凛とアーチャーが登場するまで、読み飛ばしても良いと思います。
最初の火が消える。幾多の武器が突き刺さった灰燼の上で、最後に火を継ぐ者は、火防女と共にそれを見届ける。そうした先に自分達を、または誰かを照らす残り火が現れると信じて。
「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか?」
こうして、最初の火の誕生により世界の根幹から切り離された事象の枝は、完全に燃え尽きた。
しかし焼けた灰は、大樹の養分となる。この世界は終わってもそれは無駄ではない。他の世界の誰かが、温もりを持って生きられるのだから。
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「アインツベルンのマスターめ、大聖杯を破損させおって…」
冬木、大空洞の中の中の暗闇。大きく口を開けた大聖杯の前で、間桐臓硯は愚痴をこぼす。それと言うのも第四次聖杯戦争の最後、アインツベルンに雇われたセイバーのマスターが宝具を用いて、顕現した小聖杯を破壊した事が原因だった。
「まさか、小聖杯を破壊した余波で大聖杯に傷をつけるとは…」
小聖杯を破壊したセイバーの宝具は、余りにも強力だった。小聖杯との物理的繋がりなどない大聖杯を、魔力的な衝撃のみで破損させる程に。
「だが、これで修復できる。この王の器の欠片であれば。」
王の器、それはソウルの宝。間桐とアインツベルンが5年かけてようやく手に入れた、聖杯に似た性質を持つ魔術の遺物。大昔に蛇の様な竜に守られていたというそれは、最早その名前の由来すら分からず、今は欠片しか残されていない。
臓硯はそれを大聖杯に投げ入れる。王の器は溶ける様に消え、大聖杯の破損箇所は瞬時に再生した。
「ほう、思ったよりも相性が良い。これならばあと10年…いやあと5年もすれば儀式が行えるだろう。…しかし早過ぎるか…」
修復が成功した安堵も束の間、予測されるあまりにも短い周期に消沈する。それ程短い期間では、優秀な人材は用意できないだろう。次の、そのまた次の聖杯戦争へ、既に500年を生きる怪物は策をめぐらす。
大聖杯は、聖杯戦争において重要な役割を果たす魔術炉心である。それに異物を加えたとあれば、変化が起こるのは必然。それこそ、本来ありえない存在がサーヴァントになったとしても、何ら不思議ではない。
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そして2月2日、夜
衛宮亭、典型的な日本式の門を潜り、玄関前に来た遠坂凛とそのサーヴァント、アーチャー。
(注意しろマスター。家の中にサーヴァントの気配がある。)
「何?ランサーが居るってこと?!」
(いいや、恐らく別のサーヴァントだ。)
「それってまさか……いえ、とりあえず様子を見ましょう。」
凛は恐る恐るインターホンを鳴らす。
ピンポーンッ!
……
ダッダッダッ
ガラガラ
『どちら様でしょうか?……』
日本家屋には不相応な、灰色の鉄塊が現れた。
衛宮家に招き入れられた凛は、居間で戦闘を放棄するという衛宮士郎に、聖杯戦争について教えていた。
聖杯戦争とは七人の魔術師による殺し合い。一人一体づつ、サーヴァントと呼ばれる英霊を呼び出して戦い、生き残った最後の一組が聖杯によりあらゆる願いを叶えられる。
「聖杯戦争の概要については分かってくれた?衛宮君。」
『分かったかシロウ?。』
「あぁ何となくはな…だけど納得は出来ない!何で殺し合うんだ!」
衛宮士郎の夢は正義の味方だ。正義の味方は、進んで殺し合いになど参加しない。際立った理由もなければ。
「…私から言えるのは、貴方はもう戦うしかないってことだけよ。」
『そうだシロウ。』
先程から凛に同調しているのは灰色の鎧の騎士。セイバーのサーヴァントである。
「セイバーはさっきから俺をからかってるのか?」
『…すまないシロウ。つい楽しくなってしまってな。やはり私は、シロウのような友に背中を預けたいのだ。』
「セイバー…俺達はさっき会ったばかりだぞ、友達じゃない。それに残念だが俺は聖杯戦争には参加しないぞ。」
灰色の騎士は項垂れた。
「…仲が良いのね貴方達…。とりあえず行きましょうか衛宮君。」
「別に仲良くはない。…って行くって何処にだ?」
「新都にある教会よ。そこに聖杯戦争に詳しい奴がいるの。言峰綺礼って言うんだけど。納得するかはソイツの話を聞いてから決めなさい。」
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冬木市新都。
厳かな協会の中で、言峰綺礼は七人目のマスターに参加の意思を問う。
「10年前のアレが聖杯によるものだって言うのか…?」
「そうだ。10年前の大火災。数百人の死者を出したあれこそ第四次聖杯戦争の爪痕だ。」
「……納得はしてない。けど危険な奴に聖杯は渡せない。俺は、聖杯戦争に参加する。」
「…フフ、喜べ少年。君の願いはようやく叶う。正義の味方には倒すべき悪が必要なのだ。」
衛宮士郎は大火災の唯一の生き残りだ。その原因が聖杯だと分かれば、参加しない訳にはいかなかった。
言峰綺礼の言葉で聖杯戦争に参加する意志を固めた士郎は、凛と共に教会からの帰路に着く。教会の黒鉄の門から出ると、霊体化していたセイバーが姿を表す。
『シロウ、聖杯戦争に参加する決心は着いたようだな。』
「あぁ俺はマスターになる。改めて俺のサーヴァントになってくれるかセイバー?」
『シロウは元々私のマスターだ。』
「そういえば、ランサーから助けてくれたのに礼も言って無かったな。見ず知らずの俺を助けてくれて、ありがとな。」
『何を言う。友達だろう?』
「…ホントに仲が良いわね。」
一行は冷たい夜道へ歩を進める。