白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話   作:二本角

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久路人が人間でいるのは、今回のお話を除いてあと二話かな?
あと、サブタイトルは毎回結構適当です。


第三.五章 拾った妖怪に惚れて人間やめた日
事後処理


「このたびは・・・・」

「数々のご迷惑をおかけしてしまい・・・」

 

 シャーシャーとクマゼミの鳴き声が響く朝。

 白流市の月宮家のリビングにて。

 

「「大変申し訳ございませんでした」」

 

 久路人と雫の二人は、床に額をこすりつけて謝罪をしていた。

 久路人はともかく、地味にプライドの高い雫まで土下座するというのは、相当レアな事態である。

 そして、そんな二人の謝罪を受けた側としては・・・

 

「・・・・・」

 

 月宮家の主にして、久路人の保護者。月宮京は険しい顔のまま瞳を閉じていた。

 二人の謝罪はしっかりと耳に届いていたはずであるが、答える様子はない。

 

「・・・・・」

 

 京と並んでソファに腰かけ、パリパリとポテトチップスを摘まんでいるメアの立てる音だけが静かな部屋の中に響き・・・

 

「いや、なんでテメーはこの空気でポテチ食ってんだよ」

 

 謝罪に答えるよりも、京はまず自分の妻の奇行を諫めることにしたようだった。

 

(聞いてくれてありがとう、おじさん)

(まさか妾たちが聞くわけにもいかんからなぁ・・・)

 

 土下座しつつもメアがポテチを摘まむ音は耳に入っており、なんなら朝に沈痛な面持ちで入ってきた二人の後に、無表情でポテチの袋を抱えてやってきた時点で何かがおかしいとは思っていた。その後に一連の事情を説明している時にも気にはなっていたが、雰囲気的に突っ込みづらかったのである。

 しかし、それもとうとう限界に達したようで、ついに京が口火を切ったのだが・・・

 

「はぁ・・・愚問ですね。我が主とあろうものがそんなことも分からないとは。・・・・ごくっ。貴方は脳みそが入っていないのでは?」

「人と話してる最中に袋傾けて底に溜まった分飲み込んでじゃねぇよ」

(確かに、アレやるけどさぁ・・・)

(妾でも人と話しながらはやらんぞ)

 

 メアはどこ吹く風といった具合で、まったく気にしていないようだ。

 

「ふぅ・・・仕方ないですね。脳みその代わりにジャガイモが詰まっているマッシュポテトのために説明いたしましょう」

「いや、それ完全にただのマッシュポテトじゃねぇか」

「私は昨夜、大量に霊力を消費する大技を使ってしまいました。その前にも遠隔操作をやったこともあり、霊力は枯渇寸前です」

「いや、聞けよ」

 

 京のツッコミにも、耳を貸す様子はない。

 今のメアは、なんだか随分と精神のタガが外れているように見える。

 

「ならば、なるべくリラックスして、自分の好きなように振る舞うのが、最も効率よく霊力を回復する手段なのです。お分かりになりましたか?根菜類」

「理屈は分かったが、俺を芋扱いするのはやめろ。せめて動物として見ろ」

「なにより・・・」

 

 そこで、何やら言いつのる京を無視して、メアは土下座を続けたままの久路人と雫を見た。

 

「こんな茶番に、まともに付き合うのも面倒ですから。これで2回目ですし」

「え?」

「・・・どういうことだ?」

 

 メアの台詞に、久路人と雫は思わず顔を上げた。

 

「お前・・・それを言うなよ」

 

 それと同時に、京はため息をついた。

 メアの言う茶番とやらは、どうやら京も意味が分かっているようであるが・・・

 

「この場にいる者たちは皆、謝らなければならないことがあるということですし、大して怒ってもいないということです。その比重は違いますが」

「九尾の後と同じだな・・・・だがまあ、メアの言う通り重さはお前らと俺らで違う。だから、だ・・・おい、もっかい頭下げろ」

「は、はい」

「・・・・・」

 

 京は不意に立ち上がり、二人の傍にやってきた。

 京の言う通り、久路人は慌てて、雫も久路人に追従するように床に額を付ける。

 

「ふんっ!!」

「ゴッ!?」

「ぐぁっ!?」

 

 そうして下げられた頭に、京は右手と左手で拳骨をかました。

 突然与えられた痛みに、二人はそのまま床を転げまわる。

 

「とりあえずこれで、お前らがやらかしたことはチャラにしてやる。ちゃんと反省はしてるみたいだからな・・・それに今回の件、お前たちをここまで送った後に調べたが、月宮や霧間の連中が前からコソコソ動いてたみたいだ。人間側の動きを止めるのは俺の仕事で、それができてなかった。だから俺も謝る。悪かった」

「いや、おじさんが謝ることは・・・」

「久路人、やらせてあげなよ。京もケジメがつけたいんだよ、きっと」

 

 痛みから回復した二人に改めて頭を下げる京を、久路人は止めようとするも、雫はそのままやらせるつもりのようだ。久路人に謝って、その謝罪を受け取ってもらいたいという気持ちわかるのだろう。

 

「では、私からも。どうやら久路人様が暴走したきっかけは、私も大きく関わっている気がするので。あの時は言いすぎました」

「そ、そんな!!それこそ、僕が悪いです!!あの時は・・・」

「いいから謝らせてやれ。こんな風に言うってことは、コイツもコイツで結構気にしてんだ。相当煽ったみたいだからな」

「勝手に私の気持ちを代弁しないでくれますか?気持ち悪い・・・いえ、キモイので」

「その言い換えになんか意味あんのか?」

「でも、本当にそんなにすぐに許してもらっていいんですか?僕らのやったことって、かなり被害も出たし」

「・・・この場で最も罪が重いのは、すべての原因を作った妾だと思うのだがな。一応、メアからお前たちが考えていた筋書きは聞いているが」

「筋書き?」

 

 久路人にとっては、自分のやらかしが許されていいのかは大いに気になるところだが、雫は何やら理由を知っているようだ。

 

「お前が暴走して他の一族の見合いに行くってのはやりすぎだが、お前がそんなこと仕出かしたのも雫とメア、ついでに俺のミスで入ってきた吸血鬼が原因みたいだからな・・・んで、雫のやったことは元々やろうとしてたことなんだよ。俺たちは久路人にその気があるのなら、雫に人外化させるつもりだったんだ。お前の霊力に体を耐えさせるには、それが一番手っ取り早いからな」

「無論、それは久路人様が二十歳になった後、きちんと意見を聞いたうえで行う予定でした。それを、雫様が先に手を付けていたという流れですね」

「久路人が嫌がってるようなら雫を殺すつもりだったが・・・久路人に受け入れる覚悟があるなら、もうとやかく言う気はねえよ。さっきの拳骨で手打ちにしてやる・・・・念のため聞いておくが、久路人、お前本当にいいんだな?」

 

 雫は、メアに久路人の眷属化がバレた際に聞かされていたが、久路人が京たちの考えを耳にするのは初めてだった。京は改めて、久路人にその覚悟を問うが・・・

 

「うん。むしろ、それ以外を選ぶつもりはないよ。例え寿命になるまで生きられても、雫を置いて死ぬなんて絶対に嫌だ」

「・・・久路人」

 

 間髪入れず、久路人は自分の覚悟を語って見せた。

 その迷いない様子に、雫の薄い胸が高鳴る。

 

「人外になったら、その先お前はどうやって生きてく気だ?俺だって、お前の面倒を見切れるとは限らないぜ」

「人外になっても、人化の術を使って霊力を抑えれば人間と変わらない見た目で、結界への負担も小さくできるみたいだからね。忘却界の中はうっかりしてタガが外れたら危ないかもしれないから、この街で働こうと思ってる。でも、それでも抑えきれなくて、他の人に迷惑がかかるなら・・・」

「妾とともに、常世に行く。今も学会の七賢七位とやらは、日々戦い詰めなのだろう?あそこが昔と変わらず弱肉強食なのは変わらないのならば、妾たちにとっては現世よりも過ごしやすい」

 

 将来のこと。

 昨日の久路人の命綱なしスカイダイビングの後に、二人は徒歩で帰ったのだが、その道中でヴェルズを倒した京たちと会うまでに話し合ったのだ。人外化した後に、人間社会で生きていけるかどうかを。

 

「そこまで考えてんならいいが・・・久路人、嫌じゃなきゃ、学会の息のかかった会社に入れ。少し前に魔人のヤツと話しつけて、この街に俺が社長の会社を作るから、コネ入社で入れてやる。お前の力は、どうしても監視がいるからな。常世に行くのも構わないが、行くなら七位のいる場所にしろ。あいつは結界術のエキスパートだ」

「突き放すような言い方をしておいて、結局道は用意してあるではないか」

「男のツンデレに需要はありませんよ」

「うるせーよ」

 

 面倒を見切れるか分からないといいつつも、京の準備は万端であった。

 とはいえ、それは京に限った話ではない。人間と人外の融和を掲げる学会にとっても久路人と雫の存在は重く、その進む道をある程度コントロールしたいという思惑がある。

 

「コネ入社か・・・そ、その時はよろしくお願いします。っていうか、他にも学会が関係している会社ってあるの?」

「あるぞ。忘却界の中にはないし、日本にはまだあまり進出してないが、霊能者が集まる地域には大体ある。表向きは家電だの家具だののメーカーで、裏で術具の製造とか販売やってるけどな・・・とりあえず、話し戻すぞ」

 

 『これが、最後の質問だ』と前置きしてから、京は居住まいを正した。

 釣られるように、久路人と雫もまた姿勢を正す。

 メアもどこからか取り出した2袋目のポテチの封に手をかけたまま、成り行きを見守ることにしたようだ。

 京も久路人も雫も、もはやツッコミはしない。

 

「雫が死んだらお前も死ぬことになるし、お前が死んだら雫も死ぬことになるんだぞ?好きな女に、自分より長生きしてほしいとか思わねーのか?」

「それは・・・思わないよ。すごいナルシストな考えだけど、僕以外に、雫を幸せにできるヤツなんてこの世にいないから」

「その通りだ!!久路人がいない世界など、地獄でしかない。久路人と死ねるのならば、妾もそれが本望だ。無論、この先久路人を死なせるような目に遭わせるつもりなど毛頭ないがな」

 

 チラリと久路人は雫を見るが、雫も嬉しそうな顔で久路人の言うことを肯定する。

 ここで久路人が雫のことを気にしてためらっていれば、雫は少し傷ついていたかもしれない。それは、雫への理解が足りていないということだから。

 雫は、片割れをなくして、愛する者のいなくなった世界を生きた女の末路を知っているから。

 

「・・・そうか。わかった。なら、もう何も言わねー・・・・いや、おめでとうってだけは言っておく。よかったな、久路人」

「雫様も、おめでとうございます。昨日の朝、発破をかけた甲斐があったというものです」

「おじさん・・・」

「メア・・・ありがとう」

 

 京もメアも、そんな覚悟の決まりきった二人を祝福する。

 なんだかんだ言って、久路人には雫以外にいないということはわかりきっていたのだ。今の形こそが、最も丸く収まったと言えるだろう。

 問題は・・・

 

「湿っぽい話も終わったみたいだし、アタシからもお祝いの言葉を贈らせてもらうわ」

「・・・自分からも。まるで、昔の自分たちを見ているような気分になります」

 

 そこで、4人に声をかける者たちが二人いた。

 実を言うと、最初から部屋の隅の方で待機しており、久路人も気にしてはいたのだ。

 しかし、メアのポテチと同じく、突っ込むタイミングを逸していたのである。

 

「ま、これからまた少し暗い話になっちゃうけどね・・・久路人っていったかしら?よろしくね」

「あ、はい・・・あの、ところで、その、お二人は?」

 

 やっと聞ける空気になったと思い、久路人は二人のことを聞くことにした。

 金髪の縦ロールが似合うゴスロリの小柄な女性に、黒い長髪をポニーテールにした長身の男。ただし、男はなぜかガスマスクのようなものを着けていたが。

 その場では、久路人以外の全員が彼らのことを知っているようだったのだ。

 

「そういえば、前に電話をしたことはあったけど、直接意識のある状態で会うのは初めてだったかしらね。アタシは霧間リリス。七賢の五位よ」

「・・・自分は霧間朧。霧間リリスの夫です・・・この度は、我々霧間が大変ご迷惑をおかけしました。京さんから、火急の用とのことで昨日霧間の地から参りましたが、用が済みましたらすぐに霧間一族を族滅いたしますので、何卒少しばかりご辛抱を」

「じかに会うのは葛城山以来だな、リリス殿。本当に世話になった」

「あなた方があの有名な!!こちらこそどうぞよろしく・・・って族滅?」

 

 雫は朗らかにリリスに声をかけ、久路人も恐縮したように挨拶を返すが、その途中で物騒な単語に気付き、思わず聞き返した。

 すると、朧はその場で久路人に土下座を始めるではないか。

 

「・・・はい。本来ならば霧間の当主として霧間家を治めなければならない身の上ですが、此度はこのような事態の片棒を担いでいたことに気が付きませんでした。一族の長として、ケジメをつけなければなりません。自分の命はリリスと繋がっているために、首を差し上げることだけは御許しをいただきたいのです。代わりに、この件に関わったという霧間の者の首をすべて斬り落とし、霧間の地や財産も献上致しますので、何卒」

「え?えぇ~!?」

 

 凄まじい話の流れに、久路人は驚きの声を上げることしかできなかった。

 そんな夫の姿に続くように、リリスもまた朧の隣に正座する。

 

「そうね。アタシも霧間一族当主の妻としてお願いするわ。代わりに、あなたたちに起きた変化について、無償で調べて、必要なことがあったら無料で対処する。それで、朧の首は勘弁してあげて欲しいの」

 

 そして、リリスも先ほどの久路人たちのように床に額をこすりつけようと・・・

 

「ま、待つのだリリス殿!!・・・く、久路人も別にいいよねっ!?原因は私たちの方だし、関わったヤツさえ殺してくれれば、リリス殿たちの命とかいらないよねっ!?」

「え・・・。あの、状況がよくわかんないんだけど、霧間の人たちの責任を取るってことですよね?なら、雫の言う通り直接の原因は僕たちですし、その、血生臭いのはなくても大丈夫というか・・・」

 

 そんなリリスを雫が慌てて止め、久路人も物騒な流れになりそうなのを止める。

 

「・・・それは、関わった者たちも見逃せということでしょうか?」

「久路人、それは甘いぞ。調べた感じ、あの土地に関わってたのは月宮だが、霧間八雲をお前たちが見た以上、霧間もかなり食い込んでるのは間違いねぇ。ケジメは必要だぜ」

「京も私も、月宮一族については放置するつもりはございません。殺すかどうかは置いておいても、我々に二度と歯向かわないようにはする予定です」

「久路人、私もあそこにいた連中は全員殺しといたほうがいいと思うよ。久路人風にいうなら、あいつらって全員ルール違反者じゃない?」

「・・・それもそうだね」

 

 しかし、京、メアそして雫の言葉に少し考えを改めたようだ。

 そのまま、朧に向き直る。

 

「分かりました。確かに、ルールを侵した連中には罰が必要です。朧さんの首とか霧間の土地とかはいいので、関わっていた人には厳しい罰を下してください。それで言いっこなしにしましょう」

「・・・寛大な処置に、感謝いたします」

 

 霧間一族の大半の命運が、今日この時決まった。

 これにより、月宮久雷の策に乗った、もしくは知っていながら黙殺した者たちは朧の両親も含めことごとく斬り伏せられることになり、事件に関わりのなかった末端の者だけが残ることになる。

 朧としてもリリスとの結婚をかたくなに認めず、邪険に扱おうとしていた連中は目障りではあったので渡りに船であった。

 以後、霧間一族と霧間の地は完全に学会の支配地となる。

 

「話は決まったな。じゃあ朧、さっさと頭上げろ。お前らをここに呼んだのは霧間一族のことだけが理由じゃねぇんだからな」

 

 そこで、京は朧に頭を上げさせ、リリスたちを見てから、久路人と雫の方を向いた。

 

「リリスたちも覚えて欲しいんだが、今回の事件、『狂冥』のヤツが覗き見してやがった」

「なんですってっ!?」

「・・・あの旅団の最高幹部の一人が」

 

 『狂冥』の名を出した瞬間、リリスと朧の顔が変わった。

 対して、久路人と雫はピンと来ていない表情だ。

 

「おじさん、狂冥って?旅団の幹部っていうのは聞いたことあるけど・・・」

「確か、とんでもない腕の死霊術師にして、リッチだったか?七賢並みに強いとか」

 

 久路人と雫が知る情報はこんなものである。

 

「おいおい。お前らも会ってたんだぞ」

「『狂冥』名前はゼペット・ヴェルズ。かつての七賢三位にして、現在の旅団のNo3にしてまとめ役と言われています。何が目的だったのかはよくわかりませんが、下手をすればお二人ともヤツの下僕にされていましたよ」

 

 そんな二人に、京とメアはあきれ顔だ。

 

「えっ!?会ってたって・・・・」

「久路人だけでなく、妾もか?」

「アイツが近くにいたのと、お前らの話を聞いて分かった。健真のヤツは、少なくとも久路人と会ったときにはもうアイツの操り人形だ」

「健真さんが!?」

 

 京の出した名前に、久路人は驚きの声を上げる。

 久路人にとって恩人であり、彼がいたから雫と向き合えたのだ。

 月宮久雷に殺されたと聞いて、罪悪感を今まで抱いていたのだが・・・

 

「間違いない。あの俗物は自分よりも神の力が強いお前を追い出そうとするだろうし、久雷のジジイの生贄にするってんならまず止めるわけがない」

「加えて、結界を壊したという『不協和音』に杭を操ったという『模倣曲』。どれもヴェルズが好んで使用する術です。隠すつもりもなかったのでしょう」

「お前は健真に恩があるみたいだが、そんなもん気にすんな。むしろ警戒しろ。次に狂冥にもしも会うなら、絶対に気を許すな」

「アレは愛だの絆だの耳障りのいいことをほざいていますが、基本的には話の通じない狂人です・・・リリス様たちは大丈夫でしょうが、京の言うように決してほだされないように」

「は、はい・・・」

「あ、ああ」

 

 有無を言わせないような京とメアの様子に、久路人と雫は気おされたように頷くしかなかった。

 それを見て、メアはリリスの方に顔を向けた。

 

「狂冥が何を考えていたのか、私たちでは推測しかできません。しかし・・・」

「どうにもあの野郎は、久路人を人外化させようとしてたみてぇだからな。なら、人外化の専門家の話を聞いてみたいってわけだ」

「なるほど、それでアタシを呼んだってわけね」

 

 そして、話題は本命に移る。

 

「ああ。久路人たちは『何』になったのか、どうして雫にまで変化が伝わったのか。一度人外になった久路人が人間に戻ったのか、ってことだな」

 

 

-------

 

 

 霧間リリスは人外の扱う術の専門家だ。

 特に、人外が人間を己の眷属へと変える方法については常世、現世合わせても彼女より詳しい者はいないだろう。

 昨日の真夜中に、最近になって急に多くの仕事を押し付けられるようになった夫について書類仕事を手伝っていたのだが、やっとその日の分が片付いたと思ったところに京から連絡が入り、白流市付近で起きた事件について知った。そして、京からの要望で色々と調べて欲しいと頼まれ、昨日の夜中に亡霊馬を駆って朧ともどもやってきたというわけだ。

 

「ふむふむ・・・これは」

 

 そんなリリスは今、血の入った小瓶を二つ手にしていた。

 瓶の中身はさきほど採取した久路人と雫の血である。それぞれの小瓶に何やら術をかけたり臭いを嗅いだりしていたが、やがて、彼女を囲うように座る5人を見回した。

 

「ざっとだけど、大まかなことは分かったわ」

 

 七賢として魔法に関して深い知識を持ち、血を扱うことでは右に出る者のいない吸血鬼の皇族だ。

 観察していたのはわずかな時間だったが、それだけでも彼女には得られるものがあったらしい。

 

「今のこの血はそれぞれ妖怪と人間のものだけど、どっちにも、ほんの少しだけ私でも見たことのない種の因子が混じってる」

「お前でも見たことのない、だと?」

 

 リリスの言葉に、同じ七賢である京が反応した。

 同僚だからこそ、京はリリスの優秀さを知っているのだ。そんな彼女が知らないと言うなど、少々予想できなかった。

 

「ええ。人間でも妖怪でも、ましてや神でもない。まさしく分類不能ね。『竜』や『神兵』の血に似てはいるけど、まったくの別物。京や月宮一族に混ざってる神の力とも違う。新種ね」

 

 これまでリリスは人外化の方法をまとめるため、フィールドワークとして多くの種類の人外を見て、学会に保存されている身体や血のサンプルも観察したことがある。そのリリスに分からないと言わせるのならば、新種と言っていいだろう。

 

「僕たちは昨日、『龍』みたいな姿になってたんですが、それとも?」

「『龍』、東洋に現れるドラゴンね。それとも違うわ。似てはいるけど」

 

 久路人は黒い龍、雫は白い龍となって夜空を飛んだが、リリスによれば似ているのは外見だけで、中身はまったく違うもののようだ。

 

「ただ、種としては見たことがないけど、霊力の質は久路人と雫のものによく似てるの。神の力と妖怪の血それぞれの性質が相反することなく融合してる。雫が龍になったのも、この血、というより久路人の元々の血が原因ね」

 

 吸血鬼は人間を眷属するとき、その血を吸う。血を吸われた人間はアンデッドとなるが、吸血鬼はそのままだ。妖怪は他種の霊力を吸収して取り込むことができるからだ。しかし、雫の場合は取り込んだ血の力が強すぎて、吸収しきれなかったのだ。精神的な繋がりがあったためにプラスの側面しかでなかったが、もしも久路人に嫌われていたのなら、取り込み切れなかった力が暴走し、一時期の久路人のように体を内側から破壊していただろう。実際、ヴェルズの不協和音によって体内の調和を乱された時には、霊力異常で動けなくなっていた。しかし、幸いにも二人の想いが通じ合い、精神的なパスが完全につながったことで過剰に雫の中にあった力が雫本来の霊力と融合したのだ。その結果、久路人だけでなく雫も龍となったのであろう。

 

「勿論それだけが原因じゃなくて、久路人に起きた変化そのものがトリガーになったんだと思う。取り込み切れてない力の性質は久路人のものと同じだから、久路人が人外化、すなわち、久路人の中で雫の血が融合したときに共鳴したからね」

 

 雫の中に過剰に存在していた久路人の霊力は、同じモノであるために久路人自身の影響を受ける。

 融合をしたのも、その融合が解除されたのも、久路人本人に起きた変化に対応しているのではないかということだ。

 

「・・・なら、何故久路人は人間に戻ってしまったのだ?」

「・・・まさか」

「言っておくけど、精神の繋がりが切れたとかそういう話じゃないわよ。すぐに切れるようなパスで、一時的にでも人外化は成功したりしないわ」

 

 雫の問いに、久路人は暗い顔になった。

 今のリリスの説が正しいのならば、久路人が人間に戻ったのは、精神的なつながりが切れてしまったからではないかと。

 しかし、それはリリスによってあっさりと否定された。

 

「単純に、量の問題よ。久路人の中にある雫の力が足りなかっただけ。久路人の力の強さに、入り込んでいた量だけじゃ対応できなかったのよ。親和性ならもうこれ以上はないくらい相性がいいわ」

「なんだと!?あれで足りないのか!?」

「足りないっていうか、久路人の力が強すぎたって言った方がいいわね。電話で聞いた話だと、充分だとアタシも思ったし」

 

 『つまり』と、リリスは指を立てながら言った。

 

「久路人が完全に人外になるには、雫の因子をもっと取り込めばいいのよ。今なら拒絶反応も絶対に起こらないし、短期間にドバっといっちゃっていい・・・そういえば雫。アンタ一日でどのくらい久路人に血を飲ませてたの?」

「っ!?」

「・・・雫?」

 

 久路人が自分と同じ存在になる日は近いとわかり、喜色を浮かべる雫であったが、不意に飛んできたその問いに、ビクッと肩を震わせた。

 

「えっと、その・・・最初はコップ半分かそこらくらいだったんだけど・・・」

 

 しどろもどろに話す様子は、なんとも後ろめたそうだ。

 血を飲ませていたとはいえ、雫は意外と常識をわきまえている。必要性があったからやったのであり、背徳感や興奮も感じてはいたが、血を飲ませるという行為がアブノーマルであるという自覚はあった。

 

「最近は・・・腕一本斬ってから、絞って鍋にバシャッて」

「えぇ・・・痛そう」

「京。新しい調理器具を一式お昼までに作ってください。可及的速やかに」

「・・・家の食器、全部使えねぇな」

 

 月宮家一同ドン引きであった。

 久路人は単純に、雫が腕をぶった切っていたということに難色を示しただけであったが。

 

「そんだけの量を入れて、よく気付かれなかったわね・・・」

「味を誤魔化すだけなら、術を使えば簡単だったからな。香辛料も使ったし」

「ああ。それで最近あんなにスパイス買ってたのか。カレーとかが多かったのも、もしかして?」

「・・・うん。血を混ぜてもバレにくかったから。味噌汁なんかにも結構ドバドバ入れてたよ」

「赤味噌使ってるから赤いと思ってたけど、なるほど、赤ぽかったのはそれが原因か」

 

 リリスすらも呆れ顔だが、久路人はただただ納得するばかりであった。

 日々感じていたわずかな違和感の正体が分かってスッキリした気分である。

 

「・・・えっと、久路人。さっきから自分でも思うくらい気持ち悪い話してると思うんだけど、平気なの?」

「うん。最近のご飯美味しいって思ってたし。雫の一部を、雫から食べさせてくれるって、こう、なんか、すごい嬉しい」

「本当っ!?それじゃあ、私、もっと頑張るね!!実は、久路人に血を飲ませるの癖になっちゃって、止めろって言われたらどうしようかと・・・とりあえずお昼は手足全部斬って・・・」

「あ!!でも雫が痛そうなのは嫌だな。もうちょっと穏便なやり方で血を取ってもらえるなら・・・」

 

 その様子に、雫が恐る恐る聞いてみるも、久路人は至って気にしていないようだ。

 むしろ、雫の心配をするほどである。

 そんな久路人に満面の笑みを浮かべながら、雫は血を抜き取る方法を考えていた。

 

「この中で一番やばいの、雫より久路人かもな」

「スプラッタホラーのサイコな犯人みたいですね」

 

 今まで親代わりで育ててきた養子がもしかしたらやべーヤツかもしれないと分かり、京としては少しショックである。

 そこで京はふと、先ほどから喋らない男に水を向けた。

 

「おい朧。お前はどう思う?」

「・・・・・少々一般常識から外れているとは思いますが、あれもまた立派な愛のカタチの一つかと」

「相手側から血を飲ませてくれるのが嬉しいっていうのは、吸血鬼としてよくわかるわね。完全に心を開いている証だもの」

「・・・リリス、お前はさっきから問題はないのか?」

「?問題?どういうことよ朧」

 

 不意に、朧は自分の妻に心配そうに問いかけた。

 リリスはその意味がわからず、疑問符を浮かべている。

 そんなリリスに、朧はその顔に着けているガスマスクを指差した。

 

「・・・葛城山で会った際には、凄まじい悪臭だった。今は何ともないのか?」

「あ~そういえばそうね。そのことでも分かったことがあったわ」

 

 リリスはそこでパンパンと手を叩いて、スプラッタな会話を繰り広げる久路人と雫を止めた。

 

「はい注目。雫、アンタにちょっと聞きたいことがあるわ。アンタ、朧に対して敵意は持ってる?持ってるって言ったらぶっ殺すし、好きって言っても殺すけど」

「・・・・!!」

 

 その問いには、雫よりもむしろ久路人の方が反応した。

 これまで、雫を見ることのできる男性は京くらいのものだった。

 そこに、既婚者とはいえイケメンと思われる男がやってきたのだ。久路人としても多少心が乱されるものがあるのも否定できない。

 

「妾にどう答えろと言うのだ・・・当然だが、妾は久路人以外の男に大して関心はない。まあ、朧殿はリリス殿の夫であるから、敬意を払う相手だとは思っているが、精々その程度だ・・・だから久路人、そんなに心配そうな顔しないでよ。気にしてくれるのは嬉しいけど、私は久路人以外眼中にないから」

「ご、ゴメン雫・・・」

「・・・本心で言ってるのは間違いなさそうね。ならいいわ。朧、そのガスマスク外してみなさい」

「・・・分かった」

 

 自分の器の小ささを後ろめたく思うような久路人と、自分の見える男に対して密かに嫉妬してくれていたことに独占欲とか征服欲が満たされていく雫を尻目に、朧は自分の妻を信じてマスクを外し・・・

 

「少々臭うが・・・会話をするだけなら我慢できる程度だ」

「そういや、久路人が高校生だったころはもっとヤバい臭いがしてたが・・・」

「・・・嗅覚、霊力知覚解放。確かに、大分体臭がやわらいでいますね。昨日話した時には感覚器官を封印しなければ近寄ることもできなかったのですが」

「アタシもそんな感じね。この家に近づいた後にも臭いがしなかったからガスマスクつけ忘れてたけど、今はちょっと酸っぱい臭いがする程度で済んでるわ。あんまり近寄りたくないけど」

 

 実のところ、霧間夫妻が最初部屋の隅の方にいたのは雫から漂う臭いを避けていたからだ。

 京とメアも、今気づいたとばかりに雫の臭いがマシになっていることに気付き、驚いている。

 しかし・・・

 

「久路人、この反応、私はどうすればいいのかな?まだちょっとは臭うとか言われてるんだけど。というか、久路人は・・・」

「雫はいい匂いだよ。ずっと嗅いでいたいくらい」

「そ、そう?なら、他のヤツにどう思われても、まあ、いいかな」

 

 雫としては、久路人からどう思われるのかだけが大事であって、他の連中からの評価など少ししか気にしない。少ししか。

 そこで、リリスは話を戻した。

 

「話がそれたわね。アタシが何を言いたいかっていうと、雫の血は毒で、久路人の血は薬ってことよ」

「僕が、薬?」

「妾が、毒?前に、京には妾の血は久路人への特効薬と言われたことはあるが・・・」

「そうね、そこも説明するわ」

 

 リリスの言葉に、二人は自分の手首を見た。

 そこに流れる血に、そんな性質があるのだろうかと。

 

「要は、二人の血の効果は、周りへの好感度の影響が大きいのよ。妖怪として常世で生きてきた雫は久路人以外への好感度がそんなに高くないし、逆に人間社会でまっとうに生きてきた久路人は他人に対して悪感情をあまり持ってない。雫の血が久路人への特効薬っていうのも、そこが大きいわ。雫がこれまでゲロ以下の悪臭がしてたのは、血の融合が完璧じゃなくてコントロールできてなかったのと、久路人を狙う連中への牽制みたいなものだったんじゃないかしら」

「そういえば・・・」

「霧間八雲は、龍になった妾に近寄れないほどだったな・・・その前に会った時はまだマシなように見えたのに」

 

 思い当たる節が、二人にはあった。

 二人以外にも、メアも思うところがあるらしく、リリスに質問する。

 

「・・・今日の反応を見るに、私やお前への好感度は結構高いと思うのですが、それでも少し臭うというのは?」

「久路人以外を本心ではどうでもいいって思ってるのかもね。まあ、気持ちはわかるわ。アタシも朧以外はどうなってもすぐ忘れるし・・・・あと、久路人の方に臭みが少ないのは、元々の気質と変化の起点だからだと思うわ」

「そうなると、久路人と雫だったら久路人の方が希少価値が上で、逆に雫はこの世の中で久路人以外全員から雫側の好感度MAXでも『ちょっと臭う』って思われるってことか・・・ヴェルズのヤツが狙ってるのも、その薬とかいう性質か?」

「・・・血の盟約の効果と少し似ている。自分がリリスに対してのみ極上の血を持ち、それ以外に対しては大幅に味が落ちるのと同じだ」

「・・・・・」

 

 相変わらず遠慮なく口に出される、「ちょっと臭う」、「少し臭う」という微妙なワードに雫の拳が強く握りしめられた。

 

「雫、ゴメンね」

「え?なんで久路人が謝るの?」

 

 そんな雫に、久路人は申し訳なさそうに謝った。

 対する雫の顔は不思議そうだ。

 

「いや、僕のせいで雫が臭いとか言われてて、傷ついてるんだろうなって・・・」

「・・・ううん。久路人が気にすることなんてないよ。いちいち言ってくる連中はウザイし、久路人にまでそう思われたらどうしようって思うけど、それより嬉しい気持ちが大きいかな。私が近くにいれば悪い虫も寄ってこないってことだし、それに・・・久路人にマーキングされてるみたいで興奮するし」

 

 心配する久路人に対し、雫は笑顔で、本心からそう答えた。

 最後の方はさすがに小声だったが。

 

「!!・・・ゴメン。実は僕も、少し嬉しかった。雫に他の男が寄ってこなくなるかもって・・・」

「っ!!・・・久路人っ!!それだけでもう胸いっぱいだよっ!!久路人の方からそう思ってくれてるってだけでっ!!むしろ、もっと悪臭出してやりたいくらいっ!!」

 

 悪臭ですらイチャつきのネタにできるこの二人は、もしかしたら無敵なのかもしれない。

 

「・・・心なしか臭いが強くなったような・・・」

「あの二人、スカ〇ロに手を出しそうで心配ですね。やるなら屋敷の外でやって欲しいものです」

「野外でスカト〇推奨とか、身内から犯罪者出しそうで怖えよ・・・というか、久路人が女だったらヤバかったかもな。好きな男の悪口ばら撒いて孤立させそうだ」

「雫様は依存型と独占型と排除型の複合。久路人様は依存型と独占型と孤立誘導型ですか。相性がよさそうですね」

 

 朧が鼻に手をやり、メアと京は屋敷の衛生環境と二人の性癖を心配していた。

 そんな収拾のつかなくなりそうな状況を、リリスはもう一度手を叩いて仕切りなおす。

 

「ハイハイ、騒がない!!とりあえずまとめるから静かになさい!!」

 

 そして、皆の注目が集まったことが分かってから、メアはまとめに入った。

 

「種族が分からないとか、血が好感度の影響を受けるとかはあるけど、とにかく、アンタたちが人外カップルになりたいなら、今まで通り過ごしなさい。アタシの今日の見立てだと、そうね、『今のままなら』、後1,2か月ってとこかしら」

「1,2か月か・・・」

「長いような短いような・・・」

「「・・・・・」」

「・・・・・」

 

 微妙な長さの期間を言われ、反応に困る久路人と雫に対し、京とメアは何かに気付いたような顔をしていた。朧は最初から表情が変わっていないので何を考えてるのか分からない。

 

「とりあえず、アタシが今言えるのはこんなところね。もう少しここに留まって、観察をする必要もあると思うけど」

「ああ、助かった。急な呼び出しで悪かったな・・・」

「・・・自分たちには、それにお答えする義務がありましたから。お気になさらず」

「一睡もせずこちらに来て、お疲れでしょう。客間にご案内します」

「俺も、昼飯までに食器を作らねぇといけないからな・・・今日はここで解散だ」

 

 そうして、リビングには久路人と雫だけが残された。

 

「後、1,2か月・・・」

「う~、もどかしいなぁ・・・・血の量を増やしたら、もっと早くなるのかな」

「あんまり痛そうなことはダメだよ、雫。血を飲むのは全然いいけど、雫が痛そうな目に遭ってるのなんて見たくないし・・・・でも、そうだな」

「久路人?」

 

 がらんとした居間の中で、二人は残りの時間の長さを考えていたが、久路人は何かを決めたような顔をしていた。

 そんな久路人に、雫は小首をかしげるが・・・

 

「ねぇ雫」

「うん」

 

 不意に、久路人は雫に切り出した。

 反射的に、雫は返事をして・・・

 

「デートしよっか」

「うん・・・え?」

 

 一拍置いて、雫は久路人の言った単語の意味を理解し・・・

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇええええええっ!!!!?」

 

 月宮家のリビングで、大きな叫び声を上げたのだった。

 その声は、防音設備の整った居間から漏れだすことはなかった。

 ある一室で行われていた会話を、邪魔することはなかったのである。

 

-------

 

「おいリリス、聞きたいことがある」

「何かしら」

 

 月宮家の一階にある客間にて、完璧な手つきで布団を整えるメアと、それに対抗するかのように美しいベッドメイクを行う朧が静かに火花を散らす中、京はリリスに話しかけた。

 

「お前、さっき『今のままなら』1,2か月って言ってたよな」

「ええ、そう言ったわ。それが何か?」

 

 やはりホームグラウンドということもあってか、それともメアが屋敷の使用人という立場を朧が慮ったのか、最終的にどや顔をするメアに、朧は軽く頭を下げる。そんな二人を尻目に、どこか緊迫感のある会話は続く。

 

「なら、『最短』ならどれくらいだ?」

「・・・・・」

 

 その質問に、リリスはわずかに間を開けた。

 否、全力で聴覚を集中させていたのだ。

 

「そんなにお気になさらずとも、月宮家の客間の防音設備は完璧です。この部屋の外から、我々の会話を聞き取ることはできません」

「・・・そう」

 

 リリスの様子に、メアも気付いていたようだ。彼女の心配を杞憂と断じ、リリスも話す決意をしたようである。ふぅ、と息を吸ってから、久路人の保護者たる二人に向き直り・・・

 

「あの様子なら、条件さえ満たせば『今日』にでも可能ね」

 

 1,2か月から大幅に短縮された予想を語って見せた。

 

「今日か・・・それを言わなかったのは」

「ええ。『そういうこと』は、余計なしがらみに囚われず、二人の愛情とかそういうので始めるのがいちばんだと思うのよね、アタシ」

「それは私も同意見ではありますが・・・」

「ああ、狂冥が動いてるなら、あの二人にはさっさと強くなってもらった方がいい。アイツの目論見を叶えるようではあるが、昨日の忘却界が壊れたあたりからは、世界中からあの二人の気配がわかったはずだからな」

 

 これからの世界の動きはますます加速するだろう。

 あの葛城山の事件の後と同じように。

 再び、あの二人に様々な壁が立ちふさがるに違いない。

 ならば、あの二人を育て上げる時間は、一日でも無駄にすべきではない。

 

「メア、冷蔵庫の中身は?」

「・・・ダメですね。人参、ジャガイモ、豚肉・・・ここ最近ずっとカレーやシチューばかり作っていたようです」

「なら、買い物行くぞ。スッポン、オクラ、山芋、マムシドリンク・・・買う物は山ほどある」

「分かりました。では、我々が外泊するためのホテルも予約しておきます・・・申し訳ありませんが、お二人にも」

「構わないわよ・・・っていうかアンタたち、ずいぶんノリノリね。気持ちはわからなくもないけど」

「・・・自分も構いません。しかし、あの二人は幸せ者です。こんなにも身内に祝福してもらえるとは、羨ましい。だからこそ、応援したい気持ちもありますが」

 

 月宮京、月宮メア、霧間リリス、霧間朧。

 

 日本における最高戦力の四人が、同じ目的を持った瞬間だった。

 

 

-------

 

 古来より、人間が人外になる方法は、人外の一部をその身に取り込むことだ。

 しかし、ただ取り込むだけでは、高等なモノにはなれない。

 永遠の時を共に生きる伴侶となるには、獣の如くその血肉を喰らうだけでは不十分なのだ。

 それには魂、精神、肉体。その3要素において深く繋がる必要がある。

 

 霊力を以て魂を馴染ませる。

 心を以て想いを通わせる。

 そして、肉体を「交わらせる」。

 

 この三つを、効率よく同時に行える方法が、一つだけあるのだ。

 余談だが、体液には霊力が多く含まれており、それらを粘膜から直接吸収するのも非常に効果的だ。

 

 

「いいか?今日から全力で、あいつらをヤラしい雰囲気にするからなっ!!」

「「おお~っ!!」」

「・・・・・」

 

 音頭をとる京と、なんだかんだでノリノリのメアとリリスを見ながら、朧は思った。

 

(・・・この人たちが暴走しないように、自分がしっかりせねば。彼らのためにも)

 

 彼もまた人外に惚れて人外になった者だ。

 自分の同志とも言える若者の幸福を、朧は心より祈るのだった。

 




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