Fate stay night [Delusion version] 作:抜殻
「誰だおめぇら」
教会に訪れた二人組の行く手を阻む様に実体化したアーチャー。白髪に赤い目、そして凄まじい程の魔力を放つ少女とその傍らに立つ甲冑を着込んだ男。明らかに異様な二人は、間違いなくサーヴァントとマスターである。
「てめえこそ、何姫さまの前に突っ立ってんだよ。さっさとそこをどきな。それとも、殺されてぇのか?」
「あぁ!?」
睨み合う二人。アーチャーは戦輪を手に、鎧武者は持つ槍を構え戦いの姿勢をとる。
「アーチャー!敵よ!」
「わかってる!」
教会を出て駆け寄ってきた凛を制止させる。アーチャーは相対する敵を前に、下手に動けなかった。
(んだこいつ...とんでもねぇ殺気を放って今にも飛びかかってきそうなのに、それをしっかりと我慢してやがる)
いっそ挑発でもしてみるかと考えたアーチャーだが、戦いの火蓋は少女の一言で切って落とされた。
「...そこにいるんだ、お兄ちゃん。初めていいわよ、バーサーカー。この教会にいる人間を、残らず殺しちゃいなさい!」
瞬間、飛びかかってきた。イカれた目をしてる割に、主人の命令には従うのかと感心さえしたアーチャー。
(とりあえず、初撃は受けるか...)
力量を見計らう為に防御をするアーチャー。槍を振りかざし、大振りの一撃を加えるバーサーカーに、寒気を感じたアーチャーは咄嗟に回避に移る。
「嗤え!人間無骨!」
×
教会を飛び出て、遠坂のいる場所へ向かう。既に戦いは始まっていた。
「遠坂!」
「衛...宮くん...」
遠坂の声には覇気がない。何故なら、アーチャーは一方的にやられていたからだ。
「グッ!」
「ひゃははははは!死ねや!」
アーチャーは体に、大きく切り裂かれた傷を負っていた。逆にあの傷であそこまで動けるのも不思議だったが、あれでは長くは持ち堪えられそうもない。
「セイバー!」
セイバーに声掛けをする前に、セイバーは既に動いていた。銃で牽制し敵の動きを止め、アーチャーとバーサーカーの間に割って入る。
「引け!弓兵よ。ここは私に任せろ!」
「余計なこと...すんじゃねぇ...俺はまだ...」
しかし傷が深いアーチャーはその場に膝をついて動けなくなってしまった。
「衛宮くん。どうして助けるの。私は敵なのよ。」
「そんなの関係ない。殺されそうになっているのを見過ごすなんて出来ないし、そもそも遠坂には借りがあるだろ。俺のことを見逃してくれたどころか、ここまで案内もしてくれた」
「それは貴方がまだ正式なマスターじゃなかったからで、今の貴方と対峙したら、私は躊躇なく貴方を殺すわ!」
「だったらそれでもいい!ただ俺は遠坂がいい奴だから、死なせたくないだけだ!」
「優しいんだね、お兄ちゃん」
突然、少女は俺に話しかけてきた。冷たい月の夜。冷え切った空気を切り裂く様に。
「貴方が、エミヤシロウ?私は、イリヤスフィールフォン・アインツベルン。始まりの御三家であるアインツベルンのマスター」
少女は礼儀正しく一礼をしながら名乗りを上げる。その姿はただ育ちが良いだけの少女で、とてもマスターには見えなかった。だが彼女は紛れもなく、あの鎧武者のマスターなのだ。
「会いたかったよ、お兄ちゃん」
「..俺に何の様だよ。会ったのは、今日が初めてだろ」
「そうだね、でも貴方の事は冬木に来る前から知っていたわ。キリツグの、新しい息子だって」
新しい...?
「私はね、復讐に来たのよ。私を捨てたキリツグにね。でも、キリツグは死んでしまった。その代わり貴方と言う新しい子供を残した」
つまり少女は、もともと切嗣の子供だったって言うのか?
「ずっと殺したかったよ、お兄ちゃん。やっちゃいなさい!バーサーカー!」
今日は本当に、色んな事を教えられても理解する時間すら与えてくれない!
バーサーカーが、セイバーに襲いかかる。横なぎに振る十字槍を、受け流そうとするセイバー。
「セイバー!そいつの攻撃を受けちゃダメ!避けなさい!」
その前に、隣の遠坂がセイバーに教えたおかげで、セイバーは間一髪攻撃を避ける事ができた。だが、その後も追撃は続く。
「アーチャー!貴方は下がってなさい!その傷じゃ無理よ!」
「クソっ...」
アーチャーは攻撃に巻き込まれる前に、霊体化して姿を消す。
「どうしてだ、遠坂!?」
「バーサーカーの宝具よ。どうやらあらゆる防御を無効にして攻撃を通してくるらしいわ。まだ推測の域だけど、アーチャーはそのせいで、あんな深手を負わされた。人間無骨...人間無骨...。あーもう思い出せない!それよりもどうなってるのよ!いきなり宝具を使ってきたと思ったら、その後もずっと発動しっぱなしじゃない!」
「宝具って、遠坂の説明じゃとっておきの最終手段で消費魔力も激しいからギリギリまで取っておくものなんじゃなかったのか!?」
「そのはずなんだけどね...。バーサーカーの身体能力の高さと相まって、すっごく厄介な敵が現れたわ」
セイバーは攻撃を避け続けてはいるが未だ反撃できず、敵は傷一つ負っていない。このままでは完全にジリ貧だ。だが、どうすればいい。
「私は、アインツベルンのホムンクルス。全身の魔力回路、魔力量は貴方たちとは桁違いに多い。それに、バーサーカーの人間無骨は消費魔力の少ない連発可能な宝具なの。それを、常時開放していても全然問題ないって訳。どうせ貴方たちも、長くは持たないから」
「丁寧な説明どうもありがとう!...アーチャーさえ動ければ、十分に勝機はあるのに」
「勝機?」
この状況を打破できる策が、遠坂にはあるのか。
「ええ。バーサーカーの攻撃は、かなりの大振り。でも槍のリーチとバーサーカーの身体能力、宝具のおかげで無闇には近づきにくい。決めるなら一撃で決めるのが、1番の安全策。アーチャーがいればアーチャーとセイバーのどっちかで隙を作って、その間に葬る事が出来るはず。でも今は、その囮役ともいえる立場が」
「だったら、俺がやる」
「はぁ!衛宮くん正気!?サーヴァントは常人の数倍の戦闘能力があるのよ。ましてやバーサーカー相手になんて、一瞬で殺されるわ!」
「でもこのままじゃどっちにしたってセイバーは勝てない!いずれはあの槍に捕らえられる。その前に、倒すしかない。セイバーまで倒れたら、全てが終わる」
「...一撃でも受ければ死ぬのよ。その体でできるの?」
問題ないとうなずく。覚悟は、できてる。死ぬつもりはないが、もし死んでも遠坂を救う事ができるなら。
「一撃分、気をそらせばいけるはずよ。その間にセイバーが仕留めてくれるはず。私も出来る限り援護するわ。サーヴァント相手にどこまで通じるか分からないけど」
手ごろな武器を探し、バーサーカーの攻撃で壊れた柵の一部をとる。長さは少しもの足りないが、強化して武器にする。このところ、長年成功しなかった強化がここの所連続で成功している。この状況下で、成長できたと言う事だろうか。
準備ができ、遠坂の合図を待つ。遠坂が攻撃した所に突っ込んで、俺への一撃を誘導する。イリヤスフィールは俺らを止めようとはせず、逆に何をするのかを待っているかの様だった。