その身に咲くは剣の花   作:ヤマダ・Y・モエ

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第十五話

 

 長期休暇期間を紫蘭の家で過ごしてからさらに月日が経った。

 俺は特に変わりないが、紫蘭の方は家との確執を完全に絶ってきたらしい。詳しくは語られなかったが、なんでも中途半端に勘当するならさっさと完全に勘当して欲しいと、会いたくもない両親に直訴したらしい。まあ、それについては俺が気にすることではないか。家のことは解決した、もう何も問題はない。俺がわかっているのはこれだけで十分だ。

 さて、三回生には長期休暇の他にもう一つ特別な行事がある。試験だ。物々しい名前がついて院生なら見ただけで顔を顰めそうなものだが、実際は一年間学んだことの総復習だ。三回生なら魂葬がそれに当たる。

 以前、俺の魂葬は魂魄に意味不明な奇声を上げさせるという謎の結果に終わったが、あれの原因は二度目の実習で明らかになった。

 前提として知っていてもらいたいことは、魂葬にも技術があり、各個人によって上手いか下手かが分かれるということだ。上手い者は滞りなく魂葬を終え、下手な者は尸魂界に魂魄を送る際に魂魄の方に痛みが生じる。この痛みの度合いも人によって違うらしく、少し苦手だというだけならばチクリと針で刺された程度の痛みで済むらしいが、そうではない者、つまりかなり苦手な者がやった場合はかなりの痛みが生じ、度を越えて苦手な者は度を越えた痛みが生じる。

 さて、ここまで言えばある程度の人は俺が何を言わんとしているのか分かったと思う。念の為にもう一度言っておくが、魂葬は得意な者が行うと“滞りなく”終わり、苦手な者が行うと“痛み”が生じるのだ。俺の場合、何も滞りなく終わったか? 答えは否である。むしろ魂魄に奇声を上げさせるという暴挙をしでかしてしまった。そう、俺は魂葬が下手な部類に入るのだ。しかもかなり。

 二回目の魂葬の実習を行った際に、俺が担当した魂魄は、俺が魂葬をすると同時に「ギャァァアアアアア!!!? 痛ってぇええええええ!!」と叫びながら昇天した。この瞬間、俺は魂葬が苦手であるということが分かった。

 ではなぜ一回目の時、あの魂魄は「気持ちいい」と言ったのだろうか。気になった俺は紫蘭に聞いてみたところ、「アンタは……分からなくていいのよ……」となぜか遠い目をして言っていた。教えてくれなかったので次に清之介に聞いてみたところ「まあ……君は知らなくていいんじゃないか?」とはぐらかされた。だからなぜ俺が知ってはいけないのだ。次こそはと、最近少し会話を交えた紫蘭と同室の矢胴丸リサに聞いてみたところ「それは単純にそいつの性癖や。痛みつけられることに快感を覚える奴やな」と言っていた。なるほど、だからあの魂魄は「気持ちいい」と言っていたのか。……いや待てよ。俺はここで思った。痛みを快楽に変換できるというのはかなり便利な技能ではないだろうか。思い立ったが吉日と早速紫蘭とともにその技能を体得しようとしたが、紫蘭には全力で却下された。序でに誰がこのことを教えたのかと聞いてきたため正直に矢胴丸と答えたら「リサァアアアアアアア!!」と怒声を上げながらどこかに行ってしまった。この後、二日ほど矢胴丸は霊術院を休んでいたのだがこのことと何か関係があるのだろうか。できればないと信じたい。

 さて、このような感じで、俺はたまにある大きな出来事以外はすべて鍛錬に費やした。紫蘭が当初目標としていた飛び級をするというのは達成することができなかった。紫蘭は悔しがっていたが、俺はこれはこれでいいと思っている。何故なら、単純に鍛錬する時間が増えるからだ。時間は無限に刻まれていくが、俺たちの時間は有限だ。限られた時間を有効に活用しなくてはならない。特に、この院生である時間はな。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 この一年を軽く振り返ってみたが、矢胴丸と交流することが少し増えたこと以外は特に去年と変わったことはなかったな。まあ、その交流をした本人は「なんや、本当に喋らんやっちゃな」と顔を顰めていたが。なので、俺はあっちから喋りかけてこない限りはあまり関わらないようにしている。嫌いな奴に関わられるほど苦痛なこともないだろう。

 さて、そろそろ現世に着く。そこで俺たち三回生は魂葬の試験をし、教師の合格点がもらえればめでたく四回生に上がることができる。

 俺と紫蘭は今回に限り別々の班だ。実力に偏りが出るのは試験の際に不平等が出るからとのことだ。今頃紫蘭は魂葬だけに及ばず、斬拳走鬼すべてが苦手な者と組んでいることだろう。まあ、紫蘭はあれで面倒見が良いため、その者の合格はほぼ間違いないと思うがな。

 問題は俺だ。俺という生徒は実に面倒な生徒であり、鬼道は【破道】が撃てず、魂葬は相手に絶大な痛みを齎してしまうほど苦手だ。【破道】も使えず、魂葬も苦手、だが三回生で最優秀の成績を修めている紫蘭とは互角にやりあえる。これほど扱いに困る生徒もいないだろう。要は、俺に成績が芳しくない生徒と組ませるべきか、俺が紫蘭の次に成績が優秀な者と組むべきかが教師陣の悩みどころというわけだ。まあ、それは結局のところ、俺が成績の芳しくない生徒と組むことで落ち着いた。理由はわからないが、決められた班に文句を言う気はない。紫蘭以外と組むのも偶には良い。むしろ、紫蘭に慣れてしまうと感覚が麻痺してしまうため、こういう組み合わせは望むところだ。……まあ、相も変わらず組んだ者には恐れられているがな。全く、毎回思うが、俺が何をしたというのだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 相方の魂葬は拙いながらも滞りなく終わった。魂魄は、少し痛かったのか顔を顰めていたが、試験管もこのぐらいならいいだろうと合格点を与えた。

 今回の試験は各班に一人ずつ、試験管が配備される。本職の死神たちだ。

 しかし、それ故に評価に若干のバラつきがあるのだが、本職が良しとしたならそれでいいのか。

 さて、問題は俺だ。俺の魂葬は苦手という次元をすでに超え、魂魄にとってみれば一種の兵器のような代物になっている。間違いなく、不合格扱いだろう。いくらこの死神の合格の基準が低くても、痛みで絶叫し、白目を剥きながら昇天される魂魄を見れば不合格にするはずだ。

 しかし、そんな未来に怯え、何もしないわけにはいかない。何事も行動しなければ前に進めないのだ。こんなところで止まっているようでは、『奴』に借りは返せない。そう意思を奮い立たせ、いざ魂葬と柄尻を目の前の魂魄に向けた瞬間―――

 

 

 

―――懐かしい、そう思える気配を感じた。

 

 

 

 

本日の収穫

・戦いの予感


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