業魔を斬りまくってたらいつの間にか「指揮官」と呼ばれていたんだが。 作:Million01
ヤベー奴にヤベー奴をぶつける作品。
ヤンデレが多い重桜に鋼のメンタルを持った感情が一部欠落した業魔ならいけるでしょという思いつき。
あと、重桜にいても違和感ないし。
- 重桜 某所の酒場にて -
酒場の席にて長身の男が酒を飲んでいた。顔の右半分は少し長い黒髪で隠れ、まるでこの国出身と思わせるほど着物を着こなしている男。その傍らの壁には普通の人間とさほど変わらない長さを持つ大太刀が二振り掛けてあった。
賑わう酒場に一組の男女が入店する。
一人は酒場には似合わぬ白いスーツを少し体格の良い男、そしてもう一人はショートカットの黒髪に金色の瞳の女性。
酒場を利用しに来るにはどちらも相応しくないかっこうをしており、店に足を踏み入れて数秒、店の中を見渡した。
そして、男がとある席へと向かっていく。それに続いて女性も後ろを歩いた。酒場ではどよめきが起きてはいるが二人にはそんなことは気にしていなかった。
「相席、よろしいでしょうか?」
そしてその席に座っている男に声を掛けた。先程の長身の男が目を閉じていた瞼をゆっくりと開けた。
「…………嗚呼」
一組の男女がかれと向かい合う様に席に座る。スーツ姿の男が飲み物を頼み彼と向き合った。
「お前か、俺に用があるという奴は」
着物を着た男がスーツ姿の男の瞳を眺めそう言った。
「私、重桜政府に所属するユウ・タチカワ少佐です」
ピクリと着物姿の男が眉を動かし、スーツ姿の男を睨みつけると自身の盃に注いであるお酒を口に移した。
「で、そのお偉いさんが俺になんのようだ?」
コトン、と空になった盃を机の上に置いて再び盃にお酒を注ぎ始める。
「……単刀直入に言います。力を貸して頂けませんか?」
「断る」
スーツ姿の言葉に彼が直ぐに返答をする。そこで男はなぜ断るのかと聞いた。
「簡単な話だ。お前達に力を貸す理由がない。こんな剣士なんかよりこの国にいる"KAN-SEN"とやらの力を貸してもらった方がいいはずだろう?」
KAN-SEN、それは突如として現れた力を持つ少女達。その力は海を走り、魔を倒す力を持つとされている。
「それなりにお詳しいですね」
「そりゃあな、数年もここに滞在してれば詳しくもなる」
それにもう話すことはないだろう、と呟き男に席を離れるように促した。
だがそれでも男は一歩も引かずスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出し彼に見せた。
「これは重桜や鉄血、ユニオン、ロイヤル付近の海域に出現する特殊な業魔"セイレーン"です」
そこに映っているのは見たことのない技術を使う白い髪に白い肌の少女だ。
「ほぅ……コイツが……」
彼がニヤリと笑う。まるで少しは知っているかのように。
「それでソイツを俺に見せて何がしたいんだ?」
彼の言葉に男がゴクリ、と息を呑む。ここまでは男の思惑通りだった。
彼の事は重桜でもそれなりに有名だった。数年前にパッ、とここにやってきてひたすらにこの地の業魔を斬り続ける男。それが彼だ。なんでも特殊な業魔を斬るためにやってきたのだとか。
そしてその彼が斬るべき業魔はこのセイレーンだと男は睨む。
「私がこの写真を見せたという事はもうお分かりなのでは?」
小さく呼吸を整えて男がそう呟いた。
「なる程な。お前達は俺にこいつを斬ってほしいという訳か……いいだろう、その話に乗ろう!」
彼が大きな声で答え笑う。その表情に男はホッと胸を撫で下ろした。
「それならば安心です。では、この日とこの時間にこの港に向かってください……」
かくして、夜叉の男は新たな物語が書き記される。
「お待ちしておりました。わたくし、重桜所属の空母、
後日、指定された日時と場所へと向かうとそこには一人の女性が待っていた。赤い着物を着たツインテールの黒髪の女性。大鳳と名乗った女性はニチャァと笑う。
「俺はロクロウ。ロクロウ・ランゲツだ」
ロクロウ・ランゲツと名乗った着物姿の彼は腰に手を当て、胸を張った。大鳳と似たような笑みを浮かべて。
新しい指揮官に向けた期待の笑みと新しい敵との戦闘の期待の笑み。
どちらも人間がしていい顔ではない。
「話はユウ少佐から聞いています」
それなら話が早いと頷く。
「で、俺は何をすればいい?」
ロクロウは首を傾げる。さしずめこの大鳳はお目付け役か何かだろうと認識する。
「はい。まずはこの母港の中を案内させてもらいます」
ついて来てくださいと言って母港の中へと入る大鳳にロクロウは何も言わずに付いていく。
「ロクロウ様は異大陸から来たと聞きましたがどうしてこの地に?」
「ン、嗚呼。簡単な話さ。異大陸でやりたい事が無くなったからな。だから俺は新しい
なるほど、と呟いて大鳳が母港の中を案内していく。
「人が見あたらないな……」
「新しい指揮官候補が見つからなくこの母港が使われておりませんでしたので……」
「なるほどな、この母港を使うときには新しい指揮官がいる、と……ン?」
ロクロウがそこで何かに気付いたように声をあげる。
「さて、一通り案内いたしましたのでまずは建造をしましょう」
「建造?」
「はい。建造ドックでメンタルキューブを消費して新しい戦力を増やすんです」
大鳳の言葉が理解できずにロクロウはそのまま首を傾げる。
「よくわからんが、それがやることだと言うのならやっておこう」
その言葉に大鳳が頷いて青く輝く立方体を手渡した。
「へぇ、これがメンタルキューブというやつか……あっちでは見たことないな」
大鳳と一緒に建造ドックへ向かい、メンタルキューブを使用する。
「今回はこの高速建造材を使用しましょう」
カッ、と宙に浮いていたメンタルキューブが輝き始める。ロクロウが無意識に距離を取った。
だが、大鳳は驚く様子もない。これがどうやら普通のことらしい。
光りが凝縮し、人の形を形成する。
赤い瞳が輝き、白い髪を靡かせ少し奇抜な剣を右手に持つ少女。
「吹雪型駆逐艦の改良型、
「早速、良い子が来ましたね……早速、海域に行きましょう」
「はい。俗に言う戦闘です」
「!」
ロクロウが待っていたと言わんばかりにニヤリと顔を歪ませる。
ロクロウ・ランゲツは"夜叉"だ。これは例えや比喩ではない。まごうことなき夜叉である。
強者との戦闘を好み、そのためなら手段は選ばない狂人。それが彼、ロクロウ・ランゲツだ。
だが、彼はあることに気付いていない。大鳳が"海域"と言った事を。
「ン、どこで戦闘するつもりだ?」
「海上ですよ。何せ、敵はセイレーンですから」
「俺はどうすればいい?」
「指揮官様は指示を出すだけで大丈夫ですよ」
その言葉にロクロウが張り上げた
「おいおい。俺はセイレーンと戦えると聞いたんだがどういう事だ?」
顎に手を当てて首を傾げる。
「ユウ少佐から聞いてませんか?指揮官様がセイレーンと戦えるのはもう少し先のはずなのですが……」
「……乗せられたな」
「え?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ。俺は指示を出せばいいんだったな」
「はい、前衛が綾波。後衛がわたくし、大鳳という配置になります」
大鳳が頷くがロクロウがう〜ん、と首を捻らせる。
「指示、と言われてもな率直に言うが俺はお前たちの戦い方を知らん」
そう言うと大鳳がポンッ、と両手を合わせて笑顔で頷いた。
「それでしたら海域に出向くのは後日にいたしましょう。その間に指揮官様にある程度の知識は教えますので」
その言葉にロクロウが言葉を詰まらせた。あまりそういうのを覚える気がないロクロウであるため顔を渋らせた。
そして大鳳が綾波を連れて母港へと戻っていく。
「海の業魔か……あまり、見たことなかったが……」
その後ろ姿を見てロクロウが虚空を見つめた。業魔とは色々と戦ってきたが海の業魔とは戦ったことがない。何より、海の上となると戦いようがない。
「戦いたいが海の上で活動するとなると俺でも戦いようがないからな……。セイレーンを
顎に手をあててどうセイレーンと戦えばいいか悩み始めるロクロウ。そんな彼の背後に狂刃が迫る。
太陽の光を浴びて輝く二振りの脇差がX字となってロクロウの首へと迫る。
ガキィンッ!と火花を散らし金属音が鳴り響く。
「いい腕だ。だが、俺を殺したいんなら殺気を抑えることだな」
いつの間にか襲撃者の方へと振り向いていたロクロウが手に持っていた二振りの黒い小太刀を相手に見せてニヤリと嗤う。ロクロウが襲撃者の姿を確認した。
白く長い髪に白い肌。額からは二本の角が生え、金色の瞳がキラキラと輝いている女性。そして背には船の砲塔のようなものが複数展開されている。
その姿はまるで……。
「なるほど、お前がセイレーンか」
ユウ少佐から見せられたセイレーンと似た姿だった。二本の脇差を装備し、背には大きな太刀が納刀されていることを除けばセイレーンに近い姿を持つ。
「嬉しいぜ。お前達は海の上で活動する奴らだからな。こうやってお前たちがこっちへ来てくれるとなると俺が戦えるッ!」
言い終わるのと同時に腕をクロスして地を蹴る。両側から挟むように小太刀をセイレーンへとふるった。
キィンッと甲高い金属音が鳴り響き、火花が生じる。ロクロウの小太刀を塞いだのだ。だが、彼の剣はそこで終わらない。舞うように、弧を描いて刃がセイレーンへと迫る。
刃と刃が激しくぶつかり合う。セイレーンもロクロウも表情を変えずに攻防を繰り広げた。
「……!」
ロクロウが目を見開いた。セイレーンがロクロウの手から小太刀を弾いたのだ。
だが、ロクロウに驚く暇はなかった。セイレーンが頭上へと跳びクルリ、と身体を捻り回転させ、その勢いを力に脇差を振り下ろす。まるで鋏のように構えられた脇差がロクロウの頭部へと振り下ろされる。
「っ!」
ロクロウが素早く背にX字に背負っていた二振りの大太刀の内、片方の柄へと手をかける。
チャキ、とその大太刀の鯉口を切ってそのまま鞘から抜き始めた。
「───■っ!?」
直後、セイレーンが横へと吹き飛んだ。巨大な鉄の塊をぶつけられたかのように身体が吹き飛び、地面へと叩きつけられ転がっていく。
「指揮官様っ!!」
セイレーンが吹き飛んだ逆方向から大鳳と綾波がやってくる。
「指揮官様、お怪我は?」
ロクロウの元まで駆けつけてきた大鳳をロクロウは睨む。
「手を出すなよ」
そんな大鳳の心配を無視し、彼はそう言い放つ。彼は弾かれた小太刀を拾ってセイレーンが吹き飛んだ方向を見た。
「───■■っ!■■っ!!」
セイレーンが何かを言いながらロクロウを睨むがロクロウには理解できない言語だった。
「邪魔がはいって悪かったな」
キッ、と睨んでセイレーンが起き上がるのを待つ。膝を震わせながらセイレーンは起き上がる。それほどまでに先程の攻撃が強烈だったのだろう。
だが、ロクロウはそんなことは気にしなかった。このセイレーンはまだ力を隠し持っていると睨んでいるのだ。
「さぁ、死合おうか」
チャキ、と小太刀を構えてセイレーンと対峙する。だが、セイレーンはロクロウを睨むだけで構えはしない。チッ、と舌を打ってその場から離脱する。
「…………」
その様子を見てロクロウが構えを解いて小太刀を懐へとしまう。
「今のやつの太刀筋……」
まさか、な……とロクロウが呟いた。
《KAM-SENとセイレーン》
ロクロウ「セイレーンか、一重に同じ姿をしているというわけでもないんだな」
大鳳「はい。彼女たちは私達KAN-SENと同じように様々な個体がおります。ですが、わざわざ陸まで来て奇襲を仕掛けてくるセイレーンは今まで一度も……」
ロクロウ「別にそこは何ら不思議ではないだろう。実際、お前達KAN-SENも陸では活動できるんだからな」
綾波「指揮官、見てほしい施設があるのです」
ロクロウ「応。今からそっちへ行く。待ってろ」
大鳳「先程の指揮官様を狙ったセイレーン……。あまりにも引き際がよすぎる。そして何故か指揮官様がここに来ることを知っていたかのように……」
大鳳「そんな情報を知り得ているのは極僅か。指揮官様が情報を漏らす理由なんてないし、
ロクロウ「おーい。大鳳。お前は来なくていいのかー?」
大鳳「今、行きますわ!」