戦姫絶唱シンフォギアTN   作:瑠和

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第二話です。此処までのFIS側の経緯になります


第二話 律叉の経緯

「なんとかなりましたね」

 

ここはつい先ほど世界に宣戦布告した組織、フィーネの本拠地だ。かなり昔に潰れた病院を利用している。その一室でマリアと一人の老婆が話していた。

 

この老婆の名前はナスターシャ。マリアたちにはマムと呼ばれている。

 

「ええ、この化け物が起動しないことには私たちの計画は始動しない」

 

「そういえば、彼……ユウリはどうでしたか?」

 

ナスターシャはユウリこと律叉のことを尋ねた。マリアは少し考えてから答えた。

 

「実践投入は早すぎたと思うわ。戦闘力は申し分ないし、敵の動揺も誘えたけど、抑えが効かないのよ。勝手に特攻されて捕らえられたら面倒だわ」

 

「そうでしたか。ですが、これは貴方たちの望んだこと。制御方法を考えるとしましょう」

 

「そうね」

 

 

 

-シャワールーム-

 

 

 

シャワールームでは調と切歌がシャワーを浴びていた。切歌は楽しそうに何かの話をしているが調の表情は少し強張っていた。

 

「何も背負ってないあいつが人類を救った英雄だなんて、私は認めたく無い」

 

調の言葉に、切歌は小さく頷く。

 

「本当にやらなきゃいけないことがあるなら、たとえ悪いと分かっていてもやるしかない…」

 

調は胸の中で押さえきれなくなった何かを叩きつけるように壁を殴ろうとした。しかし、その手を誰かが掴んで止めた。

 

「!!」

 

律叉だった。

 

「わぁ!いたんデスか!」

 

いつの間にか現れた律叉に、切歌は驚く。

 

「………離して」

 

「………」

 

律叉は調の腕を離す。しかしそれと同時に律叉は姿勢を少し低くし、そっと調にハグをした。全裸の少女に間もなく成人の男が抱き着くなど事案ものだが調はそれを嫌がる様子もなく、受け入れる。

 

「…………困っている人を助けるというのなら、どうして」

 

さらにマリアがやってきてシャワーを浴び始める。

 

「それでも私たちは、私たちの正義とよろしくやっていくしかない……迷って振り返っている時間なんてもう……残されていないのだから」

 

「……マリア」

 

「ユウリ、身体を洗いなさい」

 

「………」

 

マリアにそう言われ、垢すりを渡されるとユウリはその指示に従った。

 

「一緒にシャワー浴びるのだけはどうしても慣れないデース」

 

切歌が言う。

 

「仕方ないでしょ?ユウリは一人じゃ何もできないし、命令すれば動くけど放っても置けない。いつ何を感じ取って壁をぶち抜かれるかわかったもんじゃないんだから………」

 

マリアの言うとおりだった。律叉は今一人では何もできない。

 

 

 

ここで話は少し前に戻る。律叉は月の欠片を破壊したのちに破壊の衝撃で地球に墜ちた。大気圏から海までの間はなんとかギアが持続し、着水したところでギアもアンクスも崩壊した。

 

そしてしばらくの間海を漂流し、その日たまたまプライベートビーチを使っていたマリアの元へ流れ着いた。

 

彼女に拾われ、律叉は米国連邦聖遺物研究機関、通称「F.I.S」に保護された。

 

命の危険があった律叉は、律叉の過去を知っていたウェル博士の提案で体内のドラン族のDNAを活性化させることによる覚醒を施された。リンカー投与により覚醒と回復は成功。しかし律叉は暴走した。肉体が竜へと変貌する一歩手前でマリア、調、切歌によって止められた。

 

しかし、その後目を覚ました律叉は異常だった。何にも反応せず、動こうともしない。そのことに関してウェル博士とナスターシャは徹底的に律叉を調べた。

 

「色々と興味深いことがわかりました。彼はいま正直生きているとは思えません」

 

「どういう意味?」

 

「恐らく目が見えてません。瞳孔と虹彩が反応を示していないのでほぼ間違いなく。ですが一定の物事に対するアクションはあります。まず生理。トイレを目の前に置いておけば勝手に行きます。食事も与えれば摂るし睡眠も勝手に摂ります。ですが動こうとしない」

 

「生きた人形………いいえ、まるで動物園の動物ってところかしら」

 

「そんな感じですね」

 

「それで?」

 

「彼の体内にある聖遺物で彼を延命させてた原因かと。強制的に覚醒させた影響で生きるのに必要な機能以外ほとんど機能されてません。知識も、感情も、恐らく五感のほとんども。しかし、不思議なことに人の感情にだけは反応します。敵意を持つ者には攻撃を、悲しむ者には抱擁をと、負の感情に対して大きく反応し、恐らく知っている行為の中で最善のものを選ぶ………」

 

「それで彼はどうなるの?」

 

マリアは律叉の処遇を聞いた。

 

「上は吟味しているみたいです。貴重な聖遺物と人間の融合サンプル。実験に使うか、危険と判断し処分するか、大人しく日本政府に引き渡すか………あなたはどうしたいと?」

 

「どうして私に?」

 

「いえ、妙に彼を気にかけているように見えたので」

 

海岸で見つけた時の律叉はボロボロだった。その姿は絶唱を口にしたマリアの妹、セレナとどこか重なるところがあった。

 

「………気のせいよ」

 

ナスターシャかとの話を終えたマリアはその足で檻に閉じ込められている律叉の元へ向かった。律叉はただまっすぐ前を見てたたずんでいる。マリアが檻の前に来ても反応する素振りはない。やはり目は見えていない様子だった。

 

「………」

 

マリアは哀れんだ目で律叉を見つめる。するとそこに、調がやってきた。

 

「調」

 

「………これが、世界を救った英雄の末路…」

 

「……かもしれないわね。仮に彼みたいになるしても、私たちはやらなきゃいけないことがある」

 

「うん………」

 

「セレナのためにも……」

 

「……うん」

 

「………♪ りんごは浮かんだお空に りんごは落っこちた地べたに 星が生まれて 歌が生まれて ルルアメルは笑った 常しえと………」

 

マリアは歌った。口癖のようにもなっている歌を。いつも通り歌っただけだがどこか律叉に聴かせているような歌い方だった。歌っていると、何もしていなかった律叉が突然立ち上がった。そしてマリアの前にまで歩み寄った。

 

「…?」

 

「………か……な…………姉」

 

そして檻から手を伸ばし、マリアの頬に手を添え、そのまま頭を撫でる。

 

「あなた………」

 

目は見えていない。聴覚も恐らくあまり役立っていないだろう。それなのに、律叉は反応を示した。

 

「マリアを誰かと勘違いしているのかな?」

 

「たしか姉が戦死したシンフォギア装者だったはずよ。私と同じガングニールの。マムが言ったように、五感ではなく気配を察知しているのであれば同じガングニール装者を姉と思っても不思議はないわね…………そうだわ、調」

 

「?」

 

「彼に名前を付けてあげて?」

 

「どういうこと?」

 

突拍子もない提案に調は困惑する。

 

「このまま捨ておくことはしたくない。マムに相談しないとだけれども、彼を連れて行こうと思う。戦力としても役立つしね。そしから彼を使って戦うなら、日本の装者と会敵した時に記憶が戻ると厄介だから、別の人間として扱えば元の名前で呼ばれても反応しないでしょう?たぶん聴覚は使えてる」

 

マリアは檻を隔てて律叉を抱きしめる。

 

「私の声が聞こえる?」

 

「………」

 

律叉は小さく頷く。やはり聴覚は反応しているようだ

 

「調」

 

「じゃあ…………ユウリ」

 

「ユウリ?どういう意味の名前?」

 

「いや、なんとなく…でも、私たちが利用するんだから、あまり思い入れのある名前は使わないほうがいいと思う」

 

「………そうね。ユウリ。貴方の名前はユウリ。いい?」

 

「………」

 

それから律叉の調教が始まった。名前がユウリだということを覚えこませ、音楽を聞かせていると遠くの他人の感情を感知しにくくなることが判明し常にヘッドフォンをつけることになった。他人の感情に対し色々反応するだけでなく、近くの人間の感情に同調することが分かった。その甲斐あってか日本のシンフォギア装者とのセントでは名前を呼ばれても反応する素振りはなかった。

 

一度一人でシャワーを浴びせているとき、誰かの敵意を察知したのか壁をぶち抜いたことがあったので一人にはできなかった。視界は使えてない様子なので一緒に浴びても問題はないだろうということになったのだ。

 

理由は分からないがマリアを奏と思い込んでいるせいかマリアの言うことだけはよく聞いていた。なので管理人としてマリアは律叉に付いていた。

 

調に対する抱擁も見慣れた光景だった。文句を言っても理解できてないだろうということで切歌も調も半ば諦めているのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-第二課仮本部-

 

 

 

「………」

 

事件のあった日の翌日。装者の三人は明らかに暗い空気の中、ミーティングが始まるのを待っていた。

 

「あれは………本当に律叉だったのか?」

 

クリスは小さく呟いた。クリスも顔ははっきり見たわけではない。信じられなかったのだ。誰かの為にと戦っていた律叉ともう一度対峙することが。

 

「間違いなくそうだろう。アンクスナックルを持っていたのが何よりの証拠だ」

 

「きっとなにか理由が………あると思いたいですけど」

 

響も気持ちは同じだった。

 

「どうみても律叉は異常だった。理由があって敵に付いたというより、洗脳されていると考えるのが妥当………と考えたいな」

 

「考えたいってどういうことだ?」

 

「和解したつもりだったが、彼としっかり話し合ったわけではない。この数ヶ月の間に、再び私への復讐を考えた可能性も………ないわけでは」

 

本当に僅かな可能性だがありえない話ではない。翼はあまり言いたくなかったがずっと考えていた可能性を話した。

 

「そんなことないです!」

 

「立花…」

 

「和解できてなかったら……きっとあの日、私たちのために戦ってくれたりなんて…」

 

「そうだな…。そうだ。私も、立花を信じるとしよう」

 

そういってもらって翼は少し嬉しかった。そこに資料を持った弦十郎たちが入ってきた。

 

「全員揃っているな。これからミーティングを始める」

 

 

 

ー同時刻ー

 

 

 

シャワーを浴びていた律叉は急に手を止めた。

 

「ユウリ?」

 

「…」

 

律叉の表情は険しくなっている。近くにいるなにかの敵意、悪意に反応しているのだ。

 

「ユウリ!やめなさい!」

 

マリアはすぐに律叉を抱き締め、気を反らさせる。このままにしておくと壁をぶち抜いて悪意の元へ向かいかねない。

 

「…」

 

それから間もなく院内に警報が鳴り響く。

 

「調、切歌、ヘッドフォンを持ってきて。私たちもすぐマムのところへ」

 

「うん!」

 

「おまかせデス!」

 

律叉にヘッドフォンを付け、マリアたちはすぐに着替えてナスターシャのところへ向かった。律叉は着替えに時間がかかるので全身を覆えるフードつきマントを着させられ、一緒に向かう。

 

「マム!今のは!?」

 

「次の花は未だ蕾故、大切に扱いたいものです」

 

ナスターシャのいる部屋にはナスターシャの他にもう一人、白衣を着た男がいた。男の名前はウェル。彼もF.I.Sに所属していた科学者だ。

 

「心配してくれたのね?でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ」

 

ネフィリムとは一種の完全聖遺物だ。先日のマリアと翼のライブ、QUEENS of MUSICで響たちの絶唱のエネルギーで起動に成功した生物型の聖遺物である。

 

「隔壁を下ろして食事を与えたから直に収まります」

 

そうは言うものの、ネフィリムが暴れることで発生している地響きは続く。

 

「マム……」

 

「対応措置は済んでいるので大丈夫です。貴方たちはユウリが暴れださないように見張っててください」

 

「……わかったわ」

 

それからナスターシャ達は今回の彼らの計画に必要な物の視察に向かった。律叉も連れていかれたが、もう夜も更けている。律叉は移動用のヘリの中で眠った。

 

「………」

 

眠っている律叉を調は眺めていた。

 

「調何してるデス?」

 

「見てる………ユウリはどんな人生を歩んできたんだろうって………」

 

「どういうことデス?」

 

「どんな経緯で戦いの世界に入ってきたのかわからないけど、みんなを守って、こういう風になって、ユウリは満足なのかな…」

 

「調………」

 

「兵器として利用している私たちが言うべきことじゃないのは分かっている。でも日本政府にもアメリカ政府にも渡せない……F.I.Sはユウリを実験動物としてしか見てなかった……どれだけのリスクがあるかわかって日本政府はユウリにアンクスを使わせた………これ以上、ユウリを苦しめたくない…」

 

調は律叉が戦士になった経緯を知らなかった。日本政府が無理やり律叉を戦士にしたと勘違いをしていたのだ。人類の為に命を賭して戦った律叉を、充分に苦しんだ律叉を解放してやりたいと考えていた。

 

 

 

続く

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