前回、次は番外編と言いましたが、あれは嘘です。
この話で二十話なので次で番外編となります。
二日後、俺は退院した。傷は完治していないが、すでに入院しなくてはいけない段階は超えており、これ以上入院する意味がないからだ。
紫蘭は未だに入院中だ。もとより俺よりも酷い怪我だったのだ。それなのに始解の鍛錬をしてしまったから治りが遅くなり退院時期も遅くなったらしい。自業自得と言ってしまえばそれまでのことなのだが、止めなかった俺にも非はある。だからといってどうすることもできないのだがな。今日も今日とて始解の鍛錬中だ。
さて、俺は今日で晴れて自由の身となったわけだが、自由を満喫するためには一つ障害が残っている。それは、霊術院からの呼び出しだ。なんでも、俺の今後についての重要な話し合いがあるのだとか。内容のある程度の予想はついているのだが、呼び出された以上行かないという選択はあり得ない。
◆◇◆◇◆
さて、霊術院に呼び出されて教師と死神の今後についてのありがたいお話を終え、今は自室にて先の話を自分なりに整理している。
話というのは案の定、霊術院生であるのにも関わらず始解を会得してしまった俺の今後についてだ。結果から言うと、半分は俺の予想通り、もう半分は俺の予想外の話だった。
まず予想通りの方は、俺は死神になるらしい。今すぐ、というわけではなく残りの死神になる上で必要な技術を詰め込み方式で学んでから、とのことだが。必要な技能というのは、まだ俺たちが手を出せない鬼道、【回道】だ。【破道】に全くと言っていいほど適性の無い俺が修められるのかどうかは微妙だが、【縛道】は他の生徒よりも頭一つ抜きんでていることから、一応やっておけと言われた。それが終わればめでたく死神だ。いつになるかは俺の才能次第というところか。まあ、【回道】の才能があろうとなかろうと俺の行く進路に関係はないのだがな。
そう、この進路というのが俺の予想外な話なのだ。
死神はそれぞれ護挺十三隊という所に所属している。それぞれの隊に役割があり、俺にも希望の隊というものがあるにはあった。戦闘専門の部隊、十一番隊である。
日々戦闘漬けの生活。それは俺が強くになるにはうってつけの環境だと思ったのだ。俺の数少ない理想も今日来たとある隊の副隊長に粉々に粉砕されたわけだがな。
隠密機動第二分隊『警邏隊』隊長、または二番隊副隊長、大前田希ノ進。
これには驚いた。何故こんなところに二番隊の副隊長が来るのかと。そしてまさか俺が二番隊に配属されるとは夢にも思わなかった。
というか、俺はどっちに配属されるのだろうか。二番隊隊士として配属されるのか、隠密機動として配属されるのか。そもそも二番隊に死神っていたのか。……ともかく、俺には二番隊に配属されることになった。
流石に予想外だった。自分の理想が十一番隊だったとはいえ、客観的に見てもそこが俺にとって一番合っている隊だと思っていたのだから。それが他の隊ならともかく、隠密性の高い二番隊とは驚いた。いや、隠密行動ができないわけではない。むしろ得意な分野だが、何も考えずに戦う方が性に合っている。しかし、俺が配属先を選ぶことが出来る立場ではないことは分かっている。特別優秀な成績も残していない。今回の件も異例の事態故の特別な措置だ。ここからは俺の勝手な想像なのだが、おそらく二番隊に配属されたのもただ単にそこにしか空きがなかったからだろう。実際、あの二番隊副隊長殿も何やら渋い顔というか、どこかぎこちない様子だった。要するに、俺は招かれざる客、ということになる。
全く、ここに入院した時もそうだが、何故俺はこうも人間関係に苦心するのか。俺に問題があるのは分かっているが、それでも俺が関わる人間には癖が強すぎると思う。……そうだな、別に理由があったわけではないが、これからは必要最低限、人と本当の意味で会話するとしようか。
◆◇◆◇◆
―――何が『特に理由がない』よ。久し振りに人に会ってどう話せばいいのか分からなかっただけのくせにね。
◆◇◆◇◆
翌日。紫蘭は退院していた。
驚くべき早さだが、本人が言うには「退屈だったから一日大人しくしてたら治った」らしい。そんなに早く治るのなら初めから大人しくしていてほしかった。
それはそうと、退院したことは喜ばしいことだ。ならば挨拶にいくのが筋というものだろう。
丁度食堂に紫蘭の姿を発見した。言葉をかけるなら今だ。
「しら―――」
「あ! やっと見つけたわアセビ! アンタ一体全体どういうことよ!」
俺はこの状況がどういうことなのか分からんのだが。それにお前が大声を出すから皆の注目の的ではないか。見ろ、そこらの人がこっちを見てコソコソ何か話しているではないか。
「彼が噂の……」
「馬鹿、目を合わせるな。半殺しにされるぞ」
解せぬ。何故俺は何もしていないのにこうも悪名が広がる。目を合わしただけで半殺しとはいったい何だ。俺がいつそのようなことをした。
「何よアンタ二番隊に配属されるんですってね!?」
……そういえば、この話題で紫蘭を泣かせてしまったばかりだったな。俺に過失は全くないとはいえ、どこか気まずい。
「なんで十一番隊じゃないのよ!!」
そっちの話か。そして俺自身もそれに関しては今でも疑問に思っている。
いやそれよりも、何故紫蘭が俺の配属先について知っているのだ?
ふと、視線を逸らすと、こちらに目を向け眼鏡を光らせる人物がいた。というか、矢胴丸リサだった。なるほど、お前が犯人か。
「お蔭様であたしの一人勝ちや。感謝しとるで」
こちらに近づいてきてそういう矢胴丸。いや待て、勝ちってなんだ。
「アンタの配属先で一種の賭けをしとったんや。あたしが二番隊、紫蘭が十一番隊で清之介が一番隊」
ああ、そういうことか。それで賭けを外した紫蘭が行き場のない怒りを俺にぶつけたわけか。まあそれはいつものことだから良いとして、個人的には清之介がこの賭けに参加していたことが意外だったな。当の本人は俺たちが今晒されている視線に巻き込まれないように席で茶を一杯やっているわけだが。
……いや、待て待て。今の問題は賭け事云々ではなく、何故こいつらが俺の配属先を知っているか、ということの方が問題だ。もう答えは出ているも同然だが、それでも答え合わせは必要だ。
「……矢胴丸。お前、盗み聞きしたな?」
「喋った……やと……!?」
そんなに俺が喋ることが意外か。いや、それもそうか。霊術院に入って人前でまともに喋ったのは初めてだしな。主に口を開いたのは紫蘭の前だけだった気がする。
「……本来あの話は外部に漏れてはいけない類いの話だ。だから、くれぐれもばれない様に注意しろ」
そこまで秘匿にしなければいけない情報ではないと思うが、まあ、俺が配属されることが確実になるまで外部に漏れないのなら漏れない方が良いだろう。でなければ、わざわざ呼び出して人目のつかないところで話す理由もないのだから。
「喋ったと思ったら何故か心も広い……」
何故かとは何だ。俺は元々心は広いつもりだ。狭かったらあのような謂れのない悪名に今すぐ怒鳴り散らして怒っているだろうに。
「この前からそうだけど、アンタ急に喋るようになったわね? 何かあった?」
何かあった、か。
きっかけはカロールとの出会いだが、決意したのは俺が二番隊に配属されると分かった時だ。まあ、一言で言うなれば、
「……心境の変化だ」
これに尽きる。
本日の収穫
・二番隊配属(予定)
・心境の変化