その身に咲くは剣の花   作:ヤマダ・Y・モエ

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遅くなって大変申し訳ございません。
掛ける合間を縫ってちまちまと書いていたらいつの間にか一か月……。
お詫びに本日は二本立てとなっておりますので、それで勘弁してくだしあ


第十八話

 

 

 

 ぐちゃり、と肉が潰される音がした。

 私は、ほんの一瞬のことだったが、そのあまりの現実に意識が飛んでしまった。

 いや、それも無理はないだろう。

 なぜなら、その潰された命というのは、この約三年間を共に過ごした親友、寄生木アセビだったのだから。

 飛んだ意識の中でこれまでの思い出が思い出される。

 初めて会った時のこと。一緒に鍛錬している時のこと。森で過ごした時のこと。夏の長期休暇を共に過ごした時のこと。

 楽しい思い出だけではない。鍛錬や親と縁を切るなど、つらい思い出もあるけれど、アセビと過ごした日々はとても充実していた。

 このまま、ずっと続くものだと思っていた。

 進級、時には飛び級し、そこそこ優秀な死神として護挺十三隊に配属に共に入隊し、慣れない環境に時には愚痴をアセビに聞かし、また次も仕事を頑張る。こういった、当たり前の日々が続くものだと思っていた。

 なのに。

 その続く筈だった日常は、突然現れた虚に奪われてしまった。

 

「アセ、ビ……?」

 

 力なく垂れ下がる腕、動く気配のない足。

 当たり前だ。手足が無事でも、それを動かすための頭が潰されてしまったのだから。

 

(誰に?)

 

 目の前の虚に。

 

「……さない」

 

 ああ、これほど激情を覚えたのはは一体いつ頃だったか。両親と喧嘩した時よりも怒っているかもしれない。

 

「許さない……!!」

 

 いくら感情が昂ぶっても、もうこの体では満足に敵を斬れないし、鬼道も撃てない。でも、だからと言って、ここで何もしないわけにはいかない。アセビを殺されたのだ。せめて、一矢報いてから私も後を追わねば、アセビにあわせる顔がない。

 なけなしの霊力を集め、私が今もっとも得意とする破道を放つ。

 それは、アセビが縛道において私の一歩も二歩も先に行くものだから、負けまいとして毎晩毎晩がむしゃらに練習した破道。アセビに追いつくために頑張ったのに、そのアセビの敵をとる為に使うことになるとは皮肉もいいところだ。

 

「破道三十―――」

 

 その破道を唱えようとした瞬間、カロールから膨大な量な霊力が溢れ出た。いや、カロールじゃない。この霊力は私が普段、いつも身近に感じていたものだ。

 分からないわけがない。これは、この霊力は―――

 

「晒せ『串刺し姫』」

 

 ―――アセビのものだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 斬魄刀の始解の条件は『対話』と『同調』だ。

 自らの斬魄刀と『対話』し、そしてその名前を聞き出して『同調』してから初めて始解ができるようになる。

 ……が、それはあくまで一般的な斬魄刀の在り方であり、俺の斬魄刀は容姿も奇抜なら始解の方法も独特だった。しかし、その独特な方法だったからこそ、俺はカロールに噛み砕かれることなく、今もこうして生きているのだろうな。

 

 意識が現実に戻ると同時に、すぐさま始解し、カロールの頭部を串刺してやろうと思ったが、俺の霊力が上がると同時にカロールは口を離し、後ろに跳んで行ってしまった。

 

「……改めて、名乗っておこうか」

 

 厳かな声でカロールは言った。さっきまでとはまるで違う、しかし、俺が初めて会った時と同じ雰囲気だ。なるほど、どうやらそんなことにも気付かないほど、俺は腑抜けていたのか。

 

「私の名は、カロール。カロール・コンブスティーブレだ。貴様は?」

「……寄生木。寄生木アセビ」

 

 お互いに名乗りあった。

 これ以上の問答はいらない。

 カロールは四肢に力をこめ、俺はこの始解が最も使いやすい状態、つまり完全に脱力しきった状態で相手の一挙一動を見逃すまいと相手を見据えた。

 

「……」

「……!」

 

 先に動いたのは俺だ。

 始解を会得する前の俺なら確実に後手に回ったであろうこの状況。しかし、今の俺は違う。答えを……否、あるべき姿に戻った俺はそんなヘマを犯さない。確実にしとめるため、常に先手を打ち、不意をつく。

 “不意をつく”。簡単なようで戦闘において最も難しいことだ。相手の不意をつくには、常に相手の思いもよらぬことをし続けなければならない。例えば、斬魄刀も持たずただ素手をカロールの口めがけて放つ俺のように。

 

「なっ……!?」

 

 ただの拳打を放たれるとは思っていなかったのだろう。一瞬カロールの動きが止まるが、すぐさま反応して俺の腕に喰らいつくためその顎を開いた。

 

 それが俺の狙いだとも知らずに。

 

「……ぶち撒け、串刺し姫」

 

 カロールの顎が閉じようとした瞬間、俺の右腕から紅い棘が皮膚を突き破った。

 噛み切るために力をこめた顎が例えその棘に気付いたとしても途中で止まれるはずもなく、カロールの口内を棘が貫いた。

 

「アガッ!!?」

 

 触れたらこちらのものだ。そのまま棘を枝分かれさせるように体内を蹂躙していけば、どんな生物でも死に至るだろう。

 しかし、それを実行しようと思った瞬間、指先に感じた僅かな熱を感じ、腕を引き抜き身を捩る。そしてその瞬間、まともに喰らったら炭化してしまうであろう程の熱量を持った熱線が放たれた。体を捩じった勢いを利用し、手の甲からと長い棘を生やし、叩き付けようとした。が、腹に凄まじい衝撃を受けた。カロールの尻尾だ。

 尻尾によって吹き飛ばされ、木を何本もへし折ってようやく減速する。

 受け身をとったところで追撃に熱線が迫るが、瞬歩によってそれを避ける。なるほど、口内を蹂躙したが、さして問題にはなっていないか。

 幸い、始解を会得したことにより、物理的な攻撃はほぼ効かなくなった。つまり、以前の俺とは違い、まだ戦える。

 

「……ここまでのようだな」

 

 しかし、俺の思いとは裏腹にカロールはここで幕を引こうとする。

 何故だ?

 

『いたぞ! こっちだ!』

 

 ……成程。そういえば、現場には監督の死神がいるのだったな。集合場所で人が足りないのなら探しに来るのも当たり前か。

 

「またしても、私は貴様に傷を付けられた。しかも、今度は一方的に……!!」

 

 視線で射殺すとはこのことか。視線に物理的威力があれば俺の上半身が吹き飛んでいるだろう眼力でカロールは睨んでくる。

 

「……いずれ、貴様を完膚なきまで叩き潰せる力を身に付けたとき、再び私は貴様の前に現れる。その時までこの勝負、預けるぞ」

 

そう言い捨てるとカロールは森の奥へ消えていった。

それと同時に死神たちが近づいてくる気配を感じる。紫蘭はすでに回収されたようだ。ということは、気付かぬうちにかなり離れていたのだな。

 

「……!」

 

 戦いが終わった安堵感からか、はたまた初めての始解を用いての戦闘からくる疲労なのか、急に四肢に力が入らなくなった。

 身近にあった中ほどから折れた木に凭れ掛かり、そのままズルズルと座り込む。ともあれ、戦いは終わった。紫蘭はおそらく無事であろうし、俺も始解を会得できた。過程は無様の一言だが、結果だけ見ればよかったのではないだろうか。

 そう自己評価をしていく内に、徐々に目の前が暗くなっていった。

 ああ、疲れたな。今は、ゆっくり休むとしよう……。

 

『そうね。お疲れ様、宿主様?』

 

 

 

 

 

 

 

本日の収穫

・始解

・勝利




友人に書いてもらったアセビくんです。次の話に紫蘭を載せます。



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