34歳のニートは語った。
「いいか、アフリカや西アジアでは、蝗害と呼ばれるバッタの大量発生で農作物がすべてなくなってしまうという痛ましい災害が起こっているんだ」
そしてさらに続ける。
「にも関わらず、政治家たちは何もしない!それどころかマイナスに働くようなことをしているんだ!絶対に許せることではない!国際協調するべきではないのか!」
そう力説をしていた。このニート、意外にも国際事情に詳しい。やることがないのでネット上でいろいろなニュースを見て憤慨することが趣味だという。
そういったニートの言葉は他の人々にはSNS越しでも一切伝わっていなかったが、なぜか昔から一成には伝わっていた。
このニートが「自分がやるといいと思ったけど自分でやるのはめんどくさいこと」を一成に伝え、そして一成はある程度それを実践してしまうという関係が成り立っていた。
ニートにとって一成とは自分の話をキラキラした目で聞いてくれる従兄弟であり、一成にとってニートとは、未知の概念を伝授してくれる摩訶不思議な存在なのであった。
そのニートの母親がずっと涙を流していた。
そう、ここは葬式会場。
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遺書によると、そのニートにとっては、人生とはあまり意味をなさない計算式にすぎなかったという。
34歳と125日というわりかし中途半端な日を選んでニートは自殺した。
ニートは毎日「生きるか死ぬかサイコロ」という賭けをしていたらしく、その日はたまたま1が5連続で出たので、前もって決めていたとおりに死ぬことにしたようだった。
ニートは一成に遺書経由でこう告げた。
――ハードボイルドだ!忘れるな!
そして、一成は、ニートの急死がショックすぎて、その日同級生と同級生の妹と会う約束があったのを完全に忘れてしまいドタキャンをしてしまうのだった。
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月曜がやってきて、一成は学校に行った。
プリプリと怒っていた同級生に謝罪の弁を述べつつ、一成は自分がなんのためにハーレムを目指していたのかよくわからなくなってしまっていた。
「ハードボイルド一成か……」
今までの一成にとっては、ハードボイルドという単語はモテるための便利な道具の1つとしてしか見えていなかった。「ドラゴンディルド」とか「ハードSM」とか、そういうカテゴリのもののようにしか捉えられなかったのである。
それがニートの死によって変わった。死の際にも「ハードボイルドだ!」と伝えてくるニートの言に、なにか込み入るものがあったようだ。
『モテるためのハードボイルドではなく、ハードボイルドのためのハードボイルド』
そうした概念が、一成の胸に腹落ちするようにしみこんでくるのだった。
そして、ハードボイルドのことを考えながら授業を受けていると、「しっかりと勉強をすること」もまたハードボイルドなのではないかという考えが一成の頭に浮かんだ。
この日を境にして、ときおり「一成はハードボイルドだね」と言われ始めるようになった。