2月4日、朝。
学校へ向かう途中、衛宮士郎は霊体化している自身のサーヴァントに声をかける。
「セイバー、本当に学校へ付いて来るのか?」
(『当然だシロウ。何処にでも危険は潜んでいる。マスターを1人にするのは自殺行為だ。』)
「分かったよ…。だけど絶対に変なことはするなよ、セイバー。」
(『あぁ分かっている。学校に着いたら屋上で待機していればいいんだろう?』)
穂群原学園、昼休み。
屋上で士郎に渡された弁当を食べるセイバー。
『改めて、シロウの料理はうまいな。特にこのタコさんウィンナーが宇宙悪夢的にうまい。正直、シロウがここまで料理上手なのは予想外だ。…ん?』
職員室の窓から、冬木の虎が自分と同じ弁当を食べているのが見える。昨日の夜は満漢全席だったというのに、よく食べられるものだ。
「おいおい、失礼な奴だな。それにウィンナーを褒められても大して嬉しくないぞ。」
隣で、これまた同じ弁当を食べている士郎が不満気に言う。
放課後、下校時間が早くなり生徒が校舎から出ていく。
「「――用のない生徒は、速やかに下校してください。―」」
「何で下校時間が早くなったんだろうな?」
(『分からん。』)
下校の為、屋上からの階段を降りる士郎とセイバー。
その時
「キャーーーッ!!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「今のは!?…行くぞセイバー!」
(『分かった。』)
セイバーは先行する。
悲鳴の主がいる1階の廊下に、灰色の騎士は到着した。廊下に女生徒が倒れている。その上に覆い被さるようにして、蛇のような長髪の女がいた。女は何かを貪っている。間違いない、サーヴァントだ。足りない魔力を他の人間から補給しているのだ。
セイバーはすぐさま切りかかる。敵にかける情けは無い。しかし女のサーヴァントは大きく跳躍し、余裕をもってそれを躱した。
「…問答無用ですか?冷たいですね。」
そのまま敵は窓を突き破り、付近の林へ消えた。被害者の方は顔色が悪い、魔力を吸い取られ過ぎている。自然回復はまず望めないだろう。
遅れて士郎が到着する。
「セイバー、何があった。」
『サーヴァントに生徒が襲われていた。サーヴァントは林へ逃げた。今すぐ追いかけたい。』
「この娘は大丈夫なのか?」
『いいや、このままでは死ぬだろう。…一応助ける手段もあるが…。』
「今すぐやってくれ。」
『…分かった。』
セイバーは青白く光る少量の液体を取り出した。そのまま全てを被害者の口に含ませる。途端に女生徒の顔色は健康的になった。
「…反対すると思ったけど、いいのか?」
『使った物は貴重だが、問題はない。私はサーヴァントを追う。シロウはここにいるんだ。』
セイバーは窓を抜け、林へ向かう。
林の中。夕暮れも近く、視界はあまり良くない。走るセイバーに向けて、鎖付きの短刀が飛来する。セイバーは反応できず、左腕を貫かれた。
激痛を感じるが、それだけだ。
「こうも簡単に捕えられるとは……正直落胆しました。」
影から女が現れた。あのサーヴァントだ。
『ふむ。貴公はランサーやバーサーカーよりも弱そうだ。簡単に殺せるだろう。』
「…その愉快な口をいつまで開いていられるか、見ものですね。」
鎖が、セイバーに向けて投げられた。片腕を拘束され、抵抗出来ないセイバーの首に鎖が巻き付けられた。木々にも複雑に絡みいた鎖で体が浮き上がる。
『ぐ、ぐぅ…』
締め付ける力が徐々に強くなる。セイバーの首は、既におかしな方向へ曲がっている。
ゴキゴキ…バキ
剣の英霊は、首を締め切られて死んだ。
「他愛ない。」
「…へへ、最優のクラスなんて言うからどんな奴かと思ったら…ヘハハ!大したこと無いじゃないかぁ!」
物陰から、軽薄そうな口振りの少年が現れた。学校の制服を着ている。
「行くぞライダーァ!セイバーさえ倒せれば、きっと後はおまけみたいなもんだ!」
「……。」
ライダーとそのマスターは、死体に背を向けて帰路へ付く。見据えるのは次の敵。
「あ…」
ライダーは体制を崩した。何もない所で転ぶなどサーヴァントの名折れである。前へ倒れそうになったが間一髪の所で、胸を貫いた剣で身体を支えた。霊格を砕かれている。もう倒れる事もないだろう。
「…ガフッ」
セイバーは容赦無く死体を蹴りとばし剣を引き抜く。ライダーは着地すること無く消滅した。歴戦の不死人に無防備な背中を向けること、それは死を意味する。
自分のサーヴァントから返事がない。
「何か言えよ!ライダー…痛っ…」
胸が痛い。胸に当てた手が鮮やかな色に染まった。脚に力が入らない。全身と心を、無力感が襲う。倒れたけれど、立ち上がる力は無い。ライダー陣営は敗退した。
(「どうなったセイバー。」)
『ライダーのサーヴァントと、マスターを仕留めた。』
(「……どんな奴らだった?」)
『マスターは軽薄で、傲慢そうな話し方の男だった。シロウや凛と同じ様な服を着ていたな。サーヴァントは…』
(「……慎二…。」)
少しの間士郎は、セイバーと口をきけなかった。
夜、衛宮亭。
冬木の虎も、慎二の妹も今日からしばらくは来ない。
『……今日は残念だったな。』
「…気にするなセイバー。セイバーの責任じゃない。慎二はサーヴァントに人を襲わせてたんだ。…許される事じゃ無い。」
『…シロウがそう言うのなら。気にしない。しかし、何か相談したい事があれば言え。私たちは友達だ。』
「……あぁ。」
夕食の準備をする士郎は、いつもより悲しそうだった。