その身に咲くは剣の花   作:ヤマダ・Y・モエ

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初めまして。
BLEACHの漫画読み直してみたらふと二次を書いてみたくなったので投稿します。


第一話

 

 

気が付いたら真っ暗だった。

いや、正確には何も見えない訳ではない。どういう訳か、自分の姿ははっきりと見えるし、周りを見れば白装束を着て頭に三角巾を被った人達がズラリと並んでいた。どうやら、人や物ははっきりと浮かび上がるらしい。暗い時は何も見えぬという俺の常識が今木っ端微塵に砕け散った。

……ん? そもそも俺とは誰だ?

 

「はい、次の人ー」

 

 自身の忘却というかなり重大な問題が頭に浮かんだのだが、それも前から聞こえる声によってかき消えた。

 声のした方を見てみると、そこには黒い着物を着た男がいた。その横にも同じような者がおり紙を手渡しているようだ。紙を手渡された者はそのまま光になって消えていった。つまり、白装束を着て並んでいる者はあの紙をもらうために並んでいるのだろう。

 

「? 次の人ー、早くして下さーい」

 

 どうやらまだ『次の人』とやらは前に進んでいないようだ。一体どれだけ愚鈍なのか。呼ばれたらすぐに行くというのが常識というものだろうに。

 そう思いながら前を見てみると黒い着物を着た男はこちらを見ていた。というか、俺を見ていた。

 自分を指差し『え、俺?』と確認してみると男はぶんぶんと首を振って肯定の意を返してきた。成程、愚鈍なのはどうやら俺だったようだ。

 

「はーい、じゃあ君は……げっ」

 

 ちょっと待ってほしい。『げっ』とはなんだ。そんな露骨に嫌そうな顔をするんじゃない。何を配っているのか知らないが、明らかにハズレじゃないかその反応は。

 

「は、ははは……そんなに睨まないでほしいのだけど……。ま、まあ! なんとかなるさ!」

 

 会ってまだ五分と経っていない男の『なんとかなるさ!』ほど説得力の無いものはない。

 

「し、仕方ないんですって! これ僕達が任意で決める訳じゃないんですから……。と、とりあえずはいどうぞ! よい死後を!」

 

 男は訳の分からない事を言って俺にその紙を押し付けてきた。

 というか、さっきこの男はなんと言った? 死後? 死後とはあれか、そのままの意味で死んだ後という事か。

 

 つまり、俺は死んだという事か。

 

 その結論に達した瞬間、取り乱す暇もなく俺は光に包まれていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

【流魂街】

 どうやら死後の世界というのは天国でも地獄でもなくこの流魂街という所らしい。らしいというのは、他人の又聞きであり俺自身が確認した訳ではないからだ。とはいえ、確認する術など他人から聞く以外にない故、コレは俺の中ではほぼ確定事項なのだが。

 それはそうと、黒い着物を着た男が俺にあの紙を渡す際に露骨に嫌そうな顔をした理由が分かった。あれはどうやら『嫌そう』というよりも『憐み』を多段に含んだ顔だったようだ。というのも、これも他人の又聞きだがこの流魂街は1~80の地区に別れているらしいのだ。そして、その当てられた数字が小さければ小さいほど治安が良いらしい。逆に大きければ大きいほど治安が悪く、80なんかはもう人の住むような所じゃないとかなんとか。まあそんなことはどうでもいい。問題はあの男が露骨に憐みの視線でこちらを見てきた事に対してだ。そう、ここまでこれば誰でも分かる。俺に割り振れられた地区は大きい方の数字なのだ。しかも下から数えた方が早いぐらいの。

 

南流魂街78地区【戌吊】

 

 80じゃないのを喜ぶべきなのか、こんな中途半端ならいっそ80にしてくれと嘆くべきなのか。いや、ここは中途半端なのを喜ぶべきであろう。もし80にいたらせめてもう少し小さい数字が良かったと嘆く筈だからだ。

 だが、生活に困っていることに変わりはない。聞けば、死んだ者は腹が減らないという。しかし、何故か俺の腹は減る。俺はそういう幽霊なのか。

 訳が分からないが、余所は余所、ウチはウチの精神でやっていかなければならないようだ。疑問に思っていたとしても解決策が浮かぶ訳ではないからだ。しかし、問題は流魂街に住む大半が俺の様に腹が減るという不具合を感じる訳ではないということだ。つまり、食料の需要が少ない。俺にとっては死活問題だ。他人から盗むという手もあるが、犯す罪の重さに比べて得られる利益が少ない。場合によってはハズレもあると考えると尚更だ。

 これらの事を考えた上でどうするか。生きる上では何が必要なのか。俺が出した結論は……狩猟生活である。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 考えてもみて欲しい。何故日々を怯えながら過ごすのか。何故飢えに怯えるのか。それは人がいるからだ。

 人がいなければこうして野生生物を狩って生を繋ぐことが出来る。しかも、他人に気を配る必要はない。寝込みを人に襲われる心配もない。代わりに動物に襲われる可能性はあるが、人間に比べれば可愛いものだろう。場所を選べば心配なし。

 早速今日の飯を獲ってくるとしよう。出来れば肉が良い。最近食べていなかったからな。

 

「きゅ?」

 

 飛んで火に入る夏の虫とはこのことか。目の前に兎が現れた。愛くるしく首を傾げながらこちらの様子を窺ってくるがそんなことは関係ない。野生に生きているのならいつ他人の血肉となるか分からぬものだ。そして、血肉とする事を戸惑ってはならない。俺は狩る。明日を生きる為に、未来を生きる為に。

 この日、俺は生きるという事の本当の意味を知った。

 

 

 

 

 

本日の収穫

・うさぎ肉

・生きるという意味

 

 




流魂街の食糧事情などはオリジナル設定です。

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