Fate stay night [Delusion version] 作:抜殻
「何故引いたのだ、マスター。それも2度も。あの敵に、情報を与えすぎだ。それに、あやつなら恐らく、宝具を使えば倒せた筈だ」
猛々しい声を出す赤い中華服を纏った男。共にいるのはスーツを着た男装の麗人。
「さっきの戦い、誰かに見られていましたよ。それに、数的不利の可能性もあった」
「そこだ。数的不利とは何の事だ。あの場に、相対する者など居なかったではないか」
そうあの場には、アーチャーとランサーしか居なかった。使い魔が覗いてはいたが、戦いとしては一騎討ちの様相だった。そこに水を刺された事に、ランサーは苛立ちを顕にする。
「可能性の話ですが...あの少年が怪しかった」
「あの小僧が?だが、儂の動きに全く付いてきていなかったがな。そうそう、サーヴァントと打ち合えるマスターなどいないだろう」
「ええ、私だって貴方と戦ったら5分と持ちません。ですがあの少年は、魔術師殺しと言われた魔術師「衛宮切嗣」の息子、ないし後継者の可能性が出てきた。それがもし、遠坂の娘と結託しているマスターだとしたらどうしますか?」
魔術師殺し、衛宮切嗣。魔術師らしからぬ手法で次々と同族を狩っていった彼も、第4次聖杯戦争に参加したと聞く。その後の詳細は不明だが、この冬木に彼と同じ名を持つ者が現れた以上、警戒する事に越した事はない。
「あくまでも可能性の話だろう。それでみすみす情報をやるとは、マスターはちと慎重すぎないか?」
「...私も、今回の任務にどうやらまだ慣れていない様です。慎重になっているのはどう動くか方針を掴めていないからかもしれません。不甲斐ないマスターですね...私は」
「反省よりも行動であろう、マスター。早くせねば取り返しの付かないミスになるやも知れんぞ?」
「そうですね...取り敢えず、あの少年を探りましょう。マスターかどうかと、そうでないと場合は情報を保護しなくては」
×
「はっ!」
家に着いた時、ようやく体にかけられた催眠の様なものを解く事が出来た。どうやら遠坂の魔力を体内に流されて、意識がハッキリしなかったらしい。普段の鍛錬の要領で、体内に魔力を流してようやく流れを取り戻した。
だが、状況は変わらない。俺にはさっきの事がさっぱりわからない。いきなり命を狙われたと思ったら、人間離れした戦いは始まるし、遠坂は普段と様子が違うし、おまけに魔術師ときた。
「もう一度遠坂の家に行っても、どうせラチがあかないだろうしなぁ...」
だが、この状況を説明できる人物を、俺は遠坂しか知らない。やっぱりもう一度遠坂の家に...。
天井から鐘の音がして、背筋が凍った。この音は、家に張られた結界に誰かが侵入した音だ。見知らぬ、誰かが。
「一体誰が...。さっきの奴ら...。まさか遠坂、なんて事はないよな」
とにかく、周りに何か武器になる物を探しておかないと。まだ少しは時間が...。
その時、背後に何かいると悟った。誰かがいると言う気配ではない。過去に一度、味わった事のある死の気配を。このままここに居れば、俺は、死______
すかさず、横に跳躍した。刹那、俺の頭があったところへ容赦ない拳が打ち込まれる。咄嗟の跳躍で受け身をとる事もできなかったが、俺はまだ生きて、俺を殺しにきた敵を視界に捉える事ができた。
「ほぉ、この一撃を躱すとは。儂の存在に気付いておったのか?」
さっきの、ついさっき俺を殺そうとした男が、またやって来たのか。
「少しは、心得がある様だが、いつまで持つかな。儂は、悪いが手加減できるタチではなくてな。何せ、様子見だけで殺してしまった事もある」
コイツ、素手だ。だが、さっきの戦い振りから見て、武器を持ってもハンデにすらならない。だが、同じ土俵で戦うよりはマシだ。何か軽く振るえるものは...ない!居間の方へ飛んじまって、武器に出来るものがない。
「さてここからどうする?諦めるなら、苦しまない様にしてやれるが」
ドンドンと歩み寄ってくる。とにかく、ここはまずい。土蔵に行けば、何か有るかもしれない。
「ふざけんな。誰がお前なんかに殺されるか」
手に届く範囲にあったのは、座布団1枚だった。絶望的だが、これで凌ぐしかない。
「_____
自己を作り替える暗示の言葉とともに、座布団に魔力を通す。だが当然ながら、どう強化しても座布団は武器にはならない。
「フッハッハッハッハ!それで戦いと言うのか!面白い!ハッハッハッハ!」
相手は高笑いしながらこちらが準備を終わらせるのを待っている。舐めやがって。だが好都合だ。正直、この隙に相手が攻撃してきたら、俺にはなす術が無かった。
「______
準備は整った。とにかく、土蔵目掛けて突っ切る。僅かに、進行方向とは逆に視線を切る。相手がそちらに意識が飛ぶほんの一瞬でも、時間が欲しかった。視線を切った瞬間、
「なんだ逃げるのか?」
敵が、拳を構えて廊下に躍り出た。位置は俺の僅かに後ろで、俺の右脇腹むけて打ち込もうとしている。俺は両手を使って、座布団を盾に攻撃を受け止める。
武器にならないから盾にすれば良い。座布団の弾力性を強化し、敵の打撃の威力を軽減しようとした。コンクリートの地面にヒビを入れていた様な威力だ。全てを受けきれなくてもいい。骨で済めば良い方だろう。とにかく土蔵へ_____
だが、この考えは甘かった。いや、甘過ぎた。敵の一撃の重さを、完全に測り違えた。結果、戦闘不能の傷を、負うはめになった。
確かに盾は、敵の一撃を食い止めたが、それも一瞬。貫通した衝撃は、俺の体を吹き飛ばし派手にガラスを叩き割りながら俺を中庭へと追い出した。だが、この一撃で右腕の骨はおろか、あばらまで折れてしまった。痛みで、まともに動く事も出来ない。何とか這いながらも土蔵へつくが、もはや武器を振るう力など残ってはいなかった。
「儂の一撃を受け止めるとは。まさか柔らかい盾とな。その発想のおかけで一撃は耐えたが、どうやら次はない様だな」
土蔵まで追ってきた敵に抗う事は、もう出来ない。俺には、もうそんな力はない。
「ふむ、では悪いが死んでもらう。普通の人間にしては、粘った方だぞ」
死の一撃が、打ち込まれる。この一撃は心臓を穿ち、俺の息の根を完全に止めるだろう。さっきまでは早過ぎて捉えられなかった動きが、今ではスローに感じる。
(あぁ...俺はここで、死ぬのか...)
刹那、走馬灯の様に、記憶が走る。何気ない日常の記憶から、深く覚えている事まで、時を遡っていく。
(桜...一成...慎二.........切、嗣)
そしてたどり着く、始まりの記憶。衛宮切嗣に救われ、拾われたあの日を。そして、切嗣の夢を継ぐと決めたあの日を。
(死ぬだと!?ふざけるな!?俺はまだ、何もしちゃいない!誰も助けれていない!)
抗う。最後まで、無駄だとしても。
「まだ、切嗣との約束が、残っている!護ると!決めたんだ!」
無駄な足掻き。いくら衛宮士郎が叫んでも、抗っても、状況は覆らない。無慈悲な一撃は、たやすく衛宮士郎の命を奪うだろう。だが、この叫びが、想いが、奇跡を呼ぶ。全身の魔力が駆け巡り、土蔵の中に光が生まれる。衛宮士郎は、自分の体が熱くなるのを感じた。誰かの呼びかけに、答えなければと。
「ぬっ!」
瞬間、衛宮士郎を襲っていた赤き刺客は、土蔵の外へと飛び出る。そして入れ替わる様に、1人の女性が衛宮士郎の前に立った。
「問おう、貴方が、私のマスターか?」
何かランサーのマスターの性格みたいなのがブレブレだな...こんな人だったっけ。(一応名前は伏せておく)