Fate stay night [Delusion version] 作:抜殻
「慎...二?」
とても、信じられなかった。慎二とは短い付き合いではない。それでも今の今まで、慎二が魔術師であるなどという事は知らなかった。そしてマスターとして聖杯戦争に参加し、更にはそれを理由にこんな事をするなんて、思ってもいなかった。
思わず漏れた声は、ようやく絞りでた水滴の様に小さく、燃え盛る炎の音に掻き消された。だが、慎二はその声に気づき、俺と同じような信じられないと言った様な表情でこちらに振り向いた。
「衛...宮?」
お互いに、予期せぬ人物との遭遇。その驚きは動く事を、話す事を辞めて、ただ視線を合わせる事しか出来なかった。その沈黙を破ったのは、事情を知らない、お互いのサーヴァントだった。
「おいおい、誰だこいつは?」
慎二のサーヴァントが、こちらに銃を向ける。それを合図に、慎二に対して行われた狙撃は、たまたま慎二のサーヴァントが振り上げたサーベルとぶつかり、阻止された。
「なっ!?」
その場にいた全員が驚きの声を上げ、
「やめろ!セイバー!」
俺の制止の言葉に全員が、困惑の顔をした。セイバーからすればなぜ止めるのか分からない。それは相手も同様である。
「ほぉ、お前さんがセイバーのマスターか。にしても、運が良かったなぁ相棒。危うく、いきなり死んじまう所だったぜぇ」
「黙ってろ、ライダー」
慎二には、ライダーの軽口に付き合う余裕も無かったのか、俺を睨みつけながら殺気の篭った声でライダーに命令する。ライダーはしかめっ面になりながらも黙り込んだ。慎二はギリッと歯軋りを立てた後、ようやく何時もの調子で話し始めた。
「誰かと思えば衛宮じゃないか。まさかお前もマスターだなんて驚いたよ。でも残念だね、僕と戦う羽目になるなんてさ」
余裕があるように見せているが、慎二にはまだ動揺が残っている。どうやら俺が魔術師であった、という事にまだ驚いている様だ。....そういえば遠坂も、最初はこんな感じだったっけ。でも慎二には、遠坂とは違い俺に対する憎しみと言うか、嫉妬と言うか、刺々しい何かを感じる。
「慎二。これをやったのはお前か」
だが、今はもうそんな事どうでもよかった。俺の中にある、魔術師としての意識を最大限引き出す。今この時に、俺という私情は邪魔だ。慎二が、ではなく目の前のマスターが一体どんな思惑なのか。
「ハッ、当然だろ。この状況を見れば馬鹿でも分かるよ。でも衛宮は、無意味なことが大好きな馬鹿だからね。僕が一から説明して...」
思考を、ガチリと切り替える。今の言葉でハッキリしたのは、慎二は、敵だ。
「何でこんな事をした。答えろ!慎二!」
張り上げた声に、慎二は怯む様に震えた。
「そ、そんなのマスター何だから当然だろ。...それよりも、何だよ。今の態度。こっちが下手に出れば良い気になりやがってさ。僕と衛宮の仲だから、この場は免じてやろうとか、なんなら僕の仲間にしてやってもいいとか思ってたけど、今の、気に食わないね」
空気が変わる。お互いのサーヴァントは、いつでも動けるように身構える。俺も、すぐ脇にある木片に目をつける。多少短いが、臨時でなら十分。急いで出てきたせいで、武器を持ってくるのを忘れたが、何とかはなるはずだ。
「だいたいね、お前が僕と同じ魔術師で、更にはマスターだって事も納得できない。魔術師にだって血統があってさ、衛宮みたいな素人が、サーヴァントに恵まれただけで勝てるなんて思われたら、不愉快を通り越して殺意まで湧くね。何たって遠坂も、こんな奴をパートナーにしたのか、検討も付かないね」
遠坂邸を焼く炎は、今の状況を反映するかの様に激しく燃え盛っていく。俺と慎二とを囲う炎は、既に手遅れなほど回りきっていた。
「...一つ言っておくぞ、慎二。お前に、遠坂は釣り合わない」
そして、最後の決定打。爆弾を起爆させたのは、俺の一言だった。
「黙れぇ!どいつもこいつも、僕を見下しやがってさ!...もういい。死んじゃえよ、お前」