Fate stay night [Delusion version] 作:抜殻
「あら衛宮君、帰ってきたのね」
「……は?」
唖然と、突っ立っていた。状況が理解できない。
「ちょ…ちょっと待て!なんで遠坂が家にいるんだ!」
「あら、言ってなかったかしら。避難よ避難」
「避難って…っまぁ遠坂が無事なら、それで良かった」
とにかくホッとした。見たところ怪我なんかもしてないようだし、心配することはなさそうだ。ただ…
「遠坂…悪い、俺…」
「ううん、衛宮君は何も悪くないわよ。まさか家にまで襲ってくるとは思わなかったけど、みすみす襲撃を許した私の落ち度。それに関してはもう吹っ切ったわ」
流石は魔術師、と言いたいところだが、その表情は決して明るいものじゃない。当然だ。長年過ごして、家族との思い出もあった筈の家を失ったばかりなのだから。
「問題は拠点を失ったことね。持ち出せたのは最低限だけで、色々と切り捨てる羽目になっちゃった。まぁ、一番大事なものを持ち出せただけ良しとするか」
そう言って遠坂は、小さな宝石を取り出した。見るからに高価な一品と分かるそれには、高濃度の魔力が込められている。
「さて、本題に移りましょうか。私の家まで焼いてくれたんだもの。それに見合った対価を得なくちゃね」
「対価?」
「ええ、情報よ。私の方は特に話せることはないけど…衛宮君は?敵の姿とか、マスターの正体とか、何か情報はあった?」
「あぁ、敵のマスターと戦った」
「はぁ!?」
単刀直入に結論を述べたら、乗り出さんばかりの勢いで驚かれた。
「戦ったって、はぁ…そんな無鉄砲な…」
「仕方ないだろ、あの時は気が気じゃなくて、急いで助けなきゃって思ってたんだから。っと、話を戻そう。戦ったのは、二人だ」
「二人?つくづく幸運ね…」
「様子を伺って、加勢に来たって感じだった。それで、ここからが問題だ。驚かないで聞いてほしいが、遠坂を襲ったのは、慎二だ」
「慎二って、間桐慎二?妙ね、慎二には、マスターになる素質があるとは思えないけど…」
「知ってたのか?慎二が魔術師なこと」
「それはね。間桐家は、それなりに代を重ねた魔術師の一族なの。慎二がその跡継ぎなことは知ってたけど、魔術師としての素養はなかったはずよ。それがマスターになるなんて」
「じゃあ、間桐臓見は知ってるか?慎二を助けに来たマスターで、慎二の祖父だと言っていた」
「間桐臓見?聞いたことはあるにはあるけど…隠居したってことぐらいしか知らないわ。でも、これで一つ分かったことがあるわ。私、マスター同士で協力し合ってる連中がいるって言ったわよね。恐らく、その二人だと思うわ。慎二に、身内まで裏切ろうなんて度量があるわけないわ。そうなら、臓見はていのいい手駒をもってるってことになる」
確かに、慎二は臓見に言われてあっさりと引いた。どころか、怯えていた感じもある。身内同士で手を組んでいるってことか。
「ただ…慎二の奴が臓見に言われて無理やり参加させられたって感じじゃなかった」
「そりゃそうでしょ。あの小心者が、脅されて参加したとしても何の役にも立たないもの。どうせ屋敷の奥でうずくまってるだけよ。いい、衛宮君。慎二は、自らの意志で聖杯戦争に参加した。どうせ命を賭ける覚悟なんてないんだろうけど、敵になったからには手加減なんてしちゃだめよ」
「っ…それは、分かってるけど…」
あの時、もし臓見が助けに入らなければ俺は慎二をどうしていただろうか。俺が聖杯戦争に参加した理由。友人として親しかった慎二。俺の理想______
それらを天秤にかけたとして、どんな判断を下していたのか、今の俺には分からなかった。
「まぁマスターの話はこのくらいにして、サーヴァントについては?真名のヒントとか、見つけた?」
「あっ、ああ」
遠坂に話題を移されて、俺も考える事を辞めた。どうせ、答えが出ることはない。こればかりは。だが、いつまでも迷っているわけにもいかない。いずれまた、突き当たる壁なのだから____
×
「なるほど、慎二のサーヴァントは銃とサーベルを使う、船乗りの様な格好をしていたのね。実力がセイバーより劣るのなら、アーチャーが負ける要素はないはずね」
「むっ、心外だなリン。私がアーチャーと戦って劣ると?」
「さあね~、ただ船乗りのサーヴァントなら、きっとライダーね。それだけでも十分な成果だわ」
サーヴァントの情報を共有するにあたって、俺よりも実際に戦ったセイバーの方が、より詳しく説明できるだろうということで、セイバーに実体化してもらった。
「それで、臓見のサーヴァントはアサシンで確定…と。また厄介そうなマスターとサーヴァントが組んだみたいね」
情報を整理して、今後の方針も決まった。とりあえずは慎二と臓見の二人を倒さなくては。まだ脱落者はゼロ。ランサーのマスターは正体が知れず、キャスターに関しては一切の情報がない。
「しばらくは迂闊に出歩けなくなったわね。アサシンが潜んでいるわけだし、いつ、どこで襲われるか分からないわ」
ああ、と相槌を打ち頷く。ここ二日ばかりで、一体何度命を失いかけたことか。聖杯戦争に参加する以上、覚悟の上ではあるが、覚悟があったとしても死ぬのは怖い。でも、もう遠坂の様な人は生みたくない。慎二が、このままおとなしくしている筈もないだろう。次こそは、慎二を止めなくては。
「さてと、それじゃあ衛宮君、お風呂に入ってくるわね」
「おう、気を付けてな………は?ちょっと待て遠坂何言ってるんだ?」
「何って言ってなかったっけ?私、衛宮君家に泊まることにしたわ」
また_____思考が停止した。