白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話   作:二本角

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あけましておめでとうございます!!
そして遅くなり申し訳ございません!!

正月休みがあったけど、仕事してないとむしろ筆が進まない自分は精神がやられているのだろうか・・・



白流怪奇譚11

「お前ら、旅団についてはどこまで知ってる?」

 

 池目と判侍を白流市の実家まで送った後、京は月宮家の居間で口を開いた。

 あの術具や怪異のことで京が何かを知っていそうだと久路人たちは察したが、一連の後始末が終わって、やっと話し合いの場が作れたのである。

 

「えっと・・・人間の霊能者の組織で、霊能力を自分の好きなように使いたい人たちの集まりってくらい」

「妾も似たようなものだ。旅団には妖怪も関わっているとは聞いているがな」

 

 久路人も雫も、旅団について知っていることはそう多くない。

 一般人がヤクザについて組織の実態を良く知らないようなものだ。

 むしろ、色々と規則にうるさい久路人が暴走しないよう、京があえて情報を伏せていた節もある。

 

「おおまかな認識はそれでいい。要はゴロツキどもの集まりだな。まあ、昔は違ったらしい、今はさらに色々と変わってるんだがな」

 

 

『旅団』

 

 

 それは、学会と呼ばれる組織が誕生したすぐ後に生まれた組織だ。

 かつて人外の首魁であった魔竜を倒すために集った猛者たちであったが、魔竜との決着は付けられず、引き分けとなった。

 そして、厭戦的になっていた人間と人外の両陣営は停戦し、不可侵条約を結ぶこととなった。

 それは、人間と人外との消極的な和平の成立でもあったのだ。

 事実、魔竜を筆頭に、精霊王が学会の正式なメンバーとなり、さらにのちの時代の話になるとはいえ、悪魔王も学会七賢七位の相棒となる。

 だが、それに納得のいかない者たちも当然いた。

 学会の中でもとりわけ人外を憎んでいた勇者と呼ばれた男は、その筆頭だった。

 彼は人外との融和を目指し始めた学会を抜け、あくまでも人外と戦い続けることを選んだ。

 当時、魔竜がある程度掌握していたとはいえ、人外はまだまだ猛威を振るっていた時代。

 勇者が救った命も多く、そんな彼についていく者たちも現れた。

 それが、旅団の始まり。

 

 『融和では救えない人間を守るための剣であり盾であれ』。

 

 その志の元に、旅団は戦い続けた。

 勇者は旅団の団長となり、世界各地を廻ることになったが、学会の者と出くわすこともあった。

 しかし、学会と旅団は決して争わなかった。

 学会も旅団も、手段は真逆であれど現世の平和を守りたいという意思は同じモノだったからだ。

 勇者と相容れない思想ではあるが、彼にとって魔人が友人であるのには変わらなかった。

 二つの組織は現世と常世のように不干渉を保ちつつも、現世に侵攻を続ける人外を倒して回った。

 魔人と魔竜が忘却界を構築することに力を割けた大きな理由の一つに、旅団の活躍も含まれている。

 そうして、世界は平和へと向かっていった。

 

「ま、それも勇者が死ぬまでの、正確には、転生法に手を出す前の話だがな」

 

 京は淡々と続けた。

 

『転生法』

 

 それは文字通り、自らの肉体が朽ちた後、精神と魂を別の肉体に移す外法だ。

 月宮久雷が考案した転写転生もその一種であるが、そちらはは二百年に渡る妄執と研究の果てに生み出されただけあって、非常に完成度の高い術だった。

 久路人が雫の血を大量に取り込んでいたために失敗に終わったが、そうでなければ、月宮久雷は完全に自己を他者の肉体に移すことに成功していただろう。

 だが、勇者は術を専門に扱う魔術師ではなく、剣を振るう戦士。

 勇者が手を付けたその術は、ひどく不安定なものだった。

 

「『継承転生』。それが勇者の扱う転生法だ」

 

 自らの肉体が老いに侵されだした時、勇者は恐怖した。恐怖と共に、悔恨と焦燥、そして憎悪を抱いた。

 なぜなら、世界を勇者の理想の世界とするのには、到底及んでいなかったからだ。

 時が経つにつれ、その感情は膨れ上がり、徐々に勇者を歪めていった。

 

『足りない。まるで足りない!!世界をあるべき姿にするには、時が、なにより某の力が足りなすぎる!!』

『なぜだ!?なぜ世界は狂い続けている!?悲劇は終わらず、無辜の人間が人外に食い物にされるばかりではないか!!』

『ああ恨めしい!!某の無力が!!理不尽が!!人外どもが!!学会の軟弱者どもが!!』

『このままではいけない!!どうにかしなければならない!!なんとしてでも、某の意思を残さねばならない!!』

 そうして、勇者は編み出した。

 精神の強い共鳴を利用した、自らの一部を切り離す術を。

 

「術者の記憶に基づく感情と力を、それに共感するヤツに植え付ける。それが継承転生。正確に言えば、転生じゃないかもしれないがな。なにせ、受け継がれるのは記憶と感情の一部と霊力だけだ。普通の転生よりもずっとお粗末な代物だぜ。けどな・・・」

 

 勇者は自らの意思と力を、当時の旅団の1人に託し、この世を去った。

 それからだ。

 旅団が、人外を滅ぼすためならどんな悪事でも平気でこなす狂信者の群れになったのは。

 そして、その歪みは時代が進むにつれてますます大きなものになっていく。

 

「それを、何百人と繰り返せば話は違う。忘却界が結ばれるより前の時代なら、死人が出る機会なんぞ腐るほどあったろうよ。そんな中で、勇者の意思だけはなんとしてでも守り、受け継いだ。その結果・・・」

 

 旅団は、その志からかけ離れた、俗物の集まりに堕ちた。

 

「人外や、人外と仲よくしようって人間への憎しみが、代を重ねるごとに濃くなっていったんだ。段々と勇者の依り代になったヤツはただの戦闘マシーンになっちまう。そうなったら、まともな組織運営なんぞできるわけがねぇ。今度はその力を目当てに腹に一物抱えたやつらが集まっていくうちに、ゴロツキの集団になったってわけだ。今や旅団で最初から残ってるのは名前と勇者の怨念と力だけだな」

 

 創始者たる勇者はすり寄ってきた人間が言い含めて傀儡とし、その力を利用するだけとなった。

 勇者の力を後ろ盾に、集まった霊能者たちは己の力を好き勝手に振るうようになった。

 忘却界の中では人間の霊力は抑制されず、結界を壊さない程度ならば学会も発見するのが難しくなる。

 そうして、旅団はならず者の集団としてしばし暴れまわることになる。

 

「そうなると、旅団って勇者以外は警戒しなくていいってこと?」

「うむ。その話を聞くに、旅団は単なるチンピラの寄せ集めなのだろう?ならば大した連中でもなさそうだが・・・いや待て。今までの話だと、妖怪が関わる理由になっていないな」

「ああそうだ。まだ続きがあるんだよ。確かに、勇者以外ただの有象無象なら、お前たちが警戒するレベルじゃねぇ。だが、百年くらい前、ちょうど勇者が活動を止めた辺りで動きがあった」

 

 勇者の継承転生は、代を重ねるごとに暴走を始めた。

 転生を果たしても、肉体がその力や怨念について行けず、壊れてしまうことが増えたのだ。

 そして次代の勇者の器が見つからなくなり、間に合わせの器で活動を最低限にすることで、勇者はその意思を残した。

 だが、それで困ったのは勇者の力にすり寄っていた人間だ。

 勇者がいなければ、有象無象の自分たちなど簡単に滅ぼされてしまう。

 そんな彼らに、声をかける存在がいた。

 

 

『やあやあ!!何やらお困りのようだね?ボクでよければ話を聞こうじゃないか!!』

 

 

「『狂冥』ゼペット・ヴェルズ。七賢を追放されたアイツが、旅団を掌握した。んで、さらに強力な人外とも接触を始めたんだ」

 

 当時、とある理由から七賢どうしでの殺し合いにまでもつれ込んだ上で、ゼペット・ヴェルズは学会を追放された。

 そんな彼は、学会に対抗するための組織を求め、旅団に目を付けた。

 ヴェルズの扱う術の都合上、霊能者の組織というのは大変良質な素材の宝庫だ。

 その強さと狂気を帯びたカリスマもあって、ヴェルズは旅団のトップに収まったのだ。

 そして、彼はさらなる力を求め、現世への侵攻を企む妖怪たちに接触した。

 

「それで、旅団に妖怪が絡みだしたってわけだ。ヴェルズの野郎はかなり手広く声をかけたみてぇだが、その中には、七賢よりも強いヤツがいる」

「七賢より?それって、おじさんとメアさんよりもってこと?」

 

 久路人の声には、少なからず驚きが滲んでいた。

 人外の身となり、その身に秘める霊力を十全に振るえるようになった久路人だが、それでも目の前にいる2人の片方にでも勝てるイメージがわかないのだ。

 術具師の極みにいる京には久路人も知らない隠し玉がいくつもあるだろうし、メアの白兵戦の強さについては、師事を受けていた久路人にとっては身に染みている。

 そんな彼らよりも強い敵がいるというのは、にわかに信じがたいことだった。

 

「はい。搦め手がメインの狂冥はともかく、『戦鬼』と『黒狼』、そして適合する器に宿った『勇者』は、我々よりも直接的な戦闘能力は上でしょう」

「今の旅団には、最低でも5人の幹部がいる。ヴェルズの野郎含めて、どいつもこいつもヤバい連中だがな。三郎たちの話を聞くに、常世で暴れてるのは戦鬼だろうよ。ここに繋がる霊脈を荒らしてるのが意図的かどうかは知らねぇけどな」

「『黒狼』、『従牙』、『戦鬼』、『狂冥』、『勇者』。特に、黒狼の強さは圧倒的です」

 

 『勇者』を旗印にしていた旅団を乗っ取った『狂冥』。

 そんな彼が引き入れた『戦鬼』。

 そして、その動きを見て、仕える主の欲を満たすために近づいた『従牙』と、その主である『黒狼』。

 今では、その他の追随を許さない強さから『黒狼』が旅団のトップとして扱われている。

 一度は現世と常世を隔てる狭間に、たった1人で大穴を空けかけたことすらあるという。

 

「ま、黒狼はあんまり旅団に所属してるって自覚がなさそうだけどな。旅団として活動したことはほとんどない。大抵はふらっと1人だけで現れては、好き放題暴れて帰るってはた迷惑なヤツだ」

「活動領域が常世なのは幸いですね。あんなのが現世で暴れれば、忘却界を食い破りかねません。防衛戦を得意とする7位とその相棒である魔王の2人が、ホームグラウンドで戦ってギリギリ負けないようにできているといった具合です。しかも、それでもまだ本気を出しているとは限らないですし」

「まあともかく、今の旅団は学会とタメを張れるくらいのヤバい組織ってわけだ。しかも、今言ったのは現状分かってるだけの情報だ・・・ここからがお前らが知りたがってたことなんだが、恐らく、忘却界の中に人間の幹部がいる。術具を作ってばら撒いたのはソイツだな。映研の部長のコレクションの中にも似たような術具がいくつかあった」

 

 ここで、話は撃退した怪異の話に変わる。

 あの怪異は、術具に籠った霊力が変質して生まれたモノだ。

 怪異が人間の集合意識によって忘却界の中で生まれるのはごくまれにあることだが、今回現れた怪異は明らかに意図的に生み出されたモノ。

 そして、その犯人は術具の制作者である可能性が高い。

 術具に籠った霊力を最もうまく扱えるのは製作者に他ならないからだ。

 そして、いくつもの術具を制作した上で怪異をばら撒くような芸当ができるのならば、それは相応の実力があることを意味する。

 

「ここしばらくは大した動きはなかったが、今回の怪異を見るに、何か企んで動き出したってとこだろう。恐らくやろうとしてるのは・・・忘却界の破壊だ。怪異はそのルール次第で普通の人間でも認識できる。だから怪異をばら撒けば、異能の力の存在を信じ込ませることができるってとこだろ」

「忘却界の破壊!?そんなことしたら・・・」

「かつて、学会が魔竜と和解する前の時代に逆戻りですね。間違いなく、現世は大混乱に陥ります。国の10や20滅んでも不思議ではないでしょうね」

「なぜそんなことを企む?旅団には人間もいるのだろう?」

「さてな。旅団は強いヤツは揃ってるが、連携ができてる組織じゃねぇ。少なくとも黒狼は、『強いヤツと戦えればそれでいい』って考えだからな。世界が昔みたいに戻れば、また強いヤツらどうしの戦争が起きるって思ってんだろ」

「そんなめちゃくちゃな・・・」

 

 旅団は、人間、妖怪が多数所属しているとされるが、その意思は統一されていない。

 しかし、大多数にとって忘却界が邪魔というのは一致しているのだろう。

 

「もしや、あのモブどもや比呂実たちをこちらに引き入れたのは・・・」

「ああ。いざって時の人手の確保だ。向こうが何かやらかす時に利用されないとも言い切れないからな。戦えなくても、他の人間より霊力が多ければ使い道はある。こっちにも、旅団にとってもな」

 

 物部姉妹について、京は最初は護符だけ持たせて放置するつもりだったが、術具が見つかってからは方針を変え、育てることに決めた。

 旅団が動き出した時、人手は多くても多すぎるということはない。

 

「ともかくだ!!今回のことで確信がいった。間違いなく、近々旅団の連中が派手に動き始める」

 

 そこで、京は手をパンパンと叩くと、話を一度仕切りなおした。

 

「そういうわけでだ。白流の結界も最近になって落ち着かせることはできてきたからな・・・久路人、お前しばらく休学しろ」

「へ?」

 

 突然の命令に、久路人は唖然とした。

 そんな反応を無視するように、今度はメアが続ける。

 

「貴方たちも、ここしばらくのパトロールでご自分の力には慣れたでしょう?ですが、まだまだ使いこなせているとは言えません。旅団全体がそうかはわかりませんが、少なくとも狂冥の狙いは貴方たちです。旅団の力を使って、襲い掛かって来る可能性は十分考えられます」

「お前らは強いが、それでもまだ七賢に匹敵するってレベルだからな。七賢と同等以上にならねぇと、旅団の幹部には勝てねぇ・・・つまりだ」

 

 京とメアは、同時に口を開いた。

 

「「これからは、修行パートの始まりってわけだ(です)」」

「「は?」」

 

 そんな2人に、久路人と雫は2人そろって呆けたような反応を返すのだった。

 

 

-----

 

「あ~あ。最近壊されてばっかだな・・・せっかくマリが手作りしたのにさっ」

 

 その部屋の中で、マリは不貞腐れたような顔をしながら片手でスマホをいじっていた。

 年頃の少女が不満気な顔をしながらスマホをいじっている・・・それは、今の世代ならば大して珍しくもないありふれた光景だ。

 ただ、その少女の場合、それはあまりに異様だった。

 

『あるところにね、人間の身体を刃物で切るのが大好きなお医者さんがいたの。そのお医者さんがいた病院でね・・・・』

『その山には、昔から大人たちが近づいちゃいけないっていう廃屋があって・・・』

『それで、騙されちゃったその人は、自分の家族を・・・』

『その女は、今でもずっと、その場所で待っているんだってさ』

 

 部屋の壁を隙間なく埋めるようなディスプレイ。

 スマホ、ノートパソコン、タブレット・・・動画を再生するための機械が所せましと並び、映像と音をまき散らしている。

 そこに映るのは、すべてがマリだ。

 画面の中のマリは全員が全員、鈴の転がるような声を出して、陰惨極まる怪談話を紡いでいた。

 再生されている動画は皆違う日付に収録、投稿されたもので、当然話す内容も異なる。

 動画を垂れ流す機械で埋め尽くされた部屋は、まるで百物語を並列的に実演しているかのようだ。

 同じ顔の少女が変わらない口調でいくつもの怪談を重ねていくのは、それそのものが一つの怪談と言っていいかもしれないほどに不気味だ。

 しかし、部屋の中ではそれよりも遥かに人知を超えた事象が生じていた。

 

『・・・タイ!!ハヤク、はやクシュジュツを!!そのカンジャはバラバラにしないとナオせない!!』

『オ、オオオ・・・マネカレザルおろかモノに、バツ、を・・・』

『ユ、ユルサ、ゆるサナイ、アノペテンが・・・』

『ドウシテ、なンデ、ワタシをウラギッタノ・・・』

 

 錆びついたメスが、古びた小さな仏像が、赤黒いシミがついたロープが、くすんで元の色が分からなくなった指輪が。

 見ているだけで背筋が粟立つような禍々しい道具が、次々と宙に浮かんでいく。

 それらの道具はまるで糸で吊られているかのように部屋を飛び回り、一つの画面の前で止まったかと思えば、おどろおどろしい影を纏う。

 影はすぐさま形を持ち、様々なモノに変わっていく。

 紅く染まった白衣を着た医者がメスを手に持って嗤い、老人の顔を持った子供がニタリと笑いながら仏像を握りしめ、ガリガリに瘦せこけギラギラと目だけ輝かせた中年がロープを自分の首にかけて引き絞り、全身がブヨブヨと水ぶくれになった女が、くすんだ指輪を薬指ごと引き抜いた。

 そんな地獄のような光景が、少女がスマホを持っていない方の手の指を動かすだけであふれかえっていく。

 

「いくらマリなら簡単に作れるって言っても、すぐ壊れちゃうとモチベ下がるんだよねっ」

 

 並の精神の人間ならばとうに発狂しているであろう部屋の中であっても、マリが動じる様子はない。

 それもある意味で当然か。

 なにせ、彼女こそがその光景を生み出している張本人なのだから。

 そう。そこは、たった1人の少女による、一つの工場であった。

 おぞましい逸話を刻まれ、加工された『呪い』の工場。

 製品は一つ一つに負の念を宿し、それを手に取った者に血まみれのサービスを提供する。

 

「もうっ!!本当にいっつもそう!!みんなみ~んな、マリを傷つけるんだっ!!マリはこんなにかわいくて可哀そうで優しいいい子なのに、いつだってマリが悪者扱いっ!!弱い者いじめだよっ、こんなの!!あ~っ!!!!本当にムカツクっ!!」

 

 しかし、段々とマリの機嫌が悪くなってきた。

 最近になって、自分の手がけた作品が立て続けに壊されたのが気に食わないのだろう。

 癇癪を起した子供のように、ブツブツと不満を零していたマリであったが・・・

 

「・・・ムカツク」

 

 ボソリと、それまでの取り繕ったかのような朗らかなトーンが剥がれ、今まさに量産されてる呪いのようなどす黒い声が漏れた。

 

「ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクっ!!!」

 

 

--グシャッ!!

 

 

 不意に、宙をういていた道具の一つが、握りつぶされたかのようにバラバラに吹き飛んだ。

 

「マリとは比べ物にならないようなド低能どもがっ!!マリがその気なら一瞬で死ぬようなカスどもがっ!!学会なんて正義マン気取ってるクソみたいな連中がいなきゃ、コソコソする意味なんてなくなるのにさぁっ!!・・・・クソがッ!!スマホが壊れたじゃねーかっ!!」

 

 持っていたスマホが壁に投げつけられ、画面に大きなひび割れが入る。

 自分で投げつけたのにも関わらず、マリはその結果に益々腹を立てていた。

 落ちたスマホを踏みつけ、粉々にするまで踏み砕いた。

 

「クソがっ!!クソがっ!!クソどもがっ!!マリは悪くないっ!!マリのすることはいつだって正しいんだっ!!霊力のないド低能の猿は、マリの言うことにハイハイ言っておけばいいんだよっ!!だからっ!!マリのやることは正当な権利だっ!!こんな可哀そうなマリが報われないだなんて、間違ってるだろーがっ!!」

 

 霊力の込められた足蹴は、普通の人間が全力でハンマーを振るうよりも凶悪だ。

 スマホはもはや原形をとどめておらず、これ以上壊せないと判断したマリが周りの機械にまでその癇癪を向けようとした時だった。

 

「やあやあ!!なにやらご機嫌斜めだねぇ!!マリ!!」

「あ、ヴェル君じゃんっ」

 

 部屋の中に、いつの間にか1人の男が立っていた。

 部屋の扉が開いた気配はない。

 しかし、その男はそこにいた。

 それを、声をかけられたマリは気にすることはない。

 それどころか、先ほどまで苛立ちで歪み切っていた顔をしていたのが、すっかり元に戻っていた。

 まるで、憤怒で醜く変貌した自分を見られるのを厭ったように。

 そんなブサイクな自分など、自分ではないと否定するように。

 

「聞いてよ~っ!!み~んなが中々信じてくれないから、せっかくマリが『本物』を作ってあげてるのに、すぐに壊されちゃうんだよっ!!」

「おやおや!!それはひどい話だね!!こんなに素晴らしい『想い』の籠った品を蔑ろにするなんて!!芸術ってモノを分かっていない輩がいるものだ!!」

「そうそうっ!!そうなんだよ~っ!!もぅ~っ!!わかってくれるのはヴェル君くらいだよっ!!はっきり言ってヴェル君っていっつも空っぽで上っ面で薄っぺらいことしか言わないけど、マリのおもちゃを褒めてくれる時は本心だもんねっ!!」

「はははははっ!!その通りさっ!!キミの作る作品はどれも素晴らしい!!ボクの愛する子供たちによく似ているからね!!褒めるのも当然さ!!」

「うんうんっ!!そうやって自分に都合のいいことしか聞かないのが本当にヴェル君だよねっ!!一周回って清々しい感じがして好きだよっ!!可愛くて可哀そうなマリに嘘しかつかないクズどもよりぜんっぜんマシっ!!」

 

 不気味な部屋の中で、不気味な少女と男が、マリとヴェルズが笑い合う。

 一見会話が通じているように見えるが、本質的にはお互いがお互いの言いたいことを独り言のように口に出しているだけだ。

 少女も男も、他者からの返事など必要ないし、期待していない。

 圧倒的なほど強烈な『個』で、完成されているのだ。

 世界には己と己の願いを叶えるモノだけがあればよく、それ以外はガラクタに過ぎない。

 ガラクタの言うことなど、耳障りの良いこと以外をわざわざ聞いてやる価値などない。

 だからこそ、通じていない会話が通じているかのように役目を果たせるのだ。

 だが、そこから先は少々違った。

 

「でもさっ!!本当に放っておいていいの?作ってばら撒いたマリが言うのもなんだけど・・・忘却界の中に旅団がいるってバレちゃわないっ?マリも今は『ココ』にいるけど、勇者は忘却界の中だから監視しないといけないしっ。っていうか、いつまでもこんなジメっとした場所にいたくないしっ!!」

「ん?・・・ああ、そのことか!!」

 

 そこで、2人はやっとお互いの目を見て口を開いた。

 マリが口にしたことは、お互いの野望を叶える上で必要なプロセスへの影響を懸念するもの。

 すなわち、お互いの中にある世界にとって関わりのあることだったからだ。

 霊能者として最高峰に位置する者に含まれる2人だが、自分たちだけで目的を達成できるとまでは考えていない。

 絶大な力を持った強者であるが、目的を果たすために、冷静に、慎重に動くこともできるし、異常者と分かっている相手と協力もできる。

 狂ってこそいるが、それは知性がないということとイコールではないのだ。

 

「別に構わないさ!!忘却界の中にキミがいることは察せられているだろうけど、止めることは難しい。なにせ、ボクらは気にしないけど、向こうは結界を壊さないように立ち振る舞わなければいけないからね!!捜索のために、あまり多くの人手を割くことも、結界の維持のためにはやらない方がいいっていうのもある!!なにより、今の学会の七賢は全員が人外だからねぇ!!七賢以外の人間を送り込んだところで、キミを倒すことなんてできないさ!!」

「そっか!!そうだよねっ!!マリはか弱い女の子だけど、『ファン』のみんながいるもんっ!!ふふっ!!さっきもカッコイイイケメンを2人も見つけちゃったし、あのお兄さんたちもファンになってもーらおっ!!い~~~~っぱい役に立ってくれそうっ!!」

 

 マリは、つい先ほどリンクを繋げた術具で見た一幕を思い返す。

 あの術具の持ち主は顔もさることながら、それ以外でも大いに使い道がありそうだ。

 今は難しいだろうが、忘却界の中に戻ってくれば簡単に手に入る。

 

「フフフ!!欲しい物が手に入るのはいいことさ!!今の現世にはキミのお友達がたくさんいるようだし、キミの撒いた種があれば、もっと質のいいお友達が増えるだろう!!いや、実に喜ばしい!!・・・ああ、お友達で思い出した!!マリ、済まないが、少し頼まれごとをしてくれないかい?」

「頼み?ヴェル君がっ?・・・それって、『エリコの壁』に必要なこと?」

「もちろんさ!!本当ならボクが動いた方がいいことなんだが・・・生憎とスタートダッシュが遅れたせいで色々と準備が必要なことが多くてね。そちらに時間を割きたいのさ!!君のお友達と違ってボクの『子供』たちの中には大きすぎる子がいてねぇ!!京は少し前まで日本全国をくまなく周っていたようだけど、『この場所』なら、結界を広げてじっくりと調整をしてもまずバレないからね!!あの2人が力を完全にモノにする前に仕掛けたいところだから、今から行動を起こすのは遅いくらいなんだけどさ!!まあ、あの2人が育つスピードが想定よりも速すぎたから仕方ないね!!」

「あははっ!!確かにココなら、早々見つからないし、知らなきゃ来るのも難しいもんねっ!!それに周りにな~んにもないしっ!!・・・うん、わかったよっ!!『計画』に必要なことなら仕方ないねっ!!」

 

 唐突なヴェルズからの頼みであったが、その理由はマリにとっても納得のいくものだったらしい。

 

「ありがとう!!キミなら受けてくれると信じていたよっ!!これがうまくいけば、『エリコの壁』を一気に最終段階まで進めることができる!!キミの撒いた怪異で第一段階の仕込みは終わっていて、『蟷螂童子』も常世でうまく暴れていてくれてるみたいだし、第二段階に進む準備も整っている!!勇者はまだ慣らしがいるし、黒狼と従牙をうまく動かせるかは分からないが、最終段階まで行けば自分たちから来てくれるだろう・・・そして、そこまで行けばあの2人が大人しく結界に引きこもっているはずがない!!特に久路人クンは正義感が強そうだしねぇ!!」

「それでっ?やって欲しいことってなんなのさっ?」

「ああ!!そうそう!!いけないいけない!!大事なことを言ってなかったね!!そう、これはボクの不始末ではあるが大事な仕事さ!!2人揃った上に、ナイトメアに斬られたせいで縛りが解けた今の『彼女たち』は、正直ボクやキミより強いかもしれないが、なに!!『鍵』は貸すから大丈夫さ!!『操ることにかけては』右に出る者のないキミなら使いこなせるだろう!!」

 

 計画が着々と進んでいることにヴェルズは高揚したように叫ぶ。

 本来、彼の望みを叶えるのは計画が成就しても賭けだった。

 だが、彼は別の希望を見つけていた。

 その希望は、旅団の協力者の望みを叶えて協力を得ることができれば手に入れられるだろう。

 そこに考えが至っただけで小躍りしそうなヴェルズであったが、そんな彼を止めるように、会話が通じている内にマリは先を促した。

 その甲斐あって旅団幹部、『狂冥』ヴェルズは我を忘れる前に、『同僚』たる少女に頼み事を告げる。

 

「かつて世界を憎んで愛しい男のために狂った狐、『九尾』とその夫を、手駒に戻して欲しいんだ!!頼んだよ、『傀儡』!!」

 

 




そういうわけで、これにて4章は終わりです!!
次の5章からはバトルがメインになるかと思われます。

モチベ維持のために、評価・感想よろしくです!!




霊脈

現世・常世に漂う霊力の流れのこと。
基本的には地中を流れており、現世では滅多に地表には出てこない。
霊脈が表出する場所は『霊地』と呼ばれ、常世に近い環境になり忘却界が展開できない。
穴の空いた場所を通過すること、もしくは直接常世から穴を介して流れ込んでいる場合もあり、霊脈の霊力には瘴気も含まれている。
学会も旅団も発見こそしていないが、地下にも穴は存在し、その穴から常世の瘴気が霊脈となって流れ込んでいる土地もあるため、常世の霊脈に異常が生じると現世の霊脈にも異常が発生することもある。
霊地に住む霊能者は忘却界とは別の結界を張ることで瘴気を浄化している。
忘却界は地下に流れる霊脈にも有効であり、忘却界を通ることで霊脈は浄化され、
浄化された清浄な霊脈が表出することで、霊峰富士は天然の結界を構築する。

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