すごい難産だった!!リアルで色々あってもう書くの無理って思ったことも正直ありましたが、なんとか書けた!!
後、最近は一日どころじゃないので、タイトル変えました。
ついでに順番も少しいじってあります。
月宮家の裏庭に、地の底から響くような声がこだまする。
「くらえぇぇぇええええええええええええっ!!!」
怨念すら感じさせる声と共に、氷の塊がいくつも浮かぶ激流が放たれる。
その声に籠る感情が反映されたかのように、氷には鋭い棘が生えており、まるでウニのようだった。
「くぅっ!?」
さっきのように飛び乗って回避するわけにもいかず、久路人はバネを生み出して空中に避難する。
しかし、今の雫は先ほどまでとはひと味違う。
「跳んだね?」
「っ!?」
久路人が空中に逃れた直後、久路人の周りを囲うように、霧が展開された。
「これはっ!!電じ・・・」
「遅いっ!!」
慌ててその場から動こうとした久路人であったが、霧は範囲が広く、雫が手をかざした瞬間には術としての形を成していた。
「水牢球!!」
「!!」
霧は瞬く間に水の塊へと姿を変え、その中心に黒い人影を捕らえていた。
「ふふんっ!!捕まえたっ!!動いてる久路人じゃなくて、久路人のいる場所ごと包んだら避けられないでしょ?ちょ~と苦しいだろうけど、これも煩悩塗れの久路人の頭を冷やすため!!しばらくそこで反省して・・・」
これまで、水の中に久路人を捕らえた段階で、雫の勝利は決定していた。
内側から無理やりに水の壁を破ろうとしたところで、久路人の最大出力では雫のそれに及ばない。
己の勝利を確信しかけた雫は腕を組んだまま水の塊に話しかけ・・・
「紫電改・三機縦列」
「えぇっ!?ば、瀑布!!」
自分の背後から殺気に振り向いてみれば、雷を纏った矢が3本続けざまに飛んでくるところだった。
反射的に作り出した水の壁に矢は突っ込み、雫が凍らせたことで完全に封じ込めることに成功する。
そして・・・
「雷切!!」
「漣!!」
雫が足に水を纏わせ、激流に乗って移動した瞬間に、黒い一閃が雫のいた場所を走っていた。
「久路人!?どうやって抜け出して・・・っていうか、まだ水の中にいるのに・・・って、あれ!?」
「忍法空蝉の術、なんてね」
雫が己の作り出した水の牢獄に目を向けてみれば、その中にある黒い人影は久路人が纏っていた黒鉄のマントが広がっているだけであった。
「あの霧が水に変わる直前に、バネを出すんじゃなくてマントの一部と残りを思いっきり反発させたの?なんというか・・・」
「まあ、滅茶苦茶痛かったけど」
どうやら、雫の術が完成するほんの少し前に自身を磁力の反発で吹き飛ばしてたようだ。
いくら身体強化の術を使っていたとしても、人間の身には中々堪えそうなやり方である。
雫の眉が、不快そうにしかめられた。
「そういう無茶するところも、私は好きじゃない!!」
雫の叫びに呼応するように、月宮家の裏庭の上を覆うように雲が現れた。
同時に、身を裂くような冷気があふれ出す。
「いろいろ反省しなさい!!この・・・」
「っ!!」
久路人が警戒して再びマントを作り出して構えるのと、雫が腕を振るのはほとんど同時だった。
「浮気者ぉぉぉおおおおおお!!!!」
「なんでそこで浮気者!?」
上空から豪雨のように降り注ぐ氷柱をその身に纏う黒鉄のマントで弾きながら、久路人は唐突な雫の言葉を否定するが、そこに返ってきたのは、弾き飛ばした氷柱が姿を変えた氷の大蛇だった。
「浮気だよ浮気!!私にとっては寝取られ!!そんなにあの脂肪だらけの雌豚写真集が大事なのっ!?」
「ええっ!?」
「じゃあ、想像してみてよっ!!」
久路人が自分の言うことに気が付かないのが腹立たしいのか、地団駄を踏んで雫は続ける。
「久路人は私がそこらのタレントでオナニーとかしてもなんとも思わないのっ!?」
「・・・っ!!」
その瞬間、久路人の動きが止まった。
雫の怒声と共に襲い掛かる蛇は、わずかに動きを止めた久路人の身体をしっかりと捉え・・・
--ドォンっ!!!
瞬間、内側から赤熱した砂をまき散らしながらはじけ飛ぶ。
「ごめん、今すっごい嫌な気分になった」
「でしょ~!!」
雫に負けず劣らずの殺気を漲らせた久路人がはじけ飛んだ蛇の胴体から淀みなく着地すると、雫も攻撃の手を止めて共感の声を上げる。
二人とも、NTRモノは知らないキャラならそこそこ楽しめるが、思い入れのあるキャラモノはNG派だ。
他人に欲情して性欲を発散されるなど、二人にとっては浮気、NTRとほぼ同義であると心の底から感じ合った瞬間であった。
「そういうわけだから、その画像集は絶対に全部削除するからね!!このスケベ!!」
「ああ、わかった。画像は全部消すよ」
久路人としても、雫という恋人がいるにもかかわらず、いつまでもあの手の画像を持ち続けているのは不義理だとは思っていた。けども、それなりに時間をかけて集めて、愛用していたことや、雫と気まずい仲になってしまったことで捨てるタイミングを見失っていたのだ。雫に想いを告げてデートを経てから1週間ほど経ったが、その間一度も使っていないのは久路人なりの誠意からであるが、持っているだけでも雫にとっては裏切りだろう。今はモロに雫を怒らせて戦っている最中だが、まあ一応さっきまでのことで仲直りはできたので、消すことに関して躊躇はない。
「まったく!!本当に久路人はムッツリというか浮気性というか・・・高校の時から隠してたでしょ」
「その時から知ってるのっ!?」
「ふんっ!!この私から隠し事ができるなんて思わないことだよ!!このエロ!!巨乳マニア!!貧乳差別主義者!!いい?今のご時世、慎ましいのは立派な個性なんだからね?ある種のステータスなんだよ!!」
「うう・・・ごめんなさい」
久路人がしっかり反省しているのは雫も分かったのだろう。
しかし、やや怒気は収まったが、まだまだ怒り足りないようだ。
まさに立て板に水と言わんばかりに、久路人への不満をぶちまける。
雫が件の画像を見つけたのは久路人が高校に上がってすぐのこと。当時は久路人の部屋ごとパソコンを氷漬けにしかけたが、そこを鋼の自制心で耐えたのだ。そうして溜まっていたモノが、今この瞬間に飛び出していると考えれば、仕方のないことかもしれない。
そして・・・
「本当にもう・・・私はずっっっと前から、久路人しかオカズにしてないってのに!!」
それは、つい先ほどまでの久路人とよく似ていた。
「・・・え?」
「・・・あ」
雫の口から、大声で叫ぶにはあまりにも憚れる台詞がこぼれだす。
・・・それは、ここしばらくのぎこちない空気で進まない二人の関係性への苛立ちに対する反動で、以前よりもかなり激しめに発散していたこともあるのかもしれない。
しかし、その発言はお互いの間にある空気を凍らせるには充分であった。
「・・・・・」
「・・・・・」
再び訪れた沈黙。
その状況で、先ほどまでと違うのは・・・
「えっとさ・・・」
久路人が一方的雫から口撃を受けており、ちょっとした反抗心が芽生えていたことだった。
「スケベなのは、雫も同じじゃない?」
「~~~っ!!?」
突然のカウンターに、雫の動きが止まる。
見る見るうちに、雫の白い肌に朱がさしていく。
「さっきから僕のことをスケベだのエロ助だの言ってるけどさ・・・」
少し気まずそうに、けれども言われっぱなしだったことや、無断で部屋に侵入されて私物をダメにされたことは久路人としてもやはり気に入らない部分はあったのだろう。普段ならば自分をオカズにしてくれていたことを純粋に喜んだだろうが、ほんの少しばかり久路人の中にはイタズラ心が顔を出していて・・・
「雫だって、相当エロ・・・」
少々口元をにやけさせながらそう言いかけ・・・
「だ、大瀑布~~~~!!!!」
「のぉおおおおっ!?」
久路人の言葉を遮るように、水の巨壁が久路人目の前に現れていた。
久路人は今度は跳躍ではなく、地上を高速で移動して、壁の後ろに回ることで回避する。
「い、いきなり攻撃してこなくてもいいじゃん!!僕まだ喋ってたよね!?」
「う、うるさいよっ!!そ、そういうところ、久路人って本当にデリカシーないよねっ!!」
「デリカシーっていうか常識がないのは雫も同じだろ!!これは言わないでおこうと思ってたけど、飯に自分の血を混ぜて飲ませるなんて、一般的な目線ならめっちゃアブノーマルだからね!?雫だからいいけど!!」
「今更そんなこと言うのっ!?だったら私からも言っておくけど!!そんなアブノーマルな女に付き合う久路人だって相当アレだからねっ!?私は嬉しいけどっ!!」
またまた向かい合って、言葉を交わす。
しかし、なにやら二人ともおかしな具合にヒートアップしていた。
雫をからかおうとしていたところに不意打ちを受けて怒り気味の久路人と、デリケートな部分を突かれてやはり怒った雫。
けれども、ネタがあまりにもしょうもないからか、本気で怒る気になれず、さりとて唯々諾々と言葉をぶつけられるだけなのはそれはそれで気に入らない。でもやっぱりこんな下らないことで、あの吸血鬼の時のように喧嘩になるのは嫌だという思いもある。そもそも、あの時と違って、二人はお互いがお互いを好いていることは分かっているのだ。今の喧嘩のことだって、発端の久路人が反省そのものはしているから、雫は本気の本気で怒っているわけではないということも。
結果・・・
「この変態ドン引き性癖美少女!!」
「そっちこそ!!この、陰険ムッツリ堅物・・・えっと、雰囲気イケメン!!」
「そこで間を開けられる方がちょっとショックなんだけどっ!?」
「うるさいっ!!久路人にいい所がたくさんあるのが悪いのっ!!そういう所も面倒くさいんだよっ!!」
「理不尽っ!?」
罵倒してるんだか褒めてるんだか、よくわからない空気になっていくのだった。
------
「くらえっ!!」
相変わらず僕と距離を保ったまま、雫は手に持った水鉄砲から術を乱射する。
しかし、その狙いはこの戦いが始まった時よりも遥かに正確だ。
「でも、避けられないほどじゃない!!」
「くぅ~!!さっきからちょこまかと・・・」
消防車のホースから放たれる高圧水流のような術の連射を、僕は強化した反射神経と身体能力を以てかいくぐる。続けて雫との距離をさらに詰めようとするが・・・雫の瞳が紅く光った。
「これはどうっ!?」
「なっ!?」
足を踏み込んだ瞬間、地面がぐにゃりと歪んだ。
雫の視線は、物体の水分をある程度操ることができる。その応用で地面を沼に変えたのだろう。
「大蛇!!」
「クソッ!!」
動きが止まったところを狙うように、水の蛇が襲い掛かって来た。
僕は、足が完全に沈み切る前に、黒鉄のワイヤーで自身の身体を後方に刺した杭まで引き寄せて回避するが、これで雫との距離が開いてしまった。
「これも対応するの・・・なら、次はこれ!!白霧!!」
僕が攻撃を避けたことで悔しそうな顔をする雫だが、攻撃の手を緩めるつもりはないようだ。
今度は、僕のいる場所も含めて、裏庭全体を白い霧が覆う。
霧は水。水は雫の手足であり眼だ。これは放っておけない。
「紅飛蝗!!」
周囲に漂わせていた黒鉄の砂に霊力を流し、一気に赤熱させる。
それと同時に、白い霧に対抗するように、砂鉄を裏庭に拡散させた。
高熱を放つ砂鉄が白い霧とぶつかり合い、霧を吹き飛ばすが・・・
「よし、これで・・・え!?」
霧が晴れた後、僕の視界から雫がいなくなっていた。
「なっ!?どこに・・・!?」
「鉄砲水!!」
「っ!?黒鉄ノ大盾!!」
なぜか低い位置から聞こえてきた雫の声が響き、僕の背後から激流が迫ってきていた。
僕は回避よりも防御を選択。
目の前に瞬時に作り出した黒鉄の盾で激流をシャットアウトした。
しかし、これは・・・
「広がれ!!」
僕は自身の感覚を信じて、黒鉄を再び拡散させた。
自分の足元の地面に。さらにそこから裏庭全体へ。
そして・・・
「はぁっ!!」
僕が地表を舗装するように広げた黒鉄を操作し、地面に向かって剣山のように鋭く長い棘を生やす。
「っ!?ぷはっ!!」
硬い何かに当たった感触を感じた直後、黒鉄で覆った地面の一部が割れて、白い影が飛び出してきた。
「よしっ!!紫電改!!」
「こ、このドSぅううう~!!氷鏡!!」
矢は氷の盾に呑まれてしまったが、雫を引きずり出すことには成功したので良しとしよう。
「最近はやりの鮫映画かよ・・・地面の中を泳ぎ回るなんて」
「アレと一緒にされるのは流石に嫌なんだけど・・・でも、これもダメか」
「でも、珍しいじゃないか。脳筋の雫がこんな搦め手みたいな戦い方するなんて」
「ふん!!陰湿なやり方をされる気分がわかった?意趣返しってやつだよ!!」
お互いに攻防を終えて一区切り。
僕は軽く息を整えながら雫に話しかけるが、内心驚いてもいた。
雫に言った通り、雫はこれまであまりこういったゲリラ戦法のような搦め手を使ってはこなかったのだ。
それが今日になってこんな手を使ってくるとは。
「あれ、そうなの?てっきりこれまで通りのやり方だと僕には勝てないから、そんな風に戦ってるのか思ったんだけど?」
「ふん!!私がこれまで久路人に負けたことがあった?これまで全戦全勝だよ?まあ、久路人とクロスレンジで戦うのは少し嫌だけどさ」
雫が僕と接近戦を演じるのを警戒しているのは間違いない。
それは、その間合いならば僕の勝ち目が大きいことを意味する。
しかし、僕が軽く挑発をしても、雫はどこ吹く風だ。
逆に僕を煽ってくる始末。
それは、雫がこれまで僕にまともに接近戦をさせてこなかったという自負から来るものだろう。
だから、雫は僕には負けないと言う自信があるのだ。
警戒はしても、自分には勝てないと判断している。
(まあ、確かに僕が雫に勝ったことはまだないけど・・・)
僕は、これまでの激戦の数々を思い出しながら口に出す。
僕にとってもあんまり思い出したい記憶ではないが、雫の得意げな表情を崩してやりたかったのだ。
「・・・でもさ、あの吸血鬼とか久雷とかと戦った時は、雫も苦戦してたよね。僕もそうだったけど」
「っ!?」
僕がそう言うと、雫は『痛い所突かれた』みたいな顔をした。
あれらの戦いは僕が色々とやらかしたことも多いが、勝利に貢献した比率は僕も雫もあんまり変わらないようなと、正直思っていたのだ。結局、護衛の契約を結んでいた雫と、守られるはずの僕が協力して乗り切ったことも多々あったわけだが・・・
「あ、あの時は色々あって調子が悪かっただけだもん!!そうやって昔のことをねちっこく覚えてる辺りが陰湿なんだよ久路人は!!」
「昔って、まだ一か月経ってないよ」
「そ、そういう細かい所も陰険なんだってば!!」
さっきから繰り返される罵倒の応酬。
しかし、不思議と嫌な感じはしなかった。
「さっきから陰険だの陰湿だのって・・・それを言うなら雫は変態じゃん。さっきも僕をオカズにだのなんだの言ってたし・・・僕の部屋のゴミ箱とか着替えとか漁ってたんでしょ?」
「えっ!?き、気付いてたのっ!?も、もしかして私がお風呂に入る前に久路人の服の匂い嗅いでるところも覗いて・・・?こ、この覗き魔!!」
「・・・え、マジでやってたの?っていうか、その流れで僕が罵倒されるのは納得いかないんだけど。というか、僕がつい最近まで抱いていた清純な雫のイメージがボロボロなんだけど」
大声で叫ぶにはあまりにもあんまりな会話。
お互いの悪い所やドン引きモノの所業を言い合う、一見すれば険悪としか言えない雰囲気。
けれども、何故だか僕の心はスッキリと晴れ渡っていた。
「う、うるさいっ!!久路人でしか発散してないから一途だし、清純派名乗ってもいいじゃん!!そもそもカマかけるなんてサイテーっ!!」
「客観的に見て、この状況で最低なのは雫の方だからね?」
「しょ、しょうがないじゃん!!久路人からいい匂いするんだもん!!逆に聞くけど、久路人だって朝に私の匂い嗅ぐ時、かなり興奮してたでしょ!?息が少し荒くなってたし!!」
「うっ!?そ、それなら僕だって不可抗力だよ!!好きな女の子の匂い嗅いで興奮するなってのが無理でしょ!!」
「~~///っ!!!?」
それは、お互いの本音を思いっきりぶつけ合えてることの証明だから。
あの吸血鬼を倒した後の喧嘩とはまるで違う。
あの時と違って、今の僕たちはお互いの心が繋がっていることが何も言わずとも分かっているから。
言葉が少し汚くとも、その裏に相手への『好き』という気持ちがたっぷりと感じられるから。
そして、そこは僕だけでなくて雫も同じ。
「デートの時も言ったけどっ!!不意打ち禁止っ!!」
「不意打ちって・・・僕が雫を好きなのなんてもう知ってるでしょ!!このヘタレっ!!」
「あ~っ!!言ったね?メアやリリス殿に続いて久路人まで言ったね!?人が気にしてることを~っ!!」
「自覚あったのかよ!?雫ってなんでこっそり僕に人間やめさせようとするくらい愛が重くて行動力あるのに、そういうところは逃げ腰なのっ!?」
「久路人こそ!!普段お堅くておっとりした感じなのに、どうしてこういう時は積極的なんだよっ!?隣街に行ったときもそうだけど、久路人ってやると決めたらホント猪突猛進っていうか暴走特急じゃん!!」
「それも雫には言われたくないよっ!!『僕に嫌われたら~』なんて考えて何も言わないで人を勝手に人外にしようとするとか、一蓮托生になろうとするとか!!思い込み激しすぎでしょ!!僕はそれぐらい全然OKだけど、そのぐらい僕が雫のこと好きじゃなかったらどうするつもりだったのさ!!」
「そ、それは、その、長年かけて謝って許してもらおっかなって・・・だ、大体!!久路人だって『私が血のせいで狂ってる』なんて思い込んでたでしょ!!私は!!素で久路人のことが大好きなんだからね!久路人の理屈なら、久路人が怪我した時に血を飲ませようとした時点でおかしいって思いなよ!!そこに気が付かないから久路人は鈍感なんだよ!!」
「だからって、こっそり食べ物に体液混ぜられてるとか普通の思考で気付けるわけないだろ!!そんなのを察せるのなんて雫レベルのヤンデレだけだよ!!」
「ヤンデっ!?・・・久路人にだけはヤンデレって言われたくない!!独占欲とか束縛すっごく強いし!!久路人の方こそヤンデレだよ!!着いていけるのは私くらいなものだからね!?私以外で久路人を心の底から愛せて、『その束縛強いところがむしろグッとくる!!』なんて女絶対いないし、いても殺すからね!!」
「そっちこそ、めっちゃ愛が重いじゃん!!雫以外の女の子とか眼中にないけど!!雫しか見えないけど!!」
「私だってそうだよ!!久路人以外なんて、どうでもいい!!久路人しかいらない!!」
全力で、僕たちは自分の想いを言葉に乗せる。
相変わらず語気は荒いが、いつの間にか僕たちの顔には笑顔が浮かんでいた。
「ああっ、もうっ!!このままじゃ埒が明かないよ!!」
「久路人っ!?」
僕は大声で叫んだ。
同時に、気付けば僕は駆けだしていた。
自分の心が燃えているようだったのだ。
言葉だけでなく、行動で、動作で、この想いを伝えたかった。
それには、立ったままでいられなかったのだ。
そして、それは雫もきっとそうだったのだろう。
「はぁぁああああああああっ!!」
「やぁあああああああああっ!!」
これまで接近戦を避けていた雫が、薙刀で僕の攻撃を受け止めていた。
「あれっ!?雫、逃げなくていいのっ!?」
「ふんっ!!確かに接近戦は少し嫌だけど、それでも妖怪の私が簡単に負けるはずないでしょ!!大体!!さっきの黒鉄で私の周りトラップまみれにしたくせによく言うよ!!」
「それはごめんね!!でも、戦いに卑怯も何もないよ!!それに・・・」
そこで僕は一歩下がり、勢いをつけてもう一度雫に斬りかかった。
「僕の想い!!雫が好きだって気持ちが!!言葉だけじゃ収まらないんだよっ!!」
「そこでハグとかキスじゃなくて斬りかかって来るところ、ヤンデレ以外の何だって言うの!!」
「しょうがないでしょ!!体が勝手に動くんだから!!雫に勝ちたいんだから!!今分かった!!どうして僕が雫に勝ちたいのかっ!!僕は雫に勝って!!男として雫を全部僕のモノにしたいんだっ!!」
戦いの中で僕は改めて理解する。
自分の中の、雄としての本能とプライドを。
「こ、このヤンデレ!!気持ちはすっごい嬉しいし、押し倒されてみたいけど!!久路人が勝たなくても、もう私は久路人のモノだよ!!」
言葉と共に走った剣閃を、雫は薙刀でもう一度受け止める。
「だとしてもだよ!!僕は!!やっぱり雫に勝ちたい!!雫に、僕も強い男なんだって分かってもらいたい!!」
「そんなのもうとっくに知って・・・あ~もう!!わかったよ!!全部受け止めてあげる!!久路人の中の気持ち!!久路人の気が済むまで直接全部受けてみせるよ!!」
「だったら、僕が勝つまで続けるよ!!」
「やってみせてよ!!ヤンデレ久路人!!」
夏の夕日を浴びながら、黒い刃と紅い刃が何度も交差する。
僕と雫の立ち位置も、幾度も幾度も入れ替わる。
お互いに武器を振るい合っているというのに、まるで僕らは踊っているようだと思った。
「さっきから人のことをヤンデレって・・・僕がヤンデレだって言うなら、それって全部雫のせいだからね!?雫が可愛すぎるから悪い!!」
「そっちこそ!!私がこんなに重くなったのも、全部久路人のせいだよ!!久路人がかっこよくて優しすぎるから悪いの!!責任取ってよ!!」
「取るに決まってるだろ!!僕以外にその責任は誰にも取らせるもんかっ!!」
「そうやって不意打ちでカッコいいこと言うのが卑怯でキュンキュン来るんだよっ!!」
打ち合いながらも、僕らの言葉は止まらない。
気が付けば、僕たちはお互いの悪い所でなく、好きな所を言い合っていた。
「なんだよ!!銀髪で赤眼で美少女って!!漫画かよ!!僕の好みドストライクだよ!!」
「そっちこそ!!普段大人しいのに、いざって時はキリっとした顔でビシッと決めるとかそれこそギャップ萌えを体現してんじゃん!!大好き!!」
黒い刃に雷を纏わせて空を走らせれば、それは紅い氷の刃に打ち払われる。
「僕だって!!僕以外には結構ドライなのに、僕にだけは優しい所とかヤバいと思ってるからね!!そんなの絶対に堕ちるわ!!こっそり血を飲まされても余裕だよ!!」
「私だって!!私みたいな重い妖怪女相手に素で優しくされたらコロッと来るよ!!」
紅い刃が上から降りかかってくれば、黒い刃はそれを受け流して見せる。
「さっきからああ言えばこう言うなぁっ!!それならまだ言いたいことはあるよっ!!雫のいい所なんて、僕が勝つまでに言い終われないくらいあるんだから!!」
「残念!!それなら私の勝ちだよ!!久路人のいい所は、明日になるまで言い終われない自信あるもんね!!」
「なっ!?それなら僕は3日!!」
「1週間!!」
「一か月!!」
「一年!!」
まるで子供のような言い合いをしながらも、僕と雫は戦い続ける。
「~~!!あ~っ、もうっ!!僕が雫を好きだって思う気持ちの方が!!雫の気持ちより強いんだよ!!」
「そんなことない!!私が久路人のこと好きだって思ってる方が大きいよ!!」
「僕の大好きの方が強い!!」
「私の方がもっと大好きだよっ!!」
お互いの気持ちを伝えあう。
刃が重なるたびに、心臓の鼓動が大きくなるのを感じる。
言葉を放つたびに、胸の奥が熱くなる。
しかし・・・
「・・・はぁっ、はぁっ!!」
しかし、限界から逃れることはできなかった。
想いと身体を全力で動かしすぎたのだ。
身体が心に着いていけなくなるリミットが近づいていた。
「ふふっ!!やっぱりそろそろ限界みたいだね?降参する?『雫様の大好きの方が大きかったです』って認めちゃう?」
「まさか・・・そんなわけないだろ」
お互いに身体一つ分の距離を開けて向かい合う。
・・・そろそろ、決着を付けなければならないだろう。
「雫」
「・・・何?」
僕が静かに口を開くと、雫もまたさっきまでの言い合いが嘘のような穏やかな口調で答えた。
「今から、全力で行く。だから・・・」
僕は、全身に霊力を漲らせた。
脆い人間の肉体が、膨大な霊力の波に晒されて悲鳴を上げる。
「・・・・・」
普段ならば止めようとするだろう雫も、今はただ、僕を見守っていてくれていた。
それは・・・
「僕の全力!!僕の雫への想い!!受け取って!!」
「うんっ!!」
僕の本気を、僕の全身全霊の気持ちを、真正面から受け止めてくれるという証だった。
「・・・ふぅ~」
僕は息を吸って、吐く。
霊力を身体に張り巡らせながら、集中する。
--思い出せ・・・
掘り起こすのは、これまでの戦いの記録。
つい先日の月宮久雷との戦い。
葛城山での九尾との殺し合い。
神の力は今は使えないが、その技は身体が覚えている。
--あの時の感覚を!!
これまでは、何度思い出そうとしてもできなかった。
何度体を動かしても至れなかった。
けど、今は違う。
--すべては・・・
今の僕には・・
--雫に、この想いを伝えきるために!!
己の想いを全力で伝えたい相手がいる!!
己の想いを、全力で受け止めてくれる女の子がいるから!!
「はぁぁああああああああっ!!」
「・・・っ!!」
霊力は、魂の力。
魂という世界の欠片にあてられた、生命力と想いの成れの果て。
そして今、僕の中の想いは、溢れんばかりに漲っている。
ルールも、常識も、世界の何よりも大事な女の子に向ける想い。
その子のためならば、すべてを壊しても構わないと思えるほどの気持ち。
その想いが、今、世界に仇なそうとした狐を屠った技を想起させる!!
「砕月!!」
神の力は宿っていない、ただの突き。
けれども、そこに籠る霊力はあの壊れかけたススキ原での一撃に迫る。
「山津波!!」
迎え撃つのは上段から振り下ろされる土砂崩れの如き激流を纏った薙刀の刃。
「「はぁぁああああああああああああああああああああっ!!」」
二つの刃は瞬きの間にぶつかり合う。
膨大な熱を帯びた突きと、地獄のような冷気を帯びた刃が重なった
--ドンッ!!
巻き起こったのは濛々と煙る霧だった。
高熱と極低温が急速に接したが故の現象。
そして・・・
「はぁっ、はぁっ・・・!!」
「確か、私たちって、私の方が久路人を好きになる方が早かったよね」
白く煙る視界の中、聞こえた雫の声はどこか嬉しそうだった。
霧が晴れた時、視界に映ったのは、辺りに散らばる紅い氷の欠片と・・・
「やっぱり、こういう恋人どうしのぶつかり合いってさ・・・」
雫の首に届く前に寸止めされた刃と。
「先に惚れた方の負けなんだよね」
そして・・・
「私の負けだよ、久路人」
柔らかくほほ笑む雫だった。
それを見た瞬間・・・
「やっと・・・勝てた」
「うん、おめでとう。まさか、本当に私が負けるなんて思わなかったな。あ!!でも!!これはあくまで久路人の得意な土俵で戦ったからで、持久戦になったら私の・・・って、久路人!?」
「・・・・・」
僕の意識は、闇に沈んでいった。
なんだか暖かくて柔らかなモノに包まれる感触と共に。
------
「ん・・・?」
「あ、起きた」
目が覚めると、まだあまり慣れていない天井と紅い瞳が目に入った。
そして、頭の下に感じる感触。これは・・・
「なにここ。雫の膝枕とか、天国?」
「久路人が天国に行くようなことになるくらいなら、私が久路人の天国になるよ」
「もうなってるから大丈夫・・・って、痛っ!!」
「あ~!!あんまり無茶しないの!!まったく!!やりたかったのは分かるけど、あんなに無理して大技使って・・・」
「う・・・ゴメン。でもさ、僕、雫に勝ったよね?」
「なんか素直に認めるのは癪だけど・・・うん、そうだよ。私は久路人に負けた。まあ、久路人はすぐに気絶しちゃったけどね」
「そっか・・・」
起き上がろうとしたら、全身に走る筋肉痛。
最後に使った大技の反動だろう。
神の力を込めて使った時よりも遥かに軽いが。
そして、そんな僕を止めようとする雫からは石鹸のいい匂いがした。戦いの後に風呂に入ったのだろう。
しかし・・・
「本当に、やっと勝てたな・・・」
「前々から思ってたけど、そんなに勝ちたかったの?」
「そりゃあそうだよ。男として、付き合ってる女の子より物理的に弱いって言うのは結構ショックだよ」
「ふ~ん・・・ところでさ」
改めて、自分が雫に勝てたという事実を噛みしめる。
雫が僕の得意な接近戦に乗ってくれたという点は大きいが、それでも真っ向勝負で勝てたのだ。
僕の中に、達成感と満足感が湧いて来る。
と、そうして僕が色々と感傷に浸っていると、雫がなにやらモジモジと体を震わせた。
身体が揺れて、ちょっとくすぐったい。
見れば、その頬はうっすらと紅く染まっていた。
「久路人、言ってたよね?」
「え?」
「だから、戦う前と戦ってる途中に!!」
「え?戦う前と、戦う途中に・・・?」
「覚えてないの!?あんだけかっこよく啖呵切ったのに!?」
雫が少し怒り気味にまくし立ててくるが、さっきの戦いで色々とありすぎて、何を言ったのかと言われても分からないのだが・・・
「だから!!その、ふさわしい男だって証明するとか!!全部僕のモノにしたいとか!!」
「・・・あ!!」
思い出した。
同時に、僕の頬にも熱がこもっていくのが分かる。
「まさか、その~・・・あれ、嘘だったとか」
「そんなわけない!!」
「そ、そっか・・・そうだよね、あはは・・・ふふ、あはは、あははははははっ!!」
僕の反応が芳しくないのを見て不安になったのか、雫の声が小さくなった。
しかし、僕が否定するとすぐに元の調子に戻って高笑いを始めた。
・・・昔から妙なところでヘタレたり恥ずかしがっていた雫だが、なにかの大義名分があると鬼の首を取ったように異様な行動力を見せることがあった。
嬉しそうに笑う雫の気分を表すように、その左手薬指にはまった指輪がキラリと光る。
そう、今の雫にとっての大義名分とは・・・
「じゃ、じゃあさ!!久路人・・・」
「雫」
「へ?・・・わわっ!?」
気が付けば、僕は一瞬で上体を起こし、雫の肩を掴んで空中で一回転させてベッドに押し倒していた。
「く、久路人ぉっ!?」
「・・・・・」
「な、なんで黙って・・・なんか怖いよ、くろ・・んんっ!?」
動転してあたふたとする雫に、僕は自分の唇を重ねた。
「~~~っ!?」
「・・・ぷはっ、雫」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
唇を離すと、雫は顔を真っ赤にして、瞳をグルグルと回して混乱しているようだった。
だが、ここで止まるつもりはない。
大義名分を持った雫は、かなり行動のタガが外れる。
しかし、今からヤることのリードを、雫にとられるのは嫌だったから。
「雫を、本当の意味で全部僕のモノにしたい」
「っ!!」
ビクッと、雫が震えた。
けれども、目ははっきりと僕と合っている。
僕の言葉を、一言たりとて聞き逃すまいと集中しているのがわかった。
「別に、さっき雫に勝ったからってわけじゃない。例え負けていても、こうしたいって思ってた。あの戦いを挑んだのだって、僕の方がもう限界だったからなんだ。僕は・・・」
「・・・・・」
自分の中にある言葉を、自分の本音を、慎重にくみ出して、組み立てて、僕は形にする。
雫の嵌める指輪の輝きが、僕自身が贈った証が、今は僕に勇気をくれるように思えた。
色んな言葉と感情が胸の内でごちゃ混ぜになる中、それでも僕は自分の一番の望みを口に出す。
「もっと雫と先に進みたい!!」
「・・・はい」
「・・・雫」
僕が目を向けると、雫は微笑んでいた。
普段明るく快活に笑う雫にしては珍しい、静かな笑み。
それはまるで、それこそ天使のようで・・・
「私も、最近ずっと思ってた。初めてのデートはすごく良かったけど、最後はあんな風になっちゃったから・・・けど、だからこそ今」
「・・・・・」
その美しさに思わず言葉を止めていた僕に、雫は続けた。
「私を、全部、全部久路人のモノにして欲しい。もっと・・・久路人と繋がりたい」
「・・・っ!!」
「っん!?・・・んっ!!」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中の何かが弾けた。
もう一度、自分の唇を雫のそれに押し付ける。
やはり雫も驚いていたが、今度は予期していたのか、すぐに僕の舌を受け入れて、自分の舌と絡めてきた。
そして、しばらくの後。
「ぷはっ!!」
「はぁ~、はぁ~・・・」
唇を離し、お互い肩で息をする。
僕らの顔は真っ赤にそまっていて、体は熱で火照っていた。
そして・・・
「っ!?く、久路人の・・・」
僕の身体の一部が、雫に当たっていた。
けれども雫の顔に嫌悪の色はなく、僕もその滾りを隠すつもりはない。
「責任」
「へ?」
「さっきの戦いで言ったこと、色々あったけど・・・言ったよね、雫を重い女の子にした責任取るって。だから、今から取るよ」
「・・・うん。私も、取るよ。久路人をヤンデレにしちゃった責任。だから、あげるね」
「・・・・・っ!!!」
雫が、着ていた白い着物をはだける。
雫の美しい裸身が、白くきめ細やかな肌が、控えめな双丘が、僕の目の前に晒される。
それを見て、僕の中の熱はさらに大きくなり・・・
「私の初めて、久路人にあげる」
そこから、僕らは獣になった。
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チチチチチ・・・と、鳥の鳴く声がした。
「う・・・」
目が覚めて、胸に息を吸い込んだ時に感じたのは、ムワッとした熱と臭い。
感じるのは、体全体が柔らかくとも湿気を含んだ布の上に横たわる感覚。けれども、頭と尻の付け根から先には、これまで感じたことのない違和感のようなものがあった。
そして、視界に入るのは、穴が空いたり紅いシミがついたりして荒れに荒れたベッドのシーツと・・・
「う~ん・・・?」
その白く美しい身体を何も隠すことなく横になる雫の姿だった。
ただし、その姿には少し違いがある。
「おはよう、雫」
「ああ、久路人か、おはよう・・・っ!?」
頭から二本の角を生やし、白い尻尾をくねらせながら目を擦る雫に僕が声をかけると、雫は返事をして・・・
「っ!!」
「わっ!?雫っ!?」
「・・・・・」
己が一糸まとわぬことに気が付いたのか、すぐに近くにあった布団にくるまると、中に潜ってしまった。
僕が様子を見ていると、ニュッと雫は顔を出し・・・
「この鬼畜」
「え?」
「・・・・・」
ボソッと告げると、再び布団の中に。
そしてまた顔を出して・・・
「このドS」
「・・・・・」
ボフン
ニュッ!!
「ベッドヤクザ」
「あの・・・」
「凌辱系エロゲ主人公・・・」
「ごめん!!激しくしすぎました!!本当にごめんなさい!!」
「・・・・・」
布団の中に潜ったきり顔を出さなくなった雫に、僕は平謝りした。
なんというか、昨日はその・・・胸の中にたぎる衝動と、体の中にある熱を発散しようとしたら、途中からある理由で歯止めがかからなくなってしまい、『ちょっとこれは…』と自分でも思わなくもないくらいにハッスルしてしまったのだ。
「妾、まさか一晩で一気に二回も処女を失うことになるとは思わなかったぞ・・・」
「はい、反省しております・・・」
「ふんっ!!」
「・・・・・」
しばらく、雫は布団に籠ったままだった。
時折足と尻尾を出してはバタバタとその辺に叩きつける。
その仕草は『妾は怒ってます』と言わんばかりだったが、僕には分かる。
これはフリだ。
「ふん!!・・・くくっ、ははは」
やがて、布団の中から押し殺した笑い声が聞こえた。
僕の予想通り、怒ったフリをしていただけだったことに、予想できていたとはいえ胸をなでおろす。
そんな僕を尻目に、怒ったフリにも飽きたのか、雫はもう一度顔と白魚のような腕を出して・・・
「色々言いたいことはあるが、まあ、なんにせよだ」
「うん」
僕と目を合わせて、心の底から嬉しそうに笑いながら。
そして、僕の頭に生えた角と、尻尾を触ってから言った。
「人間卒業おめでとう。これからも、末永くよろしく頼むぞ。久路人」
「うん!!」
こうして、この世界で何よりも大事な女の子と繋がりあった日。
僕は人間を卒業した。
「これからも、ずっと、ずっと、それこそ永遠に、一緒にいよう、雫」
「うむ!!」
これは拾った妖怪に惚れて人間を止めた僕の物語。
これからも永久に続く、白蛇の化身と人間を卒業した元人間の紡ぐ物語である。
まだ色々と問題もあるが、それも必ず乗り越えられるはずだ。
僕と雫の二人なら。
「あ、ちょっと待て・・・割と真剣に腰と尻が痛い。久路人、責任取って風呂まで運べ。お姫様抱っこで」
「本当に、昨日は申し訳ございませんでした・・・」
・・・多分。
3章のテーマは人間卒業。
書きたかったのは、『自分が受け入れられるはずない』と思い込む人外ヒロインと、それを全力で受け入れる主人公との組み合わせでした。
ここまで長かった・・・
4章からは日常回とバトルかな(予定は未定)。
評価、感想、お気に入り、推薦、イラストとか、色々待ってるぜ~~!!