「何よあれ…っ?!」
夜の冷たいアスファルトを進む一行の前に、街灯に照らされた黒い巨躯が現れた。その傍らに立つのは、対象的な白い小躯。
「こんばんは。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。」
「アインツベルン?!」
(これは凄まじいな。アレ一騎で他の六騎を相手取れるぞ。)
『シロウ、出来れば逃げる準備をしておいてくれ。』
「いいや、逃げない!」
感覚から分かる巨躯の情報と、少女の名に戦慄を覚える二人と二騎。
「話し合いは済んだ?じゃあ、殺すね。やっちゃえバーサーカー。」
「■■■■■■■ッ‼︎」
士郎達へ向け、咆哮と共に黒い巨体が突進する。しかし、振り下ろされた石斧は辛うじて止められた。セイバーが盾で受け止めたのだ。
『ぐぅッ!!』
衝撃が身体を走り、足元のアスファルトが陥没した。余りの衝撃に盾を構え直せない。次の攻撃を受ければ命は無いだろう。そして相手は狂戦士、容赦など一切ない。さらに12発の連撃が放たれる。セイバーは上半身が消し飛び挽肉になった。
「ハハハ!!よっわーい!アサシン以下よ!ホントにセイバーのサーヴァントなのぉ?」
『…今に見ていろ。』
「「!!」」
セイバーは何事も無かったかのように、同じ場所に立っていた。セイバーの復活を初めて見た者達は驚愕した。只一騎、バーサーカーだけはそれを静観している。
「流石に最優のセイバーが、あんな弱いだけな筈ないか……復活しなくなるまで殺しなさいバーサーカー‼︎」
「■■■■■ッ!」
先程と同じようにして放たれた連撃。しかし、
『……甘いぞ狂戦士‼︎』
初撃が大きく逸らされた。セイバーが盾で受け流したのだ。不死の闘技の一つ、パリィである。武器の軌道が変わったことで大きな隙が生じる。致命的な間隙に、セイバーの一撃は吸い込まれるようにしてバーサーカーの心臓を刺し貫いた。まさに致命の一撃。バーサーカーは沈黙した。だがパリィを成功させた筈のセイバーの左腕は、骨が粉々になっていた。
「倒したのか……?」
安堵しかけた士郎達だったが、その希望はすぐに打ち砕かれた。
「■■■■■■■■ッ!」
時が巻き戻るかの様に再生したバーサーカーが、咆哮をあげる。
「何よアイツ、不死身なの⁈」
『強力な能力に目が眩んで考えてすらいなかったが、まさか私と同じようなタイプだったとはな…』
「貴方達に十一回復活するバーサーカーが倒せる筈無いのよ…バーサーカーの真名はヘラクレスなんだから!」
『「「ヘラクレス?!」」』
超弩級のギリシャ英雄の名前に、その場にいた者は震撼した。しかし、それなら高い能力にも不死性にも納得がいく。
「え?…離れろってどういうことよ?!」
そんな絶望の絶壁に弓を引く者あり。
「
アーチャーの射撃が復活したバーサーカーを襲う。立ち昇る爆煙。その超威力により地形を変形させたが、バーサーカーは未だに健在。紅炎から姿を現したバーサーカー。左手を砕かれ、盾も構えられないセイバーを、猛撃が襲う。セイバーはまたも死ぬだろう。だがそうはならなかった。
「…がはっ」
衛宮士郎の体は、知らぬ間にセイバーを突き飛ばしていた。士郎はセイバーの復活を二度も見たが、どうして蘇るのか理由を知らなかった。次に死んだらセイバーは、蘇らないかもしれない。士郎には、命を救った恩人を見捨てることは出来なかった。
「ぐぅ…」
激痛が走る。バーサーカーの斧に両断された体は下半身の感覚が無い。外れてしまったのだろう。衛宮士郎の意識はそこで途切れた。
有り得ない行動に、そこにいる者の時が止まった。そこに叫びが響く。
「…こんなんじゃつまらないじゃない!……行くわよバーサーカー。こんなところに居ても意味なんて無いわ。」
イリヤスフィールは怒りと、失望とを抱きながら去って行った。
『シロウっ!』
セイバーが士郎に駆け寄る。
「私には、何も出来ないわ。」
凛は無力感を感じている。その手元には上半身と下半身が離れた人間を、回復できる手段は最早無かった。
『これは……。アレを使うしか無い。』
そう言うとセイバーは虚空から何かを取り出す。それは小さな瓶に入った、暖かな光を放つ液体だった。セイバーはばらけた肉体を集め、液体を士郎の口の中に流し込む。
士郎の肉体は熱を放ちながら再生を始めた。
「すごい…もうほとんど再生してる。」
『コレで一先ず安心だろう。…私はシロウを家まで運ぶ。貴公はどうする?アーチャーのマスター。』
「え?…そうね。私も付いて行く。ここで放っておいても、寝付きが悪いし。」
『そうか…貴公も大概お人好しだな。』
凛と、士郎を背負った灰色の騎士は衛宮家へと向かう。まだ、夜明けは遠い。
次の話は前後のどちらかに、セイバーの能力を載せます。