Fate stay night [Delusion version] 作:抜殻
「こんな事勝手にしていいのか、相棒?」
「うるさい!サーヴァントが僕に指図するんじゃない」
住宅街を歩く学生服を着た、癖っ毛の少年。その側にいるのは、蓄えた白い髭がツンと立つ、船長風の格好をした壮年の男性だった。
「前にも言ったがよ、俺はライダーなんだぜ。あんま戦いは向いてねぇからよ、過度な期待はされても困るぜ」
「大丈夫さ。爺さんの話じゃ、あいつのサーヴァントは今手酷い傷を負ってるらしいからさ。簡単に倒せるじゃないか」
嬉々として語る間桐慎二の足取りは軽い。彼が自身の勝利に、一切の疑いを抱いていない証明だった。やがて二人は、目的地である冬木の管理者の邸宅、遠坂凛とアーチャーの拠点へと辿り着く。
「あんま、敵の本拠地に直接乗り込むのは感心しねぇなあ。あの爺さんも、まだ手を出す必要はないとか言ってなかったか?」
「爺さんが臆病過ぎるだけさ。弱ってるうちに倒した方が楽じゃないか。うかうかしてたら、遠坂を誰かに取られちまう」
「ま、俺も誰かに先を越されるのは好きじゃねえ。俺の儲けが減っちまうからな」
ライダーは手を振り上げる。目標は、眼前にある敵の根城。そこへ目掛けて、船長からの一斉射撃の合図が下される。
「さあ!聖女マリアよ、糞を垂れろ!」
×
「はぁはぁ...」
「まさかリンの屋敷が襲われるとは....アーチャーの負傷を知られていたのか」
遠坂からの電話を受けて、セイバーと共に家を飛び出した。今の遠坂達は満足に戦える状況じゃない。俺たちが着くまで持ち堪えてくれ...!
息が苦しい。既に10分以上止まることなく全力で走り続け、傷ついた体は走る衝撃で痛みさらに体力を削っていく。
だが、遠坂の家がある方面から上がる煙を見て、そんなことはどうでも良くなった。たとえ肺が破れようが、速度を緩める事はない。とにかく早く、遠坂の元へ!
「ぜぇ...はっぁ!」
目的地が目前に迫った所で、思わぬ障害とぶつかった。遠坂の家は轟々と燃え盛り、その周りに野次馬が集まっていたのだ。
「くっ...邪魔だ...。セイバー!」
「わかっている!」
セイバーを先行させる。俺は人混みを掻き分けながら、野次馬達の最前列へと何とか這い出る。
「あ...」
視界に入るのは盛んに蠢く炎だけ。もはや鎮火するのは不可能な程火は回り、屋敷は音を立てて崩れていく。昨日立ち寄った部屋も、見渡した居間も、遠坂の家も、もう無い。
「待て坊主!危ないぞ!」
制止を振り切って駆け出す。とにかく遠坂を助けなければ。それも出来なければ、俺は遠坂に一体何を返せたっていうんだ。
「こんな様で...何が正義の味方だ...」
開きっぱなしの門を通る。遠坂の事だ。きっと脱出している筈だ。だから敵を退ければ何とかなる。それが最善の展開だ、と最悪のイメージを考えたくはない一心でそうだと思い込む。
結果として、不幸中の幸いか遠坂は既に屋敷を離れ、逃げ延びていた。だが俺は未だその事を知らず、そして信じられない人物と遭遇した。
「ハハハハッ!言い気味だよ、遠坂。僕に素直にならないから、こんな事になるのさ」
「ハッハァ!いいねぇ、やっぱ戦いってのはこうじゃなくちゃよ。一方的に奪い、犯し、殺す。これぞ醍醐味ってもんだぜぇ。良く覚えときな、相棒!勝者の特権ってもんをよぉ!」
燃え盛る屋敷を見ながら、笑う少年。その脇に立ち、不気味な微笑を浮かべる、恐らくはサーヴァントとおぼしき男。
「慎...二?」
そこにいたのは、中学からの友人であり、たった今魔術師であるということがわかった、間桐慎二であった。