その身に咲くは剣の花   作:ヤマダ・Y・モエ

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新生活が始まった為、投稿がいつもよりも少し遅れました。
それはそうと、この前ふとランキングを覗いてみたらなんとこの小説がランキング入りしておりました。たいへんうれしいことです。読んでくれた方々、感想をくれた方々、どうもありがとうございます。……まあ、一番驚いたことは一週間ぐらい前までは100ぐらいしかなかったお気に入りが、一気に900人以上まで跳ね上がったことですね。これもたいへんうれしいことです。お気に入りしてくださった方々、ありがとうございます。


第十一話

 

 

 ―――もしもーし

 

 ……。

 

 ―――もーしもーし

 

 ………。

 

 ―――あーあ、駄目ねこりゃ。むしろ前よりも遠ざかってる

 

 …………。

 

 ―――ハァ、霊術院ってとこに入って死神を目指すだかなんだか知らないけど、平和ボケしたら意味ないわね。最近は“妾(わたし)”を振ってないし、焦らされるのは趣味じゃないんだけど。

 

………………。

 

 ―――反応が無いのに喋ってるのも虚しいだけね。森で暮らしてれば、今頃良い感じに妾色に染まっていたというのに儘ならない使い手なこと。ま、気は長い方だし、精々死ぬまでに会えると良いわね?

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 無事進級をして変わった授業内容にようやく慣れて早二週間ぐらい。

 進級したとしても俺の生活は大して変わることは無い。早朝に起きて鍛錬、授業、夕食を食べて鍛錬、入浴、就寝。端的にいうと俺の生活はこれの繰り返しだ。一見退屈そうに見えるが、これはこれで充実した生活だ。しかし、最近どうも何か物足りないような気がする。何が物足りないのか俺にも分からぬが物足りないのだ。森にいた時は感じた事が無かったのだが……一体何なのだろうな、これは。

 いや、分からぬことは分からぬし、ましてや俺のことだ。日々を過ごしていればいずれこの物足りなさの原因が分かるだろう。それまでは、今まで通り生活し、何が物足りないか分かったら行動する。これでいい。

 

 さて、実は今日、現世で魂葬の実習がある。前々から魂葬に付いてはクドクドと説明を受けてきた。俺達が死神になった際、現世で任務に付いた場合、これは必須技能だから教師もより丁寧に説明した。なんでも、斬魄刀の柄尻の部分を死者の額に押し付けて終わり、という簡単な作業らしい。ただ、霊力の調整が苦手な奴ほど手古摺るらしく、まさに俺にとって鬼門となる。いや、どうなのだろう。俺が苦手なのは【破道】だけであり、【縛道】は得意なのだ。一概に霊力の調整が苦手とは言い切れない。……俺の体の事なのだが、どうしてこうも曖昧なのか。鬼道全般が駄目なら判断のしようがあるというのに面倒な事だ。これでもし魂葬しようとしたら逆に幽霊を爆散させてしまうような結果になってしまったらどうしようか。腹でも斬るか。

 

「何やってんのよ、さっさと……って、ア、アンタ、何よその覚悟決めたみたいな顔」

 

 腹斬りの覚悟を決めていたところ、横から声が掛かった。紫蘭だ。次の授業が遂に現世での実習の為、一向に動く気配が無い俺を連れ出しにでも来たのだろう。進級しても生徒の面子は変わらない。なので今年も面倒な俺のことは全て紫蘭に押し付けようという魂胆らしい。一応言っておくが、俺は自ら問題を起こしたことはない。起こした問題と言えば試験の時の試験官殺人未遂と茶碗大量破損ぐらいだ。なので面倒者扱いされるのは誠に遺憾である。

 

「魂葬如きで何をそんなに張り切ってるんだか。ま、いいわ。ボサッとしてないで早く行くわよ」

 

 死神の立派な仕事である魂葬を如きというとは不謹慎な奴め。しかし、早く行かなくてはいけないのは事実な為、特に不満を表に出すことなく紫蘭に付いて行く。

 いざ行かん、現世。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 現世で実習と言っても、全員を教師が監督する訳ではない。都合よく彷徨える幽霊が一カ所に纏まっているのもありえない事なので、各自で四、五人の班を作り、卒業見込みの六回生がそれを監督するのである。教師は危険が無いか見回りだ。

 そして、当然の如く俺と紫蘭は同じ班だが、もう二人か三人がこちらにやってくる気配が無い。どうも俺たちを省いても丁度既定の人数になったようだ。露骨にホッとしている奴もいるな。その露骨さは俺が流魂街に案内される前の死神を思い出すな。あいつは露骨に嫌そうな顔をしたがな。

 俺たちの成績は三回生でも頭一つ二つ飛び抜けている為、俺達が二人でも問題は無いとのこと。俺にとってはむしろ好都合かもしれない。昨日の夜、目標を虚を殺す事と定めた以上、それを何としても実行したいからだ。これを実行される上で一番懸念していたのが足手まといがいるかいないかだったが、紫蘭なら大丈夫だろう。しかし、監督する死神がいるというのは厄介だ。虚が出てもその死神が倒してしまうかもしれないからだ。まあ、その辺りは俺の運次第か。まさか邪魔だからと監督の死神を後ろから刺すわけにもいかないからな。

 

 監督死神との挨拶もそこそこ、俺たちは彷徨える幽霊を探し始めた。俺たちの自主性を重んじる為か、基本的に監督死神は陰ながら俺たちを見守っているらしい。「めんどいから後はよろしゅう」なんて言葉は俺たちの中で勝手に美化しておいた。

 

「と言ってもやる気無いわねあの死神。御座なんて敷いてお茶飲んでるわよ。あ、こっち見た。うわ、なにあの顔。腹立つわね……!」

 

 あの死神はもう俺の中で道端に転がっている石ころと変わらん。気にしないのが吉と判断する。

 さて、幽霊を探して一時間、遂に山の中で発見した。刀を引っ提げて辺りを目的も無く歩いているように見える。とりあえず引き止めて、どっちが初魂葬に挑むか決める。

 

「あたしとしてはどっちでも良いんだけど、どうすんのよ? この侍、なんかすごい形相でこっち見てるんだけど」

 

 確かに刀を俺達目掛けて振ってきているな。だが残念な事に斬魄刀ではない刀で斬っても死神に傷は付かない。だから俺も紫蘭も気にしていないのだがな。

 

「ま、とりあえずじゃんけんで決めましょうか。最初はグー、じゃんけん」

 

 ポン

 

 俺はグー、紫蘭もグー。つまり、あいこだ。

 

「あいこで」

 

 しょ

 

 俺はグー、紫蘭もグー。つまり、またあいこだ。

 

「いやちょっと待ちなさいよ。アンタやる気無いでしょ。さっきから腕を動かしてすらいないじゃない」

 

 それはお互い様だと思うのだが。

 お互いが勝つ気の無いじゃんけんは適当にグーを永遠と出し続けるだけの為、一向に勝負がつかない。仕方が無いのであっち向いてホイで決めた。俺の勝利だった。

 

「じゃ、アンタが先ね」

 

 どうやら勝った人が先にやる取り決めだったらしい。俺はてっきり負けた人が先にやるものだと思っていたのだが、違ったようだ。どちらでも良い為、別に構わないのだが。

 侍の幽霊を向きあい、早速魂葬をしようとするも、ブンブンと刀を振り回して非常にうっとおしい。気にせずにやることも出来るが、やはり邪魔な為、でこピンで相手を沈めてみる。侍は仰け反った頭を木に打ち付け気絶した。何故か親近感が湧いた。とりあえず、気絶させたところで柄尻を額に押し付け魂葬してみる。

 

「ぎんもぢぃいぃぃぃいいぃいぃぃ!!」

「ブフォ!!?」

 

 尸魂界に送られる直前、侍が訳の分からない言語を叫んだかと思えばそれに驚いた紫蘭が思いっきり吹き出した。正直、俺もかなり驚いた。柄にもなく表情筋を動かして驚いたと思う。何だったのだろうかあれは。日本語に直すと『気持ち良い』だろうか。気持ち良かったのなら結構だが、あんな奇声を上げる必要があったのだろうか。紫蘭なんか顔を青くして「ありえないわ……。あれが人間の出せる声……?」と戦慄を隠せない様子だ。

 

「アンタって、なんでこう、所々で吃驚するような変な事するのよ……」

 

 故意にやっている訳ではない。今のは俺でも吃驚したぞ。

 その後、紫蘭の魂葬用の幽霊を見つけ出し、無事に魂葬を終えた。俺の時とは違い何事も無く普通に、だ。こいつも少しは俺の様な失敗をしても良いと思うのだが、少なくともこの一年間、こいつは失敗という失敗をしていない。全てをそつなく、優秀にこなしている。大したものだ。

 紫蘭の魂葬を終えたら丁度集合の時間になった。終始何もしなかった監督の死神は終わった瞬間出てきて「そんじゃお疲れさん」と言って瞬歩で集合場所まで戻っていった。俺たちも走っていくのは面倒なので瞬歩で集合場所に戻る。余談だが、三回生で瞬歩が使える者はそんなにいない。全体の二割ぐらいであろうか。四回生になると完成度は兎も角、使える者は増えてくるのだがな。

 

「んー、あたしたちってあんまり瞬歩の鍛錬してこなかったわよね?」

 

 集合場所に皆よりも早く付いたので適当にその辺りに腰を下ろして休んでいると、突然紫蘭がこんな事を聞いてきた。確かに、俺たちの鍛錬と言えば斬術と白打が主だ。鬼道は俺が自爆するという欠陥を抱えている為、鍛錬はせぬし、瞬歩も鍛錬せずともそこそこ速かったので鍛錬したことは無かった。

 

「じゃあ瞬歩の鍛錬もしていかない? 外出許可とればアンタの昔住んでた森とかで鍛錬できるわよね?」

 

 俺が昔森に住んでいたことは既に教えてある。隠すような事でもなかったので、聞かれた瞬間すぐに教えた。教えた時は少し驚いていたが、どこか納得したような顔をしていた。

 昔話は此処までで良いとして、突然瞬歩の鍛錬をするとはどういうことだろうか。外出許可は三回生になれば取れる物であるが、それでも週に二、三回取れれば良い方というそこそこ取り難い物だ。そこまで回数を重視していないのだろうか。

 

「やっぱり何事も疎かにしちゃいけないと思うのよ。アンタの鬼道はもうどうにもならないにしても瞬歩は鍛錬してそんなこと無いでしょう?」

 

 成程、確かに紫蘭の言う通りだ。少なくとも瞬歩は創意工夫次第でいくらでも速くなる。鍛錬しておいて損は無いだろう。それに、虚との戦いでは必須技能だからな。

 

「じゃ、そういうことで週末辺りに外出許可取りに行きましょ。野宿はアンタの得意分野よね?」

 

 野宿する気か。確かに得意分野というか、昔はそれが生活という感じだったので問題は無いが。

 全員が集合するまで、週末の森での野宿についていろいろ計画を立てた。そしてその後尸魂界に戻り、夕食を食べた後、いつも通り鍛錬をして就寝した。つまり、現世での実習があったということ以外はいつも通りの一日であった。

 しかし、森に戻るのも久しぶりだ。狩りの腕は鈍っていないものか不安なところがあるが、二人以上で狩猟生活することは無かったので少し楽しみではあるな。

 

 

 

 

 

本日の収穫

・魂葬(気持ち良い)

・週末の予定

 


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