Fate stay night [Delusion version] 作:抜殻
記憶が、流れてくる。遠坂凛が見たこともない景色、人物、感情。凛は、すぐさまこれが彼の記憶であると理解した。マスターとサーヴァントは魔力のパスで繋がっており、記憶の逆流も起こり得る事だ、と凛はその光景を見続ける事にした。
「何故だ!」
初めは悲嘆。仲間を殺された彼に沸く感情。涙を流し、かつての
「奴らは、何故あんな事をした!戦士としての誇りは、何処へいった!」
次に、怒りだった。身を焼くほどの怒り。人は、これ程迄の怒りを生み出せるのか、と思う程の激情に凛は身悶える。それでも、目を背ける事はしなかった。
怒り。怒り。怒り。怒怒怒怒怒怒怒怒「おおおおおぉぉおおああああぁああーーー!!!」
いつしか身に蓄えて堪えていた筈の怒りは、周りのモノ全てを壊していた。アーチャーは、その怒りに駆られ、自らも戦士の誓いを破ったのだ。殺し、殺し、殺し尽くしても、その怒りは消えなかった。敵を何人血祭りにあげても、敵の野営地を灰にしても、自らの身を焦がす、憤怒の炎は消えなかった。
アーチャーは、我に帰った後、ひたすら空を見上げていた。体に付いた返り血も、被った灰もそのままに、曇天の空を見上げ続ける。やがて雨が降り、自らの体を流して行く。
「俺は...俺は...」
雨に濡れ、どれだけ時間が経ったろうか。冷静さは戻り、思考も戻り、復讐を遂げても、
「どうして、この苛立ちは消えてくれない...」
まだ知り合って間もないアーチャーの、恐らくは最も見られたくないであろう記憶。召喚時の彼からは、想像も出来ない程の弱々しさ。
「でも、見ちゃったものはしょうがないじゃない」
きっと、この夢には意味があるのだろう。そうして凛は、現実へと戻っていった。
×
見慣れた天井が、視界に映る。目覚めた凛は、何故か少し体が熱かった。
「んん...」
さっきの夢のせいだろうか。それとも、昨日の召喚でまだ本調子ではない?
「あれ..?もう10時過ぎてるの...?あちゃー...まっ今日は学校は休もうかな」
取り敢えずはベットを出て、朝の支度をする。
階段を降りて居間に行くと、アーチャーが姿を現した。
「おぉ、起きたか凛。随分と寝坊助だな!」
「朝から元気ね、アンタは」
「逆に、オメーは元気ねえじゃねえか。どうかしたのか?」
「別に。アタシ、朝が弱いってだけ。特に昨日は、貴方の召喚もあったしね」
凛は気怠そうに紅茶を入れ、ソファーに腰を下ろす。
「んで、今日はどうすんだ?まさか何もしないなんてこたぁねえよな」
「当たり前でしょ。取り敢えず今日は、貴方に街を案内するわ。これから戦う場所の事、知らなきゃでしょ」
×
1日をかけて、アーチャーに街を案内する。途中教会によって、綺礼に召喚した事を告げてきた。それなのにあいつ、何が
「まさか本当に参加するとは、凛には過ぎた刃だろう。うっかり手を切らぬようにな」よ!
本当にいけ好かない奴ね。私が参加しない訳ないじゃない。しかもこんな土壇場で、ミスしてたまるかっての!
最後に、新都で最も高いビルの屋上に登る。
「ここなら、この街全体を見渡せるわ」
「おー、結構広いんだな、この街。にしても、見た事もねえもんばっかだったな」
「え?召喚される時に、聖杯から現代の知識を与えられるんじゃ無いの?」
「必要最低限だけだ。だから街を歩いてるだけでも、結構楽しめそうだな」
アーチャーは、楽しそうに眼下の街を眺める。日が暮れたこの時間、眼下の街は人工の光に包まれて輝いている。
「俺の時代にゃ、明かりは炎で灯すもんだし、その炎も至高なる神から分けて貰う聖なるもんだ。だが今じゃ、こうして簡単に灯せちまう」
「気に入らないの?」
「まさか、関心してるだけさ。炎を使うのよりよっぽど安全ってな」
もうすぐ、この街で戦いが始まる。もしかしたら、この風景も失われるかも知れない。既にこの風景の中には、私を除く5組のマスターとサーヴァントがいるのだから。
「行きましょ、アーチャー。案内も終わったし...」
「待て凛」
アーチャーに不意に呼び止められる。明らかに、アーチャーの雰囲気が変わった。念のために念話で話す。
(どうしたの?)
「敵だ。誰かが、俺たちの事を見張ってる。どうやら襲ってくる気は無いようだが...どうする?」
(下手に戦うべきじゃ無いわ。恐らくは偵察、私をマスターか探りに来たのでしょう。そして襲って来ないのは、私がマスターとバレたから)
「そりゃ不味いんじゃねえのか?」
(そうでもないわ。私、この地域を統べる一族の魔術師だし、聖杯戦争に参加する可能性が、1番高い魔術師として誰からも警戒されてる。遅かれ早かれわかる事だもの。私も、その為の準備はしてるわ。相手も、不用意には襲って来ないでしょう)
「...どうやら、そう見てえだな。気配が薄まって行く」
「他のマスターも、動き出した様ね。最後のサーヴァント、セイバーの召喚前から動き始めてる。早めに戻りましょう、アーチャー」
屋上を飛び、夜の闇へと消える凛とアーチャー。眼下の光が濃いぶん、影となる闇は深かった。