短編詰め   作:夜鐘

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サンラクくんが怖い話をするだけ。



思い出せない(NoCP)

 

 

 

 ええっと、これは俺が高校に入る前に聞いた話なんだけど、うちの学校の保健室、なんかでる、らしいんだ。ーーいや、まじまじ。本当だって。そりゃあ、うちの学校は七不思議だって七つ揃ってない、霊的なものに縁がない学校だけどさ。

 え?いかにもな伝聞形で入るのがあからさまに作り話っぽい?おいおい、そういうメタ読みはやめようぜ。折角こうして人数を集めて雰囲気を作ってるんだからさ。それに始める言ってただろ?話す内容は、誰かから聞いた話でも良いし、何処かで聞いた出どころのわからない噂話でもいいってさ。

ーーああ、それは勿論。実際に自分が体験した話でも問題ない。まあ、そんな体験をしたことがあれば、だけど。

 

雰囲気でてきた?

 

 じゃあ、話を戻すか。ーーはあ?最初からお前らが茶々入れる所為だろ?なんかよく分からん空気になったから、仕切り直しだよ。

 最初に言った通り、これは俺が高校に入る前に聞いた話なんだ。教えてくれた人は、学校の近くでゲームを売ってる個人店の店長さんで、学校の近くに店を構えているからかな?結構噂話とかにも詳しくてさ。雑談の一つとして教えてくれて。その人も卒業して大分経ってるし、もう話してもいいだろって。そう言う話。

 

 その話をその店長さんに教えてくれたのは、その当時のうちの学校の生徒。男子で当時、高校二年生だったらしい。

 その男子生徒はさ、ちょっと体調を崩しがちっていうか……ぼかさず言うと夜更かし常習犯のゲーマーだったらしい。個人経営のゲーム屋に店長と仲良くなるほど顔を出すんだから、お察しってやつ?新作ゲームが出ると寝る時間を犠牲にして攻略に勤しんでたらしいよ。気持ちはわかる。俺らだって攻略の為に、極める為に、遊び尽くす為に、朝方までゲームの中にいることなんてザラだろ?でも、そういう生活を学生の身でしてると、どうしても直面する問題があるよな。

 

 そう、授業中の眠気。

 こればっかりはどうしようもない。これはゲーマーじゃなくても一度は経験があると思うし、ゲーマなら言わずもがな……あるよな?

 それをうまく誤魔化すやつもいれば、開き直る奴もいると思うんだけど、彼はどうしても眠気が勝つ時は、うまく授業をサボって、保健室で仮眠を取ることが多かったらしい。でも成績はそこそこで、先生からも概ね真面目って評価だったんだってさ。そう自分で言ってたらしいから、要領のいい人だったんだと思う。

 

 その日は、二徹目の四時間目の前にひどい眠気が襲ってきたらしくて。体調不良を理由に授業をサボって保健室に行ったらしい。養護教諭の先生はそういう生徒には慣れっこで、次の授業にはちゃんと出るように約束して、空いてるベッドで寝かしてくれた。

 

 それからーー、どれくらい寝てたんだろうな……。二徹目の眠気で、一度本格的に寝だしたら、起こされでもしない限り、熟睡モードに入っちゃうだろ?少なくとも俺はそうなんだけど。10〜20分の仮眠で自然に起きるなんて事はないはず。

 でもさ、不思議な事にその人は自然に目を覚ましたんだ。保健室にきた時は、空いてたはずの隣のベッドにカーテンが引いてあった。目を覚ましてすぐ、あれ、先生なんで起こしてくれなかったんだろう?って思ったらしい。他の人が保健室に来たことも気づかないほど、相当深く眠ってた自覚があったから、放課後まで寝過ごしたんじゃないかって思ったんだってさ。

 

 でも、その割にはやけに保健室の中が静かだったからすぐにおかしいなって思ったらしいよ。ほら、学校って基本、何処にでも人がいるから休み時間とか放課後って何処にいても人の声が入ってくるっていうか……ザワザワしてるだろ?あの感じが全然なくて、じゃあまだ授業中だろう、眠気もなんかスッキリしてるし、教室に戻るかって先生に声をかけようとしたんだけど、丁度、先生が保健室にいなくて。

 

 それ自体は、保健室の常連だったからさ。退出時間をノートに書いて戻ろうとしたんだって。うん、そう。レイ氏は知ってると思うけど、うちの学校の保険室って入室時間と退出時間を書くノートがあってさ。基本、先生とか保健委員が書くものなんだけど、その時は誰もいなかったから、自分で書いて、保健室を出ようとしたんだよ。けど、書こうとしてすぐ違和感に気づいたんだ。

 

あれ?自分の名前がない。って。

 保健室に入った時は養護教諭の先生が書いてたのを彼は見てたのに、ノートの最後のページのどこにも自分の名前がなかった。先生が書き忘れたのか、古いノートに間違って書きつけたのか、兎に角。彼が見る限り、そのノートには名前は見つからなかったらしい。彼は保健室の常連で、先生とも何度も顔を合わせていたからそういうこともあるだろうと、それなら退出時間と一緒に入室時間をかけばいいだろうとノートに向かって、ぞっとした。

 

自分の名前がわからないんだ。

 

 ペンを持った手が一向に動かない。一瞬のパニック状態になるまで時間はかからなかったらしい。確か四時間目が始まる前に保健室に入った時には、養護教諭の先生に「また来たの?」と名前を呼ばれたはずなのに、よく覚えていない。休憩時間に友達に呼ばれたはずなのによく思い出せない。ゲームでよく使っていた名前は本名をもじったものだった筈なのに、それさえも判然としない。よく思い出そうとするほど、記憶はまるで遠い昔の記憶を思い出そうとする様に、霞かかってしまう。

 そんなパニック状態なものだから、まともな行動は取れなかったんだ。普通に考えたら職員室に駆け込んで生徒一覧を見せてもらうとか、そうまでしなくても、教室に駆け込めば友達の一人や二人が彼の名前をよんでくれたかもしれない。ーーこのノートに退出時間を書かないと、ここから出れないっていう錯覚というか、脅迫観念を覚えてたのかもな。

 この状況で保健室の外がしんと静まりかえっているのも、いやに不気味に感じるだろ?

 

 それで、必死になって名前を絞り出そうと思って、ふと気づいたんだ。ノートの一番最後にひとつ、退出時間が書かれていない名前があるって。その名前はなんというか、見覚えのない名前だとは思ったらしい。でも、自分の名前が思い出せないんだ。状況的に見ても、これが自分の名前なんじゃないかって思うのは、おかしな発想でもなんでもない。

 

 そうだ、そうに違いない。退出時間を書いてここを出てしまおう。

 

 自分にそう言い聞かせて、追い立てられる様にデジタル時計の時刻を走り書きで書きつけて、保健室の出入り口に手をかけて退出したんだ。

 

 ん?そうそう。別に保健室から出れないとかそういう事はなかった。普通に教室に戻れたし、その時には学校特有の喧騒も戻ってきてたし、教室に戻れば友達が自分を名前で呼んでくれた。ーー保健室でノートに書いてあったその名前をさ。

 

 

おしまい。

 

 

***

 

 

「なんというか、怖い話……?」

「一発目だしこんなもんじゃね?」

「確かに一発目から、首を切りに来るような話をされてもねえ」

「しっかり不気味さはあった」

 

カッツォと鉛筆がルストを巻き込んで、好き勝手言っているが、何事においても一番手ほど、緊張するものはないんだよ。次の話をする前に批評会に移るのはなんなんだ。嫌がらせか?

 

「あの、ベッドに寝てた人は、保健室から出れたんですよね?」

「普通に出れたって、サンラクさん言ってたけど……」

 

 秋津茜がそうつぶやくと、モルドがその呟きを拾って不思議そうに首を傾げた。

 

「あ、いえ。その人じゃなくて、その人が寝てる間に保健室にきて眠ってた人……」

「はい!秋津茜さんは気づいてはいけない事に気づいてしまったのでSANチェック、かなぁ?」

「京極さん!?」

 

 こういうのはわからないのが不気味なんだから結論を求めるのは無粋だよ?と京極はカラカラと笑った。おいおい、残暑の怖い話大会の続きはどうした。俺だけ話しておわりか?はぁー?身内だけのゆるい企画だけどさあ、最低限、やろうって言い出したペンシルゴンの話とついでにカッツォの話を聞くまでは終わらせないが?二人に念を送っていると、近くにいたレイ氏がこそりと秘密の話をする様に声をかけてきたので、思考を一旦中断する。

 

「い、岩巻さんは、こういう話もお詳しいんですね?」

「本人曰く、乙女ゲー以外は専門外らしいけど。あの人も大概バイタリティに富んでるからなあ。あ、そういえばこの話、ちょっとだけ余談があってさ」

「そう、なんですか?」

「うん。その人、岩巻さんのお店の常連さんだったんだけど、高校を卒業した後は、ぱったりお店に来なくなったらしくてさ。実はその人、顔見知りなんだ。友達とかではなかったけど、ワゴン覗きながら話したこともある。ーーだからこの話をしようと思った時、あれ?って思ったんだけど」

 

 

「そういえば、あの人の名前思い出せないなって」

 

 




おしまい。

旅狼メンバーが、学怖とか洒怖形式で怖い話をする話が読みたくて書いたけど、怖い話を作る才能がないという気づきを得ました。
この話が漫画ならホラー系一発芸:ケチャップ吐血を途中で挟んでギャグになってたかもしれないのでセーフ(?)

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