白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話   作:二本角

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お待たせして申し訳ない・・・
そして4章は次で最後かな?もしくは5章の一話かも。
後、1章一話と二話をちょこちょこ書き直してるので、興味ある方は読んでみてください


白流怪奇譚10

 池目円太(いけめえんた)は、イケメンだ。

 

「池目君!!明日暇ならカラオケ行かない?」

「そうそう!!判侍君も誘ってさ」

「あ、悪い。明日はバイトなんだ。明後日なら空いてる。持春は?」

「俺は明後日がダメだな。週末は行けるけど」

 

 今日も、大学のサークルのメンバーからお誘いがかかる。

 彼は幼馴染にして親友の判侍持春(はんじもてはる)とともにテニスサークルに所属しており、サークル内でもかなりの腕前だ。

 持ち前の整った顔立ちと、男らしい優れた身体能力。なにより、そんな生まれ持った才能を鼻にかけず、他人を思いやれる優しさもあって、2人はしょっちゅう女性に声をかけられていた。

 実際に付き合ったことも多々あり、女性経験も豊富である。

 まあ、本気でほれ込んだ相手はいないため、女子の間での後ろ暗いあれやこれやで別れることになってもあっさりと受け入れていたが。

 そんな彼だからこそ、知っていることがあった。

 

(なんだ?あいつ・・・)

 

 ある日の夜のことだった。

 大学からバイト先で働いた後、一人で家路についている時。

 自分の後ろを誰かが付いてきているのに気が付いた。

 チラリと目線を向けてみると、いやに髪の長い女だ。

 目元まで髪で隠れており、暗さもあいまって顔は見えない。

 

(・・・ストーカーか?)

 

 池目は、これまで何回かストーカーの被害に遭ったことがあった。

 その経験から、今自分をつけている女からストーカーと同じような気配を感じたのである。

 彼が付き合った女性と長続きしない理由の一つであるのだが、どうも女運はあまりないらしい。

 

(顔は見えないけど、あんな不気味なヤツ、会った覚えはないけどな)

 

 背後から、強烈な視線と意思を感じる。

 それはまさしくストーカーのソレであったが、池目には後ろの女に見覚えはない。

 これまでは、何度か池目に会うにつれて次第にストーカー行為をしでかすような女しかいなかった。

 何らかの接点がなければストーキングするきっかけにならないからだろうが、そうなると女の正体がまったく掴めない。

 

(一目惚れってヤツか?・・・自分で言うのもなんだけど、めっちゃ自意識過剰なこと考えてんな、俺)

 

 池目は、半ば自分に呆れつつ半笑いを浮かべる。

 普通尾行されてるからと言って、それが自分の魅力に惚れたからとは思わないだろうが、彼の場合はそういうケースが過去に数度かあったために、仕方がない反応と言えるだろう。

 ある意味、余裕のある証拠でもある。

 

(ストーカーね・・・不気味だけど、懐かしいと言えば懐かしいな)

 

 池目とて、不気味に思わないわけではないが、慣れてしまっているのだ。

 同時に、友人たちが親身になって助けてくれた思い出もある。

 初めてストーカー被害を受けたのは、高校の二年の頃だった。

 修学旅行に行くよりもかなり前だったが、顔を隠した女がやけに執拗に付いて来ると不安に思ったものだった。

 当然不気味に思ったが、実害が出るには至っておらず、警察も動いてはくれなかった。

 だが、彼の友人たちは動いてくれた。

 

(持春はいつも一緒に帰ってくれたし、毛部と野間瑠はストーカーを逆にストーキングして特定してくれたしな。そんで、月宮は・・・)

 

 ストーカーについて、あのおとなしい中学からの友人に話した後。

 

『わかった。僕も何とかしてみるよ』

 

 と言った日から、不意にピタリと被害が止まったのだ。

 判侍がいたからストーカーが襲い掛かって来ることもなく、毛部と野間瑠がいたから特定はできた。けれども、どうしてもその先に踏み込むことはできなかった。

 そんな喉に小骨が刺さったような状況が、すぐさま終わったのである。

 普段の池目たちが帰るルートが、その日だけ妙に肌寒かったことはよく覚えている。

 

(中学の頃から不思議なヤツだったけど、月宮が何かしてくれたんだろうな・・・)

 

 月宮久路人に不思議な何かがある、というのは中学ではそこそこ有名な話だった。

 池目自身は、そういった根も葉もないうわさで騒ぎ立てるのは好きではなかったので掘り下げなかったが、久路人の周りで不可解なことがたまに起きているのには気づいていた。

 

(まあ、昔の話より今か。見た感じ、体格は俺よりかなり小さいし、変な道具でも持ってない限りは逃げ切るのは難しくなさそうだ・・・よし!!)

 

 しばし昔の思い出に浸っていた池目であったが、首を小さく振って思考を切り替える。

 思い出の中には頼りになる仲間たちがいたが、今の自分は1人。

 自分で何とかしなければならないが、今の池目には高校から運動部で鍛え続けているガタイがある。

 追いかけてくる女は、はた目には運動ができそうにも見えない以上、全力で走れば撒くのは容易く思えた。

 

「ふっ!!」

 

 ちょうど曲がり角に入ったところで、池目は全力でダッシュした。

 そのまま普段帰るルートとは違う道をジグザグに駆け抜けていく。

 健脚はあっという間に距離を稼ぎ、景色はスイスイと後ろに流れていった。

 

「ふぅ・・・まあ、ここまで来ればいいだろ」

 

 そうして、池目は路地裏をいくつも通り抜けた先にある大通りで足を止めた。

 軽く息が上がる程度で済んでいるが、それは池目だからであり、並の女性では到底追いつくことはできないだろう。

 路地裏でショートカットしたこともあり、行先を予測して便のいい大通りを迂回したとしても、抜かされることはまずない。

 

「とりあえず、このままちょっと遠回りして帰るか。持春とかには明日連絡するとして・・・」

 

 乱れた息を整え、帰り道を考えつつ対策を練る。

 ストーカーへの対処としては、犯人に詰め寄ったりして刺激してはいけないのが第一だ。

 ひとまず万が一のために昔買った防犯グッズを携帯して、ストーキングされているという証拠を集めるところからだろう。

 警察に相談するにせよ、下準備をしておかなければ中々対応してくれない。

 

「前に買ったヤツ、どこに仕舞ってあったかな?下宿に持ってきてはいるはずだけど」

 

 今度は大通りで、夜とはいえ街灯の灯りで明るく、人もまばらにだが出歩いている。

 その安心感もあって、ゆっくりと歩き出した、その時だった。

 

「・・・・・」

「え?」

 

 急に寒気を感じて、ふと視線を前に向けた先。

 電柱の真下に、あの女がいた。

 ひどい猫背で、灯りに照らされながらもやはり顔は見えない。

 服装もよく見れば随分とくたびれた服を着ており、乱れた髪と合わさって暗がりで見るよりも不気味だった。

 だが、そんなことよりも。

 

(どうやって、俺の前に回り込んだんだ!?)

 

 女の服装にも息にも乱れはない。

 靴もよく見てみれば走りにくそうなハイヒールだ。

 とても、池目の先回りができるとは思えない。

 

「ふぅ~・・・今日も疲れたな」

 

 そして、そんな風に混乱する池目の横を、通行人が通り過ぎた。

 そのまま女の横も通り過ぎて、歩いていく。

 

「・・・・・」

(なんで、何の反応もないんだ!?)

 

 通行人も、女も、何の反応も見せなかった。

 はた目から見ても、電柱の下にいる女は不気味だ。

 しかし、さっきの通行人はまるで女が見えていないかのように気にも留めずに歩いていた。

 

「くそっ!!」

 

 何かがおかしい。

 全身を刺すような寒気に、本能が警鐘を鳴らす。

 次の瞬間には、池目は悪態をついて踵を返し、再び全力で走っていた。

 

「はぁっ、はぁっ!!」

 

 今度は寄り道せずに、まっすぐ家を目指す。

 鍛えられた身体をフルに使って走れば、ものの10分でたどり着いた。

 震える手で鍵を開け、中に入ってすぐにドアを閉めて施錠する。

 そして、部屋の中に向き直った。

 

「はぁ・・・さすがに、いないか」

 

 部屋の灯りをつけてくまなく見渡すが、人影はなく、窓もすべて閉まっていた。

 ドアの鍵もかかっていた以上、内側に侵入されているということもあり得ない。

 

「ふぅ・・・」

 

 一気に気が抜けて、池目はベッドの上に腰を降ろした。

 

「なんだったんだ?あの女」

 

 落ち着いてくると、気になるのはもちろんあの女だ。

 不気味な女だった。

 服もそうだが、何よりも雰囲気が異常だった。

 どういうわけか自分をストーキングし、全力で走って撒いたつもりが回り込まれてもいた。

 しかも、自分以外には認識できていないかのように、通行人は何の反応も見せなかった。

 それはまるで・・・

 

「幽霊・・・」

 

 口に出して、形にする。

 

「幽霊、幽霊・・・ははっ!!」

 

 そうしてから、不意に池目は笑い出した。

 

「んな訳あるか。月宮と違って俺に霊感なんてないし、ビビりすぎだろ、俺」

 

 幽霊など、この世にいるわけがない。

 確かに友人の久路人は不思議な雰囲気をしていたが、彼はきちんと人間であった。

 奇妙な体験をしたこともあったが、それも物理的な理由や『気のせい』で済ませられる程度のモノ。

 振り返ってみると、随分と情けない真似をしたものだ。

 あの女が追い付いたり気付かれなかったのにどんなトリックを使ったのか知らないが、ここまでビビった自分を思い出して、今頃笑い転げているだろう。

 だが、そうとなればこちらも容赦はしない。

 

「悪質な悪戯しやがって・・・こうなったら、防犯カメラでも買ってやろうか」

 

 素早く証拠を集め、警察に動いてもらう必要がある。

 単なるストーカーではなく、自分を脅かして楽しむ愉快犯となれば、こちらもそれなりに用意をしなければならないだろう。

 

「中古で売ってねぇかな・・・」

 

 そうして、調べものをすべくポケットのスマホを取り出した。

 その瞬間、池目は凍り付いた。

 

「なんだ、これ・・・」

 

 スマホには、黒い糸が幾重にも絡みついていた。

 それは、間違いなく・・・

 

『見つけた』

「っ!?」

 

 不意に、部屋の中に声が響いた。

 小さく、聞き逃してしまいそうな声。

 けれども、確かに聞こえた。

 

「どこだっ!?」

 

 反射的に、池目は立ち上がって部屋を見回す。

 しかし、どこにも異常はない。

 さきほど見たように、部屋の中には何もいない。

 

「クソっ!!なんなんだよっ!?」

 

 半狂乱になりつつも、池目はキッチンにあった包丁を手に取り、窓に向き直った。

 ドアの鍵は相変わらず締まったままであり、声を届けるには窓しかない。

 ガラリと窓を開け、ベランダに一歩踏み出すも、やはりそこには何もいなかった。

 

「・・・気のせい、だったのか?」

 

 ベランダから身を乗り出して外を見ても、誰もいない。

 しばらく部屋の中と外に交互に視線を向けていたが、やがて本当に何もいないと確信し、部屋の中に戻る。

 その時に、足元の違和感に気付いた。

 夜の暗闇に紛れて、見ただけでは分からなかったが、踏みつけたから、ソレに気が付いてしまった。

 

「うわっ!?」

 

 ベランダに広がる、長い長い黒髪の絨毯に。

 

 

------

 

 

「あの女を初めて見た時は、そんな感じだったんだ」

 

 そうして、池目君は一旦水の入ったコップを手に取って一気に煽った。

 

「はは、ごめんな。こんな話して。信じられねーと思うだろうけどよ」

「俺からも言うけど、本当の話だと思うぜ。俺はその女を見たわけじゃないけど、円太はこんなことで冗談なんか言わねぇ。幽霊なのか人間なのかは分からないけど、間違いなくヤバい女がいる」

「いや、信じるよ。池目君、判侍君」

 

 白流市から少し離れた場所に位置する、とある喫茶店。

 そこで、僕たちは池目君の話を聞いていた。

 あの通話の後、ただならぬ雰囲気から、すぐに日にちを決めて白流市の近くに来てもらったのだ。

 どうして白流市の近くで会うのかといえば、白流の結界で池目君に憑いているかもしれないモノに逃げられないようにするためだ。

 今いる場所ならば、何かあってもすぐに白流市まで逃げ込める。

 最初は僕の方から行くことも考えたが、池目君たちが住んでいるのは忘却界の奥の方で、いざという時を考えてここで会うことにしたのである。

 池目君たちには手間をかけさせてしまったが、彼らも帰省したかったようなので『大丈夫』とのことだった。

 

(雫。何か感じる?)

「ううん、何も。瘴気は感じないよ」

(そっか・・・白流の結界の近くだからかな)

『・・・いや、微かだが霊力の残滓は感じるぜ。ここには何もいないみてぇだが、コイツが何かに憑かれてたのは間違いない』

 

 その場にいるメンバーは、やたらと憔悴したような池目君と、その付き添いの判侍君。

 そして、僕と雫とおじさんだ。

 おじさんは、前に片葉さんを見ていた時のように術具ごしだが。

 ちなみに、毛部君と野間瑠君も来たがっていたのだが・・・

 

『京さん。池目の下宿まで来たけど、何もいないッスよ』

『・・・この鍵開けの術具、すごいですね。霊力めっちゃ使うけど』

 

 僕の付けているイヤホン型の術具に、2人の声が届いた。

 2人には今、池目君たちが住んでいる場所に向かってもらっていたのだ。

 一応、今の僕らは霊力を抑えることもできるから、おじさんの術具があれば今のように忘却界を壊さずに入ることはできるが、何重にも身体に負荷がかかったような状態になる。

 そのため、純然たる人間の2人に行ってもらったという訳だ。

 戦力的にも2人は十分に戦えるレベルだし、忘却界のデバフは僕たち以外の妖怪にも有効なため、大物はいないだろうという見通しもある。

 まあ、そもそも戦闘に入る前に発見されることすら難しいだろうが。

 

「月宮?」

「どうかしたか?やっぱり、信じられねぇかな・・・」

「あ、ごめん。ちょっと考え事してて・・・うん、信じるけど、だからこそもっと詳しい話が聞きたいな。何かきっかけとかなかった?」

「きっかけか・・・悪い、思いつかねぇや。あの女は、突然現れたんだよ」

 

 少しの間雫たちと話していると、不安に思ったのか、2人は怪訝そうな顔をしている。

 しかし、この様子だと雫にも気が付いていないようだし、毛部君と野間瑠君のように霊能力に目覚めているというわけではなさそうだ。

 そうなると、今の状況に陥った理由にも気が付けないかもしれない。

 案の定、池目君も心当たりはないという。

 

「いや、待った。円太には心当たりはないかもしれねぇけど、俺にはあるぜ」

「持春?」

「そうなの?」

「ああ。お前が体調悪そうだった時、お前の分も顔出しってことで俺だけでサークルの飲み会行ったんだが、そのときに噂を聞いたんだよ」

 

 だが、意外にも判侍君の方は何か知っているらしい。

 というか・・・

 

(また噂か・・・)

 

 ここ最近、そんな話ばかり聞く。

 影の中に潜む妖怪や、河童の三郎、七不思議に、つい最近の毛部君と野間瑠君。

 この白流はそういう土地だから納得もできるが、まさか忘却界の中でもそんなことになってるとは。

 

「俺が聞いた話だと、『黒髪ストーカー』って噂だった」

 

 そうして、判侍君は噂について教えてくれた。

 曰く・・・

 

『ある日突然、黒い髪の女に付き纏われるようになる。女は髪を長く伸ばしていて、顔を見ることはできない』

『逃げようと思っても、逃げられない。どんなに走っても、隠れても、必ず女はやってくる』

『受け入れても救いはない。憑りつかれた男は、女の探す男ではない。女にとっての嘘にしかならない』

『受け入れても、逃げ出しても、もちろん拒んでも、待っているのは女の怒りだ』

『最後には、女の怒りに触れて、死ぬ。髪で首を絞められるか、精神を狂わされて自殺するか、その末路は悲惨だ』

『だが、助かる方法もある。それは・・・』

 

「どこかにある、その女の写った写真を誰かに押し付ければいいんだと」

 

 そう言って、判侍君は話を締めくくった。

 

「お前、そんな話知ってたんならどうして教えてくれなかったんだよ」

「いや、俺も前に聞いたじゃん。写真持ってないかって。そしたら、お前が『持ってない』って言うから。今は月宮もいるから話したんだよ。何のアテもない時にこんなこと話せるかよ」

 

 どうやら、判侍君は池目君に気を遣って話していなかったようだ。

 

「その噂だと、写真は最初はどこから来たことになってるの?」

「わからん。他のヤツに押し付けられたんだと思う。それ以外だと、写真には女の怨念が籠ってて、捨てても戻ってくるってのは聞いたな」

「そういえば、お前にストーカーの話したときにそんなこと聞いてきたな・・・けど、本当に俺はそんな写真持ってないぞ」

『写真ね・・・久路人、こりゃ毛部と野間瑠の時と同じだ』

(術具か)

「あの悪趣味な仮面のことだな」

 

 噂の内容はよく聞くようなチープなものだったが、池目君も判侍君もこんなことで嘘を吐くような性格はしていない。

 そして、おじさんによれば池目君からはわずかに霊力の痕跡があると言う。

 2人の話は真実で間違いないだろう。

 ならば、現状を打開する方法も具体的に考えることができる。

 

『毛部と野間瑠の時も、術具そのものが使い手を探して、暴走させていた。これも少し違うが根っこは同じだな。術具が池目を選んで、憑りついたんだ。そして、『怪異』を引き起こしてる・・・忘却界の中でそんなことが起きたってのは信じがたいが、起こり得る可能性はそんくらいしかねぇ。人間の霊能者が直接やってるんなら、やり方がお粗末すぎる。誰かを殺したいだけなら、こんな回りくどい手を使う必要がねぇ。術具を作ったのは誰だか知らねぇけどな』

 

 忘却界の中で結界の影響を受けずに発現できるのは、人間に由来する異能のみ。

 そして、人間の意思や感情という指向性を与えられた霊力が形を変えたものこそが怪異。

 すなわち、怪異は忘却界の中でも発生するのだ。

 というか、今の現世で忘却界の中で人間に危害を及ぼす異能の存在など、怪異くらいのものだ。

 霊力に乏しい忘却界で怪異が発生するのは滅多にないことだが、恐らくは術具そのものに籠っている霊力を餌にしているのだろう。

 写真が見つからないのは、押し付けた人間がうまく隠したのか、あるいは術具そのものが意思を持って池目君を選び、見つからないように息をひそめているのか。

 

「なあ、頼むよ月宮。中学の頃、お前が噂のせいで嫌な目にあったのは知ってる。けど、こんなこと相談できるの、お前しかいないんだ」

「俺からも頼む。最近の円太は、見てる方がキツいんだ」

 

 そう言って、2人は深く頭を下げた。

 

「・・・・・」

 

 2人とも、僕が中学の頃に色々と噂をされて、いじめに発展しかけたことを知っている。

 あのいじめの関係で、僕と池目君、判侍君は知り合ったが、あれから2人が僕の周りで起きる、妖怪による怪奇現象について口を出してくることはなかった。

 それは、僕がそういうことを掘り返されるのを嫌がるだろうという、2人の優しさだ。

 そして今、そんな事情を知っていてもなお、友達がそんな風に真摯に頼んでくるのだ。

 つまりは、それほど追い詰められているということだ。

 ならば、僕が言うことなど決まっている。

 

「わかった。僕が何とかしてみるよ」

  

 元より異能の力で困っている人間を見捨てるのは、僕個人としても、学会の方針としても認めがたい。

 断るという選択肢は元からないのだ。

 

「ま、この2人には久路人を鬱陶しい雌から庇ってくれた恩もあるしね」

『この怪異をどうにかすれば、気になってることもわかるかもしれねーしな』

 

 雫もおじさんも、反対するつもりはない。

 そして・・・

 

「ありがとう。本当に、ありがとな」

「俺からも・・・ありがとう、月宮」

 

 よほど追い詰められていたのだろう。

 池目君は、緊張の糸が切れたかのように涙をぬぐった。

 判侍君も、そんな池目君の肩を叩きながら、僕に礼を言うのだった。

 

 

------

 

「とりあえずなんとかしてみるけど、その前に聞きたい。その幽霊って、具体的に今までどんなことをしてきたの?なんか、命にかかわることはあった?」

 

 店を出て、すぐ近くの公園。

 そのベンチで、僕はもっと詳しい話を聞くことにした。

 なぜ場所を移したかと言えば、荒事になる可能性が高まってきたからだ。

 

「薄っすらと瘴気を感じる・・・あの七不思議の時と似てるね」

 

 雫が僕の傍でそう言ってくる。

 雫の言う通り、さっきまで感じられなかった瘴気が、急に強まってきたのだ。

 

『怪異は、噂に行動を縛られる。この怪異をなんとかしてくれって話したのは、その女にとって気に入らねぇことだったんだろうよ。反逆の意思ありってな』

 

 他にも、ここに向かう途中で、

 

『月宮君。やっぱり下宿には何もそれらしいモノはないぜ』

『おかしな髪の毛も落ちてないし、池目の方に付いてるんじゃないかな?』

 

 毛部君と野間瑠君から連絡があった。

 怪異は、池目君から離れていない可能性が高い。そう時間を置かず、怪異が現れるのだろう。

 できれば池目君たちは逃がしたいところだが、怪異の狙いが池目君である以上、それも無理な話。

 判侍君一人どこかに行ってもらうのも不自然だ。

 

『まあ、怪異って言ってもそこまで強い奴じゃねぇ。一般人がいたところでそんなに苦労はねぇよ』

 

 そういうわけで、怪異が出てくるまで時間を潰すことにしたのだ。

 この話だけでも、怪異にとっては撒き餌になるかもしれない。

 

「どんなことって言ってもな・・・基本的には付き纏ってくるだけだな。死にそうになったことはないぜ。ただな・・・」

 

 池目君は、やつれた顔で気持ちの悪いモノでも見たかのような目をする。

 

「どこまでも、どこまでも付いて来るんだ。部屋の中どころか、ベッドに髪の毛が落ちてたこともあった」

「寝床まで追いかけてくる女なんて、ヤバいだろ。幽霊でむしろまだマシなんじゃね?生きてるヤツにそんなことされる方が怖いわ」

「幽霊だろうが生きてるヤツだろうがどっちでも嫌だよ。部屋にいきなり入って来るなんて怖すぎだろが」

「怖いっていうか、気持ち悪いわな」

「・・・・・」

 

 確かに、許可なく部屋の中に侵入されているというのは恐ろしいものだ。

 ましてや寝る場所まで掌握されてるとなると、安心できる場所はないと言ってもいいだろう。

 

(あれ?そういえば、昔そんなことがあったような・・・)

 

 しかし、ふと記憶に引っかかるものがあった。

 そういえば中学の頃、朝起きたら雫がベッドの下に布団を敷いて寝ていたことがあったような・・・

 というか、添い寝されるのは高校の頃からほぼ毎日だ。

 

(じ~・・・)

「・・・・・っ!!」

 

 そんなことを考えながらふと雫を見ると、珍しいことにバッと目をそらされた。

 その白い肌にはなぜだか汗が浮いている。

 雫に拒絶されたようなその仕草は普段ならショックを受けるところだが、今は何というか・・・

 

「後は、タンスが荒らされてることがあったな。風呂場も」

「げっ!?それって、服とか下着狙いか・・・?」

「多分な・・・俺のパンツに髪が絡まってるの見た時は、ゾッとしたね。下着全部捨てたわ。おまけにバスタブまで髪の毛で詰まってたしよ」

「そりゃあ、そこまでされたらな・・・」

「ああ。幽霊でも変態っているんだな」

「・・・・・」

 

 またしても、脳裏に何かが蘇った。

 いやに聞き覚えのある話だ。

 いや、これは結構最近のことだ。

 

(確か、僕が雫と戦って初めて勝った時、カマかけたらあっさり喋ってたな。訓練が終わった後、僕の汗がしみ込んだ下着を・・・)

 

 そういえば、僕が率先して先に風呂に入るようにしていたから結果的にそうなっていたわけだが、雫は僕の残り湯に常に浸っていたことになる。

 僕としては、女の子が入った残り湯に浸かってる変態と思われたくないからこそだが、雫がそれに異を唱えなかったということと、今までの行動を振り返るに・・・

 

(じ~・・・)

「・・・・~♪」

 

 再び雫の方をチラリと見ると、なぜかこっちを凝視していた雫は明後日の方向を向いて口笛を吹き始めた。

 うまく吹けてなくてヒューヒューとした音しかしていないが。

 

『雫、お前・・・』

「・・・・~♪」

 

 おじさんがそんな雫に呆れたような声を上げるが、雫は知らん顔だ。

 

「極めつけに、キッチンとか冷蔵庫まで触った跡があったんだ」

「まさか・・・料理に?」

「ああ・・・作り置きしといたカレーに髪の毛とか血みたいのが浮いててさ。食ってないのに吐き気がしたよ」

「ストーカーのレベル超えてんだろ・・・そこまでのことになってたんなら流石に言えよ。飯くらい奢ってやったぜ?」

「いや、それでお前のとこに行ったらヤバいだろ。気持ち悪かったからすぐに片付けて証拠もなかったし」

「まあ、いきなりそんな話されてもすぐには信じられなかったかもな。そのレベルの変態とか、幽霊じゃなくても対処法が分かんねぇよ」

「・・・・・」

 

 これについては、もう思い出す必要すらない。

 今の僕は人間を止めているが、そのためには・・・・

 

「あ~!!あ~!!聞こえない聞こえな~い!!」

(雫・・・)

 

 雫はもはや外部からの情報をシャットアウトするつもりなのか、耳を塞いで大声を出していた。

 なんだかんだ言って雫は意外と常識をわきまえているので、自分の行動が客観的にどれほどキモイのか突き付けられてショックだったのだろう。

 部屋への不法侵入、下着泥棒、自身の一部を食品に異物混入。

 言われてみれば確かに、中々生理的な嫌悪を呼び起こすものばかりである。

 

「とりあえず、こんな感じだな。命取られるようなことはされてないけどよ。それでも・・・」

「なんというか、精神的に殺されそうだよな。なあ、月宮」

「え、あ~・・・」

 

 ひとしきりそのストーカー幽霊の罪状を話してくれた池目君だが、素直に彼らに同意するのはそれはそれで何か違うような気がした。

 

「まあ、確かに気持ち悪いけど・・・・」

(っ!?)

 

 僕がそう言うと、雫の肩がビクッと震えた。

 耳を塞いでいたと思っていたのだが、いつの間にか手を元に戻している。

 僕がなんて返すのかは気になったのだろう。

 背中を向けているが、泣きそうな、悲しそうな気配は伝わってきた。

 僕は池目君たちだけでなく、そんな雫にも届くように言う。

 

「心から好きな人にされるんなら、結構嬉しいかな」

「久路人っ!!」

 

 その瞬間、大好きな飼い主を見つけた犬のようにバッと雫は振り返った。

 その瞳は驚きと喜びでルビーのように輝いている。

 犬のような尻尾があったら千切れんばかりに振っていただろう。

 

「お、おう」

「昔から思ってたけど、お前変わってるよな・・・」

『久路人、お前・・・いや、お前らしいけどよ』

 

 池目君と判侍君は少し引きつった顔で。

 おじさんは呆れと感心が半々くらいの声音でそう言った。

 どうやら引かれてしまったようだ。

 

「久路人~!!」

(わわっ!?)

 

 まあ、今こうして満面の笑みで僕に抱き着いて来る雫の心を守れたならそれくらいどうということはない。

 まぎれもない僕の本心でもあったのだから。

 そうして、池目君たちにバレないように雫の頭を撫でようとした時だ。

 

 

--ゾワリ

 

 

「っ!?2人とも、そこにいて!!」

「「え?」」

 

 空気が変わった。

 今まで初秋の、まだ暑ささえ感じるくらいの陽気だったというのに、今では雫が力を出し始めた時のように空気が冷え込んでいた。

 

『来たな・・・結構強めってとこか』

 

 ドローンごしに、おじさんの声が聞こえる。

 おじさんの言うように、中々強い瘴気を感じる。

 七不思議の、あの鏡を見つけた時とよく似ている。

 怪異の核がすぐそばにいるのだ。

 

「久路人、あそこ」

(うん)

 

 瞬時に僕から離れて警戒態勢になった雫が指差したのは、公園の入り口だ。

 そこに、いつのまにか女が1人立っていた。

 折れ曲がった枝のような猫背で、長い髪が垂れさがっていることもあり、顔は全く見えない。

 

『ミ、ミツ、ミツケタ・・・』

「う、うおっ!?」

「ほ、本当に出やがった!?」

 

 霊力を一般人並みしか持っていない2人にも見えているようだ。

 あの怪異が、己の存在をわざと見せつけているのだろう。

 そうすることが、あの怪異にとってのルールなのだ。

 

(とりあえずどうしようか、おじさん)

『核を探せ。単純に斬るだの焼くだのじゃ、また霊力が集まって堂々巡りだ』

 

 怪異が目の前に現れたが、僕は落ち着いていた。

 確かにあの怪異はそこそこの霊力を感じるが、あくまでそこそこだ。

 七不思議の鏡と同程度だろう。

 怪異ゆえに元を壊さなければ意味がないが、例え忘却界の中であっても、あの程度の怪異にやられることはまずないという確信がある。

 

(まあ、あくまで僕は、だけど。池目君と判侍君のところには行かせないようにしなきゃ)

 

 僕は武器こそ出さずとも、構えて臨戦態勢に入る。

 ことここに至った以上、池目君と判侍君は記憶処理をして帰ってもらうことになるだろうが、あまり強烈な体験をさせると記憶を改変するのも難しくなる。

 それには、あまり強力な術や武器は使うべきでないだろう。

 忘却界の中ということもあり、僕は最小限の力で目の前の怪異に対処しようとして・・・

 

『ミツ、ケタァァァアアアアアアアアアっ!?』

「え、僕?」

 

 女が飛び掛かってきたのは、池目君ではなく僕だった。

 

『あ~・・・お前がさっきコイツのやったことを受け入れるようなこと言ったからだろ。術具の意思が、お前を選んだんだ』

(え~・・・)

 

 まさかの堂々の二股。

 あんなに過激な行動をとっていたというのに、こうも簡単に乗り換えとは。

 

(なんかムカつくな。雫のこと馬鹿にされたような気がする)

 

 雫も、まあ様々な理由があって変態的な行動をしていたわけだが、その根底には僕への愛情があったというのは他でもない僕がいちばんよく知っている。

 それなのに同じようなことをしていたこの怪異が浮気性だと、雫の格まで下げられたような気がしてくるのだ。

 

『オ、オマエガァァアアアアアっ!!!』

(とりあえず、霊力を籠めて殴るか・・・いや)

 

 そんなことを考えている間に、女はすぐそばまで迫っていた。

 僕は迎撃のために拳に霊力を通わせようとして、すぐに止めた。

 僕はコイツにムカつきを覚えたが、それどころじゃないほどの怒気を隣から感じたからだ。

 

「尻軽がぁあああっ!!」

『っ!?』

 

 僕に飛び掛かろうと空中にいた女が、そのまま氷漬けになった。

 

「少し優しくされた程度で妾の前で鞍替えとはいい度胸だ男をコレクション扱いかそんじょそこらの雄なら好きにすればいいがよもや貴様ごとき木っ端が妾から久路人をかすめ取ろうとするとはなぁ身の程を知れ尻軽ビッチがまずはその鬱陶しい髪を丸刈りにして股の間にツララをぶち込んでから八つ裂きにして目玉をくりぬいて首を・・・」

(雫、雫。もう粉々になってる)

「跳ね飛ばしてからそこらの妖怪どもの餌に・・・はっ!?」

 

 一瞬で怪異を氷漬けにして、何やらおっかないことをブツブツと呟いていた雫であったが、僕が肩を叩くと、砕け散った氷を踏み砕くのを止めた。

 どうやら無意識にやっていたらしい。

 

「あと、毒気抑えて。結界もそうだけど、2人が大変なことになってる」

「「う~ん・・・」」

 

 雫が力を解放した瞬間、毒気も周囲にまき散らされていた。

 その余波を受け、池目君と判侍君は目を回してしまっている。

 

『まあ、記憶をいじるなら好都合だがな。それに・・・雫、その氷をよく調べてみろ』

「?ああ、わかった」

 

 僕が倒れてしまった2人に霊力を流して介抱していると、おじさんがそう言った。

 言われるままに雫が砕けた氷をひっくり返していると・・・

 

「む。これは・・・」

「写真だね」

 

 氷の塊の下の方に、一枚の写真がそのままの形で氷漬けになっていた。

 さっきの髪の長い不気味な女が写っている白黒の写真。

 奇跡的に、雫のストンピングから逃れたようだ。

 

『これは・・・でかした、雫』

「む?」

 

 その写真を見て、おじさんが雫を褒めた。

 

『お前の毒気を受けて、遠隔爆破の機能が壊れてる。術具としても完全に壊れちまってるが、原形が残っているなら解析できる。いいサンプルが手に入ったぜ』

「そうなのか?」

「遠隔爆破?これ、そんな機能まで付いてるの?っていうか、そんな物騒なものを誰が・・・」

『その辺の話は帰ってからしてやる。とりあえず、そこの2人の記憶をいじってから起こしてやれ。お前の霊力を浴びたんならもうすぐ目を覚ますだろ』

「ああ、そうだった」

 

 こうして、池目君からのSOSは解決したのだった。

 

 

------

 

 

 そこは、暗い、暗い部屋だった。

 一切の日の光が届かぬ闇の底。

 その部屋の中央には、重厚な封が施された棺が一つ転がっているだけだ。

 どんなことをしても開きそうにない、いくつもの錠前が取り付けられた鎖で雁字搦めにされた棺。

 その棺は、これから先も、永劫の未来の果てまでそのままであるかのように思われた。

 しかし・・・

 

 

--ピシっ!!

 

 

 無音だった闇の中に、ひび割れの音が響いた。

 

 

--ピシピシっ!!

 

 

 最初は小さく。

 次第に大きく。

 音源は、錠前と鎖だ。

 頑丈そうな錠前に次々とヒビが入り、錠前が一つ砕けるたびに鎖もボロボロと崩れていく。

 そして・・・

 

 

--ガシャンっ!!

 

 

 ひと際大きな音がすると、すべての錠前と鎖が完全に崩れ去った。

 封の解かれた棺は、ひとりでにその蓋が動き出す。

 蓋の隙間から現れたのは、血の気の一切感じられない青白い手だった。

 

「ふぅ~・・・よく寝たなぁ」

 

 蓋を開けて棺から起き上がったのは、1人の男だった。

 身に纏うものは薄汚れたピエロスーツ。

 同じく棺に入っていた髑髏がいくつも乗った悪趣味なシルクハットとステッキを身に着け、棺の外に出る。

 男はそのまま深呼吸をするように、大きく息を吸って・・・・

 

「よくもやってくれたなぁぁあああああああああああ!!!クソカスどもがぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 憤怒の形相に顔を歪め、叫んだ。

 

「もう少しだった!!あと少しで神の力が!!龍の力が手に入るところだった!!それなのにそれなのにそれなのにそれなのにぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!」

 

 長身の男が闇の中、大声で叫びながら血涙を流して地団太を踏む。

 その不釣り合いな様は、ひどく不気味だった。

 

「絶対に許さん!!あと少しでガブリエラを元に戻すための手段が手に入ったというのに!!彼らはその邪魔をした!!妨害した!!それすなわち!!ボクからガブリエラを奪ったということだ!!許しがたい!!許しがたいぞぉぉおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 叫ぶ。

 ひたすらに男は叫んだ。

 常人ならば疲れて倒れ込んでしまいそうだと言うのに、男の身体は疲れなど感じないかのように叫び続けた。

 一体いつまでそうするつもりなのか。

 もしかしたら、永遠にそうしているのかもしれなかった。

 

「あはっ、ヴェル君起きたんだっ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!・・・・おやぁ?」

 

 その叫びは、突如部屋に差し込んだ光と声に遮られた。

 

「おやおや!!これはこれは!!我が同志のマリじゃないか!!どうしたんだいこんなかび臭い所まで!!いや、それにしても見苦しい所を見せてしまったね!!」

「その叫び声がうるさかったから来たんだよっ!!もう少し静かに起きてよねっ!!」

 

 やってきたのは、安っぽい王子ルックに身を包んだ一人の少女だ。

 明らかな異常者と分かる男に対して、欠片も動じていない。

 

「ヴェル君が寝ている間に、色々と小細工はしておいたよ。結局マリが直接動くことになっちゃったけど、忘却界の中に怪異の種は撒いた。もういくつかは芽が出てるよ。それに、キミが連れてきた霧間八雲って子は、無事に『勇者』に適合したよ。意識の同調までしっかりできてる」

「おお!!そうかい!!色々と苦労を掛けたね!!それにしてもあの八雲クンは拾ってきて正解だったねぇ!!勇者に完全に適合する器なんてここ100年は出てこなかったからね。いやあ、嬉しいな!!かつて共に戦場に立った戦友がこの世に蘇るなんてさ!!まあ、今の彼ではボクのことは覚えちゃいないだろうけどねぇ!!」

「ヴェル君は近づかない方がいいと思うよ~?あの子、人外をバリバリに敵視してるし」

「そりゃあね!!彼は昔から人外が嫌いだったからさ!!まあ、人外を嫌うあまり、自分も人外になりたくないからって転生法に手を出した挙句、他人の身体を乗っ取る悪霊モドキになっちゃたら世話ないけどねぇ!!いやはや!!!これじゃあボクと勇者のどっちが人外かわかりゃしないよ!!」

 

 深い闇の底で、男と少女は気軽な雰囲気で会話する。

 その光景はいかにもちぐはぐで、ひどく気味の悪いモノだった。

 そうして、雑談を交わしながらも、男は一歩を踏み出した。

 それを見て、マリは意外そうな顔をする。

 

「あれ?もう大丈夫なの?病み上がりってヤツなんじゃないのっ?」

「ははははは!!!大丈夫さ!!なにせ・・・」

 

 男の体調を心配するかのようなマリに、男は朗らかに笑いながら答えた。

 その手は、男の首にかかっていて・・・

 

「ボクはもう、死んでるからね!!」

 

 グジュリという湿った音を立てて、男は己の首をちぎり取った。

 男の腕の中で、その首は何事もなかったかのように叫ぶ。

 マリの表情は、やはりそれを見ても変わらない。

 2人は並んで部屋の外に向かって歩き出した。

 

「そっか!!安心したよっ!!これで完全復活ってわけだねっ!!」

「ああその通りさ!!復活!!復活さ!!もう死んでいるボクだけど、だからこそ何度でも蘇る!!それこそがこのボク!!」

 

 部屋の出口に差しかかったところで、男は叫ぶ。

 

「ゼペット・ヴェルズさ!!」

 

 こうして、かつての学会七賢三位にして旅団の幹部。

 久路人を人外に進ませた立役者にして、京とメアの2人と戦った敵。

 死霊術師、ゼペット・ヴェルズは蘇った。

 

 




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術具①

異能の力が込められた道具のこと。
普通の道具を加工して作る場合や、元々霊力の籠ったモノが術具化するパターンもある。
霊能者でなければ使用できず、忘却界の中では封印状態になり、霊力を供給されない限り機能を停止する。
その状態でも術具の中には霊力が霧散するまで残り続けるため、霊力の電池のようなものでもある。

道具が妖怪になった『付喪神』は術具に近いが、術具そのものは瘴気を発しないため、似て非なるモノと言える。
だが、術具の中にも自我を持つモノがあり、自ら使い手を求めてさ迷うこともある。
そうした術具は『呪具』とも言われる。
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