その身に咲くは剣の花   作:ヤマダ・Y・モエ

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お決まりの前書きですが、投稿が遅れて申し訳ない。
ちまちま一日に100~500、暇があれば500~1000文字のペースで書くとこれぐらいの更新速度になってしまうのです。楽しみにしてくれている人には申し訳ない限りです。


第十三話

 夕方になった。俺と紫蘭は疲労で固まった筋肉を入念に伸ばし、たき火を囲んで飯が焼けるのを待っていた。

 俺と紫蘭の瞬歩の競い合いは予め決めておいた木にどちらが先に傷を付けれるか、という勝負方法だった。結果は、互角。しかし、競い合う『速さ』という点においては紫蘭の勝ちだ。僅差だったが、木に辿り着き刀に手を掛けたのは紫蘭の方が早かった。しかし、木に傷を付ける時の剣速は俺の方が僅かに速かった。故に、結果的にいえば互角。

 

「ねえ、まだ焼けないの?」

 

 今日の鍛錬の結果を振り返っていると正面から紫蘭の今か今かと待ち侘びる声が聞こえた。肉の様子を見てみると、ジュウジュウと肉汁がとても良い感じに滴っていた。うむ、少々熱いが食べ頃だな。

 

「ほんと!? じゃあ、あたしコレッ!」

 

 いくつかある内の一番大きいやつを紫蘭は取り、それに齧り付いた。まあ、一番大きいやつは紫蘭に譲るつもりだったから別にいいのだが、もう少し遠慮というものをしても良いと思う。しかし、今更そんなこと気にする様な仲でもないと考えるとそんな小さい事どうでもよく感じる。

 

「熱っ!」

 

 齧り付いたは良いが出来たては当然熱い。肉から口を話した紫蘭は舌を少し出して顔を顰めていた。舌を火傷したのだろうか。

 とりあえず、霊術院から持ってきた水を飲むように促す。火傷したなら冷やすべきだろう。俺が火傷した時はどう対応されたか知らないがな。

 

「ありがと」

 

 紫蘭に水を渡しつつ、冷ましておいた肉を齧る。うむ、やはり熊の肉は美味い。猪は流石に一日の期間では食べ切れないので、襲ってきた狼の餌にでもしておいた。狼たちの餌は何も俺達でないといけないということは無い。あいつらにとってみれば食えればなんでも良いのだ。よって、猪をその場に置いて去れば、あいつらは追ってくることも無く、その餌を喰らうのだ。

 

「そういえばアンタ、森で生活してた時、飲み水どうしてたのよ? 川の水は危ないっていうじゃない?」

 

 それは愚問というものだぞ紫蘭。そこにあるものを使い、食し、飲まなければ狩猟生活なんてものはやっていけない。川の水が危ない? 俺からしてみればそれがどうした、だ。飲まなければ死ぬのだ。腹を下そうが嘔吐しようが飲まなければ死んでしまうのだ。

 

「……あー、うん。愚問だったわね。聞いたあたしが馬鹿だったわ。あんたの事だからきっとすぐに慣れたんでしょう?」

 

 俺が愚問と思った理由と紫蘭が愚問と思った理由が違う。いや、実際紫蘭の言ったことは正しいんだがな。俺は川の水にすぐに慣れた。初めは腹を下したりと色々忙しかったが、今ではなんともない。

 

 食後の果実も美味しく頂き、俺は寝る準備を始めた。寝る準備と言っても寝床を整えるという意味ではない。焚火の炎を消さない為の薪の準備だ。無論、今回のこの野宿の目的が瞬歩であるから、瞬歩で薪を集める。紫蘭にも協力してもらっている。明確に競い合っている訳ではないが、紫蘭よりも多くの薪を拾ってくるべきだと俺の本能が語りかけてくるのだ。紫蘭も何故か鼻息を荒くして張り切っていたので、あちらも俺よりも多く薪を拾う気であろう。望むところだ。こっちは伊達に一年近く毎日薪を拾ってきた訳ではないと思い知らせてやろう。……片腕で勝てるかどうかは気にしてはいけないところだろうな。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「うーん。野宿って星空とか綺麗だと思ってたんだけど、何も見えないわね」

 

 夜、俺と紫蘭は各自寝る場所で横になって夜空を見ていた。紫蘭は満天の星空を期待していたようだが、焚火の明かりでそれを見ることは敵わないだろう。消せば素晴らしい景色がそこにある訳だが、夜中に焚火を消す事は獣たちに食べてくれと言っているようなものだ。

 

「そういえば、これで後は寝るだけな訳?」

 

 そうだな。野宿、というか狩猟生活は夜にする事が本当に無い。後はもう寝るだけだ。

 

「そっか……。じゃあさ、暇だから一つ聞いて良い?」

 

 聞きたい事? 紫蘭が俺に聞きたい事があるとは珍しい。まあ、普段とは違う特殊な環境なので普段とは違うことが思い浮かんだんだろう。

 

「アンタはさ、何で死神になろうと思ったの?」

 

 何故死神になろうと思ったか。ふむ、そういえば考えたことも無かったな。きっかけは怪我をして入院していた時に百合子殿に進められ、今よりも生活水準が上がるならと思ったことだな。霊術院に入ってからは、ひたすら強くなる為に鍛錬をしたな。

 

「あたしはね、上級貴族なのよ。両親は面子を気にするし、他の貴族との交流でわざと負ろと言われた時もあった。あたしもね、嫌々だったけど親の言うことを聞いて負けたりもしたわ。でも、あたしだって人間だもの、我慢の限界だってあるわ。ある日、あたしは親が負けろと言った試合で相手をボコボコにしたの。そしたらその相手、癇癪起こしてもううちと商売はしないとか何とか言って帰って行ったわ。実際、うちと商売はもうしなくなったわね。これが原因であたしは家を事実上勘当されたわ。今は面子があるから周りに隠して正式な手続きはしてないのだけど、それも死神になるまで。死神になったら本当に勘当され、あたしはもう二度とあの家の敷居をまたぐことはないわ。……なんか話が逸れちゃったわね。ま、あたしが言いたいことは要するに、あたしを勘当した親に一泡吹かしてやりたいわけ。元々そんなに好きじゃなかったから勘当された件に関しては結構どうでもいいんだけど、なんか悔しいじゃない? あと、単純に強くなりたいっていうのもあるわね。負けるのは嫌だもの。……さて、あたしは話した! じゃあ次はアンタね。言っとくけど、ちゃんと声に出してよ? アンタの感情は結構読みやすけど、さすがに今回ばかりは言ってくれなきゃわかんないわ」

 

 

 中々に重たい話を聞いた気がする。まあ、俺が口を挟んだところで何かできるわけでもない。紫蘭も俺が関わることに良い顔をしないだろう。親がいない俺に紫蘭の気持ちは分からぬし、この件は関わらずに聞きに徹するとしようか。

 それにしても、声に出して、か。

 いや、それよりも死神になろうと思った理由か。そういえば、俺は何故あんなにも鍛錬をするのだ? 狩猟生活していた時からの日課とは言え、霊術院に入ったのなら目的はほぼ達した筈だ。それなのに、俺は狩猟生活の時よりも更に厳しい鍛錬を何故こなしていたのだ? 単純に考えるなら、心理的な面で強さを求めていたからだろう。では、何故強さを求めたのか。その根幹にある物は何なのか。………あいつか。カロール・コンブスティーブレ。あいつが俺の強さを求める根幹にあるのか。それなら、俺が強くなろうと、死神になろうとしている理由は一つだな。

 

「……奴に、借りを返す為だ」

「へっ!?」

 

 聞こえなかったのか? 俺が強くなろうとしている理由は、奴に、コンブに借りを返す為だと言ったのだが。奴に持っていかれた腕の借りをな。奴の尻尾を一本を半分に断ち切ってやったが、あいつは尻尾が三本あるのだ。せめてあともう半分断ち切らねば納得がいかない。

 ああ、一つの疑問が解決すると妙にスッキリするな。良い感じに睡魔が襲ってきた。今夜はぐっすり眠れそうだ。

 

「ねえ、ちょっと! アンタ今喋ったわよね!? もう一回! ちゃんと聞いてなかったからもう一回言って!」

 

 五月蠅い。俺は眠るのだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

―――フフッ、思わぬ収穫ね。これで少し近付けたかしら?

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

本日の収穫

・何かへの第一歩

 


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