短編詰め   作:夜鐘

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 いや……あの……地味に応援してるCPなんですけど、なかったので書くしかねえなって……。みんな書いてください……。


スタートダッシュ(魚紅)

 

ーーあ。

 

 それを見つけたのは、部活帰りに一緒に帰っていた先輩が本屋に寄るというので、久しぶりに本屋に立ち寄った時だった。一部のマニアから根強い人気を誇る紙媒体だが、多くの若者は、より身近にある電子書籍を愛用している。それは紅音にとっても同じで、紙の本にはあまり馴染みがない。普段であれば寄ることのない本屋というのは、自分に場違いな気がして居心地が悪い。そんな状況で、おそるおそる本屋の商品を眺めていた時に、よく見慣れた顔が印刷された雑誌をみつけて、思わず立ち止まったのだった。

 

「あれ!永遠さまじゃん!紅音がファッション誌なんて珍しい」

「本当だ!紅音ちゃんも永遠様好きなの?」

 

 思わず手に取ってしまったそれを友人と先輩に見留られた紅音は、少しの動揺を押し殺して振り向いた。

 

「最近、おすすめされたんです」

「あー、わかる!とりあえず永遠さまのコーデをストックしておけば間違いないもんねえ」

 

 まさか先輩達も、本人に『良かったら読んでね!』とおすすめされたとは思うまい。さらに言えば、紅音が非常に言語化しにくい気持ちを、彼女に抱いていることなんて想像さえつかないだろう。それを無理矢理、言語化するならば、おそらく『羨望』と『嫉妬』だった。キャーキャーと楽しそうにやっぱり綺麗だよね、この前永遠さまが着てたスカート買ったんだ、だとか。先輩達が盛り上がっているのを、紅音はただただ静かに、側で聞いていたのだった。

 

 

***

 

 

 隠岐紅音はただの中学生である。部活で全国大会に出場していたとしても、ゲームの中で名前を知られるほど注目を集めていたとしても。その本質は、まだ幼さが抜けない、ただの少女だった。

 

「……綺麗」

 

 雑誌の表紙を飾るその人は、こちらをみて、うつくしく微笑んでいた。彼女ーーアーサー・ペンシルゴンが天音永遠だったと知ったのは、出逢ってからどれだけたった頃だっただろう。さしてファッションや芸能人に興味がない紅音でも知っている有名人ということもあり、とても驚いたことを覚えている。そして、同時に知ってしまったあの人の現実での顔にも飛び上がるほど驚いてしまった。

ーーゲームというものは凄い。同じゲームをやっていると言うだけで、普通なら一生顔も合わせる事もないであろう人と友達のように話すきっかけを得られたりするのだ。

 

「天音永遠さん、二十四歳。……五歳差かあ」

 

私より遠いんだなあ、なんて思考に溺れて、ばたり、と紅音は自室のベッドに倒れ込んだ。肌に触れる布団は、母親が干したのだろう日差しの熱でほの暖かい。

 ーー四歳差。どうひっくり返っても縮まらない、彼と自分の差だった。社会に出れば何でもない歳の差も、現中学生の紅音にとってみれば途方もない差に思えた。一、二歳年上の高校生でさえ大人に見えると言うのに、相手は社会人ーーいや、芸能人と言った方が良いだろうか。友達に彼が好きだといえば、ファンなのかと聞き返されるに違いない。正常な判断だと思うし、紅音だって友達が同じことをいえばそう聞き返すに違いない。

 

(付き合いの長さも、経験も、強さも、知名度も。きっと何一つ自分は、ペンシルゴンさんに届かない)

 

それは、落ち込む理由にはなれど、諦める理由にならないのだ。頑張ると決めたなら、最後まで駆け抜けることしか、紅音は知らなかった。

 

「サンラクさんは『あの二人は、地球がひっくり返っても無い』って笑ってましたし!」

 

 話の流れから冗談だと思ったのだろう。サンラクは、秋津茜の方がまだ可能性がある、とまで言っていた。盲信するわけではないが、あの二人と付き合いの長いサンラクがそれを言われた事に、紅音は安心感を覚えたのだ。

 

(サンラクさんは意味のないところで嘘をつかない人だ)

 

信頼が自信を支えてくれる。実のところ、彼ーー魚臣本人からも「ないね」といい笑顔で一蹴されていたりするのだから、恐らくこれは紅音の杞憂なのだろう。ただそれがいつまで、杞憂であり続けるかはわからないのだ。紅音のように突然気持ちが芽生えるかもしれない。そうなった時から走り出したとしても絶対に追いつけない。だったら、今から走り出せばいい。なにせ、隠岐紅音は、諦めないことも、頑張ることも、走る事も、追いかけることも、大得意なのだから。

 

 

「よし!頑張ります!」

 

 

ぱちんと自分の頬を打って気合いを入れ直す。目下の目標は、魚臣さんから『ベルセルク・オンライン・パッション』で、ワンラウンドを取ること。そして、視界に入れてもらう事。その為には、少なくともメインストーリーで躓いているわけにはいかなかった。

 

 

***

 

 

ーー魚臣慧は困惑していた。

 ベルセルク・オンライン・パッション。通称『便秘』。魚臣が、過疎ゲーといっても過言ではないこのゲームに定期的にinしているのには、三つ理由がある。

 ひとつ、バグを駆使して戦うのが楽しいから。ふたつ、意外性のある動きに慣れることで、仕事にもフィードバックできるから。そして、みっつめ。別ゲーでの知り合いがこのゲームをクリアしようとインしているから。

 

 

「……あの、私、モドルカッツォさんのこと、好きかもしれないです!」

「はい?」

 

 少し恥ずかしそうに、しかし堂々とそう言い放った、筋肉隆々の髭面剣闘士へ、モドルカッツォこと魚臣慧は、全力で困惑の声を上げたのだった。

 





魚紅ちゃんを宜しくお願いします。
途中書きながら永紅か?????ってなってしまいましたが、これは魚紅です(多分)
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