短編詰め   作:夜鐘

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お題:うなじ
楽玲付き合ってる時空の話ですが、玲さんは話さないです。



知らなくていいこと(楽玲)

「玲さん……玲さん?」

 

 玲さんはすうすう、とやけに安心した顔で寝息を立てて眠っている。あーあ、寝てらあ、と天井を仰いだ。濡れた髪をスポーツタオルでガシガシと拭きながら、玲さんの体に薄い掛け布団を被せた。ここ、冷房、直で当たるんだよなあ、ベッドの位置変えたい。

 

(……AM3:03。まあ、昨日も遅くまで課題していたみたいだし、お昼間もなーんか眠そうだったしなぁ)

 

ベッド脇に置いてあるデジタル時計を元の位置に戻して、玲さんを起こさないように、そおっと、ソファーベッドに移動した。

お互い学業とバイトと趣味で忙しく、ゲーム内では顔を合わせるものの、中々、現実で会えなくなってしまった。それに危機感を覚えた結果、休みの日ぐらいは一緒にいようと部屋に誘ったのはいいけれど、人の家って緊張するもんだし、泊まりまでは軽率だったかもしれないと反省する。

 

 

(そろそろ半年、はんとし……半年かぁ)

 

 玲さんと『お付き合い』というものを始めて半年。正直、未だにこれはお付き合いしているのか?と疑問を抱くこともある。まあ、一人暮らしの男性の家で何の警戒もなく眠れるのだから信頼はされているのだろうとも思う。

 この前、やっとこさ付き合い出したルストとモルドのお祝いがてら話していた時に、最近やっと玲さんが崩れ落ちずに手を繋いでくれるようになったと報告したら、真面目に引かれたんだよなぁ。いやでも、めちゃくちゃ進歩したんだよ。手差し出しても、逃げられてた事を思えば。逃げ出さなくなっても実際手を握ってみれば、茹でタコも真っ青な赤さで崩れ落ちてしまってたんだから、初めて手を繋いで目的地までたどり着けた時には野生の動物を手懐けたような達成感が……って違う。話がそれた。

 終始、そんな調子だったものだから亀よりゆっくりなスピードで交際を続けてきた訳だが。

 

(もしかして、玲さんにそういう欲求が無い説?いや、まさか。……まさかだよな?)

 

 今の今まで俺も疑問に思わなかったのも大概だけど、最近やっと俺がいる空間に慣れてくれたばっかりだし……猫かな?あれ?玲さんは実質猫だった?

 ちょっと待て。そういえば、俺も俺で玲さんにそういう事求めた事なくない?

 

「えっ」

 

 もしかして俺にも性欲が無かった説……?

 

ーーえっ。

 

い、いやいやいや。待て。待て待て待て?確かにマスかくよりマッピングでマス塗る方が得意なんだけど。は?何いってんの?馬鹿なの?ーーでも、真面目な話、そこそこ『そういう動画』でも『男の栗本』も……。そういえば、玲さんでそういう想像した事……あれ?

 冷や汗が背中を伝う感覚がする。ははっ、えー?まーじで?俺は玲さんを神格化でもしてんの?確かに、ファーストインプレッションの強キャライメージと、その後の廃人ゲーマーとしての尊敬を引っ張りすぎたとは思うけれど。そんなはず、そんなはずは……。すうすうと寝息を立てる玲さんを確認し、ゆっくりと見下ろす。『これは玲さんだ。幸せそうに眠っている』なんてRPGの勇者のような感想を抱いて、頭を抱えた。

 

(いくら俺でも、これが『違う』ことはわかる)

 

落ち着けぇー、深呼吸しろ。確かに玲さんはゲーム仲間だけれど、それ以外のものを見つけてしまったからこうしてお付き合いを始めているわけでして。でもまあ、実際問題『それ以外のもの』が一緒にゲームをする楽しさに負けているからこうなったんですけど、なにか弁解ある?はっはっー、ねえよ!頭の中の高校のクラスメイトが口々に有罪判定かましてきよる。

 

(俗に言う、名前書いて満足した状態じゃん)

 

お付き合いをするということは身体的接触も勿論ある訳で。一応思い返して見れば、付き合ったんだから手を繋ごうと思い立った辺りまではちゃんと、そういう事も視野に入れてた。ただ思いの外、玲さんが初心だったからあんまり、ねえ?申し訳ないなあ、という気持ちも先立ちましてぇ。その内、何がどうねじ曲がったのか、このお付き合いはCEROがAがデフォになってしまった、と。で、なんの因果かよりにもよって今その事実にたどり着いてしまった。

 

(ええ……?)

 

どうしよう、すげえ困惑しているし、この交際中の男女にとっては美味しい状況が、実はめちゃくちゃ不味いのではないかと思い始めてきた。どくどくと嫌に脈打つ心臓が煩い。身動ぎをしたせいで露わになった玲さんの真っ白なうなじに、どうしても目を奪われる。

 

「……っ」

 

ーーギシリ、と二人分の体重をかけたベッドが軋む音に体が跳ねた。……いや、え?まっ、ーー俺今、ナニをした?

 

 

「ぅう……ん」

「!………うぐ」

 

 寝苦しかったのか、玲さんが身動ぎ掛け布団を抱き枕のように抱き込んで、背中を丸めた。びっくりした、びっくりした、びっくりした!口を覆う手が間に合わなければ、即死だった!叫び声を押し止めていた息を、手の中にゆっくりと吐き出す。

 

 

「……勘弁して」

 

 呟いた言葉がどこか遠くに聞こえるし、口を抑え続けている掌がひどく熱い。崩れ落ちるようにベッド脇で尻餅をついた。




玲さんは知らなくていいこと。
楽郎くんは知ってしまったこと。

変な解釈してて、申し訳ないなあと思いながら書いた。私は、その……A〜Bぐらいの展開に沸いてしまうので……。あまりにもトンチキな状況に置いてしまった楽郎くんに申し訳なくてボツろうかと思ったけど、七夕であまりにも嬉しいことが続いたので、記念に。
その内手直しします。

Q.ナニしたんですか?
A.うなじにちゅ

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