短編詰め   作:夜鐘

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 付き合ってる二人の夏の日。冒頭のみ


夏の日(楽玲)

 チリン、と窓際で風鈴の音が響いた。夏の日差しが分厚いカーテンを通り抜けて部屋の中に熱を運んでいるが、稼働し続けているエアコンがそれを相殺していた。締め切った窓からでも聞こえるセミの声が否応にも、夏を感じさせてくる。

 

「あー、コンビニ……行きたくねえな」

 

 真夏の晴天下を、好き好んで歩きたいという人はどのぐらいいるのだろう。少なくとも楽郎はこの暑さの中出歩くのは、気が引ける。そう思いながらも、体から感じる空腹は如何ともし難く。気乗りしない気分のまま、今日の昼食と夜食の調達の為に、のそのそと動き出した。

 

「暑い!」

 

外に出て、開口一番そう発してしまう程度には気温が高かった。雲一つ見えない青空が目に眩しく、その日差しは、夏休みに入ってから必要最低限以外、外に出ていない楽郎の肌をじりじりと焼いていく。

 この春から楽郎の城となった、アパートは、通っている大学から歩いて15分の位置にある。交通の便もそこそこ、歩いて10分圏内にコンビニやスーパーもある好物件だ。オートロックだが、エレベーターがない上、築60年という中々に『趣のある』(ボロい)アパートなのだが、楽郎は気に入っていた。

 

 いらっしゃいませー、という電子の声とともにコンビニの扉の隙間から冷気を纏った風が楽郎の体に当たる。昼食とエナドリと夜食をカゴに放り込み、漫画雑誌を冷やかすころには、額に滲んでいた汗は、すっかりと引いていた。

 

「あ、あの!」

「あれ?玲さん?」

 

雑誌の立ち読みを咎められたかと視線をあげると、よく知った顔が目の前にあった。何かを考える前に、口からはするり、とその人の名前が滑り落ちる。

 

「ぐ、偶然、ですね!」

「びっくりした。玲さんも買い物?」

「姉からお使いを頼まれまして……」

 

そういうと、玲はゲーム雑誌を手に取るとカゴの中に丁寧に置いた。それをみて、手にとっていた読みかけの雑誌の購入を決める。立ち読みして買わないというのも気が引けたからだ。雑誌をカゴに放り込み、楽郎はにこにこと嬉しそうに笑っている玲と一緒にレジへと向かう。

 

「そういえば前にも、こういうこと一回あったね」

「あ、高校の時……ですね」

「そうそう」

 

 あれは、高校二年の夏のことだ。顔見知りーーというかほぼ他人という状態だった時期に、今と同じように声をかけられた気がする。楽郎は記憶を掘り返して、あの日もこんな暑い日だったと思い返す。そういえば白いワンピースを着ているのも一緒だ。ーーお気に入りなのだと、前に言っていた涼しげな真っ白のワンピースが目に眩しい。

 

「あ、アイス……」

「買っていく?でも、こう暑いと、帰るまでに溶けちゃわない?」

 

 玲はアイスの入ったケースの前で足を止める。冷え冷えと氷が降りたそれらは、外の暑さを考えるに心惹かれる物があるが、この炎天下歩いて持ち帰ることを考えると二の足を踏んでしまう。

 

「今日は……あの、えっと車、なんです」

 

 玲さんはそう言ってちらりとコンビニの外に目を向けた。視線の先には黒塗りの高級車が止まっており、楽郎は、あれかー、と少したじろいでしまった。身内に車狂がいる楽郎だからこそ、この程度で済む。もしここにいたのが一般家庭の大学生ならば、物々しく感じて一歩引いてしまうだろう高級車だ。普段はそんなに意識することはないのだが、ふとした瞬間に彼女がお嬢様であることを思い出す。

 

「ああ、そういえば帰省中だっけ?」

「お盆が近いと本家に親族が集まるので……。思ったよりも長居することになりそうなので、荷物を取りに、こっちの家まで送ってもらったんです」

 

 玲はトントンと米神のあたりを指で叩いて、「VRのヘッドギアですよ」と悪戯げな顔で笑った。楽郎は、昨日一緒にゲームしようと連絡が来た経緯を思わぬカタチで知ってしまって、納得の顔を見せた。

 

「ふふ、結果的に楽郎くんに会えたので、お使いを頼んだ姉には、感謝するべきですね」

 

玲は、はにかんでそう続ける。うぐ、と楽郎は少しだけ言葉に詰まった後仕切り直すかのように、咳払いを一つ挟む。

 二人が付き合い始めて一年と半年程。当初、恋人らしいことをするたびに、言葉を詰まらせ、固まっていた玲も、今では可愛らしいと言えるほどの動揺しか見せなくなり、時には(自覚はないままだが、)楽郎を振り回すこともあったりするのだから、楽郎としては気が抜けない。

 

「あー、アイスは俺はいいから、玲さんは選んだら?」

「……よかったら家までお送りしましょうか?運転手にお願いしますが……」

「いやいや、いーよ。流石に気が引けるし、そんなに遠いって訳でもないから」

「そう……ですか」

 

アイスキャンディーを持ったまま見るからにしゅん、とした玲をみて、楽郎は困った顔で頬を掻いた。もちろん名残惜しいと思ってもらえるのは嬉しい。お互い家族と顔合わせ済みだといっても、流石に彼女の実家のお抱え運転手の車に乗るのは楽郎といえども難易度が高かった。

 

(今度埋め合わせに、寄り道誘ってみるかな)

 

 そんな事を思いながら、楽郎がレジに進もうとしたときに、玲は、それなら、と言葉を繋ぐ。その言葉に引かれるように足を止めて、視線を玲に移した。楽郎の中では完全に話が終わってたため、一瞬話の脈絡が読めずに、きょとんとした顔で玲さんの言葉を待つことになる。

 

「一緒に、食べながら歩いて帰りませんか?」

「ん?」

「姉のお使いは運転手さんにお願いすればいいですし、食べながら帰れば、溶ける心配も無いですし……!」

 

名案だ!と玲は瞳をキラキラと喜色で光らせた。え?いいの?と目を白黒させたのは楽郎だ。

 

「え、今、実家……。親戚が来てるんじゃ?」

「まだ皆揃ってる訳では無いですし、明日帰れば大丈夫、です」

 

 やけにはっきりと大丈夫だと断言している玲の勢いに押されながらも、玲さんがいいなら、と楽郎は頷く。一人で買い食いしながら帰るのは躊躇われても、連れがいるなら別である。帰り道のお供として、アイスキャンディーのエナドリ味を手に取った楽郎は、今度こそレジへと会計のために向かった。

 




力尽きた。書き出しを遠くに置きすぎたんだよな……。
そろそろこのシリーズ、短編詰めじゃなくゴミ箱とかにした方がいいのかもしれない……
コミカライズ二話目もよかったですね〜〜〜!
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