Fate stay night [Delusion version] 作:抜殻
十字槍が空を裂く。突き、なぎ払い、次々と繰り出されるバーサーカーの攻撃を、セイバーはスルリと絹の様に滑らかに避ける。だが反撃に転じる事が中々出来なかった。
「ちょこまか動いてんじゃねえよ!」
バーサーカーは怒りに任せ、さらに攻撃の手を激しくしていく。やがてその刃がセイバーを捉えるのは明白だった。
(くっ、私が倒れればシロウが...。しかし、無茶は出来ない。が、このままでは...)
防御不能の宝具。その厄介さに舌打ちをするセイバー。だがこの現状をなんとかしようと、彼女のマスターが奮闘している事を、彼女はまだ知らなかった。
×
遠坂が、視線を送ってくる。
(準備はいい?衛宮くん)
俺はコクリと頷き、突進の構えをとる。バーサーカーの気を引ければ十分だが、一撃加えれるなら加えてやる。死への恐怖はある。体の震えも止まらず、本能があの敵には敵わないと告げている。だが、ここで引いて何になる。これから俺は、聖杯戦争を勝ち抜いて行かなくてはならないんだ。こんな事も乗り越えられない様じゃ、勝利は掴めない。覚悟を、決めろ!
正面を見据え、合図を待つ。緊張で汗が溢れるし喉も乾いてきた。もう待つ事が出来ないと早まる体を必死に抑える。
そしてバーサーカーが、大振りの横なぎを振り始めた時、遠坂の手から魔力の塊が放出される。それと同時に、俺も突っ込んだ。
怯むな。怯むな。怯むな!
「うおおおおおおおおおお!」
バーサーカーの注意を引くため、大声を上げて突撃する。これが今できる精一杯だ。セイバー!
だが、バーサーカーはこちらを見向きもしなかった。遠坂の放った弾は、バーサーカーの首にかけられていたネックレスによって相殺された。こっちを身もしないなら、その頭に渾身の一撃を喰らわせてやる!
大きく振った一撃は、バーサーカーの後頭部を直撃する。これが常人の相手なら、明らかに殺せる様な勢いで振り下ろした。だがバーサーカーは、ひるみもしなかった。それどころか、
「なっ、シロウ!?」
逆にセイバーが、突然戦いに現れた俺に気づき、隙を見せてしまった。さっきまでバーサーカーの攻撃を避け続けていた彼女には、俺がその間合いに入ることがどれだけ危険かを悟り、俺を護ろうと判断してしまった。そして、次のバーサーカーの一撃を避けきれなかった。
「セイバー!!」
セイバーの脇腹に、バーサーカーの槍が刺さる。苦悶の表情を浮かべ、膝をつくセイバー。そうしてようやく、バーサーカーはこちらを振り向いた。
「イッテェなテメェ!姫さま!コイツァ殺しちまっていいのかぁ?」
バーサーカーの頭部からは、だらだらと血が流れている。俺の一撃が通じなかった訳じゃない。こいつが、痛みを気にしない程にイカれてたのか!それ程までに、セイバーしか見ていなかった。
バーサーカーが問いかけた相手、マスターであるイリヤスフィールはクスクスと笑っていた。
「おっかしいな、お兄ちゃん。まさかサーヴァント相手になんて殴りかかるなんて。でも、相手が悪かったわね。バーサーカーは、そんな事じゃびくともしないよ」
少女は楽しそうに語る。俺たちの行動を、可笑しな喜劇でも見ていたかの様に。
「いいわよ、バーサーカー。全員の首を撥ねちゃいなさい!」
「打ち首か!分かったぜ。それが姫さまの望みならなぁ!」
バーサーカーは、こちらに向き直り槍を構える。
「クッ、逃げてくれ!シロウ!」
セイバーはまだ動けない。白い軍服を赤く染め、どくどくと血を流しており、傷の深さを物語る。
なら、俺が戦うしかない。武器を構え直してバーサーカーと向き合う。改めて正面から向かい合うと、やはり俺に勝ち目がない事は実感できた。特にこいつからは、やばい感じしかしない。まさに理性がないって感じの目をしている。
「逃げろ!遠坂!」
「衛宮くん!?どうするつもりなのよ!?」
「俺が時間を稼ぐから、その隙に逃げろ!早く!」
「そんなの無理よ!一瞬で殺されるわ!貴方こそ早く逃げなさい!」
こんな時に言い争ってる場合か、遠坂。だがもうその事を伝える事はままならない。バーサーカーが槍を振る。俺には、その一撃を避ける事が出来なかった。俺の首めがけて横なぎに振られる死神の鎌。瞬きもしないうちに、俺の首と胴は離れるだろう。そう思考したとき、
「うぅおおおおおらあああああ!!!」
飛んできた巨大なチャクラムが、バーサーカーに直撃した。この武器は、
「アーチャー!?」
その場にいた全員が驚く。明らかに動けない様な手傷を負ったアーチャーが、そこには立っていた。息は上がり、汗まみれの彼の体には、大きく切り裂かれた傷がありそこから血が止めどなく流れている。消滅しない為に霊体化したアーチャーが、このピンチに一撃を加えたのだ。
吹き飛んでいくバーサーカー。その一撃を放ち、アーチャーも地に付した。遠坂がアーチャーに近づき、何かを呟くと、アーチャーは光と共に何処かへと消えた。
「遠坂!アーチャーは?」
「令呪を使って家に送り返した。あんな傷で無茶するなんて!でも、ほんとに助かったわ」
だが、これで終わりではなかった。吹き飛ばされたバーサーカーは起き上がり、再びこちらへ向かってくる。弱ったアーチャーの一撃では、倒し切る事は出来なかったのだ。しかしバーサーカーは身体中から血を流し、足元もふらついている。何故か顔だけは、未だに余裕があるかの様だったが。
「イリヤスフィール!バーサーカーは既に満身創痍よ!今の状態なら、セイバーと戦っても勝てるかどうか分からないわよ!ここで消耗するのは貴方にとっても得策じゃないでしょう。ここで引くなら、私たちは追わないわ」
遠坂がイリヤスフィールに提案を持ちかける。確かにこの状況、お互い戦いを続けるのは得策ではない。
「あら凛、そう思うかしら?既に宝具まで晒しちゃったここで引くのは、私にとって不利なのだけれど」
「負けたら元も子もないわよ。貴方のサーヴァント、もうフラフラだけど?」
「勝手に決めつけてんじゃねぇぞテメェ!」
「やめなさいバーサーカー。今日はもう引くわよ」
「まじかよ姫さま!まだあいつらの首を撥ねてねーぞ!」
「いいから、命令よバーサーカー。...じゃあねお兄ちゃん。また殺しにくるね」
物騒な去り文句を残して、少女は夜の闇へと消えていった。