律叉が眠っていると、大型ヘリであるエアキャリアの中で響いたアラートに起こされた。起き上がるとなにやら調たちが慌ただしく走っていた。
「…………」
いま律叉に目は見えていない。しかし気配だけは感じている。聖遺物の反応も、十分に検知していた。アラートの原因はドクターウェルがいる病院が特異災害対策機動部にバレ、襲撃されたことだった。そして戦闘が開始され、ネフィリムも出されたが敗北、せめてネフィリムだけでも回収させようとウェルが逃がしていた。
それを回収するためにマリア達は向かっていた。
「まったく………いったいどうすれば」
「ともかく今はネフィリムとドクターの回収です。ドクターの放ったネフィリムを運んでいるノイズはいま装者が追っています。マリア、出てもらえますか」
「わかったわ」
いざ出陣しようとしたとき、マリアはふと律叉がいないことに気付く。
「まって。ユウリは?」
「え?さっきまでそこに………」
ナスターシャは大慌てで反応をサーチした。
「これは………まさかヘリの上!?」
いつの間にかヘリの上に律叉はたたずんでいた。
一方、襲撃を行った特異災害対策機動部の翼はネフィリムを運ぶ運搬ノイズの殲滅に当たっていた。
「はぁぁぁぁ!」
翼はノイズを撃破し、ネフィリムが入った檻を掴もうとした。しかし、その翼を律叉が蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた翼は浮上している特異災害対策機動部仮設本部の潜水艇の上に倒れた。律叉もそこに着地する。
「律叉…」
「……」
律叉はついでにキャッチしていたネフィリムの籠をその場に落として翼に対して構える。
「私たちは………また戦わなければならないのか…?」
「…」
翼の問に律叉は答えず、そのまま翼に向かって走る。
「くっ!!」
翼はアームドギアを構えるが攻撃にはいかない。律叉が放った蹴りを避け、後ろに下がる。律叉が追撃してくるが反撃はせず、受け流すだけだ。
『翼!臆せばお前が死ぬぞ!』
弦十郎が通信で叫んでくる。そんなことは重々承知だ。だが、そう簡単に割り切れることではない。翼は攻撃を避けながら必死に考える。そこで翼は律叉がつけている道具に目を付けた。
(あのヘッドフォンと機械のマスク…………あれが律叉の動きを操っている可能性がある!)
「ふっ!!」
一瞬の隙を見て翼は律叉のヘッドフォンと機械のマスクを切った。マスクとヘッドフォンが落ち、律叉は止まった。
「…律叉?」
「………う……ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
律叉は胸を押さえてその場に跪く。
「律叉!?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
律叉の胸から黒い影が出現し、それが律叉を一気に飲み込んだ。響の暴走状態と同じだ。しかもそれだけではなく、全身が真っ黒になった律叉は変形して黒い影が弾けた。影の中から現れたのは鋭利な3本のカギ爪を備えた手甲が装備された、竜のような怪人だった。
「え………?」
「ウォォォォォォォォォォ!!!!!!」
変態した律叉はカギ爪を使って翼を襲う。翼は驚きを隠せず、攻撃に反応しきれなかった。爪をなんとかアームドギアで受け止めるも、防御しきれずにそのまま吹っ飛ばされた。
「ぐぁぁ!」
「グゥゥゥ…………っ!」
翼を吹っ飛ばした律叉は追撃はせずに近くにいたウェルの方を見た。
「ガァァァァァ!」
そして潜水艇からひとっ飛びでウェルに飛びかかる。
「危ない!」
敵とはいえ命は命。響はウェルを抱えて飛んだ。律叉の爪は道路に深い爪傷を作る。
「グァァァァァァァァァ!!」
律叉が叫ぶと腰から尻尾が伸び、その先端が再びウェルを狙う。響は再びウェルを掴み、律叉の攻撃を避ける。律叉が出現させた尻尾はウェルの背後にあった岩を貫いた。
「律叉…」
「律叉さん!もうやめてください!」
「あのマスクを破壊するからですよ。あのマスクには彼の体内にある聖遺物を抑止するガスが仕込んであるんです。それがなければ暴走は必然」
「言ってる場合か!どうすりゃ止まる!」
クリスはウェルの胸倉を掴んで暴走の止め方を聞く。
「まぁ、我々が持っている抑制剤を直接投与すれば止まるとは思いますがね。その薬は今ここにはありませんし、そもそも取り押えられるかどうか………」
「なら、私が…」
「いいや!私に任せろ!」
響が律叉を取り押えようとしたとき翼は潜水艇から飛び、律叉の前に降り立った。律叉は目の前に現れた翼に爪で攻撃を仕掛ける。
「私がこの場で押さえる!二人は、その男を連れて一旦奴らの本拠地へ!そこで薬を…」
「その必要はないわ」
次の瞬間、何処からともなくネフィリムを確保したマリアが現れ、翼を蹴り飛ばした。
「ぐぁ!」
「翼さん!!」
マリアはエアキャリアから持ってきたアンチリンカーをすかさず律叉の首に打つ。律叉はそれから少ししてふらつき、跪いた。そして少しずつ人の姿に戻り、気絶した。マリアは律叉を抱える。
「時間どおりですよ、フィーネ」
「フィーネ…だと!?」
「終わりを意味する名は我々組織を象徴するものであり、彼女の二つ名である……」
「まさか………じゃあ、あの人が…」
「新たに目覚めし、再誕したフィーネです!」
それを聞いて響は驚きを隠せていなかった。
「嘘………ですよ…だって、あの時了子さんは…」
ルナアタックの際、フィーネ及び了子と響は和解をした。少なくとも響はそう思っていた。自分の言葉に対し、胸の歌を信じろと言ってくれた彼女は敵には見えなかったからだ。
「くっ…!」
翼はすぐに剣を構え、マリアにとびかかる。しかし、どこからともなく飛んできた丸鋸が翼を撃ち落とした。
「何!?」
「なんだ!?」
「なんとぉ!イガリマ!!!」
さらにどこからともなく切歌が飛び出し、ソロモンの杖を持っているクリスを奇襲した。
「ぐっ!」
不意を突かれたクリスはイガリマの柄を横っ腹に食らい、吹っ飛ばされた。不幸にもソロモンの杖も手放してしまった。
「クリスちゃん!」
さらに禁月輪を発動した調が響に突貫してきた。響は慌てて回避するが、それと同時にウェルから離れてしまった。
「……時間ぴったりの帰還、助かります。むしろこちらが少し遊び足りないくらいです」
「助けたのは、あなたのためじゃない」
「これは手厳しい」
アンチリンカーを吸わされ、ギアの出力は落ちているとはいえ完全に奇襲をかけられ、翼たちは追い詰められた。
「あなたたちはいったい何を…!?」
クリスを介抱しながら響は調たちに尋ねた。
「正義では守れないものを、守るために」
「え?」
次の瞬間、何もなかったはずの上空に突如ヘリが出現した。調たちはそのヘリに乗り込み、ウェルとネフィリム、律叉、そしてソロモンの杖を回収して去っていった。
「………」
◆◆◆◆◆◆◆
「つまり、今回の襲撃であれが完全にユウリさん……律叉さんだってことが判明したってことですか?」
「ああ。そういうことだ……」
今回の戦闘で敵側にいた律叉が似ただれかや特異災害対策機動部を惑わすために似た姿を作っているわけでないことに気づいた。弦十郎はそれを創世に報告していた。
「ところで、本気なんだな?」
「はい。お願いします」
その日の夕方、響たちは適合係数が急に下がった原因を突き止めるべく特異災害対策機動部の研究所に来ていた。
身体の検査を一通り行い、その帰り道になにか大きな物音がした。
「ん?」
「なんだ?今の音…」
しばらくすると再び音が鳴り響く。
「行ってみるか。何かあるとも限らない」
何か問題があれば警報が鳴るだろうが興味半分で音の鳴る方向へ行ってみた。やってきたのは研究所の研究資材実働試験場。その部屋の中で巨大な武器を構えて的を打ち抜く安藤創世の姿があった。
「あれって…」
「あれは確か立花の友ではなかったか?」
「はい、同じクラスの安藤創世です………」
『射出実験終了』
創世は実験が終了すると大型の武器を解除し、実験室内のベンチに座る。
「ふぅ………」
水分補給をしていると窓の外にいた響たちに気づく。
「あっ……ビッキー」
「創世……」
三人は試験場に入り、創世のそばまで来た。
「なんで創世がこんなところに………それにこの兵器は…」
「これはフォニックゲイン共振型対ノイズ戦闘服。アンクスR」
そこに研究員と思われる人間とともに弦十郎がやってきた。
「師匠…」
「おじ様…」
「彼女にはその稼働実験に付き合ってもらっていた。いずれ君たちを交えた実験も行う予定だったが、知られてしまったか」
「これは一体どういうことですか?彼女は一般人のはずです」
「違うの翼さん!これは、私が志願したことで…」
「順を追って説明する。とりあえず、まずは本部まで行こう。安藤君実験お疲れ様だった。悪いが少し付き合ってくれ」
「はい…」
―本部―
「まず聞いてほしいのは我々はフィーネを名乗る組織に対して、最初に律叉君の保護を最優先にすることとした理由だ」
本部に付いた源十郎はなぜ創世を巻き込んでいるかの説明を始める。
「彼の身には知っての通りヤントラ・サルヴァスパが埋め込まれている。それが悪用されれば異端技術によって我々が圧倒的に不利となる。そして、それ以上に問題なのがこれだ」
弦十郎は部屋のスクリーンにデュランダルを映し出した。
「それは……デュランダル!?」
「ああ。今朝の戦闘中、律叉君が変態…あの姿を竜人態と仮称しよう。竜人態で暴れているとき、日本政府で管理しているデュランダルが覚醒しかけた」
「そんな……どうして!?」
「ルナアタックのとき、最後にデュランダルを使ったのは律叉君だ。デュランダルが律叉君を主として認めているか、律叉君がデュランダルを求めているか…どちらにせよ、このまま彼をあちらに置いておくのはマズイ。デュランダルの件が他に漏れれば、恐らくデュランダルを恐れる他国の手によってフィーネの組織ごと殺されるだろう」
「そんな…」
「そうさせないためにも、律叉君の保護を最優先にすることとした」
「でも、どうして創世が?」
「これを見てくれ」
次に写し出されたのはなにかの波長を表しているデータだった。
「これは今朝の戦いで観測された律叉君の体内にある聖遺物の波長だ。波長が僅かに乱れているのがわかるか?」
戦闘時間が数分間しかなかったため、少ししか波長が観測できなかったが、それでも弦十郎が言う通り僅かに波長が乱れている部分がある。
「これは?」
「戦闘中の録画、録音データを波長と照らし合わせてみると、おそらく乱れが発生しているのは君たちの声を聞いているときだ」
「師匠、それって?」
「彼は今おそらく聖遺物に体を乗っ取られている状況だと考えるのが妥当だ。そんな彼を救うには、彼と関わりが深い人物の「声」だ。それで聖遺物の波長を乱し、彼の意識を覚醒させる」
そこまで説明されればなぜ創世がここにいるかの想像はできた。
「彼と関わりが深く、フォニックゲインを持たない人物が戦闘を行うことが律叉君を救う方法で最も現実的だ。一般人である彼女を巻き込むのは我々としても心苦しい。だが、これは彼女が望んだことでもある…。あのライブの日、片付け作業中に彼女が俺のところへ「彼を助けたい」と相談してきた」
「…なるほどな……」
「そして彼女が試験運用していた武装がこれだ」
スクリーンには「AP-1」と書かれた武装の画像が映し出された。
「これは桜井女史が試作した装者の歌を共振させ、疑似的にシンフォギアシステムと同じものになることができるパワードスーツだ。しかし、重量の問題やバッテリーの問題、そしてアンクスの完成によりこれは破棄された。しかし、今回はこれが必要だ考えられ、我々の技術の総力をあげて何とか運用可能な状態にまでこぎつけた。これと創世君の声、そして君たち装者の歌を使い、律みつまた君を取り戻す!!」
続く