冬木市の住宅街、日本家屋の中で少年が疑問を口にする。
「何だったんだアレは…」
学校でサーヴァント同士の戦闘を目撃した衛宮士郎。口封じの為に、サーヴァント・ランサーによって心臓を穿たれるも、サーヴァント・アーチャーのマスター、遠坂凛に蘇生された。
そして今、未だに危険な現状など知らない本人は安全な我が家に帰り、自身に起こった事を思い返していた。しかし現実は非情である。
チリンッ
「――――ッ!!」
家の結界が鈴の音の警報を鳴らした。紅い槍を携えた猛犬がやって来たのだ。
〜〜〜〜〜
「今のは割と驚かされたぜ、坊主。」
ランサーに応戦し、中庭にある蔵まで逃げ込んだ士郎、しかし抵抗も虚しく殺されようとしていた。
「だが、これで終いだ。」
ランサーが刺殺の構えを取る。
こんな所では死ねない。死ねば生き残った意味が無い。そう思ったとき。
ドカッ!ズザザザザッ!
盾が、ランサーを蔵の外に押し出した。
「何ッ!?」
ランサーが大きく距離を取る。
青い槍兵を押しのけたソレは、頭から足まで全身を鎧で覆っていた。チェインアーマーの上から身につけたプレートアーマー。右手には刃渡り1メートル程の両刃剣。左手には何の模様も無い鉄の盾。銀に輝く筈の全身は、劣化によって灰色にくすんでいる。
灰色の騎士は少年に尋ねる。
『サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上した。貴公が私のマスターか?』
「マ、マスターだって?どういうことだよ?!」
『……契約は完了した。マスターとの会話の前に、邪魔者を排除しよう。』
「へぇ、言ってくれるじゃねぇか。それならやってみろ!セイバーのサーヴァント!」
ランサーが構え、突撃する。盾で受け止めたセイバーは、思った以上に強力な一撃に困惑した。今にも盾を剥がされそうだ。
頭部を狙った二撃目が放たれた。セイバーは素早い動きで身体を丸め、側方へ回転し、それを躱す。起き上がりに放った刺突はランサーには難なく躱される。そして返しに放たれた一撃で鎧ごと右胸を貫かれた。どう見ても致命傷だ。
「…口の割には大したこと無ぇな。ガッカリだぜ。」
『……ッゴクッゴク…』
しかし兜の内側へ何かを流し込んむと、傷は即座に回復した。
「…治癒の魔術の一種か?何にせよ、お前は一撃で仕留める必要がありそうだ…メンドクセェ。なぁ、ここらで分けにしねぇか?」
『何を言う。ここからが面白いところだぞ?』
「…そうかい、こっちは元々様子見が目的だったんだがな。」
ランサーが距離を取る。空気が変わった。その一撃が放たれれば、確実に死ぬという確信が有る。ならばやることは一つ。
「受けろ!我が必殺の一撃を!…
必殺を謳った一撃は、確かにセイバーの脚部に向かっていた。しかし槍の軌道は変わり心臓へ向かう、これが因果逆転。ランサーの宝具。放たれたと同時に心臓へ当たる事が決定する、必殺の槍の一撃。
セイバーは抵抗せず、逆にランサーへ向けて走り出した。当たると分かっているのなら躱す事など考えなくて良い。その一撃に殺されながら、相手の命を奪い取れば良いのだ。
心臓を貫かれながら、セイバーの剣がランサーの首元に迫る。だが、
ドガッ!
『グゥハッ』
剣振るうセイバーに、素手のランサーは蹴りを放った。蹴り飛ばされたセイバー。槍を引き抜かれた衝撃で騎士は呆気なく息絶え、セイバーの肉体は消滅した。
「……お前の最期まで剣を振るう闘志にだけは、敬意を払ってやるよ。…名も知らない騎士よ。」
『ほう、それは名誉な事だ。クーフーリン。』
「「!!」」
消滅した筈のセイバーがどこからともなく現れた。
「マスターもマスターなら、サーヴァントもサーヴァントってか?確実に殺したと思ったが、何故か生きていやがる。」
(さっきのは幻覚か?…まさか復活したのか?…どちらにしろ面倒な奴だ。真名は…そりゃバレるよな。)
『見事な技だったぞ、クーフーリン。』
「挑発か?まぁいい…俺のマスターは臆病でな、宝具で仕留め切れないなら帰れと抜かしやがる。……追って来ても構わねぇが、その時は容赦しねぇ。」
ランサーは跳躍し、夜の闇に消えた。
(行ってくれて助かった…か。あの戦士に本気を出されたら、マスターを守り切れなかった。)
セイバーは己のマスターに話しかける。
『邪魔者は消えた。マスター、何を話したい?』
「…お前一体何なんだ?さっきどう見ても死んでただろ!?それにマスターってなんの事だ?! 」
『……まさか何も知らないのか?…私はセイバーのサーヴァント、セイバーと読んでくれ。マスターとは私を呼んだ貴公の事だ。』
「…改めて聞いてもよく分からないが、そのマスターって言うのはやめてくれ。俺の名前は衛宮士郎だ。」
『エミヤ…シロウ。ではシロウと呼ぶことにする。何も分からんだろうが、共に戦ってくれ。』
「何言ってんだ!俺は戦わないぞ!」
『そうか…』
灰色の騎士は心の内まで灰色になった。