、そう言われれば確かに・・・?」
爬虫類好きな僕であるが、それは可愛がる対象としてであって、性的な意味ではない。
というか・・・
「あの時言ってた願いの一部って、僕と付き合うことだったんだね」
「あの時?」
「ほら、雫が人化して、イジメられてた僕を助けてくれた後だよ。人化の術に必要な願いについて、全部は話してくれなかったよね?」
「あ~。あの時ね。う~ん・・・」
あの日、「手を繋いで一緒に帰って欲しい」と頼まれて、月夜の下を並んで帰ったのは、一生忘れることはないだろう。あれも、願いの一部ということだったはずだ。
しかし、僕がそう言うと雫も思い出したようだが、その表情は少し不満気だ。
「む~・・・」
「雫?僕、なんか間違ってた?」
「間違いと言えば間違いじゃないけど・・・足りないかな」
「え?」
そこで、雫は上を見上げた。釣られるように、僕も空を見る。
夏の湿気に満ちた空はどこかぼやけていて、せっかくの満月が隠れてしまっていた。
「ねぇ久路人」
雫は、不意に立ち上がった。
「今なら、久路人も飛べるよね?ここはちょっと蒸し暑いし、上に行かない?」
「上って、空?なんで・・・」
「いいから!!」
「わっ!?」
雫は、僕の手を取ってふわりと浮かび上がる。
突然の浮遊感に驚いた僕であったが、身体は自然と風属性の霊力を放出し、空へ空へと昇っていく。
「ちょっと雫!!いきなり何を・・・」
「あそこじゃ、なんかヤダ」
「?」
雫はひたすらに上を見ながら、空を駆けていき、僕も自分から並んで走るように何もない場所を踏みしめる。
見る見るうちに下の街並みは小さくなり、生ぬるい空気が段々と涼しくなってくる。
そして・・・
「ふぅ~!!着いた!!」
「ここって、雲の上?」
「うん!!下からじゃ、月がよく見えなかったから。せっかくあの日と同じ満月なのに、勿体ないもの」
雫が止まったのは、龍の時に昇ってきた雲の海の上。
夏の白い輝きを放つ満月が、ずっとずっと大きく見えた。
僕がそんな月に思わず見とれていると、雫が僕の前にまで回り込んで、上目遣いをしながら腕をクイと引っ張った。
まるで、月なんかよりも自分を見て欲しいと言うように。
「ね、久路人。さっきの話」
「さっきの話?・・・足りないってヤツ?」
「そ!!・・・それで、何が足りないか、分かる?」
「え?」
さっきの話は、雫の願いが何かという話だった。
僕はそれに、『雫が僕と恋人になること』だと思ったのだが、それでは足りないという。
雫は、疑問符を浮かべる僕の顔を、真正面から見つめた。
その紅い瞳はキラキラと輝いていて、何かを期待しているようで・・・
「私の願い、久路人に当てて欲しいな」
雫は、僕の恋人は、そう言った。
「雫の、願い・・・」
--そうだ。
それを聞いて、僕はぐっと拳を握りしめていた。
「雫・・・」
「うん」
僕は、雫の本当の気持ちをずっと知りたいと思っていた。
思えば、あの日に聞いた、雫の願いという言葉が、ずっと頭の中に残っていたのかもしれない。
「人間をやめる前に、言ったけど・・・」
「・・・うん?」
雫が、怪訝そうな表情を浮かべる。
雫の予想していた答えと違っていたのだろう。
「僕は、雫のことが好きです」
「・・・・・!!」
雫は潤んだ瞳で、突然の告白に驚いたような表情を作る。
「だから・・・」
これから言うことは、雫の願いと同じ意味のはずだ。
僕には、その確信があった。
なにせ、僕はそれを、答えを一度聞いているのだから。
「僕と、結婚してください。お嫁さんとして、僕の傍にずっといてください!!」
雫の瞳をまっすぐ見つめ返して、僕はそう言い・・・
--ヒュウと一瞬、風が吹いた。
「・・・久路人、私ね」
「・・・うん」
ややあって、雫は口を開いた。
その声はかすかに震えている。
「私ね、ずっと憧れのシチュエーションがあったんだ。久路人とのファーストキスは葛城山で久路人が死にそうになってた時だったんだけど、だから、告白とか、プロポーズは、私の理想を叶えたかったんだ」
僕を見ながら、雫はニッコリとほほ笑んだ。
その笑顔に、ツゥーッと涙が一筋伝う。
「満天の星空と、満月の下。白い雲の海の上・・・二人っきりの場所っ!!」
「わっ!?」
そこで、雫がいきなり僕の胸の中に飛び込んできた。
僕は慌ててその小さな身体を受け止める。
そして・・・
「んっ!!」
「!!」
顔を上げて、本日4回目のキスをした。
それは、他の誰かへの対抗心だとか、怪我を治すためだとかじゃない、純粋な意味での口付け。
「ぷはっ!!」
しばしの後、銀色の橋をかけながら、雲の上に映る僕と雫の影が少しだけ離れる。
「正解だよっ!!大正解っ!!私の願い!!大当たりだよっ!!・・・・久路人っ!!」
雫は、それからまた、涙で潤んだ上目遣いで、僕を見る。
「こちらこそ!!私を、あなたのお嫁さんにしてくださいっ!!この先、一生お傍にいさせてくださいっ!!」
--女として、恋人として、妻として一生を添い遂げる!!
僕は、ちゃんと雫の願いを言い当てられたのだ。まあ一回、カンニングしたようなものだが、例えそうでなくとも、正解できた自信はある。
「喜んで・・・」
僕は雫の頭の上に手を乗せて、返事をしながらサラサラとした銀髪を撫でた。
「雫の夢、叶えられてよかった」
「・・・っ!!うんっ!!ありがとうっ!!」
満足だった。
幸せだった。
大好きな女の子と想いを通じ合わせて、大事な夢を叶えてあげることができて。
いっそ、ここで死んでもいいと思うほどに・・・いや。
「それはやっぱりダメだな」
「久路人?・・・んっ!!」
突然脈絡のないことを言い出した僕を、不思議そうな顔で雫が見上げている。
そんな様子も、どこまでも愛おしかった。
僕は、雫を抱きしめる力を少し強め、雫の顔を見つめなおした。
僕のやろうとしていることに気付いたのか、雫も僕に視線を固定する。
「雫」
「久路人」
僕らは互いの名を呼び合った。
これまで幾度も呼んできた名前。何回も口にした言葉。
けれども、今までで一番想いが籠っていたのは、この時を置いて他にない。
「これからも・・・」
僕は、少しづつ雫に顔を近づける。
「ずっと一緒にいてね」
雫がその言葉を言い終えた直後。
再び雲海の上で、僕らの影は一つになり・・・
「あれ?」
唐突に、僕の中にあった風属性の霊力が消えた。
「え?」
不意に浮力がなくなったことで、一気に体に重さが戻る。
その重さに驚いたのか、僕の身体は雫の腕からするりと抜けて・・・
「わぁぁあああああああああああああああっ!!?」
「く、久路人ぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!?」
地上に着くスレスレで雫にキャッチされるまで、僕はパラシュートなしのスカイダイビングをする羽目になったのであった。
久路人、実はまだ完全に人外化してません。
どうしてもやっておきたいネタがあるので、あと1話か2話の間だけ、人間でいてもらいます。
その後、少しタイトルを変える予定です。
感想、評価よろしくです!!
ところで、まったく書ける気がしないのでアレなのですが、R18版って需要あるんですかね