Fate stay night [Delusion version] 作:抜殻
巨大な戦輪が疾走する。大地を削りながら進む戦輪は、その信仰方向の敵を砕こうとするが、小柄な体からどうやってそれ程の力を生んだのか、正面から戦輪を弾き飛ばす。
その戦輪の陰から、アーチャーは襲いかかるが、相手はそれを読んでいたように悠々と対処する。アーチャーにとっては牽制程度だが、凛の視界には捉えられない程の速度の拳が撃ち込まれるが、敵はそれを簡単に受け流した。
「ちっ!」
アーチャーはすかさず飛び退く。あのまま攻めても、恐らくは反撃を受けただろう。肉弾戦に於いては、相手側に分があるようだった。弾き飛ばされた戦輪を拾い上げるアーチャーは、隙を見せない敵に手が出せない。
「何だこいつ!どんだけ人間離れしてやがる!おぉい凛!敵は襲ってこないんじゃ無かったのかぁ!?」
「不用意にはって話よ!それに恐らく、今襲ってきてる敵はさっきの奴とは別人よ!」
アーチャーは怒鳴りつけながらも何処か楽しそうだ。
ついさっき、敵がこちらの監視を辞めたのを見計らって家に戻ろうと思ったのだが、今相対している敵がいきなり襲ってきた。人混みの中でいきなり刺されるくらい急な襲撃に、私は何も出来なかった。ほんの一瞬早く気付いたアーチャーが私を無理やり突き飛ばしてくれたおかげで難を逃れた。私はアーチャーを召喚出来たからこそ、まだ生きているのだ。
「にしても、こいつ何なのよ。アーチャーとタメを張るくらい強い上に、攻撃の瞬間までアーチャーすら気付けなかった気配遮断。もしかしてアサシン!?」
「暗殺者だ!?それでこの強さたあ、ハハッコイツァ面白くなってきやがった!」
「フハハ。儂もこれ程の実力者とは、生前に於いても戦った事がない。儂も今、猛烈に高揚しておる」
敵のサーヴァントが、まさか自分から口を開くとは。もしかすると、自身のクラスを演じる事に余り執着がないのかしら。でも、感じるプレッシャーはとんでもないわ。まるで空腹の虎と、丸腰で相対してるみたい。その殺気だけで逃げ出したくなる。それでも、
「そうこなっくちゃなぁ!さぁ!どっからでも来やがれ!」
私のサーヴァントも負けていない。現状の実力はほぼ互角。後は敵のマスターがどう動いて来るか...。だったのだが。
「うん?しかしマスターそれは...。あい分かった」
どうやら敵サーヴァントはマスターと会話しているようだが、明らかに戦いの気配が散っていく。もしかして、
「すまんな、赤き戦士よ。どうやら、今回はこれで幕引きのようだ。不意打ちに失敗した時点で引けと、マスターに言われてしまったのでな。この決着は、いずれ着けようぞ!」
敵サーヴァントはそう言い残すと姿を消した。どうやら引いたようだ。
「おぉい!くそ!消化不良だぜ。こっからだったてのによぉ」
「でも、正直引いてくれて助かったわ。敵はこちらの実力を見て引くのを決心した様だけど、敵にはまだ余力というか、切り札があるように思えた」
「そりゃこっちだってそうだろ」
「ええ、でもこんな序盤から使って行くようなもんじゃないわ。だって、私の切り札は一回きり。失敗すれば全てがパーなのよ」
取り敢えず、初戦は危なげなく乗りきれたわね。敵のサーヴァント、クラスはアサシンかしら。まだ、断定する要素が少な過ぎるけど、確かなのは
「さっきの相手、武術の達人だったわね。それも相当の。それに、あの動きには少し見覚えがあったわ」
「ああ。とんでもねえ奴だったな。素手の戦いじゃ、こっちには分がなさすぎらぁ。それより、どうする?ここで待ってたって事は、明らかに凛を狙ったもんだった。このまま家に戻るのは危険じゃねえか?」
「そうね...。でも、自らの工房を捨てるのは今後の為にもならない。取り敢えず家の近くまでは戻るわ。家が見える場所で、寄って来る奴が居ないか見張っておきましょう」
そうして再び新都を離れ深山町に向かい始める。まだセイバーも呼ばれて無いのに、戦いが動き出した。敵がなり振り構わず向かって来る事を考慮するなら、暫くは学校に通うのも危険ね。この戦い、どうやら生半可には行けなさそう。
こうして、第5次聖杯戦争は、未だセイバー未召喚のままで初戦を迎えた。この事を知った各陣営は、動き始める。運命の歯車は、着実に軋みを上げながら動き始めていた。