そして、遅ればせながら、この小説に投票して下った、慧月 東様、ハバラ様、もんぞう様、ヤフー様(五十音順)に重ねて感謝申し上げます。
調べてみたら投票者が5人を超えると評価バーに色が付くらしいです。
あと一人、このお話をいいなと思ってくださったら投票お願いします。
さらに、引き続き感想を大募集中です!!
久路人の夏休みが終わってすぐのことであった。
まだ力が回復していない雫は普通の蛇と変わらないため、学校には着いていかずに家で待機するのが目下のところだ。
雫はいつものように専用の部屋でテレビを見ていた。
夕方のこの時間はイブニングドラマを放送しており、雫もそれなりに楽しみにしている。
しかし、今日の雫の気分はあまり優れなかった。
(・・・・つまらん)
夏休みの間、微妙な顔をする久路人とともに多くのドラマを見ていた雫にとって、今見ているドラマの展開は簡単に予想ができてしまった。そして、予想通りの流れで話が進んでいく。
(・・・・つまらんな)
久路人が夏休みの時はこの時間も退屈ではなかった。
例えば刑事ものを見ているときは・・・
「・・・・なんでこの警察の人たち、あんな見えるように後を付けて気づかれないの?」
「そんなものどうでもいいだろう? 大人の事情だ、大人の事情」
「ふーん。じゃあ、なんで犯人はいつも崖とかビルの屋上とか高いところに追われてるの」
「様式美だ」
「・・・・・わかんない」
このようにチープな展開があってもそれを話のネタにできた。
またある時に時代劇を見ていた時は・・・
「久路人、言っておくが、昔の侍とかいう連中はあんなに礼儀正しいやつらではないぞ。娯楽と称して坊さんに矢を射かけたり、生首を家の前に飾っておったわ」
「えっ?そうなの? 僕は歴史はまだ習ってないけど、そんなふうだったんだ」
「そうそう。一つ賢くなったな」
このように、長い時を生きた威厳溢れるところを印象付けることもできた。
・・・・ちなみに、この時見ていたドラマの時代は江戸時代であり、雫が見た武士がいた時代は鎌倉時代である。
このように、傍で一緒に見ていた久路人が反応を返してくれるのが面白かったのだ。
いつの間にか、ドラマを見るよりもドラマを見る久路人と話す方が楽しいと思うくらいに。
(他にも・・・・)
他にも、久路人が夏休みの時は面白いことがたくさんあった。
京に護符を作ってもらった後にまた雑木林に虫取りに行き、久路人と木登り競争をした(勿論雫が勝った)。
近所の川に泳ぎに行って競泳して、雫が全勝した。
算数の宿題に悩む久路人の横で久路人よりも早く答えに気づいたが、文字盤を叩いている最中に先を越された。
妖怪から逃げるための体力づくりで家の周りを走って汗だくになった久路人に水をかけたらそのまま倒れてしまい焦ったこともあった。
雨の日にはオセロをやって久路人に勝ち越されたときは悔しかった。
音楽の授業の宿題でリコーダーを吹いていた時には体をくねらせて踊り、終わった後にお互いを称えあった。
夏祭りの日には他の人間にバレないように鞄から頭だけ出して一緒に見回り、フランクフルトを分けて食べた。
他にも他にも他にも、楽しかった思い出はいくらでもある。
雫にとって久路人は非常に興味深い存在であるが、そんな相手が自分に好意的に接してくれるというのはとても嬉しいことだった。
あの妖怪を退治した日の前とは、同じ遊び相手であってもその重みがまるで違ってきたのだ。
今の雫には、久路人は興味深いだけでなく、大事な大事な遊び相手、いわば・・・
(友達、というやつか。うむ、よいものだ)
契約を結ぶ際に、久路人が出した要求だ。
結局、それは契約に盛り込まれなかったが、その願いは叶えられたと言っていいだろう。
小さい子供にとっての友達というのは敷居が低いものであるが、仮に雫が普通の人間であったのであれば、周囲からも「仲のいい親友」と思われてただろう。
だが、だからこそ。
(久路人のいない今が退屈でしょうがない。それに・・・)
この感情はきっと、あのまま力を失わず、久路人に出会わなかったのならば経験することのなかったであろう感情。
(寂しい)
ほんのわずかな間であろうと、久路人が近くにいないのを嫌だと思う。
数百年を孤独に生き、その果てに力を失って周りが敵だらけだった。
今いる家も、この部屋以外はあっという間に雫の命を奪うであろう極悪な罠が満載であり、その中にいる術具師もその護衛も契約と利用価値によって表立って敵対はしないが、警戒は緩めないある種殺伐とした関係だ。
そんな雫の世界の中で得た唯一の友人。ただ一人、契約なんてなくても雫を傷つけず、ともに笑い、ともに過ごせる人間。彼がいるからこそ自分は今も安全に生きていける。
(そうか、図らずも妾は久路人に守られているのだな)
契約では、自分が久路人を守るはずであった。
だが、力が戻っていないから仕方がないとはいえ、かつての大妖怪であった自分が年端も行かない子供に守られている。
昔の自分であったらひどくプライドを傷つけられ、久路人を殺していたかもしれない。
事実、この家に来たばかりのころは自分を情けなく思ったこともあった。
しかし・・・
(悪くない。うむ、悪くないぞ)
久路人にそんなつもりは微塵もないだろうが、それは前に戯れに見たアニメにあるような、男の子の主人公と彼に守られるヒロインのようで・・・
(いや、それはないそれはない)
頭に不意によぎった馬鹿げた妄想を頭を振って追い出す。
いくらなんでも飛躍しすぎであろう。雫から見ても、久路人はまだまだお子様である。
仮にそういう仲になるにしてもあと10年は・・・・
(・・・・・!!!!)
ゴンゴンと寝そべっているちゃぶ台に頭を打ち付ける。
(・・・ドラマを見るのはもうやめにするか。いらん妄想に囚われすぎだ。妖怪と人間が・・・)
自分の思考がおバカな方向に染められつつあるのを自覚して、改めて自戒しようと考えていた時だった。
「ただいまー」
(ぬぉう!?)
自分が頭の中で考えていた少年が帰ってきて、思わずとばかりに跳びあがった。
「あれ、どうしたの雫。そんなに慌てて」
「な、なんでもないぞ、なんでもないとも。そうだ、ちょうど聞きたいことがあってな」
「ん? 何?」
この時の雫は妖怪となってから五指に入るくらいには慌てていた。
自分と人間の少年が・・・・などと考え、そのお相手が急に帰ってくれば無理もないことではあるが。
だからこそ、かつての大妖怪としてのプライドが剥がれ、心の奥にあった不安を表に出す。
「なあ、妾に何かあったら、守ってくれるか?」
・・・・・・・
(な、なにを聞いとるんだ妾は~~~~!!!)
本来は自分が契約で守るべき相手。しかも人外を恐れず妙な力はあるとはいえ人間の子供。
さっきは守ってもらえているのを嬉しいとは思ったが、直接聞くつもりなどなかったのに。
「す、少し待・・・」
「守るよ。当たり前じゃん」
雫が大慌てで文字盤を叩こうとすると、それを遮るように少年は言った。
(な、何?)
「雫がどう思ってるかは分らないけど、僕は君と友達になりたいと思ってる。というか、それより前にこの家に住んでる家族だもん。僕に何ができるかわかんないけど、それでも守る」
(久路人・・・・)
「そ、それは契約なんてものがなくてもか・・・?」
自分の予想とは違えど、どこか心で期待していた答えが返ってきて、思わず続ける。
「あれ?雫が将来僕を守ってくれるっていう約束はしたけど、僕が雫を守らなきゃいけない約束なんてそもそもしてないよね?」
久路人は不思議そうに答えた。
久路人にとって、約束がなくとも雫を守るというのが当然のようだった。
「でも、雫が不安なら約束するよ。僕だって、君に何かあったら必ず助けるし、守るって」
(・・・・・!!)
少年の顔にはいつものように屈託のない笑顔が浮かんでいた。
「そう、そうか。そうかそうか。ならば妾も約束しよう。これは契約ではなく約束だ」
自分が蛇の姿でよかったと雫は思う。
もしも人間の姿だったら、顔がどのような表情をしているのか想像もできなかった。
「妾は、仮に契約がなくなっても、我が友を守る。だから、妾と同じように、お前も妾を守るのだぞ。よいな!!」
「・・・うん!!」
少年は嬉しそうに頷いた。
いつの間にか、雫の中にあった退屈と寂しさは粉々に消し飛んでいた。
代わりにその心を満たすのは、温かい何か。
その感情が何なのか、そのときの雫にはわからなかった。
だが・・・・
(早く、早く力を取り戻して・・・・)
--人間になりたい。
そう、強く思うのだった。
久路人が小学校2年生の夏休みが終わってすぐのことだった。
これより一年後、雫は力を蓄えて蛇の姿のままではあるが、一般人からは見えなくなった。
また、小さな穴から出てきた妖怪には危なげなく勝てるようになったため、久路人について学校にいくようになった。
久路人はメアの指導の下生き残るためのトレーニングを続け、京からは内に眠る力の修行を付けられるようになる。
京の涙ぐましい努力によって封印の護符も耐久性が上がり、滅多なことでは壊れなくなった。
ただし、久路人の力が成長するのに合わせて封印の能力がやや追いつかなくなって、時折小さな穴が空くことはあったが。
そうして月日は流れ、月宮久路人と雫が出会ってから5年が経ち、久路人は中学生になっていた。
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ねぇねぇ、こんな噂知ってる?
何々?
1-Aの月宮ってやつ、視えるらしいって。
視えるって、何が?
あ~もう、鈍いわね!! 幽霊よユーレイ!! あいつ、霊感持ってるらしいって。
え~嘘だ~。
それが本当なんだって。あいつと同じ小学校の友達に聞いたんだけど、あいつの周りで変な事件が何回も起きたことがあるんだって。
変な事件って例えば?
え? あ~、例えば、誰かの筆箱がなくなったことがあったんだって。それで、教室中を探しても見つからないの。他の友達にも探してもらったらしいんだけど、見つからなかったんだって。
うんうん。それで?
でね、そこに月宮が来て、筆箱の場所を教えたらしいのよ。それで本当にあったんだって。
へぇ~。でもそれって月宮が隠したんじゃないの?
ううん、月宮の教えた場所がね、開かずの部屋って呼ばれてる理科準備室の中だったの。窓もドアも閉まってるし、カギは理科の先生が持ってるんだけど、月宮がカギを借りに来たことなんてなかったって。
うーん。それでも月宮が怪しいような・・・
まあ、気持ちはわかるわ。でも、これだけじゃなくてもっと不思議な話もあるの。そういう筆箱の話とかで月宮を怪しいって思ったやつが、逆に筆箱を隠してやったことがあったんだって。
うわ~ありがち。んで、どうなったの?
そしたらね、隠した子の筆箱が次の日に粉々になってたんだって。
え?粉々? どういう意味?
文字通りの意味。ハサミとかでバラバラに切ったとかじゃなくって、かき氷みたいな感じで机の上に置いてあったんだって。どう見ても人間にできるやり方じゃないって。
人間じゃないって・・・
でも、ちょっと興味あるよね。私最近占いとかハマってるんだ。そういう不思議系な話好きだし。
確かに。本当に霊能力者だったら話してみたいかも。あいつ、根暗っぽいけど顔とか頭悪い方じゃないし。
だよねだよね。じゃあ、今度あいつの周り調べてみない?もっと面白い話見つかるかも。
さんせー。
とある中学生たちの噂話より。
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(忌々しい・・・・)
雫は不愉快な気持ちを隠さず舌打ちする。
今日も人間の雌餓鬼どもが久路人の周りをウロチョロと嗅ぎまわっていた。
久路人も気づいているのか、最近癖になったように眉間にしわを寄せてため息をつき、持っていた本に再度目を落とす。
(物の価値もろくにわからん愚か者どもが!!!)
最近こんなことばかりが続き不快感が募っていた雫は、氷柱をぶつけてやろうと霊力をわずかに上げ・・・
「やめろ、雫」
久路人が小声で制止した。
ピタリと雫は動きを止める。そして、久路人の持つ携帯の画面をタップする。
ちなみに、今の雫はヘビの幼体程度の大きさのまま久路人の首に巻き付いている。
「なぜ止める」
「お前がまた妙なことをしでかしたら益々噂が増えるだけだよ。放っておけばいいさ」
(ぬぅ・・・)
雫は忸怩たる想いで再び久路人に巻き付く。
それを尻目に、久路人は読書を再開した。
こうして、その日も事務的な連絡以外では一切喋らず、久路人と雫は家路についた。
これが今の、白蛇と少年の日常だった。
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いつの頃からか、久路人が笑わなくなった。
それは久路人がそこいらの低級妖怪に隠された筆箱の場所を教えたやった後だったかもしれないし、そんな久路人にちょっかいをかけたガキに雫が軽い仕返しをした後だったかもしれない。あるいはもっと前からだったのかもしれない。
(まあ、予想できていた未来ではあるが)
雫は久路人のことを想いながらも、内心ため息をつく。
小学校のころは久路人の力もまだ成長途上で護符で抑え込めたし、京は久路人に対して異能の力がかかわることや人ならざるモノに人前で関わらないことを徹底させていた。
久路人は幼いころから聞き分けもよく、ルールを守ることを大事なことだと認識していたために京の言うボロを出さずに過ごせてはいたのだが、それでも完ぺきではなかった。
久路人が来る前よりこの土地は穴が空きやすい霊地であり、どうしても妖怪との関りを避けられない時もあったのだ。久路人もそうだが、子供というのは大人に比べて本能が鋭いものだ。そういったわずかな綻びから久路人の異質さを感じ取り、段々と久路人は孤立していった。
孤立すれば、笑顔になって話す相手もいなくなり、そこから笑顔も減っていった。
久路人はある側面ではイカれているが、人の心がないわけではなく、むしろ平和的で優しい部類だ。
だからこそ、自分が遠巻きにされていることに傷つかないわけではなかった。
そして少しずつ少しずつ、月宮久路人という少年は冷めていった。
不幸中の幸いは、久路人は異質ではあるが、人間のルールや常識というものをよく理解していたことだろう。だからこそ、自分が孤立する理由も理解して分をわきまえていたし、久路人に対してイジメのようなところまでいかなかった。
まあ、イジメなど起きていようものなら久路人に止められても雫によって溺死体がいくらか増えていただろうが。
ともかく、久路人は周囲から孤立していたが、そのことを受け止め、波風立てないように振る舞うことに徹してきた。周りもそんな久路人に積極的に関わろうとはせず、久路人は静かに過ごしていたのだ。
(しかし、最近は・・・・)
だが、中学に上がって、少し状況が変わった。
他の小学校を卒業した子供と混ざり、それまでに暗黙のうちに築かれていた「月宮久路人に関わらない」というルールを知らない者たちが増えたのだ。
中学生の頃というのは小学校を卒業して広がった世界に興味津々な年ごろであり、好奇心旺盛な時期でもある。特に女子は、「○○のおまじない」だの「△△の噂」だのといったオカルト関係の話は垂涎の的だろう。
タチの悪いことに久路人は正真正銘の霊能者であり、噂に信ぴょう性があるのも拍車をかけていた。
(そのせいで鬱陶しい連中が増え、久路人の笑顔が減るのだ!!)
遠巻きにされることに関しては久路人もしょうがないと自覚しているためか、あるいは慣れたのか小学校5年のあたりからは気にしなくなっていた。あのころの久路人は学校では寡黙だったが、家で前のように雫と遊んだりゲームをしたりしている時は笑顔を見せていたのだ。
久路人が孤立することだけならば、雫もとやかく言わない。むしろ、久路人には言えないが歓迎していると言ってもいいだろう。久路人の本質からして人間社会に適応するのは不可能である以上、関りを断った方がお互いのためになるし、なにより・・・
(あの頃は、妾が久路人を独り占めできていた)
久路人に関わろうとするものはおらず、話し相手は自分だけ。
家でも自分のことだけを見て遊んでいてくれた。
だが、今のように自分の周りを嗅ぎまわられたり、噂を大々的にされるような状況には久路人も辟易していた。
家でも億劫そうな顔をするようになり、宿題をやったら雫と話すことなく早々に寝てしまうことが増えた。
それは久路人が子供から大人になろうとしている最中だからというのもあるだろう。
しかし、間違いなくその一因には周囲の鬱陶しい連中も入ってる。
(全くもって忌々しい・・・せめて妾が人化の術が使えれば今よりも庇いやすくなるだろうに)
今の雫は5年に渡って久路人の血を摂取したこともあり、全盛期の力をほとんど取り戻していた。
今でこそ久路人の首に巻き付いているサイズであるが、本来はニシキヘビの成体を優に超える大蛇である。サイズを小さくできるのは人化の術の練習で身に着けたもので便利ではあるのだが、肝心の人化は全く進んでいなかった。
京いわく、「元々お前の適性が低い上に、具体的なイメージができてねぇ」だそうだ。
そもそも人化の術とは、妖怪が人間の姿になるために作った術ではあるが、ただ化けるだけの狐などが行う変化とはまるで違うものだ。この場合の人間の姿というのは幻ではなく実体であり、任意で術を解かない限り効果が永続する。そして、並の人間よりかははるかに頑丈ではあれど、人化の術が使えるほどの妖怪からすれば大きく耐久性が落ちる。
なぜ人間の姿になる必要があったのかと言えば、霊力の扱いそのものは人間の方が器用だからだ。人間は耐久こそ脆いモノの繊細な霊力の扱いや術具による補助によって精密な術式を扱うことができる。これに人間特有の数を合わせて少ない霊力を補い人外と渡り合ってきたのだ。
要は、何らかの理由で極めて複雑な術を使いたい妖怪が行う術であり、そんな理由を持っている時点で他の妖怪に比べて物理的な力はないが、ある程度霊力の扱いがうまいというのがほとんどである。
翻って雫は、元は大蛇であり、吹雪や鉄砲水など大味な術ばかり使ってきたために霊力の扱いはどちらかと言えば不器用である。
霊力の扱いについてはこの5年で修行するうちにそれなりにはなってきたが、京が言うには人化のように姿を変える術は変身後のイメージや、人の姿で何をなしたいかといった願いが重要であり、雫はそのイメージがうまくできていないのだった。
(人の姿で久路人と話せるのならば、中途半端な姿にはなれぬ)
自分の大切な「友人」であり、守りあう約束をした間柄なのだ。
せっかくならば久路人好みの外見になりたいというのはいたって当然の帰結だろう。
以前に久路人に好みを聞いてみたことがあるのだが・・・・
「好み?・・・・・よくわかんないな。僕にそんな人ができるとも思えないし」
と要領を得ない虚しい答えしか返ってこなかった。
久路人が他の人間の雌相手に懸想をしていないというのは、「恋愛が友情を破壊する」とよく言うように雫にとっては喜ばしいことだったが、そのおかげで具体的な目標が定まらないのである。
(まったく、本当にままならぬものだ)
雫は久路人に巻き付きながら、内心で再びため息をつくのだった。
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こうして、一人と一匹の日常は過ぎていく。
久路人は周りの鬱陶しい視線と噂に辟易しながらも、そのうち収まるだろうとどこか楽観的あるいは達観的に。
雫は、「自分の気に入った少年」に気安く人間の雌が近づいてくるということに鬱憤という燃料を溜めながら。
少しずつ少しずつ、あらゆるものが進んでいく。
本当はもっとコンパクトにまとめる予定だったのですが、5000字を超えたあたりからあきらめました。
次回、雫覚醒。